IS -Scharlachrot-   作:小糠雨

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第一三話:鳴かない駒鳥

 

「織斑、ブレヒト。デュノアの面倒を見てやれ。同じ男子だろう」

 

 千冬に言われ、シャルルが二人のもとへ。

 

 ちなみに、ラウラの兄様発言による騒ぎは千冬の一喝で沈静化した。

 

「君たちが織斑君とブレヒト君? 初めまして、僕は――」

 

「ああ、いいから。とにかく移動が先だ。女子が着替え始める」

 

「急ぐぞ一夏。事態はいつも以上に逼迫(ひっぱく)している」

 

 一夏がシャルルの手を取り、そのまま教室を出た。その時シャルルの顔が少し赤くなったのをジギスヴァルトは見逃さない。

 

 が、それだけで何がわかるわけでもない。人付き合いが苦手な者だって、同性愛者だって、極端な話男装した少女だって、同じような反応をするだろう。

 

 そんなことより今はこの状況を切り抜けねばならない。

 

「転校生発見!」

 

「織斑君とブレヒト君も一緒!」

 

 ほかのクラスの せいとが あらわれた!

 

 いちかたちは にげだした!

 

「居たっ! こっちよ!」

 

 しかし はいごからも せいとが せまっている!

 

 いちかたちは かこまれた!

 

「織斑君の黒髪やブレヒト君の銀髪もいいけど、金髪っていうのもいいわね」

 

「しかも瞳はアメジスト!」

 

「見て見て! 織斑君と転校生君、手ぇ繋いでる!」

 

 これはまずい。退路が無い。このままでは授業に遅れ、その先に待ち受けるのは千冬による特別カリキュラムだ。それだけは避けなければならない。

 

「仕方が無い。一夏よ、プランBでいくぞ」

 

「プ、プランBって何なの?」

 

 女子たちの勢いに気圧され気味のシャルル。

 

「え? ねえよそんなもん」

 

「無いの!?」

 

「次善の策、という意味だ。特に前もって何か決めているわけではない」

 

 普段の作戦――(女子)が迫る前に更衣室に辿り着く、は失敗した。おそらく転校生のことを聞いていつも以上に早い段階から動き出したのだろう。

 

 前後を塞ぐ女子たちに突っ込んでいくのは愚の骨頂。ならば今できるのは――。

 

「デュノア、少々我慢してもらうぞ。一夏、行くぞ」

 

 言ってシャルルを右肩に担ぎ上げた。そして素早く窓際へ。

 

「へ?」

 

「それしかないよなあ、やっぱ」

 

 そのまま窓を開け、

 

「口を閉じていろよデュノア。舌を噛んでも知らんぞ」

 

 落ちた。

 

『ええええええ!?』

 

「きゃああああああ!?」

 

 驚く女子たちの声を頭上に聞きながら、近くにあった植木の枝を左腕で掴んで勢いを殺し、着地。シャルルを降ろしながら自らが飛び降りた窓を見上げ、叫ぶ。

 

「一夏!」

 

「りょーかいっ!」

 

 続いて一夏も飛び降り、白式を脚だけ展開し、着地。規則違反だが、緊急事態だしまあ、大丈夫だろう。多分。

 

 混乱するシャルルの手を再び一夏が引き、三人は更衣室へ駆け出す。

 

「な、な、な、何してるの二人とも!?」

 

「何って、ああでもしないと抜けられないだろあれは。それよりお前、女の子みたいな悲鳴だったな」

 

 更衣室へと走りながらケラケラと笑う一夏。

 

(女の子……?)

 

 自己紹介のときに覚えた違和感がジギスヴァルトの中でぼんやりと形になった。

 

 改めてシャルルを見る。

 

(有り得ない――とも言い切れんか。男にしては妙に柔らかかったしな)

 

 後で調べてみようか――千冬の特別カリキュラムを回避できなければ覚えていられないだろうが。

 

 

 

 

 ★

 

 

 

 

 結論から言うと、間に合った。

 

 間に合ったにも関わらず、出席簿を食らった。解せぬ。

 

「では、本日から格闘及び射撃を含む実戦訓練を開始する」

 

「はい!」

 

「今日は戦闘を実演してもらおう。凰! それと、そうだな――ヴェスターグレン、来い!」

 

