IS -Scharlachrot-   作:小糠雨

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第一四話:ちょっとシャレにならない

 

 私、スティナ・ヴェスターグレンは、スウェーデンから来たことになっている。なっているというか、実際三年前まではスウェーデンで生活していた。

 

 けれど、私の出身はドイツだ。出身というか、出生と言った方がいいのか。ドイツ軍の、あー……何だっけ。ナントカいう計画で作られた、ナントカいう試験管ベビーが私。よく知らないけれど遺伝子レベルで強化がどうのらしい。

 

 でも莫大な予算をつぎ込んで作られた私は先天性白皮症に加えて器質性失声症――つまり声帯が奇形だったから声が出ないなんていう、まあ軍人としては“欠陥”でしかない二つの特徴を持って生まれてしまった。おそらく技術的に不備があったんだろう。

 

 で、早々に廃棄処分が決まった赤ん坊の私は、殺されるのではなく何故かスウェーデンの軍に引き渡された。多分だけど、スウェーデンが私を欲しがった目的は強化された私のデータ。ドイツが明け渡した理由は手を汚さずに失敗作を厄介払いできるのと、私を調べたところで有用なデータなんて取れないと判断したからだと思う。

 

 そして三年前までスウェーデン軍でモルモットにされたり軍事教練を受けたりしながら生きてきた。結局、失敗作だった私からはロクなデータが取れなかったらしい。加えて、強化されている割には軍人としての能力も並程度。趣味でやっていた剣術だけは褒められたことがあるけど、この銃と近代兵器の時代に剣術なんてISに乗りでもしなきゃ役に立たないとも言われた。

 

 結局、三年前、もう要らないからと私は軍を追い出された。機密事項なんかの問題もあったろうに殺されなかったのは運が良かったのかスウェーデン軍がアホなのか。後者だとは思いたくないが、多分ガキだからって侮られたんじゃないかなという予想もしている。実際、機密なんて興味無かったからなーんにも知らないし。

 

 それから――まあ、なんやかんやで束さんに出会って、拾われて、今に至る。

 

 ――さて、どうして私がこんな話をしているのかというと。

 

「さあ、教えてもらおうかヴェスターグレン。お前は何者だ」

 

「…………」

 

 転入翌日にして早くも、エイフォニック・ロビンを造ったことにしている企業がダミーだと目の前の織斑千冬()にバレたからです。そこのテストパイロットという触れ込みだったんだけど、なんでこんなにあっさりバレたんだろう。

 

 ……ああ、機体が特化機すぎるからか。あんなものまともな企業は作らないだろうしなあ。あと機体の詳細を伏せていたのもまずかったのかも。

 

 ていうか、どうしよう。束さんの関係者なのは隠して、私は平穏な学園生活を送る気だったのに。

 

〔拒否〕

 

「拒否するのは構わんが、答えるまでここから出さんぞ」

 

 ここは生徒指導室。防音対策・盗聴対策・盗撮対策が完璧に為された、机と椅子と卓上電灯しか無い簡素な部屋。

 

 ……マジかー。出れないのかー。トイレ無いじゃん。

 

〔他言無用〕

 

「内容による」

 

「…………」

 

 仕方ない、話すか。どうせ話さなきゃ出られないのだし。諦めたとも言う。

 

 ――拝啓、今はどこに居るとも知れぬ束お母様。あなたの親友は、鬼です。

 

 

 

 

 ★

 

 

 

 

「さてジグ君、弁明は?」

 

 スティナが千冬にこってり絞られたさらに四日後。土曜日なので半ドンだ。この日の昼過ぎ、生徒会室にて、ジギスヴァルトとスティナは楯無と対峙していた。

 

「弁明と言われてもな。何についてだ」

 

 わかりきったことではあるが聞かずにはいられない。話し合い序盤にして既に彼は頭を抱えていた。

 

「あなたのご家族が身分詐称していたことについてよ」

 

 結局スティナは洗いざらい千冬に白状した。世界最強の威圧感に負けたとも言う。

 

