Over The Another Sky   作:あるぷす

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3話目

 妾が二代目と共にと寝食を過ごすことになって5年近くが経過したと思う。二代目との出会いは妾にとっては昨日の出来事だった。元より人の子とは理が違うのだ時間の流れもすべてが違う。

 先代(ジジイ)との共に過ごした時の中で不気味が悪いものなど感じることがなかった。自身にまとわりつくものすべてに恐怖も畏れも感じることはなかった……。しかし、二代目との出会いは妾にとって最も忌むべきものであったと断言できる。その整った容姿も、漆黒の髪も灰色の瞳も内包する魔力も発する言葉も纏う雰囲気も。何もかもが妾にとっては苛立ちを覚えてしまう存在であった。だが、そんな彼を先代ユリエス・ヴィルザルドは受け入れた。イヤ、人には妾が感じたモノを感じ取れていなかったのではないかと思う。

 

「ふん。情けない奴め。ささっと割り切ればいいだろうに。命あるものに死は訪れるのだ。この大馬鹿者め……」

 

 遥か頭上から、巨大な白銀の翼をはためかせ子鬼(ゴブリン)たちと戯れる同居人(・・・)を見下ろす。四年も経過したのに未だに命を奪うことに嫌悪し納得できずにいる二代目はやはり気持ち悪かった。帰ったら沢山の食事を要求してやろう。目一杯困らせてやろう。こんな気持ちにさせた二代目が悪いのだ。馬鹿者め。そう考えながら、髭長(トム)爺のところへと翼を翻した。

 

 閑散とした雰囲気を漂わせている冒険者ギルド内にルーナと共に足を踏み入れる。

 

「あっ、二代目さん、ルーナちゃん。こんにちは。今日は何かお仕事を探しに来られてんですか?」

 

 一週間ぶりにギルドに顔を出した為、施設内をぐるりと見渡しているとハキハキとした耳心地の良い声が耳に届いた。

 

「おっ、今日はミルが受付担当なんだな」

 

そうなんですよ。とこれまたニコニコとした表情で元気のよい返事が返ってくる。

ミルと云う少女は、近くの村から住み込みで出稼ぎに来ている(カッツエ)族だった。もうかれこれ勤めて一年位経過しただろうか。

彼女(ミル)にまだ受注されていない仕事を紹介してもらう。

 

「そうですね……風車技師さんのロンドさんからの依頼と薬師(くすし)のミウーダさんからの依頼がありますがどうされますか?」

 

風車街(ヴィントミューレ)の冒険者ギルドにおける依頼は比較的採取などの非戦闘系が多い。風車街(ヴィントミューレ)から他の街々に続く街道は比較的魔物や魔獣の出現率が低い。戦闘系は田畑を荒らす魔獣の駆除や貿易に使用する荷馬車の警護などである。

やはり、戦闘系や護衛任務は報酬面でも非戦闘系に比べ圧倒的でありその為依頼が張り出させるとすぐさま受理されてしまう。

 

「そうだな……両方とも受けるよ。ロンドさんの依頼はきっと今日中でも大丈夫はずだから、先にミウーダさんの依頼を片付けて、その足でロンドさんの所に行ってくる」

 

「うう、いつも有り難う御座います」

 

「…………」

 

「二代目さん? どうかされました? 何か難しそうな表情(かお)してますけど…」

 

「あ、いや…。ミル、一つ確認したいんだがここ最近、風車関係の依頼は多くなってるか? 勘違いならいいんだが…」

 

「ちょっと、調べてみますね」

 

そう言葉を残し彼女は事務所の方へと消えていった。そして、数分経過して再び姿を見せた彼女は幾ばくかの資料を胸に抱いていた。

 

「そうですね…確かに二代目さんが仰ったようにここ数か月、件数は少ないですが小さな修理や誤作動の修繕補助の依頼が来てます。確かに珍しい状況ですね」

 

彼女の返答を頭の隅にしまい込む。ここ数週間、いや、もしかしたら数か月どこか違和感を感じていた。街に吹き込む()に違和感を感じてしまった。

 冒険者登録タグを提出し依頼を受理してもらう。

さてと、依頼は決まったが彼女(ルーナ)はどうするだろうか。彼女のことだから興味は無いはずだが、一応声をかけておこう。

 

「ルーナ、ってそのジュース誰に貰ったんだ?」

 

施設内に幾つか設置してあるテーブルでジュースを飲んでいる彼女(ルーナ)を発見する。誰に貰ったかそんなのを深く考える前に答えが浮かぶ。こんなことをしてくれるのは、このギルド内でも一人か二人ぐらいなもので。

 

「…ご無沙汰しています。トム爺さん」

 

「ふぉふぉふぉ、うむ。久しぶりだの二代目。元気そうで何よりじゃ」

 

