ばしゃめ、馬車芽めめって言います。シカ部所属シカ見習いの一年生です。入学からまあまあ経ったので新一年生じゃありませんが、心はいつまでもコシヒカリのようにピカピカです。
「ああ……お姉ちゃんの匂い……♡」
「ちょ、やめんか!」
あっちで部長兼お世話係のこしたん先輩に抱きついてるのがあんこちゃんです。同級生です。今はだらしない表情してますが、ばしゃめよりしっかりした子です。
「あんこちゃんあんこちゃん。ばしゃめの胸も空いてますよ」
「お姉ちゃんじゃなきゃダメなのっ」
「むー、ならシカ特権でこしたん先輩にお世話してもらいます」
「お姉ちゃんに相応しいシカは私だけよ!」
「私の意見は……?」
ばしゃめ、あんこちゃんのことが好きです。お姉さんが絡むと変な子ですが、優しいんですよ。こう見えても。なのでアピールしてるんですが、全然振り向いてくれません。ズルイです……こしたん先輩ばっかり。
「ほほう……」
ぐいぐい入ってくるあんこちゃんをガードしきれなくて、二人でブラッシングを受けてたら、ニヤニヤ笑うのこたん先輩と目が合いました。何故かツノも柔らかくなってます。
「お前さん。こしあんのことが好きなのかい?」
「はい! 大好きです!」
さすがはのこたん先輩です。にぶちんのあんこちゃんとは違って、すぐに見抜いてくれました。
「他ならぬ一番弟子の恋だ。応援してやりたいのは山々だが……」
「何か並々ならぬご事情が!?」
「見ての通り。こしたんのことが好きだからねえ」
「ばしゃめ、こしたん先輩には興味ありませんが、先輩には負けません!」
「甘ったれちゃいけないよばしゃめ。こしあんが好きなら、こしたんのことは避けて通れないよ」
「んは!?」
それだけじゃなく、ばしゃめの心まで見抜かれました。こしたん先輩は成績優秀、スポーツ万能、生徒会長にシカ部部長と隙が無さすぎます。見ないフリをしていたのに……。
「で、ですが。ばしゃめじゃこしたん先輩のスペックには敵いません」
「ふっ、やっぱりな。違うよ。こしあんが好きなのは、スペックとかそういうことじゃない」
「う……言われてみれば。この前マル秘ポエムノートを嬉しそうに読んでました……!」
「そう……なら、なんであんなに好きなのか。分かるかい?」
「完璧に見えて割とあけすけなところですか!?」
「それもあるだろう。だがもっと根本的なところだ。……時にばしゃめよ。こしあんのどんなところが好きだい?」
「ばしゃめがどんなことしても優しく包み込んでくれるところです!」
「うんうん。分かるよ。二人とも寛容だから、私もついやりたい放題しちゃうんだよね〜」
「二人とも……ですか?」
「こしあんって結構過激なことも言うでしょ。でもこしたんって頭ごなしに否定したりしないんだ。しょうがないやつだなあ、みたいな感じでいつも受け入れてくれるし……」
確かにばしゃめにもそうしてくれます。……むむっ? いつの間にか口調戻ってますし、顔も劇画調から乙女になってますね。
「……のこたん先輩。もしかしてこしたん先輩のことが」
「んんっ! い、今は私のことは良いじゃん。こしあんもね、きっとそんなところが好きだからさ。お姉ちゃんみたいになりたいんじゃないかな」
「あんこちゃんが優しいのはこしたん先輩の影響だったんですね……」
むぅ……あんこちゃんどれだけお姉さんのことが好きなんですか。焼き餅が沢山焼けて、食べ放題ですよ。
「ならばしゃめもあんこちゃんにめちゃくちゃ優しくします!」
「こしたんに真っ向勝負するの?」
「自信! ありません!!」
「私も!!! ……でもさ。私達はこしたんでもこしあんでもない。真似をするんじゃなくて、自分なりのやり方でやっていくといいと思うんだ」
「ばしゃめなりの……? ……! いいこと思いつきました! のこたん先輩手伝ってください!」
「思い立ったが吉日。ばしゃめのいいところが出たねー。それで何すればいいの?」
「お料理教えてください! 胃袋から攻めます!!」
「ほう? 私の修行は甘くないよ?」
「覚悟の上です!」
「……いい目だ」
のこたん先輩のお店で修行してもらいました。賄いのラーメン美味しかったです。
「あんこちゃ〜ん! お弁当作ってきました!」
あんこちゃんは料理がヘタなこしたん先輩のためにお弁当を作ってるんですよ。優しいですねぇ。そんなあんこちゃんにはばしゃめ弁当をプレゼントです!
「結構よ。自分の分あるもの」
「んは!?」
一緒に自分のも作っている……なるほど。美味しいお弁当作ることばっかり考えて、まったく気付きませんでした!