 ジギスヴァルトと同じく、現在のスティナには所属する国が無いこと。束の工作でスウェーデンの企業所属のテストパイロットということにしていたが、実際は束に同行し束の造った機体をテストしていたこと。自分は男ではないから束の名前は面倒の種にしかならず、だからこの先も隠し続ける気だったこと等々。

 

 特に所属に関しては少々ややこしい。

 

 ジギスヴァルトの場合は国籍こそドイツだが、数少ない男性操縦者であることに加えて使用ISが天災お手製なので、単一国家に属するとややこしいことになる。具体的には、その国家と他国との戦争にまで発展しかねない。故に、少なくとも今はどの国にも属さないことになっている。

 

 一方スティナはそもそも国籍が無い。スウェーデン軍を追い出された時に戦死扱いで放り出されたため、スウェーデン籍が抹消されている。それを誤魔化して入学させてしまった束の手腕というか無軌道さには感心するが、こうしてバレては意味が無い。

 

 というかスティナの方はぶっちゃけ犯罪である。

 

「家族とは言うがな。会ったのはこの学園が初めてだぞ」

 

「でも、保護者が同じでしょう。あなたの妹ちゃんみたいなものじゃない」

 

〔兄さん〕

 

「ノるな阿呆。話がややこしくなる」

 

 ただでさえ妹分(ラウラ)のことで困っているというのに、このうえ最大級の厄介事を持ち込む妹がもう一人増えるなど勘弁願いたい、というのが彼の本音だ。だが束に「すーちゃんのことお願いね!」などと言われて了承した手前、放っておくわけにもいかない。

 

「大方、束さんの関係者だと露見するとややこしいからつい出来心で、とか言うのではないかこいつは」

 

 この5日間でスティナの為人(ひととなり)は多少理解した。この娘、喋れないせいでわかりにくいが、見た目に似合わず面倒くさがり屋、しかし飄々としていて面白いことが好きな性格だ。そのくせ好きな食べ物はたくあん、趣味は手間の掛かる盆栽と、なんというか、渋い。しかも特技は剣術。なんだこのヨーロピアン・ラストサムライ。

 

「それで? 簡潔に尋ねるが、今回のことはどう処理される?」

 

「篠ノ之博士の関係者ということだから、世界の均衡のためにこのまま無国籍でいてもらうことになるわね。どこかに所属しちゃったらそれこそ下手すりゃ戦争よ。

 幸いというか、学園に提出する書類やデータのみの改竄で、スウェーデンのデータベースなんかには手を出してない。つまりスウェーデンには今回のことは知られていないから。篠ノ之博士が実機の稼働データ採取のために学園に送り込んだということになるはずよ。博士を刺激したくないらしくて、今回はお咎め無し。このまま学園生活を続けてもらうわ」

 

「ずいぶんと寛容な措置だな。ブタ箱程度は当然と思っていたが」

 

「…………」

 

 あまりの言い種に思わずジギスヴァルトの顔を見上げたが、返ってくる視線は冷ややかだった。その顔にはありありと「面倒事をもってきやがってこの小娘め」と書かれている。歳はひとつしか違わないはずなんだけどな、などとズレたことを考えて誤魔化すことにした。この視線は真正面から受け止めるにはなかなかつらい。

 

「まあ本当ならそうなんでしょうけどね……うちのデータを改竄したのは学園長なのよねえ……」

 

「は?」

 

「つまり、学園長が協力者だったから詳細な調査が行われず、本国に知られずにスウェーデン籍で入ってこれたわけ。まあ織斑先生に篠ノ之博士の関係だとバレた以上、本当のことを公表するしかないんだけど」

 

 ――ああ、なるほど。

 

 つまりあれだ。束が学園長にお願い(おそらく脅迫めいているのだろうが)して味方に引き込んだから、虚構の身分で簡単に入り込めたと? そして学園側が加担してしまった手前罰則を与えづらいと?

