IS -Scharlachrot-   作:小糠雨

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第二〇話:キャットファイト

 

 試合開始を告げるブザーが鳴った。

 

 ジギスヴァルトはメルツハーゼ(ガトリング砲)を展開。スティナへとワイヤーブレードを伸ばそうとするラウラに向けて熱弾をバラ撒き始めた。回避すればいいものを、ラウラはAICでそれを受け止める。彼女がAICを過信していることを今までの試合映像で予想した上での選択だったのだが、どうやら予想は的中したようだ。毎秒百発にも達しようかという弾幕が彼女を襲い、AICで一度止まった後、後続の弾に押されて効果範囲を外れ地上に落下していく。

 

『確約できるのは十分間だ。それ以上は予備を使ってもメルツハーゼの弾がもたん。もちろんそうなっても全力で抑えるが、一応留意しておけ』

 

『了解です』

 

 そうしてジギスヴァルトがラウラを釘付けにしているのを確かめて、スティナは打鉄の近接ブレード《葵》を二本展開した。そして箒にプライベート・チャネルを繋ぐ。

 

『ジグさんが少なくとも十分稼いでくれます。その間に終わらせましょう。よくは知りませんが剣道の試合の制限時間は五分と聞いていますから、短くはないでしょう?』

 

『……いいだろう。私が勝ったら二度と私の邪魔をするな』

 

『は? 私、何か邪魔しましたっけ?』

 

 嘲笑うようなにやけ面でそう言うと――スティナの狙い通り、箒は簡単に沸点を超えた。大きくブレードを振りかぶり、スティナに向かってくる。が、普段竹刀を振っている時とは較べるべくもないほどに剣筋のブレた唐竹割りは、二本のブレードを交差させたスティナにあっさり受け止められた。

 

『ああ、思い出しました。一夏さん弱体化計画を邪魔したんでしたね。いやーごめんなさい、すっかり忘れてました』

 

 言って箒の腹を蹴り飛ばす。

 

『貴っ様ぁ!』

 

 今度は突きにきたが、“剣道”にこだわる彼女は馬鹿正直に喉元を狙ってきた。そのうえ、やはり普段ほどスピードもキレも無い。少し身を傾けるだけで余裕で回避できる。続けざまに胴、小手、面と打ち込んでくるが、それも全て躱していく。

 

『言うに事欠いて弱体化計画などと! 私は一夏を正しい剣の道に戻すために!』

 

『だから、何回か言ったじゃないですか。それじゃダメなんですよ』

 

『黙れ! 汚らわしい剣で一夏を(たぶら)かす売女(ばいた)の言葉など――』

 

『おっと手が滑りました』

 

 胴を狙った箒の攻撃を左の葵で止め、右の葵の峰で箒の右腕を強烈に打った。箒は衝撃で葵を取り落とし、彼女の手を離れた刀は眼下の地面に突き刺さる。

 

『あれ、剣道ってたしか竹刀を落としたら反則じゃなかったです? というわけで、退場してくださいね』

 

 落ちた葵に意識を向けた箒の脚を蹴る。PICの操作がまだ稚拙な箒の体はそれだけで簡単に水平になり、そこにスティナは両腕のブレードを思いっきり振り下ろした。ご丁寧に自身の機体も若干下に向かわせ、その推力を乗せて。

 

 まともに喰らった箒は地上に一直線。轟音と共に地面に叩き付けられ、舞い上がった砂埃が彼女を隠した。

 

『……足を払うのも反則だ』

 

 絶対防御は発動したようだが、衝撃までは殺しきれなかったのだろう。少し苦しそうな声の通信が飛んできた。砂埃の中の影が動いているから、立ち上がることはできたと見える。

 

『私は剣道なんて知ったこっちゃありませんから。汚らわしい剣だって言ったのはあなたじゃないですか』

 

『黙――』

 

『あなたが黙れ』

 

 砂埃を吹き飛ばす程のスピードで飛び込んできたスティナ。箒の主観では彼女が突然目の前に現れたように見えた。

 

 そのスピードのまま葵の峰を叩き付ける。刃を当てないのは、まだ箒を脱落させるわけにはいかないからだ。まだまだこんなもので許してやるつもりはない。

 

