リィン……と鈴のような音が鳴って、エイフォニック・ロビンの両脚の近接ブレードが淡く光り始めた。
『アンタ、
『ええ、
『アンタが他の鳴き鳥を飼ってるとも言われてないわよ』
左手に投擲用ナイフを三本コール。それを鈴音が避けた先に、背部の
『甘いわ!』
双天牙月で迎撃しようとした鈴音まで、あと一メートルほどというところで、
『そうでしょうか?』
スティナが
「はぁ!?」
前進の勢いを殺さず、前宙するように跳躍したスティナは鈴音の頭上を跳び越え、丁度体が上下反転したところで再び跳躍。鈴音の真後ろに
「こっ……のぉ!」
無理矢理振り向いて双天牙月を合わせる鈴音だが、スティナの本命はそれではない。音裂は双天牙月を受け流すように振るわれ、左脚のブレードで回し蹴りが放たれる。
「ぐぅっ……!」
なんとか右腕を上げて防いだが、装甲がかなり深く斬り裂かれた。マニピュレーターの挙動に若干の不調が見られ、パワーアシストの出力も少し落ちたが、まだ動く。まだいける。
『……アンタ、何したの?』
『見ての通りです。跳びました』
エイフォニック・ロビンの両脚の近接ブレード《
その機能は、“剣先に特殊な力場を発生させ空間を踏む”こと。跳躍するイメージで使用すれば一瞬だけの発動となり、踏みしめるイメージで使えばある程度長い時間発動する。元々は地上と同じ感覚で剣を使いたいと言うスティナの要望で造られた装備。これを使えば空中でも“踏ん張る”ことができる。それは幼少期から趣味で剣を振り続けてきた彼女にとって大きな利点となる。
そしてこの機能でできるもうひとつのことが“跳躍”。これは端的に言えば、ゲームで言う二段ジャンプができる。それも、エネルギーが尽きるまで何度も。しかも、ISに乗っていればPICのおかげで“上下左右の縛り”が無い。頭を下にしていても、体が横を向いていても、踏ん張れるし跳べる。
欠点は、あくまで跳躍であること。いくらISの跳躍力が生身のそれより遙かに上で、さらにエイフォニック・ロビンのそれが並のISの数倍に設計されているとは言え、PICとスラスターを合わせた移動の速度には及ぶべくもない。故に速度を出すには遠音による前進と組み合わせねばならない。加えて、どうしたって予備動作が入るため跳ぶ方向が容易に予測できる。
なお、詳しい原理についてスティナは知らない。というか、束に説明されはしたが理解ができなかった。
『空中でジャンプとかわけわかんないわね。さすが篠ノ之博士のISってとこかしら?』
『ええ、あの人は馬鹿ですから。まさか本当に造るとは思いませんでしたよ』
再び突撃。小夜啼鳥があったところでスティナのやることは変わらない。ただ相手が寄らば斬り、寄らずとも寄って斬る。
音裂と双天牙月が激突する。だが単純に腕で扱う剣の数なら鈴音の方がひとつ多い。双天牙月を分離させ、それは下からの振り上げでスティナに襲いかかり――スティナが左腕にコールした長剣がそれを受け流した。そのまま長剣を逆手に持ち替えたスティナは右腕を完全に潰そうとそれを振り下ろしたが、鈴音は
『アンタ、まだ剣持ってたのね』
『《
『かわ……いい……?』
剣をかわいいと言う感性はちょっと鈴音には理解しがたかった。まあ、音裂と較べるとずいぶん小さいあたりはある意味“かわいい”かも知れないが。
『やっぱりいいですね。一夏さんとは比べ物になりません。ましてやジグさんに押し付けられた箒さんなんかとは次元が違う! さすが代表候補生です』
『そりゃどー、もっ!』
今度は鈴音の方から突っ込んでいった。脚力の強さに反して腕の力は並のISと変わらないエイフォニック・ロビンでは、パワータイプの甲龍の斬擊を受け止めることはできない。ならば受け流すか、それとも――跳ぶか。
スティナは跳ぶ方を選択した。右前へ跳び、さらにそこから上方へ跳びながら遠音を噴かす。鈴音の頭上を跳び越えたところでPIC制御で上下と前後を反転させ、下に居る――スティナからすれば“上”になるが――鈴音へ向かって再び
『そう来ると思ったわ!』
「…………!」
加速をかけた時には、既に鈴音は振り向いてスティナを見据えていた。完全に読まれた――少なくとも、受け流そうとせずに跳び越えることは。
『これで!』