「いつも通り放課後もご飯食べるんでしょ。そっちに回したら?」
うう〜。あんこちゃんのために作ったんですよ。なんとかして食べてもらいたいです。
「あっ! こ、交換! おかずだけでも交換しましょう!」
「……そんなに食べて欲しいの?」
「はい!」
「しょうがないわねぇ。良いわよ」
「やったー!」
机を向かい合わせて、いただきますしました。あんこちゃんのおかずどれも美味しそうです……じゅるり。
「うわ」
おっとっと。ついよだれが滝になってしまいました。
「どうですかあんこちゃん。ばしゃめのお弁当」
「運動部が身体作りしてるのかってくらいお米の割合が多いわね」
「いつもはお米しかないですよ」
「もう炊飯器がお弁当じゃない……。とりあえずいただくわ」
「召し上がれ〜」
「あら、美味しい」
「本当ですか!?」
「煮卵もチャーシューもよく味が染み込んでるわ」
「なんといってもラーメン屋の親父さん直伝ですからねぇ」
「何があったの……。ん? その指の絆創膏……」
「ああ。これは包丁で間違って切っちゃいました」
「そういう場合って普通隠すんじゃないかしら……」
「そうなんですか?」
「まあ、いいけど。今度ちゃんとした持ち方教えてあげるわね」
「ありがとうございます。優しいですねぇ」
「あなたが危なっかしいからよ……」
あ、今の言葉。あんこちゃんが最近口ぐせのように言ってくれます。ばしゃめはそうは思いませんが。
「ごちそうさまでした」
「ごちそうさま」
あんこちゃんの作ってくれたおかずでご飯も進みました。やっぱりお料理上手ですねえ。病みつきになっちゃいます。……あれ? ばしゃめが胃袋掴まれてないですか?
「あんこちゃんって毎日お弁当作ってるんですか?」
「学校がある日はね」
「え〜。偉すぎますね。ばしゃめ今日早起きするだけでも大変で……ふわあ」
「そんな眠そうにして午後の授業大丈夫?」
「ダメですねこれは」
「……ふぅ。私のために作ってくれたんだものね。いいわ。ブラッシングしてあげるから、寝なさい」
「え! 本当ですか……!」
「その代わりお姉ちゃんにブラッシングしてもらうのは金輪際禁止よ?」
そう来ましたか……。でもあんこちゃんにブラッシングしてもらえるならいいですかね。
「分かりました! 今日からあんこちゃんはばしゃめのお世話係に決定です!」
「図々しいシカがいたものね」
両腕を組んで準備万端です。ンハァ……力加減も優しいとか、あんこちゃんは優しさの化身ですね。
「あんこちゃんもブラッシング上手ですねぇ」
「そりゃそうよ。お姉ちゃんとお互いの髪の手入れし合ってるもの♡」
「むむ……」
こんなところでも惚気られてしまいました。でも気持ち良すぎて抗えません。ああ……だんだん眠くなってきました。折角あんこちゃんがブラッシングしてくれてるのに、もったいな……い……。
——んは! 折角シカが気持ち良くなって寝てるのにチャイムのやつ鳴りやがりました! すごい幸せな夢を見てた気が……。
「あら。おはよう」
「おはようございます。あんこちゃん、何かしました?」
「え! 起きてたの……?」
「いやあ。よく眠れました。ブラッシングが気持ちよかったからですかねえ? なんだか嬉しい気持ちでいっぱいになってました」
「そ、そう。良かったわね」
「あんこちゃん起こしてください」
「自分で起きなさいっ」
「ばしゃめ。あんこちゃんに起こしてもらいたいです」
「はぁ……お世話係だものね」
ばしゃめ寝ぼけてたので、ちょっと甘えすぎかなあと思い直したんですが、聞いてくれました。あー……のこたん先輩が言ってたのはこういうところなんですかね。
「そうだ。また今度作ってくれるなら、事前に声をかけてちょうだい」
「ばしゃめ弁当気に入ってくれたんですか!」
「まあね。誰かに作ってもらうのも悪くないかなって」
「えへへ……。それなら毎日作ってきます!」
「それだと寝てばかりで授業にならないでしょ。たまにでいいわよたまにで」
「それもそうですねぇ」
「……それと、その日はあなたの弁当も作っておいてあげる」
「え! いいんですか!」
「うわ。……前から思ってたのよ。あなたお米ばかりで、栄養バランスが偏りすぎているって。いい機会だわ」
「……ありがとうございます。あんこちゃんはやっぱり、優しいです」
「ふふっ。何度も言ってるでしょ? お姉ちゃんと違って……」
先を歩いているあんこちゃんが振り向きました。ばしゃめ、すっごいドキドキしました。
「あなたは危なっかしいから♪」
とても素敵な微笑みでした……。それだけ完璧なお姉さんが誇らしいんですかね。んはぁ……まだまだ先は長いですねぇ。