Over The Another Sky   作:あるぷす

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4話目

 「リンネ様、タルホ様。お待たせいたしました。こちらが報酬となります」

 

 (ヴォルフ)族の青年から報酬を受け取る二人の顔が安堵に包まれる。初めての護衛任務、彼らが何かを摑めたら私としてもこの上ない報酬と云えよう。そんな事を考えていると笑顔の二人が小走りで近づいてくる。

 

「お疲れ様。護衛任務初めてだったけど、どうだい? やっていけそうかい?」

 

「はい。若干不安が残りますがやっていけそうです! それよりも……」

 

タルホが今回の成果を確かめるかのように(てのひら)を握ったり開いたりしている。そんな様子を見て彼らが何かを摑めたのだと判断する。

しかし、それよりも……か。

リンネ、タルホ共にやはり、彼のことが気になるらしい。あの聞いたこともない術の名も一撃で魔核(シンゾウ)を穿つ色鮮やかな鎖も彼が駆る不思議な乗り物も。全てが異質であり心躍り、けっして色あせることのない光景だった。

 

「ふむ、何やら辛気臭い顔をしておるの。さてさてどうしたんじゃ?」

 

リンネ、タルホにそう話しかけたのは杖をつきゆったりと歩く長髭の老人だった。何者だろうか? 冒険者ではないと判断できる。ならば、ギルド施設関係者だろう。それに、この老人が纏う雰囲気はまるで、そう……。

 

「あ、貴方はAA(ダブルエー)冒険者のトムフェルダ様ではありませんか! そうですよね? うん、うん。そうだよ!! トムフェルダ様だよ。うひょ~。リンネ、リンネ。凄い凄いよ。サイン貰わなきゃ。えっとあと、あと…握手してもらえませんか!」

 

辛気臭い表情はどこへ、飛んで行ってしまったんだろう。タルホの興奮した雰囲気に私とリンネは圧倒されてしまった。

 

「ふぉふぉふぉ、少年よ。よくぞ気づいた。そう、我こそは数多の魔獣を屠り、大地を震撼させたあのぉ!! トムフェルダじゃ! 今はこの風車街(ヴィントミューレ)でギルド長をやっておるがの」

 

 トムフェルダと云う老人は最高の笑顔で持っていた杖を高く掲げ声高らかにそう宣言した。

杖を高らかに掲げる老人の周りでは、タルホが今まで見たことのない笑顔を零しウサギのようにピョンピョンと跳ね。大量の花吹雪が舞っていた。

ん? 花吹雪? ここギルド施設内だよな……。

 不思議に思い、ぐるりと施設内を見渡すと二階から(カッツエ)族の少女と(ヴォルフ)族の青年がいきよいよく、籠に入った花びらをギルド長の頭上に投げていた。

うん。気にしないでいたほうが無難だろうな……。

 

「…ギルド長、幾つかお聞きしたいことがあります……」

 

私がそう言葉を零すと、ウサギのようにピョンピョンと跳ねている少年は両足を地につけ、床に舞い落ちた花びらを丁寧に救い上げる少女はその手を止める。

 

「ふむ。私に答えられることならば君らが納得するまで答えよう」

 

笑い皺を作るギルド長にお礼をする。

 

「一つ目に私達の救援に来てくれた青年、二代目ユリエス・ヴィルザルドとはいったい何者ですか? 二つ目になぜ魔核が回収(・・)できなか(・・・・)った(・・)のでしょうか」

 

「ふむ。立ち話も何じゃ菓子でも摘まみながら話そうかの。……さてと、一つ目の答えなら少年の方が詳しいかもの」

 

「えっ? ボクですか?」

 

「うむ。少年ならよく知っているはずじゃぞ。なんせ、現役を引退してかなり経つのに儂の名を云い当てたじゃろ。よく思い出してみてみるといい。少年たちが最初に会った時、彼はなんと名乗った?」

 

「…えっと、確か風車街(ヴィントミューレ)所属、空の郵便配達人(スカイ・メッセンジャー)の二代目ユリエス・ヴィルザルドですって名乗っていた気がします…」

 

タルホに宛てたギルド長の質問に答えたのはリンネだった。タルホの方は記憶に残らず流れてしまったらしい。だがリンネの零した言葉を聞いた瞬間、タルホの顔つきが変わる。

 

「ユリエス・ヴィルザルド……ユリエス…ヴィルザルド!! えっ。まさか、まさかそんな…ユリエス・ヴィルザルドって。ユリエス・ヴィルザルドって、マジかぁ~。くうぅうううぅう……」

 

「ねぇ、タルホ? ユリエスさんて凄い人なの?」

 

頭を抱え、蹲るタルホにリンネが声をかけるがタルホは返事をせず、彼が普段持ち歩いている鞄から一冊の分厚い本?を取り出し、テーブルの上に置く。

えっと、なになに冒険者究極把握列伝……。よくわからない本が飛び出して来た。

 

「えっと、この本ってタルホがいつも持ち歩いている本だよね……いつも枕元に置いてるヤツ」

 

いつも持ち歩いているのか。と、驚きながらも冒険者究極把握列伝なる本でユリエス・ヴィルザルドの該当頁を探してみるが、見つからない。再度、頁を探すも見つかることは無かった。

 

「ふむ。クロード君、クラウス・サルバーダで探してみるといい」

 

紅茶の香りや味を嗜んでいた、ギルド長の助言で該当頁を探し開いてみる。

 