いつの間にか隣にいた人物に挨拶をする。名をトムファルダと云うこの風車街(ヴィントミューレ)の冒険者ギルドのギルド長にして、俺が先代に次いでお世話になった人物。御年70歳を超えている老人で元AA(ダブルエー)クラスの冒険者の過去を持つ人だ。

彼の経歴を鑑みても公都で裕福な生活が出来るはずだが、髭長(トム)爺はこの風車街(ヴィントミューレ)に住み着き生活を営んでいる。昔、どうしてこの風車街(ヴィントミューレ)にやって来たのか尋ねたことがあった。返ってきた返答がスローライフを送りたからと云うものであった。

確かに、このでの生活は魅力なモノがある。だが、裕福を捨ててでも得るべきなのかどうか正直、俺には理解できなかった。

 

 年齢を感じさせない覇気を纏った髭長(トム)爺と些細な世間話をしていると、ギルド職員の一人である(ヴォルフ)族の青年が一階と二階を繋ぐ階段をかけ落ちるかのように走ってくる。

 

「ギ、ギルド長! き、緊急……」

 

「ふむ。フェムト君。いつも云っていることだが、職員が焦りを持っていかん。どんな時でも心を落ち着かせなさい。不安を産み落としてはいかん、冷静に物事が判断できぬようになってしまうぞ」

 

「は! 失礼しました。トムファルダギルド長。ご報告致します。先刻、羽矢燕(はやつばめ)より救援要請の一報が届いております。依頼者様はグルニベルデより風車街(ヴィントミューレ)への生活物資搬送中のルドルフ様です……」

 

(ヴォルフ)族の青年が冷静に淡々と自身が得た情報を、現状を髭長(トム)爺へと報告していく。彼の報告を受けた髭長(トム)爺がにこりと笑いながらこちらを振り向いた。

 

「……(報酬)弾んでくださいよ」

 

「勿論じゃよ。縁風石と水浄石、炎華石のよくばりセットでどうじゃ?」

 

にこりと笑い皺を作りながら言葉を零す彼に、そんなにはいらないけどと思いながらも髭長(トム)爺の提案に了承する。

帰りに、ミウーダさんの薬草採取の依頼もこなせばいいなと考え冒険者ギルドの出入り口に向かう。

出入り口に向かう際に彼女(ルーナ)に視線を向けたが彼女は我感ぜずとミルにでも貰ってであろう菓子を食べていた。

 

 纏っているジャケットが風に煽られているのが判る。

視界に映るのは波の様に流れる深緑の絨毯。そして、深緑と俺達を隔てるように打ち付けられた背の高い杭。彼方(あちら)こちらに小石などが散りばめられているが幾つもの脚が踏み荒らした跡のある(みち)

それらが如何様にも瞬く間に姿を変容させる。それほどまでに機械仕掛けの馬(メヒャーニク・アインホルン)は唸り声をあげ疾走して(とんで)いた。

 

「(……見つけた)」

 

 ゴーグルを介して彼ら(キャラバン隊)を見つける。荷馬車は、杭を破壊し深緑の絨毯の上で子鬼(ゴブリン)達に包囲されていた。子鬼(ゴブリン)達の目的は食料であろうか?それとも魔核の類であろうか。なんにせよ縄張りの境界を越えてしまった子鬼(ゴブリン)達を葬らなければならない。

 

正直気が乗らない。だがそんな事を云えないのも理解している。

 

ため息を、内に殺し機械仕掛けの馬の車輪(あし)を彼らに向け、唸り声をあげ威嚇する。重低音が周囲に発せられ子鬼(ゴブリン)達は、驚き包囲網が若干だが乱れる。そして、その包囲網を切り裂くかのように機械仕掛けの馬をキャラバン隊と子鬼(ゴブリン)達の間に滑り込ませる。

 

 荷馬車の中から今自分たちが置かれいる立場を分析すると同時に自分の甘さに対して苛立ちを覚えると同時にやはりこの手の任務には向かないと考えてしまう。

 グルニベルデと風車街(ヴィントミューレ)を結ぶ街道のキャラバン隊護衛。それが、今回私たち実地訓練パーティーが受けた依頼であった。

 依頼難度は下から二番目のEランクだったと記憶している。護衛任務にしては非常に低いランクだった。ギルドがこの難度を付けた理由はこの街道における魔物との遭遇率の低さに起因している。

遭遇率の低さは、グルニベルデと風車街(ヴィントミューレ)を結ぶ街道には魔除けの素材となる草花が分布しているのが理由だ。その為、比較的ランクの低いパーティーが受注したり、新人冒険者の実地訓練に採用されたりしている。

 そして、今回の私たちのパーティーは後者に当たる。

 

