From:五反田弾
To:スティナ・ヴェスターグレン
件名:明日
本文:
友達と二人で作った楽器を弾けるようになりたい同好会の練習あるんだけど、よかったら遊びに来ませんか?
★
というメールを貰って、私、スティナ・ヴェスターグレンは弾さんの家にやって来ました。五反田食堂……って、ここでいいんだよね? どうしよう、正面から入っていいのかな?
(お邪魔しまーす……)
声は出ないので心の中でそう言って扉を開ける。
「いらっしゃいませー! ……って、スティナさん!」
蘭さんが居た。お店を手伝っているのだろう。看板娘という言葉がピッタリな気がした。それを見て、場所が間違っていなかったと確信して安堵した。
ちなみに、彼女とはレゾナンスでの一件以降ときどきメールをやり取りしている。割と仲良くなったと思う……のは自惚れではないと思いたい。
〔弾さん
在宅?〕
「お兄? ちょっと待ってくださいね。……あ、お兄? お客さん来てるよ、お店の方に」
蘭さんが電話で呼び出しているうちに、サッと周りを見回してみた。
――後悔した。
周囲のお客さんからの視線、視線、視線。そういえば今はフードを取っているんだった。真っ白な外人の子供なんて居ればそりゃ目立つ。しかも蘭さんと親しげにしていれば倍率ドン! さらにもう七月になるにも関わらず白いロングコート(一応夏用)なんて着てたらさらにドン!
……弾さん早く来てー。
★
五反田家長男、五反田弾。彼は今、非常に、焦っていた。
だって、本当に来てくれるとは思わなかったのだ。今まで何度か女の子を誘ってみたことはあったが、「弾けるようになりたいってことは弾けないんじゃん」とか、「いやー男の子の家に行くのはちょっと……」とか言って避けられていた。仕方ないじゃないか、事実今は弾けないんだから。だって仕方ないじゃないか、ウチかもう一人の家しか場所が無いんだから。「織斑君が居るんだったら行くけど――え、居ないの? じゃあ行かない」なんて言われたときはメンバー二人で泣いた。
だから、ダメ元だったのだ。何度かメールはしたし仲も悪いわけじゃないとは思うが、いきなり家に呼んでまさか本当に来てくれるとは思わなかったのだ。
しかも。
〔今日
暑いですね〕
「えっ!? ああ、うん! そうだな!」
油断していたと言わざるを得ない。真っ白なロングコートを着ていたから。
――まさか足首まであるロングコートの下がタンクトップにホットパンツだなんて思わないじゃないか。
(しかも思ったよりスタイルいいしさあ!)
背が低いし体型の出ないコート姿しか見たことが無かったので、失礼ながら子供みたいな体型を想像していたのに、裏切られた。巨乳という程ではないが胸はちゃんと膨らんでいるし(ちなみにB。誤解している男性も多々居るが、カップサイズはトップバストとアンダーバストの差が二・五センチ変動するごとに一サイズ上下するものであってトップだけでは決まらない。なので、極端な話トップバストが百センチでもAカップだったり七十センチでEカップだったりもあり得る。さらに言えば、身長百七十センチの女性と身長百四十センチの女性のカップサイズが同じ場合、両者を比較してより巨乳に見えるのは低い方の女性である)、腰もちゃんとくびれている。程良く鍛えられた身体は細くてしなやか。
スタイルの良い女性が自分の部屋に薄着で居る状況に、正直弾の思考回路はショート寸前。何だろうこの状況、月の光に導かれたのか? そんな覚えはないぞ。
「そ、そうだ! 何か飲み物持ってくるよ! 冷たい奴!」
テンパったまま立ち上がった。それがいけなかった。
「うおぁっ!?」
立ち上がって一歩踏み出そうとした瞬間、転倒。
そこそこ筋力に自信のあるスティナが咄嗟に腕を掴んだが、やはりと言うべきか支えられず、あえなく一緒に転倒。
そして、そこに。
「よーっす弾ー。来たぞー……って……ああ!?」
勢いよくドアを開けて、楽器を弾けるようになりたい同好会のもう一人のメンバー、御手洗数馬が部屋に入ってきた。その視線の先では――。
「こ、これは……時雨茶臼……!」
仰向けに倒れた弾の腹のあたりに、パッと見た感じ小学校高学年か中学生くらいの真っ白な女の子が乗っていた。時雨茶臼が何かわからなかったらお母さんに聞いてみよう。
(まさか一緒に楽器を弾けるようになろうと約束した親友が、このような異常性癖の持ち主だったとは……子供相手に信じられん! 俺なら断然巨乳の女、映画女優で言うとイザ○ル・アジャーニがいいのに。
だが、こいつ以外に一緒に楽器を練習する奴が居ないのも事実だ。俺はあえて社会道徳をかなぐり捨てて、見て見ぬふりをしなければ!