 千冬に名を呼ばれたのが意外だったのか、スティナはすぐには反応できなかった。

 

「聞こえなかったか?」

 

〔何でしょう〕

 

 ISを利用した小型の空中投影ディスプレイに思考入力による文を表示して返事をする。千冬の前に進み出た彼女は他の生徒と同じようにISスーツ姿で、左腰にフードにつけていたのと同じ二つのバッジをつけている。日光に肌をさらして大丈夫なのだろうか。

 

「お前、資料ではISを所持していることになっているな」

 

〔はい〕

 

「だが詳細が報告されていない。丁度良いから報告がてら演習に参加しろ」

 

「…………」

 

 言われた彼女はしばらく考え込んで、

 

〔受諾〕

 

「よし、では準備をしろ」

 

「なんであたしが……」

 

「専用機持ちはすぐに始められるからだ。いいから前に出ろ」

 

 それでもやる気が出ない様子の鈴音に千冬が小声で付け加える。

 

「少しはやる気を出せ。あいつにいいところを見せられるぞ?」

 

「まあ、実力の違いを見せるいい機会よね! 専用機持ちの!」

 

 途端にやる気がゲージを振り切った。単純と言おうか、現金と言おうか。

 

「それで、相手は? この白い子ですか?」

 

「…………」

 

「ちょっと? 何か言いなさいよ白いの」

 

「…………」

 

「おーい!?」

 

「まあ慌てるな凰。お前たちの対戦相手は――」

 

 キィィィン――と、空気を裂くような音がした。

 

「あああああ!? ど、どいて! どいてくださいー!?」

 

 頭上から、声。一夏が上を見ると、目の前に真耶の顔があった。

 

「えっちょっ待っ」

 

 衝突。

 

 なんとか直前に白式を展開した一夏は真耶と(もつ)れ合って吹っ飛んだ。数メートル飛んでいった後、地面に激突。ゴロゴロと地面を転がってようやく停止した。

 

「いってぇ……いったい何が……」

 

 体を起こそうと手をついた一夏だったが、その手が何か柔らかいものに触れた。何だろうか、この柔らかい感触は。

 

「あ、あのー、織斑君……ひゃんっ!」

 

 一夏が固まった。恐る恐る自分の手の先に視線をやると、

 

「そ、その、ですね。困ります……こんな場所で……いえ、場所が問題なわけではないんですがですね! 私と織斑君は仮にも教師と生徒でですね! ああでも、千冬先輩が義姉(ねえ)さんというのはとても魅力的ではあるんですが、でもでも――」

 

 真耶が暴走していた。一夏の手の下にあったのは真耶の、何というか、こう、柔らかい胸部装甲だった。

 

 さて、この状況をより客観的に見るならば。吹っ飛ばされてゴロゴロ転がった結果、一夏が真耶を押し倒している状態である。しかも彼の手はしっかりと真耶の胸部装甲を鷲掴んでおり、さっさと離れればいいのになかなか動き出さない。

 

 これを見て攻撃手段のある恋する乙女たち(鈴音とセシリア)が大人しくしているはずもない。箒が専用機持ちでないのは幸運だったろう。

 

 一夏の頭を狙ってレーザーが(はし)り、当たる直前で金属の壁に阻まれて屈折。蒼穹へと消えていった。

 

「――残念。ジグさん、邪魔しないでくださいな……」

 

 腕と大剣(ヴォーパルシュピーゲル)を部分展開したジギスヴァルトがセシリアのレーザーを受け止めたのだった。セシリアは額に青筋を浮かべてジギスヴァルトを睨んでいる。

 

「そうはいかんだろう。さすがに見過ごせ――」

 

 ガシーン、と、鈴音が双天牙月を連結する音が聞こえた。あの青竜刀は柄頭を連結することで双刃剣となり、その状態では投擲攻撃も――。

 

「一夏」

 

「な、なんだジグ?」

 

 鈴音が双天牙月を振りかぶって、投げた。

 

「……すまん、アレは無理だ」

 

 三十六計逃ぐるに如かず。アリーセは軽くて脆いので、例え完全展開していてもあんなものを受け止めたら吹き飛ぶ。それにジギスヴァルトは精密射撃ができるほど銃器の扱いがうまくないので、アサルトライフル(ヴァイスハーゼ)で迎撃しようにも止められる自信が無い。ガトリング砲(メルツハーゼ)は弾をバラ撒く武器なので他の生徒に当たる、よって論外。

