IS -Scharlachrot-   作:小糠雨

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閑話:Alice in den dunklen Wald

 

 ――冷たい。

 

 ――寒い。

 

 ――暗い。

 

「おや? なんだろうね、このボロ雑巾?」

 

 ――誰だ。

 

「わーお、日本語! びっくりだねー、珍しいボロ雑巾だねー」

 

 ――誰だ。

 

「およ? 天才の――をご存知ない?」

 

 ――誰だ。

 

「うーん、おんなじことしか言わないねえ? 耳障りだし、もういいか。ほっときゃ死ぬし。バイバイ」

 

 ――待て。

 

「うん?」

 

 ――死ねない。

 

 ――それだけは許されない。

 

 ――皆に、申し訳が立たない。

 

「……へえ? じゃあどうするのかな?」

 

 ――生きなければ。

 

 ――私は、生きなければ。

 

 ――好きなように、生きて。

 

 ――好きなように――死――。

 

 

 

 

 ★

 

 

 

 

「来たか。まあ入れ」

 

 クラス対抗戦も終わったある休日の午後のこと。ジギスヴァルトは千冬に呼ばれて彼女の部屋に行った。いまだに車椅子生活を強いられているため、本音も一緒に来ている。

 

「それで織斑先生、用件は何です?」

 

「ああ、なに、大したことじゃない。お前は束の知り合いなのだろう?」

 

「ええ、まあ」

 

「あの人間嫌いの変態がどういう経緯でお前と知り合ったのか興味があってな」

 

 なるほど、行方不明の親友の動向が気になるということか。まあ、その程度なら彼としても話すに(やぶさ)かではない。さすがに現在の居場所までは言えないが。

 

「それと、今はプライベートだ。敬語は無しでもいいぞ。お前はなんと言うか、敬語が似合わん」

 

「……ではお言葉に甘えよう。私と束さんの出会いだったか?」

 

「ああ」

 

「そうだな――殺されかけた」

 

「えっ」

 

「えっ」

 

 あまりに予想外だったのか、千冬も本音も口が開いたままになっている。

 

 ……本音はともかく、まさか千冬がこんな驚き方をするとは思わなかった。

 

「どういうことだ。あいつが人殺しなど――」

 

「待て、順を追って説明する。本音は最近私の世話をしてくれているから知っていると思うが、私の左腕は肩から指先まで全て機械、つまり義手だ」

 

「うん、びっくりだったよー」

 

「詳しい経緯は省くが、十三歳の誕生日を間近に控えたある日、私は左腕が肩ごと吹き飛んだ状態でドイツのとある森で死にかけていた」

 

「えっ」

 

「えっ」

 

 ――気に入ったのだろうか、その驚き方。

 

「そこにたまたま束さんが通りかかって、日本語で話しかけてきた。

 まさか彼女もドイツのド田舎の森の奥で転がっていたボロ雑巾のようなガキに日本語がわかるとは思わなかっただろう。実際、ドイツ語が返ってきたらそのまま見殺しにする気だったらしい。

 だが私は日本語を返すことが出来、結果今日まで生きている。殺されかけたとはそういうことだ。

 私はその時の記憶が曖昧だから、このあたりは束さんに聞いた話だがな」

 

 実際にはそれに加えてもう一度見殺しにされかけているが、そのあたりの記憶が本当に朧気で思い出せない彼は束の言葉を完璧に信じている。

 

「まあ、概ねそんな感じだ」

 

「……ブレヒト。お前、なかなか波瀾万丈な人生だな」

 

「ブリュンヒルデの人生には敵わんさ」

 

 その後、束の話でなんのかんのと盛り上がった。

 

 話についていけなかった本音がふて腐れてなかなか機嫌をなおしてくれなかったが、それはまた別の話。

 

 




 閑話なので短いですね。あっさりうすしお味ですね。
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