 

 本気で目眩を感じでジギスヴァルトはよろけた。馬鹿じゃないのかIS学園。世界最高水準の警備が聞いて呆れる。束を怒らせたくなかったのはわからないでもないが。自分だって束の怒りを買わないために口を閉ざすこともあるし。

 

「まあでも、どの道いずれバレたでしょうけどね。イベントごとには各国のお偉いさんも来るから、この子を見てどこかが『あれはどこの所属だ』なんて言ってきたらおしまいよ。なにせIS学園に転入するには本来なら国の推薦が必要なんだから、本国が知らないわけがない。でも、知らない。

 もしそうなれば国際問題。向こうにバレる前に発覚してむしろラッキーだったわ」

 

 それを聞いてすっかりしょげてしまったスティナが弱々しく空中投影ディスプレイを表示する。

 

〔私の我が儘。

 束さんの関係者、面倒〕

 

「だろうな。でなければあの束さんがこんな穴だらけな手段を取るとは――」

 

 いや待て。いくらスティナが我が儘をごり押ししたからと言って、十全を善しとする束がこんな杜撰なことをするだろうか?

 

 否だ。彼女がやるからにはこんなわかりやすい綻びなど有り得ない。ということは、つまり。

 

「…………あの馬鹿兎め、バレる前提で行動したな」

 

 しかも理由はおそらく、自分の関係者だと公表するのをスティナが嫌がったのがショックだったからその当てつけとか、そういうしょーもないことだ。

 

「束さんもお前も、もう少し考えて行動してくれ。頼むから」

 

 視線の重圧に耐えきれなくて、スティナは目を逸らした。

 

 ジギスヴァルトがスティナのことをある程度わかり始めたように、彼女もまた彼のことは直接コミュニケーションを取ったりクラスの皆から聞いたりしてある程度把握している。束からも聞いてはいたが、やはり良好な関係を築きたいなら自分の見聞きしたことの方がこういうことは確実だ。

 

 本人は否定するが面倒見がよく、話し方は堅いがノリもいい。織斑一夏をめぐる騒動に巻き込まれやすい。あと、布仏本音と恋仲である。

 

 彼の立場を考えると一般人と恋仲というのはその相手に危険が及ぶのではと思ったが、そのあたりは心配しすぎる必要はなさそうだ。

 

 これはジギスヴァルトと本音の部屋に遊びに行ったとき本人から直接聞いたことだが、彼女の家は更識に代々仕えているらしい。裏にも精通した名家に仕えるに当たって護身術等は一通り修めているそうだ。

 

 閑話休題。スティナ本人としては、ジギスヴァルトとは兄妹や親戚のような良好な関係を築きたいと思っている。それは彼の方も同様だった。

 

 そして実際、上手くいっていた。たった今までは。

 

「…………」

 

 嫌われただろうか。束の関係者というある種の重圧を彼一人に押しつけようとした。それがバレて、下手をすれば彼も巻き込んでの国際問題に発展したかもしれないほどの面倒を持ってきた。嫌われる要素はいくらでも――。

 

「…………?」

 

 頭をポンポンと叩かれる感覚があって、見上げるとジギスヴァルトの視線の質が変わっていた。さっきまでとは打って変わって、暖かい。

 

「そう不安そうにするな。この程度、束さんに比べたらかわいいものだ。別に嫌わんよ」

 

「…………!」

 

 心の内を見透かされたのが恥ずかしくて、そして彼の言葉が嬉しくて、顔を真っ赤にしたスティナは体ごとそっぽを向いた。その仕草がまた可愛らしい、とジギスヴァルトと楯無が目を細める。バッと開いた楯無の扇子には“兄妹愛”と書かれていた。

 

「さて。お咎め無しというのならこの件は仕舞いだ。他の懸案事項を解決しておきたいのだが」

 

「何、懸案事項って?」

 

「ひとつはシャルル・デュノアのことだ。あいつ女だろう」

 

 ギクッ、と楯無が固まった。交渉事に長けた彼女がそんな反応をするからにはそれはわざとで、ジギスヴァルトの考えは当たりということだ。彼女は遊んでいるにすぎない。本音を介して少なからず交流を持った今、その程度のことはなんとなくわかるようになってきた。