 

 そういうわけで、ジギスヴァルトはさっさと逃げた。もともとは一夏の自業自得だし、白式は展開しているからまあ死にはしないだろう。

 

「うおおお!? ジグの薄情者おおおおお!?」

 

 首を狙って投げられた双天牙月を間一髪で仰け反って躱し、一夏はその勢いのまま仰向けに倒れた。そして悟る。

 

(あ、無理だこれ)

 

 連結状態で投擲された双天牙月はブーメランのように返ってくるのである。倒れ込んでいる一夏にそれを躱すだけの余裕は――。

 

 ――ドンッドンッ! と、二つの銃声。

 

 弾丸は的確に双天牙月の両端を叩き、軌道を変える。それを為したのはなんと真耶だった。倒れたままの姿勢から上体だけを起こし、両腕でしっかりとアサルトライフルをマウントしている。驚くべきはあの体勢で撃ってあれだけ正確に射撃ができることだろう。また、雰囲気も普段と違って落ち着き払っている。

 

『…………』

 

 その場の皆が驚きで呆然とする中、真耶は平然と起き上がり、眼鏡を直しながら千冬の隣へ。

 

「山田先生はああ見えて元代表候補生だ。今くらいの射撃は造作もない」

 

「む、昔の話です。それに候補生止まりでしたし……」

 

 千冬の言葉に少し照れた真耶は顔を赤くして頬に手を当てている。このあたりの仕草はいつもの彼女だ。

 

「さて小娘ども、さっさと始めるぞ」

 

「え? 二対一ですか?」

 

「…………」

 

「安心しろ。今のお前たち……まあヴェスターグレンは見たことが無いから知らんが、凰はすぐに負ける」

 

 負ける、と言われたのが気に障ったのか、鈴音は瞳に闘志を滾らせた。一方、スティナの方は相変わらず表情が読めない。

 

「さっさとやるわよ白いの!」

 

〔スティナ・ヴェスターグレン〕

 

 いつまでも白いの白いの言われるのもイライラするので、簡潔に自己紹介。

 

「そう。あたしは凰鈴音よ」

 

「…………」

 

 鈴音が飛び上がるのを見送って、スティナもISを展開した。

 

 白と橙のその機体は――剣。ジギスヴァルトのシャルラッハロート・アリーセのように全身装甲というわけではないが、その見た目はかなり特徴的だ。

 

「ふむ。とりあえず、資料に記載しなければならん。そのIS、名前は?」

 

〔Aphonic Robin〕

 

 エイフォニック・ロビン――()()()()()()

 

 頭部には短剣が一角獣の角のように突き出たバイザー。左腕は他のISと何ら変わりないが右腕にはマニピュレーターが無く、その肘より先には一メートルを軽く超える両刃直剣が折りたたまれた盾型の装甲がついている。両の脚部の膝から下は物理ブレードになっている。

 

 胸部には簡単な装甲がついていて、背中には二基一対の大型ブースター。非固定浮遊部位(アンロックユニット)は――無し。胸部とブースターだけがオレンジで、他は白い。

 

「よし。では、始めろ!」

 

 千冬の号令で飛び上がり、鈴音に合流する。

 

「ピーキーそうな機体ねえ。足引っ張んないでよ?」

 

「…………」

 

「あーもう、何か言いなさいってば調子狂うわねー」

 

『声帯、機能しない。喋れません』

 

 プライベート・チャネルで返答があった。思考通信が可能なISの通信はスティナが自由に声を発する唯一の手段だ。普段出している小型空中投影ディスプレイではあまり文字数を多くできないのである。

 

 まあ、その方法で喋る機会が今まではあまり無かったのでそもそも会話が得意ではなく、通信でもあまり喋りたがらないが。そのあたりはこれから練習していくつもりでいる。

 

『そう、悪かったわね。それで? アンタ何が出来んの?』

 

『出来ることは少ないですよ』

 

 そう、()()彼女に出来るのは――。

 

『寄らば斬ります。寄らずとも、寄って斬ります』

 

 

 

 

 ★

 

 

 

 

 さて、と相手を見据える。先程披露した射撃の腕からして、山田先生はおそらく射撃主体。一方、私には投擲用ナイフ以外に飛び道具が無い。いきなり不利だ。

 