双天牙月が音裂を捉えた。こちらから攻撃して受け止められたならともかく、双方が攻撃をぶつけ合ったとなると、当然質量とパワーが上の双天牙月が勝つ。
結果、音裂は砕かれ、鈴音にはまだ右手の双天牙月が残っている。これをスティナに捌かれとしても、左腕もすぐさま追撃できる。もし逃れられてもメインのブレードを失わせたのは大きなアドバンテージになる。しかもエイフォニック・ロビンの右腕にはマニピュレーターが無く、音裂を失えばもうそこに武装を展開できない。
――そんな状況でも。
『今週の――』
スティナは、楽しそうに笑って。
『――ビックリドッキリウェポンです!』
右腕ブレード部及びシールド部をパージ。音裂が完全に放棄され露わになった右前腕部には――音裂のブレードが畳まれていたのとは逆方向に折り畳まれた、IS装備としては小さめのハンマー。前腕上部にいわゆる柄が、そこから胴体側に折れる形で鎚頭が。
ハンマー展開。追撃の双天牙月を梢音で受け、勢いに逆らわずその場で回転し――装甲の無い胴体をハンマーでぶん殴った。
「がふっ!?」
衝撃に顔を歪め吹き飛ばされた鈴音に、追撃とばかりに梢音を投擲。衝撃で硬直している彼女はこれを避けられず、梢音は彼女の腹部にヒット。
『……そんなとこにそんなもの隠し持ってたなんて』
『《
『そうみたいね。悔しいけど今回はあたしの負けよ』
凰鈴音、甲龍、シールドエネルギー
★
一夏はジギスヴァルトに追いつけないでいた。それどころか、近接格闘型として第三世代ISの中でも高い機動力を持つ白式が引き離されていく。
『追いついてみせろ。このままでは私が勝ってしまうぞ?』
ジギスヴァルトの言う通り、このまま追いつけなければおそらく一夏は負ける。それはジギスヴァルトの攻撃が白式のシールドエネルギーを削りきるということ――
ISの稼動に必要なエネルギーは全てシールドエネルギーで賄われている。ただ起動しているだけでもシールドエネルギーは緩やかに減っていくし、手足を動かすのも、スラスターやブースターを噴かすのも、PICで機体を飛ばすのも、ハイパーセンサーを稼動させるのも、全てがシールドエネルギーを消費する行為だ。レーザー等の武器を使う場合も然り、である。普通に武器を使う場合もエネルギーを消費するのに何故零落白夜が諸刃の剣と言われるかというと、単にエネルギーを馬鹿食いするから。セシリアがスターライトmkIIIを1回撃つときのエネルギー消費を一と仮定すると、零落白夜を一秒発動すると二十は持って行かれるのだ。
ちなみに、競技用の設定においてのシールドエネルギー0はイコール全てのエネルギーを使い果たしたということではない。競技者の安全のため、シールドバリアや絶対防御はシールドエネルギーが切れた
閑話休題。そういうわけであるから、仮にこれから一度もジギスヴァルトが攻撃してこなかったとしても、飛んでいるだけで白式のエネルギーはシャルラッハロート・アリーセより早く底をつくだろう。なにせ一夏は零落白夜を一度発動したうえ既に何度か攻撃を食らっていて、ジギスヴァルトはいまだ無傷なのだから。
しかしだからといって消耗を抑えるべく減速、あるいは停止しようものなら、ジギスヴァルトは容赦なく攻撃してくる。よって一夏は飛び続けねばならず、どうにかして彼に追いついて攻撃を当てねばならない。
(どうすればいい……? どうすれば追いつける……!?)
瞬時加速は――却下。あれは直線的なので進路から外れるように動けば簡単に距離を取れる。
なら相手の速度を落とさせる――却下。そもそも雪片弐型以外の装備が無い現状ではそのための手段が無い。
なら、追いかけ方を工夫してアリーナの壁際やシールドバリアまで追い込み、彼が曲がる方向を予想してそこに突っ込む――却下。たしかに相手より小さな内径で回れば追いつけるかも知れないが、進路の予想が完全にヤマカンになるうえ、間違えたらもうどうにもならないほど離されてしまう。それに彼の反応速度なら一夏の進路を見てから進路変更だってできるだろうし、彼ほどの操縦者が壁やシールドバリアに気づかないはずがない。
どうする、どうする、どう――。
〈▼告/甲龍、シールドエネルギー
焦って思考が空回りしているところに白式が提示したメッセージを、一瞬信じられなかった。
(鈴が……負けた!?)