 

 だがそこはお堅いようで実はノリのいいジギスヴァルト。少々付き合ってやることにした。

 

「な、何を言っているのジグ君、彼は男よ?」

 

「いや女だろう」

 

「いやー面白い冗談ね。でもほら、書類上もちゃんと男――」

 

「いや、だから女だろうアレ」

 

「…………。あ! あれは何だ!?」

 

「鳥だ!」

 

「猫だ!」

 

「たい焼きだ……!」

 

「ジグ君もだんだん本音ちゃんに毒されてきたわねぇ」

 

日本(ヤーパン)のアニメは侮れん。あれは良いものだ」

 

 ちなみに今のは本音に見せられたアニメのひとつ、たい焼き人間が空を飛び回り敵をやっつけるアニメ“たい焼き外套男”の主題歌の一節だ。あの曲は「たい焼きだ」のときの脱力感が妙にクセに――いやそうではなく。

 

「茶番はいい。見ろ、我が妹分が冷ややかな視線をくれているぞ」

 

「…………」

 

 冷ややかどころか絶対零度だった。

 

「一応聞くけど、どこで気付いたの?」

 

「最初から違和感はあった。何がどうおかしいかすぐにはわからなかったが……抱えたときに男にしては妙に柔らかかった。それからISの実機演習の際、ISスーツを着るだろう。アレは体のラインがハッキリ出る。胸は何らかの方法で潰していたようだが、骨格……特に腰回りの骨格が明らかに女だ」

 

 それに、女だと意識して観察すれば歩き方、重心の置き方、ちょっとした仕草等、男と言うにはいろいろと無理がありすぎる。

 

 さらに言えば、世界どころかフランス国内のニュースすらシャルルのことを扱っていなかった。貴重な男性操縦者がまた現れ、しかも代表候補生になったにも関わらずだ。それが彼に確信を持たせた要因でもある。

 

「さっすが。そうね、確かにあの子は女よ。私はもちろん、教師陣も大半は知っているわ。だいたい調べ終えて裏も取ってあるわよ」

 

「仕事が早いな。目的は一夏か?」

 

「一夏君というか、おそらくあなたたち二人よ。より具体的に言うと、どちらか相部屋になった方を狙う、かしら」

 

「……ああ、そういうことか」

 

 同じ男なら近寄りやすいという理由だけで男装したのだとジギスヴァルトは考えていた。男装という時点でハニートラップの可能性を排除していた。

 

 だが楯無の見立てはこうだ。ジギスヴァルトが言った通り、シャルルの男装は良く見れば見破れてしまう。ルームメイトとなった男がそれに気づき、獣性を爆発させるのを期待している、と。

 

「だが、あいつがハニートラップなど出来るようには思えんぞ。一夏に手を取られただけでずいぶん動揺していた」

 

「それは学園側も同意見。デュノア社長の愛人の子らしいから、まあ無理矢理なんでしょう。社長がやらせたのか社長夫人がやらせたのかは知らないけど」

 

 今のご時世、男性が社長をしているが実権はその妻が握っている、なんてことはザラだ。デュノア社がそれに当てはまるのかは知らないが。

 

「なるほど。世知辛い世の中になったものだな。で、どうするのだ?」

 

 それがねえ……、と顔を歪める楯無。

 

「スティナちゃんと違って、フランス国内のデータもバッチリ改竄されてるのよ。多分フランス政府も一枚噛んでる。だからこちらから何かしちゃうとそれこそ国際問題になっちゃう。スティナちゃんの件の比じゃないわ」

 

「では監視はしながら現状維持、か?」

 

「そうなるわね。けどまあ、どう転んでもデュノア社の思惑通りにはいかないんじゃないかなあ」

 

「ああ、それはそうだろうな」

 

 ――だって一夏だし。

 

 声を揃えて言う二人を見て、スティナは首を傾げた。

 

 

 

 

 ★

 

 

 

 

