その存在は私達の営みを時には豊かに、時には脅かし、争いの火種になる存在だと認知されている。星と共に生まれ星と共に滅びゆく。人智を越えた物質と云えるだろう。そして、私はそんな
視界に映し出される浮島もそんな、クリスタルの影響を受け風に流されこの星に芽吹いている。
「スィーリア様…まもなく公国領に到着するとのことです」
「そう…。このアガスティアベルと云う名の飛空艇は足が速いのね。まだ、四日ほどしか経過していないでしょう? それに、ロズ? 二人きりなのだからそんなに硬くならなくていいわ」
いつも云っているでしょう? と目の前の神殿騎士にそう伝える。
ロズファルア。彼女との交友関係はもう十年が経過していたと記憶している。肩で切りそろえられた
「いえ…いや。そうだな。すまない」
だが、実際はどうだろうか? と自身に問いかける。
「何を笑っている?」
「ふふ…なんでもないわ。それよりも入り口に立っていないでこちらに来て一緒に菓子でもどうかしら。いい茶葉を貰ったから紅茶を入れてみたの」
アガスティアベル飛空旅客艇の高級客室でそんなやり取りをする。見た目は同い年に見えるだろう。だが、私達が歩んできた時間にはかなりの隔たりがある。具体的には、170年ほどの隔たり。
私は
そう、遥か彼方のこの星に芽吹いていた命たちとは違い……。
◆
アゼンバルド。それが私達が根を下ろしている星の名。
そんな、アゼンバルドには、五つのクリスタルが存在している。
私達、クリスタル教会の総本山
そして、5番目のクリスタル。天のクリスタルは世界中を泳いでいる浮島に存在している。
「それで、スィーリアは、なんの資料を読み漁っていたんだ?」
「…各地の巫女やクリスタルの報告書ね。5つの中で歪みが大きいのが、ハウゼン公国の風のクリスタル。少ないのが天のクリスタル。ベガゼール帝国の火のクリスタルに関しては……」
「詳細は判っていない状況か……」
ベガゼール帝国の現皇帝は
彼らにとってクリスタルは共存するべき存在ではない。ただの道具。魔鉱科学技術を発展させるための
「こればかりはね…
「まて、私がやろう。武しか誇れるものがない私でも紅茶くらい入れられる」
「ふふ…。とても魅力的な提案だけれども私が淹れるわ。ロズはお客様だもの。それよりもロズが知っている公国領のことを教えてくれないかしら…」
私が前に公国領を訪れたのが、少し前、大体三十年位前だろうか? 今も昔も、
◆
「ねぇ、ロズ? たった30年ほどで国って変わるものなのね」
公都アイゼンバッハをロズと供に街並みに視線を配りながら歩いてゆく。
「スィーリア様。奇異の目で見られてしまいますので、少しばかり落ち着かれてはいかかですか?」
「あら、少しくらいならいいじゃないかしら? ねぇ、ユナはどう思う?」
銀に彩られた鎧を纏い深紅のマントを翻す堅物のロズファルアを横目に、私の侍女としてこの視察に付き添ってくれている少女、シスター・ユナに笑いかける。
「はひ、あたしも少し落ち着かれたほうがいいと思われます。スィーリア様は必ず目に留まってしまいますので……」
ユナがシスターになってからまだ数年しか経過していない。それでも、法王の侍女としてこの大役に選抜されたのはシスター長の考えがあってとのことだろうと思考を巡らせる。それでも……
「いいのよ、少しくらい肩の力を抜いても。今から肩に力を入れていたらこれからお会いする人に謁見する前にへばってしまうわ。だから、ほらユナあそこのお花屋に行きましょう!」
黒髪をお団子のように縛り上げている修道服を着た少女の背を押し、元気よく客引きをしている花屋に突撃してゆく。ユナには今回の視察では色々な経験をしてほしいと願いながら。
◆
煌びやかな謁見の間で私達、三人は首を垂れる。床には黄金と真紅に彩られた絨毯が空間一杯に敷き詰められ色鮮やかな天幕がこの空間の煌びやかさを幾倍にもしていた。
「遠路遥々よく参られた。ハウゼン公国はそなた達を歓迎しよう」
とても、重々しく澄んだ声が私の長耳に届き許しを得て頭を上げると、あの幼きの顔はなく幾つもの深い皺を携えた初老の顔が私の瞳に入り込む。