 水平に吹き飛ばされた箒は、今度は壁に激突した。防御型の打鉄といえど、そろそろだいぶシールドエネルギーが減っていることだろう。

 

『腹立たしい。本っ当に腹立たしい。こんな馬鹿を庇って“兄さん”が大怪我して、こんなクソガキのために“母さん”が罪悪感に苛まれ続けるだなんて――誰が許しても私が許さない』

 

 庇って大怪我ということは、兄さんというのはジギスヴァルトのことだろうと箒は推測した。箝口令が()かれていたはずだが、如何様にしてかあの件を知り得たらしい。ならば母さんというのは――きっと、篠ノ之束。ISを生んだ人。箒から全てを奪った人。

 

『また……あの人か……。また姉さんか!』

 

 蹌踉(よろ)けながら立ち上がり、叫んだ。そうだ、目の前に居るのはあの人の関係者だ。あの人がまた自分のもとから一夏を引き離そうとしているのだ。

 

 その絶叫を聞いて、スティナの顔は不愉快そうに歪む。空中から箒を見下ろして、彼女はこの学園に来てから今までで最も憤っている。

 

『おいで、モップ女。剣道こそが正しい剣なんでしょう? その割にはまだ私は一撃ももらってませんよ?』

 

 箒は飛び上がり、一旦量子化した葵を再びコールし斬り掛かった。しかしやはりその剣筋は揺れ、スピードも無い。スティナは防御するまでもなく全てひらひらと避けていく。

 

『くそっ……なんで……!』

 

『痴呆ですかあなた? 何度か言いましたよ私は。そんなの、あなたが剣道にこだわるからに決まってるじゃないですか』

 

『なんだと!』

 

 小手、逆胴、面、胴、逆胴、小手、突き――何度打ち込んでも当たらない。普段ほど上手く剣を振れない。何故当たらない。何故こんなに振り難い。

 

『ISで剣道やる無意味さがまだわからないんですか?』

 

 箒の打ち込みを全てギリギリで避けながら、スティナは言う。

 

 スポーツとしての剣道はスティナとて評価している。しかしそれが実戦――それもISを用いてとなると、剣道に対する彼女の評価は地に堕ちる。

 

『何を――』

 

『踏ん張りの利く地上と違ってここは空ですよ? 踏み込み方、体の使い方、バランスの取り方。その他諸々あらゆる要素が地上とは勝手が違い、どれを(たが)えても甘い剣になってしまう。

 ISに関わりたくないあなたは剣道でいいかも知れませんが、彼は違います。一夏さんにはISで強くなって掴みたい目標がある。あなたの我が儘で邪魔していい想いじゃないんですよ』

 

 まああれはあれで重大な問題もありますが、とは彼女は言わない。一夏のことはジギスヴァルトの管轄ということになっているし、その情報は下手をすれば箒をつけ上がらせる。

 

『だから――“離れ離れになっていた間の唯一の繋がりだと思っていた剣道をやめていたのが気に食わないから”なんて自分勝手な理由で彼に剣道を強要しないでください。

 あなたは一夏さんが思い通りの行動をしないからって癇癪を起こしてる、タチの悪いガキです』

 

 

 

 

 ★

 

 

 

 

 あの人()がISを開発して、一夏と離れ離れになった。連絡くらい取りたかったが、警護のためだなんて言って手紙も電話もメールも許してもらえなかった。

 

 学校も転校ばかりで友達を作る暇も無かったが、どこの学校でも剣道部には入った。幼い頃からずっと一夏と一緒にやってきた剣道をしている間は、一夏と繋がっているような気がした。きっとあいつも今頃は竹刀を振っているのだろうと思うと気分が軽くなった。

 

 だと、いうのに。

 

 ――どうしてここまで弱くなっている! 中学では何部に所属していた!

 

 ――帰宅部! 三年連続皆勤賞だ!

 

 あいつはあっさりと剣を捨てていた。

 

 あいつとは道場で多くの時間を過ごした。一緒に遊んだとかよりも道場で稽古をしていた時間の方が長いし、あいつと一番多くの時間を共有していたのは私だったという自信がある。だから、きっと剣道を続けているのだと信じて疑わなかった。私が剣道に一夏との繋がりを求めたように、一夏もまた剣道に私との繋がりを見出してくれていると思っていた。

 

 なのに――現実は違った。あいつは私との“絆”を呆気なく早々に手放していた。なら――あいつにとって私は何だったのだ?

