「さあ! 今日も元気にシカ練やってこー!」
「いやシカ練ってなに!?」
「シカの練習」
「まんまじゃん。なんでシカの練習せにゃならん!」
「何甘っちょろいこと言ってんだ! 私達はもう全員シカ経験があるんだよ……!」
「うわ出たいつものやつ」
「こしたん先輩は一番後輩なんですから頑張らないと」
「一文の間に挟まる矛盾がすごい……」
今日も今日とてシカ部の時間がやってきたわ。劇画調ののこたんと先輩風を吹かせるばしゃめに追い詰められていくお姉ちゃん。今日も可愛い♡
「大丈夫よ。私がお世話係として立派なシカに調教♡してあげるから」
「なんか調教の言い方がねっとりしてて嫌だ!!」
一見いつもと変わらない放課後。けれどそうではなかった。のこたんに流されてお姉ちゃんがやる気になった瞬間だった。
「じゃああんこちゃんはばしゃめが調教してあげます」
「……!?」
二人は知らないけど、私達は付き合っている。気付かれないようにしないといけないのに……この子はいたずらを仕掛けてくるようになった。そして、そんなアプローチにどこか期待してしまっている自分もいた。事実耳元で囁くばしゃめに心臓の鼓動が速くなってしまっている。
「もう。今はやめなさい」
「分かりました。……またあとで、ですね」
「……からかわないの」
昔お姉ちゃんをからかう度に顔を赤くするのを見て可愛らしいと思っていた。こういう時、姉妹なんだなと思ってしまう。そんな反応をするからばしゃめも調子に乗るというのに。いや……そんな私を見るばしゃめの色っぽい顔が、私を調子に乗せているのかもしれない。
「もう私から教えることは何もない。……成長したな」
「きょ、教官っ……!」
「さらばだ」
「……総員、敬礼!」
坐禅を組んで浮遊して去っていくのこたんを涙を堪えながら見送るお姉ちゃん。……あれからばしゃめが何をしてくるか気になりすぎて、なんでこんな状況になってるのか分からないわ。結局何もしてこなかったし。改めて見てみると我が姉ながら雰囲気に飲まれやすいわね。そんなところも可愛いんだけど♡ ……と、お姉ちゃんに意識が向いた途端に。
「ンハ」
「……!?」
ほっぺに伝わる柔らかい感触に驚いて振り向いた。振り向いた先ではしてやったりと子供のような笑みを浮かべているばしゃめの姿があった。
「こ、こんなところで……!」
「大丈夫ですよ。のこたん先輩はどこか行っちゃいましたし、こしたん先輩は天を見上げてます」
「そういう問題じゃ……」
「ばしゃめは問題ないですよ?」
「私にも心の準備があるのっ」
「じゃあ今のうちにすませておいて下さいね」
「……バカ」
そして部活が終わった後、二人きりの部室。最近はずっとお姉ちゃんに田んぼの手入れをしてから帰ると嘘をついてまで残っている。
「今日も楽しかったですねぇ」
「ばしゃめのせいで落ち着かなかったわよ……」
「ありゃりゃ。それは大変でしたね」
「まさかの他人事?」
「冗談ですよ。……責任は取りますから」
「それなら……いいけど」
最初は子供っぽい短いキスから始まる。この時はまだばしゃめの顔を見る余裕がある。そしてばしゃめの方もじっくり私を見ている。うん……やっぱり私は、ばしゃめのことが好き。ん……ばしゃめが繋いだ手を押し込んで、唇……いや舌まで吸い込むようにして奪われる。私はされるがままそれを受け止める……。
「んはあっ……」
「ふー……」
どれくらいの間こうしていたのかしら。分からないけど、お互いに乱れた息を整えるのに時間がかかった。ばしゃめのことしか考えられなくなって、おかしくなりそう。もっとして欲しい……けど、それは叶わない。下校を促すチャイムに妨げられる。
「今日はここまで……ですねぇ」
「そうね」
仕方ない。生徒会が終わった後の部活のさらに後だもの。大して時間は残ってない。それでも、二人きりになりたいの。
「ばしゃめ。何度も言ってるけど、部活中はダメよ」
「ん〜。ばしゃめも、あんこちゃんを困らせたいわけじゃないんですよ」
「本当に?」
「あ、すみません。困ってる顔を見るのは正直楽しいです」
「嘘つき……」
「でもでも、あんこちゃんがいけないんですよ」
「私が? なんで?」
「むー。自分で気付いてくれるまでは、やめません!」
ぷんぷん、と効果音が出そうなくらい分かりやすく拗ねながらばしゃめは帰っていった。
「ふふっ。可愛い♡」
私がお姉ちゃんのことを考えるだけで嫉妬しちゃって、自分のことだけ考えさせようとするなんて。もう私はあなたに心を奪われているのにね。けれど言ってあげない。だって……
「明日はどんないたずらをしてくれるのかしら」
嫉妬してくれるあなたの顔を見るのは、正直楽しいから♪