つい鈴音の方に意識を向けてしまう。そこには地上に降りて膝をつく鈴音と、右腕に見慣れないハンマーを展開したスティナが居た。
『余所見とは余裕ではないか』
『え? やべっ!』
彼女らの方に気を取られている間に、ジギスヴァルトがすぐ傍まで来てヴォーパルシュピーゲルを振りかぶっていた。ほとんど反射的に、一夏は雪片を翳して受けとめる。
しかし渾身の力で振り下ろされた大質量を支えきれず、彼の体は下に向かって弾き飛ばされた。その先には――。
「…………」
ハンマーを引いて待ち構えるスティナの姿があった。このまま落下すれば確実にあのハンマーの餌食になってしまう。そうなれば、おそらくシールドエネルギーが尽きる。
「負、け、る、かあああああ!」
体勢を元に戻し、スラスターも総動員して全力で制動をかける。と、同時に全霊で後退。ハンマーの間合いから離れ、スティナの攻撃は空を切った。
さらに、零落白夜を発動。後退をやめ、今度は前へ瞬時加速。鈴音が墜ちた今、どうにかスティナだけは落として再び一対一に――。
『惜しい、と言っておきましょうか』
しかし、一夏の反撃は空振りに終わった。彼の袈裟斬りを体を捻って躱したスティナは、瞬時加速の勢いのままに通り過ぎていく彼に遠音を噴かして追い縋った。そして彼の背に左腕で肘打ちを叩き込み――。
『今週のビックリドッキリウェポン、その二です』
――エイフォニック・ロビンの左肘から、杭が撃ち出された。
「ぐあっ!?」
衝撃が一夏の背から胸を撃ち抜き、吹き飛ばされた一夏は壁に激突。さすがに白式も耐えきれず、シールドエネルギーが底をついた。
『白式、
★
「ちっくしょー! 負けたぁー!」
試合を終え、更衣を済ませた四人は、アリーナの休憩所のモニターで試合を見ながらジュースを飲んでいる。ジギスヴァルトとスティナが着替えているのは、今日は一回戦しか無いからだ。ちなみに、明日は二回戦のみ、明後日は三回戦とブロック決勝戦。その翌日がA~Dブロックそれぞれの優勝者によるトーナメントの一回戦で、最終日となる五日目が学年優勝を決める決勝戦となっている。
「ていうかスティナ、最後のアレ何だよ!」
〔パイルバンカー
「アンタ女の子でしょーが」
スティナの返答に呆れたように突っ込む鈴音。しかし当のスティナはどこ吹く風とオレンジジュースを飲んでいる。
〔六九口径パイルバンカー
名前は、《
お気に入り〕
それどころか満面の笑顔で心底嬉しそうに自慢してくる。そこから始まるスティナの愛機語り。内容は主にパイルバンカーについて。標的は一夏。
なんとなく彼女の趣味がわかったような気がした一夏だった。おそらくこの少女、ロボットアニメなんかは大好物だろう。
「それにしても……」
文字数制限の中で巧みに自機愛を語るスティナから視線を外し、鈴音はモニターを見る。そこに映っているのはCブロックの試合。訓練機に乗った相手ペアを蹂躙するラウラと、その後ろで何もせずに立っている箒。
このトーナメントでは、専用機が訓練機を相手にする場合、相手の訓練機の数に応じて専用機にリミッターがかけられる。例えば、専用機と訓練機のペアVS専用機二機のペアの場合、訓練機と組んでいる専用機にはリミッターがかからないが、相手の二機は訓練機一機を相手取るときの規定に則ったリミッターがかかる、といった具合だ。
そして、訓練機二機を相手にしているラウラのシュヴァルツェア・レーゲンは規定に則ってかなり性能が落ちているはず。にも関わらず試合が一方的な蹂躙の様相を呈しているのは、武装の質とラウラの技量によるものが大きい。
「……ジグ、アンタあれどう思う?」
「そうだな……」
問われたジギスヴァルトは映像の中のラウラと箒を睨みつけ、
「お説教とお仕置きが必要だな」
「どっちが?」
「無論、二人ともだ」
その答えに満足したのだろうか。じゃあそれはアンタに任せるわ、と言って彼女は立ち上がった。飲み終えたジュースの缶をゴミ箱に入れ、いまだにスティナの装備自慢を
「一夏! あたしの部屋で試合見ながら反省会よ!」
「おう、いいぞ。じゃあジグ、スティナ、次の試合も頑張れよ!」
「応。例の約束はトーナメントが全て終わってからだ」
「わかった。じゃあまた明日な!」
