Over The Another Sky   作:あるぷす

8 / 17
8話目

 視界に二つの白い塔が映り込む。そして、妾はその塔を作った張本人だった。流石、公国公認の宿泊所と云うべきだった。運ばれてくる料理は肉体労働者の疲労回復などを目的に調味料などが選別され練り上げられ調理されたものだった。二代目の料理とは方向性が違うが妾の舌を唸らせるものであった。

 

「…本格的に降って来たわねぇ。ハイ。ルーナちゃん、おかわりお待ちどうさま」

 

 落ち着いた色のエプロンドレスを着用したマーサが新たな料理を持ってくる。彼女が云ったように確かに花雫(はなしずく)の花園の一階フロアにあたる食堂の窓を雨が大きめの音を奏でる。

 この雨音は今後さらに強くなるだろし、風も暴風へと変化する。これは確信できることだった。窓は木板で補強せねば、食い破られる。

 

「……二代目さんは、大丈夫かねぇ」

 

マーサが不安そうに言葉を聞きながらも食事の手を止めない。

 

「……………」

 

 二代目のことだ、この現象を解決する為に奔走しているに違いない。何処までも甘く軟弱者(おくびょうも)。好意は持てないと思っていたが少しだけ、そうほんの少しだけ彼奴(あやつ)の甘さは妾にとって心地良い物となった。

 

「……マーサ。傘を貸してはくれぬか……迎えに行ってくる」

 

 その言葉を聞いた彼女は嬉しそうに「もちろんよ」と隠し持っていた傘を二本、妾の小さめの手に手渡してくれた。

 

「…でも、ルーナちゃんだけで大丈夫?」

 

 次第に強くなる雨音に不安がったのだろう。マーサが心配してくる。いらぬ心配だと心の奥底で思うが、今の容姿ならば心配されても仕方あるまい。まったく人とはつくづく不思議な生き物であった。

 

「心配はいらぬ。二代目の方から見つけてくれるだろうしな。それよりも…この街には忌々しい女狐の臭いがぷんぷんするからのそっちの方が心配じゃ」

 

 ゼルランド魔鉱都市中央には、巨大な鐘がついた時計塔が存在する。そして時計塔の許には公国騎士団の駐屯地が存在する。そして、この数日前より公王アレクセイ・フォン・ハウゼンバードの命の元、六騎の竜騎士がこの地を訪れていた。そして、私も昨日からその竜騎士たちと共にロゼとゼルランド魔鉱都に足を踏み入れていた。

 天候本格的にあれる数時間前からだろうか、竜騎士の相棒(パートナー)である飛竜(ワイバーン)達の騒ぎ始めたと報告を受け、様子を見に来たのだが……。

 

「スィーリア様、長時間お外に居られますと体調を崩してしまわれます。どうか、中へ」

 

「ふふ、ロゼ。そんなに心配しなくても大丈夫よ。これでも精霊人(ハイ・エルフ)ですもの。簡単に体調を崩さないわ。それにね、どうやら御出でになられたみたい……」

 

そう言葉を零した瞬間、雨音がすべてを支配する中……。

 

 厚く灰色の雲から絶え間なく降り注ぐ雨はすべての音を覆い隠すかのように。厚く灰色の雲から絶え間なく吹き付ける風はすべての音を隔絶する壁のように。厚く灰色の雲から絶え間なく紫電の雷はすべての音を破壊するかのように。すべての音は調和し天に翠色の讃美歌を捧げるかのように絶え間なく演奏が続く。ほどなくして、翠色の讃美歌に五の雄叫びが咆哮し五匹の司徒が天高く舞い上がった。

 

「……ティアマト様……」

 

 いったい誰がその真名()を口にしただろう。騎士団の者か教会騎士ロゼか、はたまた無意識のうちに私が零した言葉なのだろうか? 

 すべての視線が奪われる。

雲の合間からこの世のものとは思えないほどの美しさを放った守護竜が顔を覗かせたのだ。翠色の長くしなやかな躰。天を泳ぐためにある幾つもの翼。巨大な咢からは圧倒的な生命の息吹が見てわかる程具、雷として現化していた。敵対していると判らなければ、膝をつき祈りたくなるほどの存在が視界一杯に広がる。

 

「うむ。五百年ぶりぐらいじゃろうか? 昔と少しも変わらんのぅ」

 

 誰も彼もが天を仰ぎ見、言葉を失っている中この場には違和感としか思えない程落ち着きを孕んだ可愛らしい言葉が私達の意識を天から引き釣り降ろした。

 

「………ッ」

 

 水色の民族衣装(ディアンドル)を纏った現実味を帯びない少女が微笑みの表情(かお)が私に向けられる。

 

「ふむ。貴女(そなた)が法王、スィーリア・フィル・ローレライかの? うむ。貴女(そなた)も難儀な運命に縛られたものよな……」

 

 目の前の少女にそう声をかけられた瞬間、即座に片膝を地面につけ私は首を垂れた。

白銀に彩られ見る角度によっては色が変化すると云う髪。緋色の瞳。現実味がないほどの白い肌。だがその白い肌は何処までも健康的な誰もが羨むような優しい色だった。私は、目の前の少女のことを()っている。この身に何処までも深く深く刻み込まれた隣人。天竜族(アオローラ・ドラッヘ)の竜神皇女ルーナ・デ・シュテルン。

 

 レンガ造りの螺旋階段を壁に備え付けられている炎華石のランプの灯りを頼りに教会騎士であるロズファルアと共に時計塔の展望台を目指し歩みをするめる。

 私が展望台の頂上を目指す理由は至って明快なものであった。歴代法王のみに継承され使用できる魔法を用いてゼルランド魔鉱都市を守護する。螺旋階段を進みほどなくして、展望台へと到着した。

 

「…天気が良かったらきっと綺麗でしょうね。じゃあ、ロズ、護衛よろしくね」

 

 展望台に立ち、呼吸を整え自身に内包されている魔素(まそ)を地面と流し込む。足元に流れる魔素はそれ自体が意志を持ったかのように流れるように魔法陣を描いてゆく。

二重、三重と流れた魔素が複雑な魔法陣を形成した瞬間。魔法陣からまるで這い出るかのように身の丈以上の巨大な旗が産声を上げた。

 黄金に縁取られた純白の旗を手に取り天に掲げると、形成されていた魔法陣が翡翠色に輝く。

何処までも命の幸福を願い祈り安寧を祈った者達が織りなした魔法。命が(せつり)を覆すための道導(みちしるべ)の旗が顕現した。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。