 

 それにあいつは剣道をやり直そうとしない。幼なじみの私が鍛え直してやると言うのを無視して凰やオルコットとばかり訓練しているし、ブレヒトやヴェスターグレンは剣道とは似ても似つかぬ汚らわしい剣術をあいつに叩き込んでいる。あんな、勝つためなら脚だろうと空いた手だろうと何だって利用するようなやり方に染まっては、一夏は邪道に堕ちてしまう。

 

 認められるかそんなことが。一夏は私の幼なじみなんだ。あいつはISなんかじゃなく、私と一緒に竹刀を振っているべきなんだ。私がこの手であいつの目を覚まして、正しい道に戻してやる。

 

 だから、今は――あの醜女(しこめ)を倒して、私の剣の方があんな邪剣より強いのだと証明しないと――。

 

 

 

 

 ★

 

 

 

 

 大上段からの、面。相変わらずヨレヨレのそれを余裕で躱して、スティナは大きめに距離を取る。

 

『懲りないというか、学習しないというか……。箒さん、あなた脳みそちゃんとあります? ノミの方が頭いいんじゃないですか?

 これは剣道の試合じゃなくてIS戦。剣道で有効打になる場所しか狙わない、剣道で有効打になる振り方しかしない――そんなんじゃ、たとえあなたが普段のキレで竹刀を振ったところで当たってあげることもできません。初擊の唐竹割りみたいに思い切らないと。ISは上にも下にも逃げられるんですから』

 

『うるさい! 貴様のようなぽっと出に指図される謂われは無い! 私は一夏の幼なじみだ。ISなんかに頼らずに、一夏は私と竹刀を振っていればいいんだ!』

 

 その言葉に、スティナの眉がピクリと動いた。

 

『ほう? ISなんかに頼らずに、ですか』

 

 スティナは束の言葉を思い出した。

 

 私がISを作ったせいで箒ちゃんはいっくんと離れ離れになったから、きっと私のこともISのことも嫌ってるはずだよ――そう言って、普段の突き抜けた明るさからは想像もできないほどに悲しそうな顔をした彼女の言葉を。束は箒のことを、いかに大切でかわいくて愛していてと語る度に、毎回その言葉で締めくくるのだ。

 

『箒さん。わかっているとは思いますが、私はあなたへの敵意と怒りを抱えています。

 ですが――何故私が憤っているか、わかりますか?』

 

『知ったことか』

 

『そうでしょうね。そうでなくては。では教えて差し上げます』

 

 瞬時加速(イグニッション・ブースト)で寄り、逆風――つまり真下からの斬り上げ。ISの訓練を殆どしていなかった箒がそれに反応できるはずもなく、それは箒の打鉄の右手首を斬り割き、腕とマニピュレーターを離婚させる。そして体を捻って回し蹴り。さらにバランスを崩した箒に追撃の唐竹割り。左腕のマニピュレーターも斬り落とした。

 

 これで――箒はもう葵を握れない。

 

『あなた、一夏さんに言ったらしいじゃないですか。このトーナメントで私が優勝したら付き合ってもらう――でしたっけ?』

 

『な、何故それを!』

 

『そんなことはどうでもよろしい。問題は、何故このトーナメントで優勝したらなのか。そして、何故命令形なのか、です』

 

 箒の首筋に二口(ふたふり)の葵の刃を添えて、淡々と言う。

 

『まあ、後者からいきましょうか。何故一夏さんの意志を無視した命令形なんですか?』

 

『……それは、私と一夏は幼なじみだから――』

 

『は?』

 

 スティナの目が細められた。首に刃を押し付ける力が少し強くなった気がする。

 

『幼なじみだから? 幼なじみだから一夏さんは拒否しない、なんて思ってるんですか?』

 

『そうだ。私は一夏の幼なじみだぞ』

 

『あなたさっきから何回かそれ言ってますけど、それ以外に何か言うこと無いんですか?