「ご無沙汰しています、アレクセイ陛下」
「ええ、私が王座を継いだ頃ですから、30年ぶりでしょうか。スィーリア様は今も昔も相変わらず、麗しい」
アレクセイ・フォン・ハウゼンバード。
彼と最後にあったのが、前陛下が死去され王座を継いだ頃だった。よく前陛下やお妃様にアレクセイの破天荒な性格はどうにかならんのかと相談されたっけ。相談されたのがつい先日のように思えてしまう。
「それで、今回の来訪の理由だがおおよそ見当は出来ている。かれこれ三週間前になるだろうか、ソレイユ神殿の巫女より報告が挙がっているな。風のクリスタルに黒い靄のような斑点が発現したと。それに十中八九関係するであろう。
やはりと云うべきだろう。この様子だと、世界中を回る必要がある。
「陛下、ソレイユ神殿に立ち入る許可を頂きたく。事は急を要する可能性も示唆できます」
各国のクリスタルにも風のクリスタルのように影響を及ぼす可能性は高い。
「うむ。立ち入りを許可する…本来ならば我らが教会に赴き、助力を仰ぐ立場であろうに」
「陛下、そんなことありませんわ。我々クリスタル教会は各国の庇護の元、今日に至るまで後顧の憂いなく祈りを捧げることが出来ているのです」
「…そうか。神殿への視察日程は明日からとなって入るが相違ないな?」
アレクセイに事前に報告していた内容に違いは無いと、「ええ…」と言葉を返す。
私個人としては、今すぐにでも風の神殿に向かい巫女の様子を把握したいだがそうも云っていられない状況だ。特に、
「では、クリスタル教会の御客人よ今宵は、簡易ではあるが宴も予定されている。御ゆるりと休まれよ……スィーリア様、後程情報機関より選抜した者を向かわせます。詳しくはその者から……」
謁見の間から、去る際に窓の外の様子が視界に入る。
そして、その夜私はとても不思議で懐かしい夢を見た。人々の祈りが世界を、星を覆うとても温かくそして、哀しい夢。
◆
「それで、マシュさん。神殿まではどれくらいかかるのでしょうか?」
窓の外では、緑の絨毯が
「うーん。そうっすねぇ。この馬車は騎士団用の早馬なので半日と云った所っすね。ユナっちは、公国領は初めてっすよね」
楽しそうに話をする二人を横目に再度、窓の外に意識を向ける。もう、50年前だっただろうかよく晴れた日だった彼女出会ったのは……。
「…リア様、スィーリア様! 一つお耳に入れておいて欲しいことがあったっす。あたしも、実際に目で確認できていない事ので真偽は不確かなんでっすけど、守護竜ティアマト様を見かけたいう情報が民の中からあったす…」
「ユナ、守護竜ティアマトとは何だ?」
今の今まで、瞼を閉じ沈黙を保っていたロズが瞼を開け、言葉を零す。その言葉に反応したシスター・ユナがこちらを見つめて来た為、微笑み返す。その行為で、何かを感じとったのか彼女の瞳に強い火が灯る。
「ロズファルア様。守護竜ティアマト様は、名のとおり風のクリスタルの守護竜と云われています。その姿を見た者は余りにも少ないです。それでも、その美しさから多くの書物に姿絵が記載されています…」
高純度の緑風石色の鱗を持ち、美しい渓流の流れのような長い躰。そして、その躰を彩るかのように生えている数多の小さな翼。風を司る天竜族。それが、守護竜ティアマト。私も、190年生きてきて未だにその姿を見たことは無かった。
「ロズ、考えたくもありませんが事と次第によってはティアマト様が牙を向くかもしれません。マシュさん、お願いがあります。私たちを神殿に送り届けたらアレクセイ陛下の下に帰還し、書簡を直接お渡しして頂けますか?」
「勿論っす」と彼女の返答を聞くと、シスター・ユナに用紙と羽ペンを準備してもらいマシュが伝えてくれたこと、
ほどなくして、私達はソレイユ神殿へと到着した。
「スィーリア様、あたしに一つ心当たりがあるっす。あたしの妹が絶賛する人物なんすけっど」
早馬に跨がり、マシュがにこやかに笑顔を零しながらそう言葉を零す。
「ふむ。貴殿が推薦するほどの人物か…一体どんな人物なのだ?」
ロズがそうマシュに返答する。彼女の優秀さは目を見張るものがると判断できる。アレクセイが推薦するほどの人物なのだ。
「