「なあ、あんこ」
「何?」
「鹿乃子ってなんであんなに可愛いんだろうな……」
「またその話……?」
神妙にため息を吐いた切り出しに何事かと思えば、いつもののろけにさしものあんこも呆れた眼差しを向けていた。
「最近こしたん先輩ってば、あんこちゃんに似てきましたね」
「私ここまで重症じゃないわよ……」
「えっ」
「それもこれも鹿乃子のやつが可愛すぎるのがいけないんだ」
「確かにのこたんは可愛いけれど……よく思い出して! ツノ! ツノ生えてるのよ!」
「はぁ………………」
「限りなくどうでもいいことで失望された気がするわ」
「そりゃあ鹿乃子はツノが生えてなくても美少女さ。けど鹿乃子はツノが生えてるからこそ、よりいいんだろうが!」
「なんかペットのバカ親みたいなこと言ってますね」
拳を握り締めて力説するこしたんを二人が低コスト作画形態になって見つめていると、部室の扉が勢いよく開かれた。
「のつ! いや〜。キノコ採ってたら遅くなっちゃっ……ヌン!?」
「待たせやがって……もうぜってえ離さねえからな。あっ、シカせんべいの匂いがするな。この食いしん坊め」
「ばしゃめの方が食べますが!?」
扉が開くのと同時にこしたんが思い切り抱きつくと、マーキングするかのように頭を擦り付けていた。
「ちょ、ちょっとこしたん! 二人がいる時はやめてってば!」
「怒ってる顔もしゅきぴだぞ♡」
するとのこたんは怒りと照れが半々混じりになって顔を赤くしていた。
「ってことは二人きりなら満更でもないんですねぇ」
「あっ……! い、いや……それは……」
思わず口走った失言を拾われてしまうものの、のこたんは嘘でも否定するようなことはしなかった。
「ダメよ。こういう時は気付いても素知らぬふりをしておくの」
「そういうもんですか?」
「だから二人の間に子供が産まれても、処女じゃなくなったとか言わなくていいのよ」
「誰が処女だ!」
「え……。もう、寝たの?」
「いや……。でもあともう一押しだと思う」
「姉からあまり聞きたくない報告だったわ」
「二人とも何言ってるのさ! 私達女の子同士だから赤ちゃんできないよ!」
「否定するところそこなんですね」
「シカはオスにしかツノが生えない。だから大丈夫だ!」
「こしたんは私が男の子だと思ってるの!?」
「男なのか女なのか。ヒトなのかシカなのか。そんなことは関係ねえ。私はお前の全てを愛してる!」
「こしたんっ……!」
「……胸焼けしてきた。私にもご飯ちょうだい」
「んはぁい」
とうとう自分達を差し置いて二人だけの世界へと入ってしまい、後輩二人がその様子を見守るいつものシカ部が始まったのだった。
「こしたん。帰ろっ♪」
「おう」
部室ではやいのやいのと言っていたのこたんだったが、二人きりになった途端腕に抱きついてきていた。
「やれやれ。私のこと大好きじゃねえか」
「むー。こしたんこそ私のこと大好きなくせに!」
「ああ。大好きだ!」
「うう……開き直られた。ねえ、こしたん」
「なんだ?」
「こしたんはどうして……そこまで私に手を伸ばしてくれるの?」
「……急にどうしたんだ?」
「だって……ここまでされたことなんて無かったから」
「そうなのか……。んん……そうだな。なんかほっとけないんだよなお前は。つい構いたくなっちまう」
「……ふふ。やっぱりこしたんは優しいな」
のこたんは一度強く抱きしめると、離れてしまう。目を丸くしていたこしたんだったが、短く笑うと手を伸ばした。その手は嬉しそうに受け止められた。
「ね。二人きりの時はさ。名前で……呼んで欲しいな」
「か、可愛すぎるだろっ! 好きだ!」
「ああもう! 名前で呼んでってば!」
「のこ! 私はお前とずっと一緒だ!」
「……! ……ありがとう。嬉しいよ。えっと……とらこ」
「……………」
「こ、こしたん?」
「こしたんじゃなくて」
「と、とらこ……その、目が血走って……あ」
名前を呼ばれたこしたんの中で何かが切れてしまい、彼女の影がのこたんへと差し掛かったのだった。