 ていうか、たかが幼なじみ如き。だから何だって話です』

 

『たかが、だと……?』

 

『そうでしょう? 幼なじみなんて、ただ小さい頃から知り合いってだけの関係です。そんな豆腐でできた糸にも劣る脆い繋がりの相手に嫌なことされたら当然嫌いになりますし、逆もまた然り。

 あなた、一夏さんが思い通りにならない度に拳だの竹刀だの木刀だのISの近接ブレードだので襲ってるじゃないですか』

 

 例えば、放課後に一夏が鈴音やセシリアと機動訓練を始めようとした時とか、他にもいろいろと。

 

 一夏に剣道をやれと言いに行って、断られて激昂したことなどもはや両手の指では足りない。彼が断ったのは、ジギスヴァルトとスティナに言われたからというのも理由の一つだが、彼自身白式を初めて動かしたあの日に“ISでの戦闘に剣道は向かない”と感じたからだ。千冬が世界を獲ったときの剣が剣道ではないという理由もあるが。

 

 さらにスティナがジギスヴァルトに聞いたところによると、一夏が剣道をやめていたことが発覚してからセシリアと試合をするまでの数日間に至っては特訓と称して一夏をボコボコにしていたらしい。

 

『……黙れ』

 

『あと、あなた一夏さんが何か行動する度に怒ってますよね。いろいろ聞いてますよ、私が来る前のことも。何でしたか、授業で彼がセシリアさんと一緒に飛行の実演をしただけで怒ったんでしたっけ?』

 

 他にも、一夏が誰か女子生徒を手伝っている時とか。それから、一夏が箒以外の者と食事を摂っている時とか。小テストの点数が良かったときやISの実習で良い動きが出来たときなども、一夏を褒めるのではなく殆ど言いがかりに近いレベルでミスの指摘ばかりしている。

 

『そんな風に理不尽に怒って理不尽に暴力を振るうような人に「付き合ってもらう」なんて言われて、承諾すると思います? 私ならいくら幼なじみでも願い下げです。よかったですね、失恋確定ですよ♪』

 

『貴っ様あああああ!』

 

 マニピュレーターを失った腕を振るい、怒りに任せて殴ろうとする箒。しかし彼女の攻撃は当たらない。スティナが箒の首に添えていた葵を引き戻し、それを用いて腕を払ったからだ。

 

『あらあら、剣道はどうしたんですか箒さん? 竹刀以外による攻撃は反則では?』

 

『黙れぇ! 白子(しらこ)の分際で、口の利けない醜い身で――人間の紛い物のくせに、私の邪魔をするなっ!』

 

『酷い言い(ぐさ)ですね。まあ事実なんでいいですけど』

 

 暴れ出した箒の腕を掴んで――おそらくこれ以上暴れられると面倒だと思ったのだろう――地上に向かって投げ飛ばした。それほど強く投げたわけではないが箒は地面に仰向けに転がり、その上にスティナが馬乗りになって再び葵を首に添える。

 

『それじゃ、二つ目いきましょうか。あなたは何故このトーナメントで優勝したらなんて言ったんですか? 別にそんな条件つけなくても、好きです付き合ってくださいで良いじゃないですか』

 

『それはっ……!』

 

『当ててあげましょうか?

 私やジグさん、鈴音さん、セシリアさん――要するに、一夏さんに稽古をつけている私たちより優位に立ちたかったからですよね? 一夏さんが自分だけを頼るようにしたかったからですよね? 私たちが教えるゲロみたいな剣よりあなたの剣――剣道の方が上だと誇示したかったんですよね?』

 

「…………」

 

 箒は答えない。ただスティナを睨みつけている。しかしその眼が、答えないという行動そのものが、その通りだと雄弁に語っている。

 

『一夏はISなんかに頼らずに私と竹刀を振っていればいい――さっきのあなたの言葉です。

 でも――だったら何故あなたはISに頼ったのです? 嫌いなのでしょう、ISが。あなたを一夏さんから引き離したISが! 一夏さんが剣道を再開しない理由たるISが! 篠ノ之束の作り上げたIS()が!