「…コレだな。クラウス・サルバーダ。彼については多く語ることは出来ない。ただ、深く関わり過ぎると痛い目を見るということだけ、此処に刻もう……」

 

のっけから、凄いな。他の冒険者についてそんな事一行も記載されていないのに。

 

「続き、読みますね……」

 

リンネがそう云ってゆっくりと記載されている文章を紡いでゆく。

ギルド長は瞼を閉じ過去に想いを馳せ、タルホは未だに肩を震わせ俯いている。

 

 クラウス・サルバーダ。彼については多く語ることは出来ない。ただ、深く関わり過ぎると痛い目を見るということだけ、此処に刻もう……。彼を一言で云うなれば、豪胆と云う言葉が相応しい。冒険者としてS級序列五位まで上り詰め大酒ぐらい、女遊びも激しく、いたる処に借金を作る。そんな糞みたいな彼だが、晩年は酷く落ち着いてしまったと噂れている。何が糞みたいな彼をそこまで変容させたのだろうか。

 晩年彼は、クラウス・サルバーダと云う名を使ってはいない。理由は定かではないが糞が糞したような糞の代名詞の名に思うところがあったらしい。糞みたいな名前の代わりに彼が名乗り始めた名がユリエス・ヴィルザルドと云う名だった……。

 

「……この作者はクラウス・サルバーダに私怨を持っていたんだろうな。他の冒険者の所は至って真面目だったのにな」

 

そう、私が感想を零す。しかし、この本って市販されてるんだよな…。

 

「ふぉふぉふぉ。八割方真実じゃしな。それでも、懐かしいのう。彼奴は実際に魔物に糞を投げつけていたしの……。それに、糞は糞らしく役目を果たしたの。よき土壌のよき肥料になりおったからの」

 

「ふん! 何がよき肥料になりおっただと。未だに踏ん切りの一つできぬ軟弱者になりおったぞ」

 

ギルド長の零した言葉に苛立ちを孕ませながら少女の声がその場を支配した。

 

「ふぉふぉふぉ。ルーナ嬢は相変わらず、二代目のことになると感情的になるの。儂、個人的には二代目の行為は好きじゃがの……」

 

ギルド長を覗く私達が声の主に視線を配るとそこには、民族衣装(ディアンドル)を纏った白銀の髪の少女が恐ろしく整った顔でこちらを射殺さんとしていた。

 

「君はいったい……」

 

 

 苛立ちを孕んだ言葉を零す少女は私達に一瞥をくれるとその美しい表情を愉快に歪める。

 

彼奴(二代目)のことを知りたいのだろう? なら妾が教えてやろうか」 

 

彼女のその言葉の音色に、雰囲気に呑まれてしまっていくのが背をゆっくりと流れる汗で理解する。反抗など許されない絶対的な支配。それが、彼女を纏っていた。

 

彼奴(二代目)冒険者(おまえたち)にとっては忌むべき存在だ。その考えも行動も、およそ冒険者(おまえたち)の益にはならぬ。何処まで行こうともどれだけ生きようとも我々とは相反する存在よ」

 

彼女の言葉をただただ聞き入れることしか私達、三人には出来なかった。

だが、忌むべき存在とは? 相反する存在とは何だ? 

短い時間だけだったかも知れないだが、少なからず彼の人となりは理解できたと思っている。冒険者は自己の益を最優先にする存在だ。だが、彼にはそれが感じられなかった。あの表情に雰囲気に冒険者特有のものは感じられず心地よさを感じてしまう者であったのに……。

 

「お前たちがどのように感じ考えようが、事実は不変だ。実際に子鬼(ゴブリン)たちの報酬を受け取ったら理解できただろう…。お前たちが彼奴(二代目)と接点を持つ無意味さが」

 

「そ、そんなことないさ! ユリエスは僕らを助けてくれた。確かに…子鬼(ゴブリン)たちの魔核は半分しか回収できなかった。でも、でも僕はあの姿に憧れたんだ!」

 

顔を伏せていたタルホが瞳に強い光を輝かせながら少女に反論する。

 

「そうです! 私もユリエスさんと関わることが出来てよかった。ユリエスさんの姿はあの日、私達の村を救ってくれた人と同じだったんです。とても、大きくてとても優しいそんな人なんです!」

 

タルホに続き、リンネが言葉を続ける。彼らが冒険者を目指す理由を任務当初に聞いたことがある。自分達の村を救ってくれた人を探して礼をしたい。あの日その瞳に焼き付いた人のようになりたくて冒険者になったのだと。

 

「……………」

 

「ふぉふぉふぉ、ルーナよ。そんなに睨めつけることもないじゃろ。リンネ・タルホ、すまんの。ルーナはな、二代目がお前達に取られてしまうんじゃないかと気が気じゃないんじゃよ」

 

「こ、小童が、馬鹿を云う出ない! 妾は、お前たちの質問に答えたにすぎぬ。それ以上でも、それ以下でもないわ! 妾はもう帰る! この長髭爺! 次に来たときはもっと沢山菓子をしとけ!」

 

白い頬が真っ赤に染まりあがった少女はそう、乱暴に言葉を零し出口に向かってどかどかと歩き始めた。

 

「おい優男! 二つ目の答えだ。彼奴(二代目)の鎖には関わるな! アレは人が関わるべきものではない。アレは神の喉元まで届きうる刃だ。数多の存在、尊厳すら奈落に堕とす。命〈せいめい〉が星の(せつり)を覆す為だけに作り出した刃だ」

 

白銀の少女は出口で私達に振り返り、そう忠告した。

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