「そんなに気を張らなくて大丈夫だよ。そんな気を張って入たらいざとなったら動けなくなるからね……」

 

激しく揺れる荷馬車の二台で彼等にそう言葉を零す。無理もない。彼らはまだ冒険者となって一ヶ月だと聞いている。それにまだ、成人となったばかりの少年と少女なのだ。

 激しく揺れる荷馬車を追っ手くる子鬼(ゴブリン)達に向かい再度魔除け玉を投げつける。だが、効果は確認できず戦闘は避けられまい。それに、荒々猪に騎乗する子鬼達の数も徐々に増加してきている。

 御者に街道を外れるよう指示する。

 

「リンネ・タルホいいかい? これから戦闘に移るからね。慌てないで自分がすべきこと出来ることをやりきるんだ。そうすれば大丈夫だよ。決して自分の想いを忘れてはいけないよ」

 

不安を隠しきれていないが判りましたと。琥珀色の瞳の少年と翠色の瞳の少女ががしっかりと私を捉えている。

 荷馬車から草原へと下り立ち、子鬼達を迎え討つ。荒々猪に騎乗する子鬼達の数は二十を超える集団だった。

彼等の中に、獣の骨で作成したであろう大笛を持つ青色の子鬼を見つける。恐らく彼がこの集団のリーダー格であろうと判断する。

彼等の数には驚かせられたが、赤色の子鬼が存在しなかったのが嬉しい誤算であった。彼らは青色子鬼(ハイ・ゴブリン)赤色子鬼(ハイ・ゴブリン)黄色子鬼(ゴブリン)。三色で行動することが多い。彼ら三色揃うことで討伐難易度は急激に高くなる。

 私たちが荷馬車から降り抵抗の意を見せたのを理解したのか、リーダー格の青色子鬼(ハイ・ゴブリン)が笛を吹こうした瞬間、聞いたこともない重低音が私たちを襲う。その重低音を発したであろう主は子鬼の包囲網を切り崩し私の隣に舞い降りた。

 

風車街(ヴィントミューレ)所属、空の郵便配達人(スカイ・メッセンジャー)の二代目ユリエス・ヴィルザルドです。どうぞよしなに……」

 

 黒く長い髪、信念の宿った灰色の瞳、穏やかに笑う好青年がそこに舞い降りた。

 

 二代目ユリエス・ヴィルザルドと名乗った青年は二十を超える子鬼達の群れを目の前にしても、まるで道端で会った知り合いに気さくに話しかけるような口調でこちらに話しかけてくる。

 

「…あ、ああ。すまない私はクロードと云う。今回の護衛依頼を受けた冒険者だ」

 

続いて、リンネ、タルホにも彼は軽く膝を折り目線を合わせ気さくに挨拶をする。この場では非常識な雰囲気を持った彼にリンネ、タルホは呆気に取られていた。

 

「す、すまない。ユリエスと呼んでいいかな? この場を早く対処したい。御者も不安だろう。どうだろうか?」

 

「あ、そうですね。すみません。ユリエスで構いませんよ。クロードさんって呼びますね。では、確認としてタルホ君とリンネちゃんはどんなことが出来るんです?」

 

そう言葉零す、ユリエスに簡単にだがリンネ、タルホの状況を説明する。まだ駆け出しの冒険者でああること。タルホは大楯で防御を専門にすること。リンネは攻撃魔法と補助魔法を扱うことができることを伝える。

 

「もう、冒険者業を生業としているんですか。俺より若いのに凄いね」

 

再度、彼はにこやかに笑顔を零した。こんな状況でそんな言葉を零した青年に対しリンネ、タルホがきょとんとしている。

 

「ユリエスはどんな魔法を使うんだ? 武器の類を持っていない様に見えるんだが……」

 

改めて、ユリエスを観察する。紺色のジャケットに沢山のポケットがついているカーゴパンツにロングブーツ。装いは冒険者とは見えない。短剣の類を隠し持っているのであろうか?

 

「俺のですか……そうですね……」

 

答えを待つ前に、子鬼に背を向けている彼に荒々猪に騎乗した子鬼が襲い掛かる。

 

「ユリエスさん、危な……」

 

リンネが警告しようとした瞬間。にこやかに笑う彼を目に私達は言葉を失った。

 

 子鬼が彼を襲うことはなかった。彼の云った魔法だろう。虚空が波打つかのように歪みそこから碧の鎖と黄の鎖が子鬼を拘束する。担い手を失った荒々猪はユリエスを守るために飛び出したタルホの大楯に衝突し気絶した。

 

「……これが、俺の唯一の魔法です」

 

彼がそう言葉をこぼした瞬間、再度虚空が歪み赤い鎖の矛先が子鬼の魔核(シンゾウ)を穿つ。

 

「術の名は七色の鎖(レーゲン・ボーゲン)

 

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