去っていく一夏と鈴音の背を見送って、スティナが溜め息。それを聞いて嫌な予感が駆け巡ったジギスヴァルトだったが――。
〔話し足りない〕
この後、彼は妹分の気が済むまで、パイルバンカーの話を聞いていた。
知識がより高まった。
根気がより高まった。
寛容さがより高まった。
★
ジギスヴァルトとスティナは順調に勝ち進み、ブロック優勝を果たした。
そして今日、学年別トーナメント四日目。ブロック優勝したペアによるトーナメントの、初戦。組み合わせは――ボーデヴィッヒ、篠ノ之VSブレヒト、ヴェスターグレン。
ピットで試合開始を待つ箒は悩んでいた。相手は自分を一夏の特訓から引き離したジギスヴァルトと、指導だとか言って彼女を監視しながら彼女の剣を邪剣に染めようとしたスティナ。そのうえ二人ともが、あの姉の関係者。出来ることならどちらもこの手で
だが――抽選でラウラとのペアが決まったとき、戦闘に参加しないと約束してしまった。自身が一夏と離れ離れになった原因であるISを、箒は嫌っているからだ。IS学園に入ったのは政府の命令で、一夏の特訓に参加したがるのは一夏と一緒に居る時間が欲しいから。でなければISにも、ISを造り出した姉にも、関わることすらしたくなかった。
けれど、この試合だけは。この際二人ともとは言わない。“剣道”を邪剣でねじ伏せ、箒が一夏の特訓から外れる原因を作ったスティナだけは。せめてこの手で倒したい。
どうしようか、無理矢理にでも戦闘に介入しようか。しかしそんなことをしようものなら、ラウラは一切の躊躇無く箒を攻撃するだろう。どうすれば――などと考えていると、打鉄が警告を発した。相手の準備ができたようだ。
〈【警告】IS二機の起動を確認。データ検索――完了。シャルラッハロート・アリーセ及び打鉄と一致〉
――――。な、に?
箒は困惑した。打鉄? あの、なんとかロビンとかいうゲテモノISではなく? 専用機を持っていながら、わざわざ訓練機で試合をする?
「ヴェスターグレン……何を考えている……!」
隣のカタパルトでシュヴァルツェア・レーゲンを纏っているラウラが、呪詛のような低い声音で言った。箒も言葉にこそしなかったが同じ気持ちだった。
飛行許可が下りて、アリーナに出る。相手のピットから出てきたのは、自身の纏うISが提示したメッセージ通りに、シャルラッハロート・アリーセと打鉄。
『ラウラさん』
オープン・チャネルにスティナからの通信。
『この試合、私は箒さんとの勝負を所望します。あなたは手を出さないでください』
『ふざけているのか。何故そんな機体で出た。何故貴様は本気で私と戦ってくれない! 私は貴様にとってそんなにも無価値か!』
ラウラが泣きそうな声で叫ぶ。その表情は今まで見たこともないくらい感情が剥き出しになっている。
『違いますよ。それは私の役目ではないというだけです。あなたの相手はジグさんの役目。私の役目は、そこに居る馬鹿なガキを言い訳のしようもないくらいにぶちのめすこと』
言って箒を見るスティナもまた、かつて無いほどの敵意を向けている。そんな目で見られる理由に、箒は心当たりが無い。自分がスティナに敵意を持つ理由は数あれど、彼女の敵意を引き出したとは俄には信じられない。
『さあ箒さん。前回はたしか、この女が専用機を使ったから負けたのだ、なんて言い訳をしていましたね。今回は私はあなたと同じ打鉄ですよ。これで対等です』
だから、と、冷笑を浮かべたスティナは言う。
『安心して、一夏さんにあなたの無様な負け姿をさらしてくれて結構ですよ』
小説概要にも書きましたが、ロビンの装備の名前を間違えていました。一三話では正しく表記していたのに一四話以降ブースターの名前を未登場だったパイルバンカーと取り違える大失態。どうしてこうなった。現在は、見落としが無ければ全て修正済みです。
ちなみに今回登場したハンマーのイメージは、某鉄の伯爵です。あんなに柄長くないですが。
そして原作の倍以上の太さに改変された灰色の鱗殻。だってアニメとか立体物とかで見ると明らかに六九口径(およそ1.7cm)よりごん太なんですもの。
そんな感じでどうにか。IS-Scharlachrot-、次回も、まうまう!