IS -Scharlachrot-   作:小糠雨

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閑話:Ein Feiertag jeder Person -Im Fall von Sigiswald-

 

 シャルロットがシャルロットとして転入してきた次の日、日曜日。

 

「…………」

 

 ジギスヴァルトは自室の机で木を削っていた。いつぞやの休日に買いに行ったアレである。彫刻刀ではなく、ごく一般的な折りたたみナイフで黙々と削っていく。午前中にも既にひとつ仕上げていて、これは本日二個目だ。

 

「…………よし」

 

「かんせー?」

 

 作業を止めたところに、本音がコーヒーを机に置いた。礼を言ってからそれを飲み、一息。

 

 机の上には、彼が彫ったフクロウが鎮座していた。

 

「おー、上手い上手い」

 

 自分の分のコーヒーも机に乗せてから彼の隣の椅子に座って、パチパチと拍手。

 

 ――ちなみに、シャルロットが性別をバラしたことでついに一夏とジギスヴァルトが相部屋になるかと思われたが、そんなことは無かった。シャルロットがラウラの部屋に移動して、それだけ。一夏は一人部屋と相成ったわけである。一説には、生徒会長が職権を濫用したとかなんとか。どうせまた本音が楯無に何かお願いしたに違いない。

 

「そーいえば」

 

「ん? どうかしたか?」

 

 コーヒーも飲み終え、ベッドに寝転んで漫画を読んでいた本音が不意に声をあげた。木屑等を片付けていたジギスヴァルトが視線を向けると、彼女は起き上がって問いかける。

 

「あのとき買ったアレ、使わないのー?」

 

「……ああ、アレか。使おうにもスペースがな……普通に屋外でやると風で木屑が飛ぶし」

 

「整備室はどーかなー?」

 

「確かにあれくらいの広さがあれば……いや、あそこをそんなことに使って良いのか?」

 

「どのみちISの機能を使わなきゃいけないんだからー、あそこくらいしかないんじゃなぁい?」

 

「……まあ、それもそうか」

 

 というわけで、使って良いかどうかの確認も兼ねて整備室に行くことになった。

 

 

 

 

 ★

 

 

 

 

 更識簪は、整備室で専用機製作に勤しんでいた。

 

 倉持技研の技術者がほとんど織斑一夏の専用機にかかりきっきりになってしまったせいで開発が頓挫したのを引き取り、自分で作ることにしたのだ。実際にできるかどうかはわからないが、姉に追いつくためには必要なことだと彼女は思っている。

 

「まさか本当に使って良いとは思わなかった……」

 

「ラッキーだったねぇー」

 

 入口から聞こえた会話。チラと視線を向けると、学園内でも有名なカップルが入ってくるところだった。ジギスヴァルト・ブレヒトと布仏本音。特に本音は簪の幼なじみ兼専属メイドであり、簪は彼女からいくらかジギスヴァルトについて話を聞いている。惚気られているとも言う。

 

 学園指定のジャージ(長袖)に身を包んだ彼らは整備室の一番奥のスペースに陣取った。

 

(専用機の整備でもするのかな……)

 

 ジギスヴァルトが専用機を持っているのは簪も知っている。学年別トーナメントのとき実際にそれを見てもいる。他の専用機持ちのように国や企業から貸与されているのではなく、篠ノ之束に与えられ彼個人が所有しているその機体は、なんとなく輝いて見えた。上手く言葉に出来ないが、こう……仲の良い家族と楽しく遊んでいる子供のよう、とでも言おうか。

 

 そんな風に見えたものだから、彼が普段どのようにISを扱っているのか興味があった。そこで、興味が無い風を装いながら彼らの様子を(うかが)うことにしたのだが――。

 

「よし。アリーセ、一番大きいものを出してくれ」

 

 彼がそう言うと、巨大な丸太が突如彼らの目の前に現れた。

 

「!?」

 

 高さおよそ二メートル。直径は、多分一メートルくらい。とても太くてかなり立派な丸太だった。

 

「では、始めるか」

 

 ドッ……ドドッ……バルルルルルルルルルル!!

 

 おそらくISの拡張領域に入れていたのであろう丸太を、同じく拡張領域から取り出したらしい()()で削り始めた。けたたましいエンジン音を響かせるそれは――。

 

(なんでチェーンソー!?)

 

 これが、あの日に木材やナイフと共に買ったものだった。今の世を侮るなかれ、チェーンソーなど安いものなら七千円程度で誰にでも買えてしまうのだ。ちなみにこのチェーンソーはお値段約二万円である。

 

 そのまま削り続けることおよそ二時間。ただの丸太だったそれはその間にみるみる姿を変えていき、そしてエンジン音が止まった。

 

「……完成だ」

 

 その言葉に反応して、機体製作に戻っていた簪も再び彼らに視線を向けた。

 

(こっ……これは……!)

 

 全体的に角張っている、一見すると装飾された柱のようなシルエット。所々簡略化されたりデフォルメされたりしているが、良く見れば人を(かたど)ったのだとわかる確かな造形。顔に彫られた双眸はしかしただの虚ろな穴ではなく、揺るがぬ意志が感じられた。正装に身を包み堂々たる佇まいでもって整備室を睥睨(へいげい)する汝の名は――!

 

(なんでニ○ポ人形なの!?)

 

 網走で生産されている、アレだった。ちなみにニポ○は商標登録されている。迂闊なことはできない。

 

 ていうか、でかすぎて怖い。なんだあれ。ジギスヴァルトの身長と同じくらいある。暗い部屋であんなもの見たら気の弱い人はチビるんじゃないだろうか。

 

「さて、片付けるか」

 

「手伝うよー」

 

 そして散乱した木屑を片付けようとする二人。しかし、手伝おうとする本音をジギスヴァルトは制止する。

 

「本音はこいつの整備を頼む。結構飛び散ったからな、隙間に屑が入り込んでいるやも知れん」

 

 言って彼は左の二の腕あたりを掴み――ガチッという音がした。それから左手首を掴んで引っぱると、ズルッと袖口から出てくる腕。左袖の中身が無いのを見ると、どうもマジで腕を外したらしい。

 

(ぅええええええええええ!?)

 

 それを平然と受け取って、本音は別のスペースへ――というか、簪の隣のスペースにやって来た。ドライバーを取り出し、いざ整備、というところで彼女は簪に気づいたらしい。にへっと笑って、

 

「あー、かんちゃんだー」

 

「……本音、それ……」

 

「あーこれー? ジグの腕だよぉー」

 

 ――とても幸せそうな笑顔で恋人の腕を分解する美少女。

 

 なんだろう、字面だけ見るとものすごく猟奇的な気がする。向こうには床に散らばったゴミを右腕だけで片付ける男。隣にはそいつの腕を分解する女。ホラー映画か何かだろうか。いかにも機械な造形なのが唯一の救い……いや、でも手首から先は人工皮膚(スキン)を被せてあるのか、生身の手と変わらない。それが余計怖い。

 

(集中できない……!)

 

 結局、この後はろくに作業が進まなかった簪であった。

 

 なお、○ポポ人形はジギスヴァルトと本音の部屋に置かれることとなり。学外に出ていたスティナが帰ってきて遊びに来た際、彼女はそれを見て目を(まる)くした。

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