 さて、もう一つの懸案事項、ラウラのことであるが。更識楯無生徒会長様に相談申し上げたところ、自分で何とかしろとのありがたーいお言葉を賜った。

 

 転校初日の平手打ち未遂の折。席へ向かう際、ラウラは一夏に言ったのだ。「お前が教官の弟だなどとは認めない」と。その目にはありありと憎悪を(たた)えていた。

 

 彼女のあんな目は見たことが無かった。ジギスヴァルトが彼女のもとを去った後、千冬が教官としてドイツ軍に来たと聞いているから、その時に何かあったと考えるのが妥当だろう。それ以外に彼女と一夏を結びつける物が無い。

 

「そういえばスティナ、ラウラを取り押さえた手腕、見事だった」

 

「…………」

 

 顔が赤い。褒められたのが嬉しいのだろう。

 

 現在彼らは第三アリーナに向かっている。一夏たちがそこで訓練をするらしく、彼らも誘われたのだ。特にスティナはある意味必須の人員なので、少々急いで行く必要がある。

 

 彼女は最近箒に剣を教えている。どうしても一夏の訓練に食い込もうとする箒を抑えるためだ。

 

 一夏の白式は装備が雪片弐型しか無く、つまり近づかないことにはどうにもならない。故にまずは相手に近づく機動ができなければいくら剣を上手に振れても話にならないのだが――その機動の練習を箒が邪魔するのだ。剣しか無いのだから剣の練習を最優先すべきだ、と言って。だって、機動の練習をするとなると彼女は手を出せず、セシリアや鈴音、場合によってはジギスヴァルトが教えるから。

 

 セシリアと鈴音の二人は曲がりなりにも代表候補生、特に鈴音は格闘戦もこなすので、箒の主張がいかに非効率的かがよくわかっている。なので、まあ多少は私情が入ってはいるが、その意見をばっさり切り捨てる。それでヒートアップした箒がさらに突っかかり、ちょっとした騒ぎになって他のアリーナ利用者に迷惑をかける始末。そんなことが何度も続き、一夏は箒が自分のために言っていると思っているので強く断らず、そのせいで余計にエスカレートしていった。

 

 で、二日前。さすがにジギスヴァルトがキレた。貴様はそんなに一夏の、いや一夏のみならずアリーナ利用者全員の成長を阻害したいか。そこまで言うのなら丁度良い、貴様が剣の得意なスティナに勝てたら一夏の訓練は剣にしてやる、と。

 

 結果、箒は惨敗。生身の試合においても勝てず、IS戦においても彼女はスティナの投げるナイフに翻弄され近づくことすら出来ず敗北。

 

 しかしそれでも不服を申し立てる箒。おかげでジギスヴァルトの怒りはおさまらず。あれだけ剣だ剣だと言っていたくせにその体たらく、貴様は剣の練習だけであらゆる敵を倒せるようになる自信があるのではなかったのか、と言って、剣以外のあらゆる訓練を禁止したのだ。さらに監視役兼指導役としてスティナをつかせた。

 

 正直やり過ぎたというか、これでは箒の成長をも阻害してしまうので彼女が反省したら許してやろうと思っている。今のところ反省する様子は全く以て無いが。むしろジギスヴァルトに怨みのこもった目を向けてくる。

 

 それからとりあえず今日まで、箒は一応大人しくスティナの指導を受けている。とは言え、あくまで“剣道”に拘ろうとする箒に教えるのはなかなか骨が折れるようだが。

 

「来たな。では行くぞ」

 

「…………」

 

 更衣のために一旦別れたスティナと再び合流し、アリーナ内へ。ちなみに、彼女が日光に当たっても平気なのは普段からつけているバッジのおかげだ。

 

 大きい方、八分音符の形をしたバッジはエイフォニック・ロビンの待機状態。小さい方の、星の形をしたバッジは、皮膜装甲(スキンバリア)を応用した対紫外線バリア発生装置らしい。宇宙空間で運用されるはずだったISのバリアはあらゆる有害光線を防ぐことができるのである。