 それなのに、ISの試合で優勝したら付き合ってもらう? ふざけんじゃねーですよ尻軽(ニンフォ)。嫌いなら嫌いでいい。それはあなたの自由です。けど――都合の良いときだけ尻尾振ってんなよ牝犬(ビッチ)、穴が寂しいなら愛しの竹刀でも突っ込んでろ』

 

『貴様……私を侮辱するのか!』

 

『そりゃ、私もあなたに何回も侮辱されてますからね。

 で、箒さん。大嫌いなISに淫売よりも浅ましくお尻を振ってまで一夏さんに要求を通そうとしたわけですが――仮にあなたとラウラさんのペアが優勝したとして、はたして()()()()優勝したと言えるでしょうか?』

 

 それこそが今回、スティナが箒に怒りをぶつける最大の理由。今まで攻撃を叩き込み、いろいろと(あげつら)ってきたのはこの話をするためだ。

 

『な、に……?』

 

『ラウラさんとペアになったのは抽選らしいですし、ラウラさんのことですからどうせ「試合中貴様は何もするな、戦闘に加わるようなら貴様ごと撃つ」とか言ったんでしょうけど――そんなことは関係ねーんです』

 

 一方的に一夏に交際を迫り、そのために嫌っているはずのISを――篠ノ之束の夢を利用した。それなのに――。

 

『ラウラさんだけに戦わせて、自分は後ろで見ているだけ。ラッキーだと思わなかったとは言わせませんよ。こいつの後ろで大人しくしているだけで勝ち上がれて、運が良ければ何もしなくても優勝できると。

 いい加減にしろよ篠ノ之箒。一夏さんにあんな啖呵を切って、そのためにISを利用しようとしたんだ――だったらせめて戦え! ラウラさんの脅しなんて関係無い! 自分の力で戦って、優勝を掴み取ろうとして見せろ! 出来ないのならそれはISへの――束さんへの! そしてこの学園で上を目指す全ての生徒への冒涜だ!』

 

 ――要するに。

 

 ごちゃごちゃ言いはしたが、簡単に纏めると――一夏の自由意志(尊厳)を冒し、嫌いなはずのISを(たの)みとし、そのくせ自分は戦おうとしない箒のことが、スティナは()()()()()()のだ。私怨もいいところである。

 

『スティナ、そろそろ十分が経過する』

 

『了解。まあ、もう終わりますよ』

 

 ジギスヴァルトの通信にそう返し、スティナは箒の上から降り――彼女が起き上がる前に思いっきり蹴り飛ばした。彼女ら二人のやり取りは全てプライベート・チャネルで行われていたため、観客から見れば完全にスティナが悪役である。

 

 壁にぶつかり崩れ落ちる箒。シールドエネルギーが規定値を下回ったのか、彼女はそれ以上動かない。

 

『し、篠ノ之箒、シールドエネルギー0(エンプティ)!』

 

 若干引き気味のアナウンスが入る。それを聞いて、スティナは興味が失せたとばかりに箒から視線を外した。

 

「くそっ……」

 

 スティナの打鉄のハイパーセンサーが箒の声を拾った。

 

「…………」

 

 聞かなかったことにして、スティナは試合を終わらせるべく飛び上がった。

 

 

 

 

 ★

 

 

 

 

 負けた。

 

 手も足も出なかった。一撃入れることさえ出来なかった。

 

 何故? ――土俵が違ったからだ。

 

 何故? ――ISの稼動時間に差があったからだ。

 

 何故? ――専用機を持っていなかったからだ。

 

 そうだ、専用機。専用機さえあれば。誰のそれよりも高性能な専用機があれば。そうすればスティナも、ジギスヴァルトも、セシリアも鈴音もねじ伏せられる。そうすればきっと、一夏も箒が正しいのだとわかってくれる。

 

 いまだ続く戦闘の音を背後に聞きながら、箒はシールドエネルギーが切れたときの規定に従いピットに帰っていった。

 

 ――結局。スティナの怒りは箒に届かず、ただ彼女はフラストレーションを発散させただけに終わったのである。




 というわけで若干胸糞回でした。いつからスッキリすると錯覚していた……?
 激おこ箒VS激おこスティックファイナリアリティぷんぷんドリームなスティナ。スティナの言い分も支離滅裂なのは激おこスティック以下略だからです。しかも八割方私怨。エゴだよそれは。でも罵倒を考えるのはすごく楽しかったです。
 剣道の知識は剣道部の従兄弟に昔ちょっと聞いた程度なので間違っていたら生温かい目で見てやってください。
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