IS -Scharlachrot-   作:小糠雨

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プロローグ:In Deutschland

 

 二月某日、深夜、ドイツ某所――。

 

 真っ暗な部屋に鳴り響く着信音。眠りについていた部屋の主は鬱陶しそうに身体を起こし、携帯端末を乱暴に掴むと相手を確認せずに応答する。

 

「Brecht」

 

『Hallo, hier ist Tabane』

 

「……なんだ、束さんか」

 

 電話の相手がよく知る日本人――篠ノ之束であることがわかると彼は日本語で話し始めた。

 

『なんだとは非道いね。繊細な束さんは泣いちゃいそうだよ』

 

「心にも無いことを言わないでくれ。それと、無理にドイツ語を使わなくていい。束さんがわかるドイツ語はそれだけだろう」

 

『無理なんかしてないもーん。この天才の束さんがドイツ語ごときに――』

 

「Verzeihung, Fraeulein. Uebrigens, sie wuenschen?」

 

『すみません調子に乗りました!』

 

 謝るくらいなら最初から意地を張らなければいいのに――と思うが、口には出さない。話を進めることを優先する。

 

「それで、何の用だ? 言っておくがこちらは夜中の三時だ。眠くてしかたない」

 

 時計を確認しながら不機嫌さを隠さない声音で問う。返ってきたのは予想もしない答えだった。

 

『だったらテレビはびみょいねー。じゃあじゃあ、インターネットでいいからニュースを見てくれないかい?』

 

「ニュース?」

 

 言われるがままにPCの電源を入れ、ニュースを開く。そこではよくある強盗だの軍事だのを押しのけて、およそ信じられない見出しが躍っていた。

 

「世界初の男性操縦者……?」

 

 日本の少年がIS――女性しか起動できないとされる世界最強の兵器インフィニット・ストラトス――を起動した。

 

 顔写真つきで掲載されている少年の名は織斑一夏。自分と違ってなんとも人の良さそうな顔立ちをしている――と、そこまで考えたところでこの名に聞き覚えがあることに気づいた。

 

 ISによる競技の世界大会モンド・グロッソ初代覇者。世界最強と謳われたその女性と同じ名字。

 

 加えて、何度か束から聞かされたことのある名前。

 

「束さん、この織斑一夏というのはまさか……」

 

『ちーちゃんの弟だよ』

 

「やはりか。……で、コイツがISを動かしたのと、あなたが私に電話をかけてきたのとは何の関係がある?」

 

『それはだねぇ……』

 

 続く彼女の言葉は半ば予想通りだった。

 

 それはそうだろう。世界初の男性操縦者などという奇跡(モルモット)を今の世界が放っておくわけがない。良い意味でも、悪い意味でも。天災と世界最強という後ろ盾があるからすぐさまどうこうということは無いだろうが、織斑一夏は常に誰かに狙われることになるはずだ。

 

 束はそれを十全に理解している。電話を受けている彼が彼女の頼みを断れないことも理解している。

 

 さらに言えば、彼もまた束の本当の目的はそれではないことを理解している。彼女が彼のためにその“お願い”をしていることを。

 

「……わかった。引き受けよう。ただし、私とて自らモルモットになりに行くような酔狂者ではない。あなたの関係者であることと、私が必要と思った情報は開示する」

 

 精一杯の抵抗――否、照れ隠し。それは電話の向こうの“姉”には筒抜けのようで、クスクスと笑う声が聞こえてくる。

 

『おっけーおっけー。キミを学校に行かせてあげられて束さんは嬉しいよ。それじゃあ、期待しているよ、《灼熱の緋(グリューエン)》♪』

 

 斯くして、彼は日本へ渡る。天災の期待という――ある意味では世界一貴重な重圧を背負って。

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