 だけどまあ、いいか。隣でやる気満々の鈴音さんには悪いけれど、私はこの試合を本気でやるつもりは無いのだ。

 

 なにせ、相手はあの山田真耶。クラスの皆は知らないようだったけど、ブリュンヒルデ織斑千冬と日本代表の座を争ったと聞いている。そんな傑物に、しかも射撃兵装を主とする相手に、私のような未熟者が()()()()()()()()()勝てるわけがない。

 

 近々学年別トーナメントが控えている。たかだか授業のデモンストレーションで手の内を見せすぎるとその時に不利だ。

 

「さあ行くわよ!」

 

 鈴音さんが青竜刀――あのISは甲龍のはずだからあれは双天牙月だろう――で斬りかかった。それを見て私は左手に投擲ナイフを三本コール。一つは山田先生に当たるように、あとの二本は彼女の退路を塞ぐように投げる。

 

 しかしさすがと言うべきか――私のナイフは全て落とされた。

 

 けど問題ない。あれは落とされる前提で投げた。そもそも弾丸すら見えるようになるハイパーセンサーの恩恵を受けられるIS戦で、投擲武器なんて牽制にしかならない。双天牙月のように質量と威圧感があるならまた別だけど。

 

 しかしながら、私のナイフに気を取られたはずの山田先生はそれでも鈴音さんの双天牙月を避けた。そのまま後退して距離を取り、鈴音さんにアサルトライフルを連射する。山田先生が後退していくものだから、私との距離はグングン離れていく。

 

 正直気は進まないんだけど、多分このままここでナイフを投げるだけだと織斑先生に怒られる。だから私は背中のブースターに火を入れることにした。鈴音さんが先生の気を引いてくれている今ならいけそうな気がする。

 

 右腕の両刃直剣《音裂(おとさき)》をオンラインに。盾に畳まれた状態から、腕の先に一直線になるように展開する。

 

 ブースタースタンバイ。瞬間的な加速のみを追求したこのブースターは、上下にしか動かない。つまり、“前へ突っ込む”ことしか考慮されていない。

 

 敵が寄らば斬るけれど、先生は寄らないだろう。なればこそ、私はただ、寄って斬る――!

 

「…………!?」

 

「スティナ!?」

 

 一瞬。本当に一瞬だった。

 

 私のブースター《遠音(とおね)》は少ないエネルギー消費での“瞬時加速(イグニッションブースト)を超える加速”を目指した瞬間加速装置だ。この程度の距離は無いに等しい。瞬きの間に距離を詰め、すれ違い様に先生を斬る――つもりだった。

 

 瞬間速度なら並のISよりも、銃弾よりも、数段速い。そんな私に山田先生は反応した。ひらりと躱され、アサルトライフルの掃射を受ける。鈴音さんの攻撃を躱しながらでも正確に撃ってくる。

 

 私はそれを避けられなかった。何しろエイフォニック・ロビンには()()()()()()()()()()。PIC制御による飛行しかできないので、前進以外の機動性は他のISに劣る。それを補うための装備はあるが、この場で使いたくない。

 

 結果、緊急回避と言うにはノロい回避行動を取る私は呆気なくシールドを削りきられ、敗北。

 

 鈴音さん一人で山田先生に勝てるはずもなく、彼女もあっさりと負かされた。

 

「さて、これで諸君にもIS学園教員の実力は理解できただろう。以後は敬意を持って接するように」

 

 織斑先生はそう言いながらこちらを見てきた。あれは多分、手を抜いたのがバレている。

 

 でも、それは別に問題ないだろう。どうせ、突っ込むか斬るかしか能の無い私は、手を抜かなくても同じ事しかできない。

 

 そんなことより私の興味は別にある。

 

 織斑一夏。そして、彼の横でなんだかぽわぽわした女の子にくっつかれているジギスヴァルト・ブレヒト――“母”の“弟”。

 

 “母”がよく話題にするこの二人にようやく会えた。行きたかった学校にも行ける。私は今、期待感でいっぱいだ――。

 

 




 ロビンの右腕ですが、デ○フィング第三形態を思い浮かべていただくとわかりやすいかと。あれがガ○ダム能天使のG○ソードみたいな感じで展開します。
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