 

 さて。アリーナに入った直後、何やら不穏な空気を感じた。

 

「まさかアレって……」

 

「知っているのかーかなりんー!?」

 

「うっそぉ……ドイツの第三世代型だ」

 

「まだ本国でのトライアル段階って話じゃなかったっけ?」

 

 アリーナに居る皆の視線を追っていくと、黒いISと銀髪が見えた。ラウラだ。

 

 一夏に何か言っているようだが、お世辞にも友好的には見えない。一夏は一夏で苦々しい顔をしている。

 

「……準備しておけ」

 

「…………」

 

 スティナが頷くのを確認して、ラウラを観察する。

 

 彼女は表情からして一夏を煽っているようだが、彼はそれに取り合わない。しばらくそんなことが続き、何事か言ってニヤリと笑ったラウラが肩の砲を――一夏たちとは関係ない、訓練中の生徒に向けた。その先には打鉄を纏った――。

 

(本音!?)

 

 さらに本音のすぐ近くにはISスーツ姿のクラスメイトが何人か居る。訓練機一機を皆で使い回していたのだろう。このままラウラが撃てば、彼女らは確実に大怪我だ。

 

「スティナ! 行け!」

 

 指示を出して、自身もシャルラッハロート・アリーセを展開。ラウラの射線上に入り込み、グライフを起動。相手の砲が火を噴くと同時に、最大出力でレーザーキャノンを撃つ。ラウラが放った砲弾はレーザーに灼かれて蒸発。グライフは射程が短いのでラウラには届かないが、代わりにエイフォニック・ロビンを展開したスティナが遠音で突撃。砲弾発射直後にラウラの砲を斬り飛ばした。そしてすぐさま離脱した彼女は一夏たちの側に着地し、ラウラを警戒している。

 

「無事か本音!」

 

「おー、れっひーかっくいー。王子様みたーい。私はだいじょーぶだよー」

 

「そうか……よかった」

 

 本音の無事を確認して安堵していると、周りのクラスメイトが騒ぎ出した。

 

「ちょっとジグ君、本音だけじゃなくて私たちも心配してよー」

 

「お熱いねえお二人さん」

 

「かっこよかったねージグ君。颯爽登場! みたいな?」

 

 わいわいと好き勝手言ってくれるクラスメイトに苦笑する。が、ラウラを放っておくわけにもいかない。一夏たちにも無関係ではないので、ここはオープン・チャネルで話すことにした。

 

『ラウラよ。貴様、今自分が何をしたかわかっているのか』

 

 返ってきた彼女の声は淡々としていた。そこには一切の感情が乗っていない。

 

『織斑一夏が私と戦わないと言うから、やる気を出させるために砲撃しました。それが何か?』

 

『何故関係ない生徒を狙った。ここには生身の生徒も居る。死傷者が出たかも知れんのだぞ』

 

『そいつらはクラスメイト、関係なくはない。それに、もとよりISをファッションか何かと勘違いしている腑抜けた連中です。怪我でもすれば認識も改まるのでは?』

 

 事ここに至って、ジギスヴァルトは確信した。いや、今まで気づけなかったと言うべきか。

 

 この少女は、自分の知っているあの時の少女ではない。どうしようもなく歪んでしまっている――!

 

『そこの生徒たち、何をしている! クラスと名前を言え!』

 

 不意に、アリーナに監督役の教師の声が響いた。ただならぬ雰囲気を感じ取ったのだろう。遅すぎる気もするが。

 

『……今日は退()く。兄様、これは私と織斑一夏の問題だ。どうか邪魔をしないでください』

 

 ISを解除してラウラは去って行く。その背を見送るジギスヴァルトの胸中は穏やかではない。

 

 ……楯無会長。自分で何とかしろと言われたが、あれは骨が折れそうです。

 

 




 こういう話を書くと私の頭の悪さが露見してしまって恥ずかしいですね。
 ところで、私は別に箒アンチではありません。ただちょっと原作での彼女の行動にイライラしているだけです。
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