そう、これは『超法規的措置』!
俺は自分の利益のため、ひとりの不幸な少女の人生をあえて、あえて見て見ぬふりをするのだ。ああ最低だ最低だ。俺はなんと最低な高校生よ。
IS学園に居る一夏よ、中国から戻ってきた鈴よ、罰ゲームで俺に告白してガチ泣きした隣のクラスの肇ちゃんよ。この御手洗数馬の魂の選択を、笑わば笑ええええええ!)
カッ! と目を見開いて、
「――見なかったことにしよう」
彼は、そう――言わば賢明な馬鹿だった。
「よ、よう数馬。遅かったな」
スティナにどいてもらって起き上がり、弾は震える声で出迎える。
「まだ昼前だ、十分早いんじゃない?」
「そ、そうか? あ、あははは……」
「そんなことより弾さんや。その子誰よ? お前ってロリコンだったん?」
「いや
縋るような目でスティナを見る弾。そんな視線を向けられても、と彼女は戸惑う。
〔私
幼児体型〕
そう返すので精一杯だった。
「いや、幼児体型ではないでしょうよ。なあ数馬」
「ん? ……ああ、うん。パッと見小学生かと思ったが、うん。……イイ」
「…………?」
自分を見て顔を赤くする二人。首を傾げるスティナ。その仕草にやられてさらに赤くなる二人。
〔弾さん
どちら様?〕
「あ、ああゴメン! こいつは御手洗数馬。楽器を弾けるようになりたい同好会の創設者。
数馬、こちらスティナ・ヴェスターグレンさん。鈴や一夏の友達で、IS学園に通ってる」
「……え、高校生?」
「同い年」
「マジか。それで、弾。ちょっと来い」
「な、なんだよ」
「いいから来い」
なんだか恐い表情をした数馬が弾を廊下に連れて行った。
「…………?」
取り残されたスティナは、やはり状況がよくわからなくてキョトンとしていた。
★
弾さんと数馬さんがそれぞれベースとギターをなんとなく鳴らしている間、私はベッドに腰掛けたり寝転んだりして二人を見ていた。退屈じゃないか、なんて聞かれたりもしたけど、見ているだけで楽しい。あーだこーだと雑談しながら楽器を弄る二人を見ていると、スウェーデン軍の皆を思い出してほっこりする。
あの部隊の皆にだけは、突然戦死扱いで居なくなったことを謝罪し無事を伝えてある。束さんマジハンパない。
さてまあ、そんなことを考えながらも二人を眺めていると、ふとジグさん――じゃなかった、兄さんに言われたことを思い出した。
(弾さんは女に飢えている――でしたっけ)
そうなんだろうか。わかる人には弾さんの言動でわかるのだろうけど、IS学園に来るまで軍の皆や束さんくらいしか人間関係が無かった私には正直言ってよくわからない。
(……あ、そうだ)
わからないなら、わかろうとすれば良いのだ。そう思った私は、弾さんにひとつお願いをしてから帰った。
帰ってから兄さんの部屋に行くと、なんかよくわからない巨大な彫像があってビックリした。……え、あれ今後ずっと部屋に置いとくの? 怖くない?
閑話を二本お届けしました。タイトルの意味は「それぞれの休日-ジギスヴァルトの場合-」と「それぞれの休日-スティナの場合-」。手持ちの辞書と睨めっこしてドイツ語を使用していますが、正しいかどうかは……まあ、はい。