IS -Scharlachrot-   作:小糠雨

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第二六話:人間の身長の限界は二七四センチくらいだそうです。

 

「あ、織斑君とブレヒト君だ!」

 

「う、うそっ! わ、私の水着変じゃないよね!? 大丈夫だよね!?」

 

「わ、わー。体かっこいー。鍛えてるねー」

 

「二人とも、あとでビーチバレーしようよ」

 

 浜辺に出てすぐ、一夏たちは数人の女子に遭遇した。一組の生徒ではないため、見覚えこそあるものの名前まではよくわからない。が、だから邪険にするかというとそんなわけはない。

 

「おう、時間があったらいいぜ。なあジグ?」

 

「ああ、構わんぞ」

 

「やたっ!」

 

 はしゃぐ女子たちに一旦別れを告げ、いざ砂浜へ。一歩踏み出し――途端、七月の太陽が熱した砂が二人の足の裏を焼いた。

 

「あちちちっ」

 

「…………」

 

 一夏は爪先立ちになりながら、ジギスヴァルトは少し顔をしかめながらもしっかりと砂を踏みしめて、波打ち際へと向かう。ビーチは既に多くの女子が溢れており、肌を焼く者、ビーチバレーをする者、さっそく泳いでいる者など様々だ。着ている水着も色とりどり。

 

「ところで、ジグは泳ぐのか?」

 

「いや、今のところその予定は無い」

 

 言ってジギスヴァルトは自身の左肩を軽く叩いた。羽織っているパーカーに隠れているが、そこには義手の接続器がある。義手そのものは半袖も着られるよう夏仕様――接続器ギリギリまでを人工皮膚(スキン)で覆っているが、接続器は剥き出しのまま肩についている。そして一夏は授業前の着替えのときにそれを見て知っていた。

 

海に入るとなるとパーカーを脱いでこれを露出する必要がある。別にパーカーを着たままでも泳げはするが、いかに水着とセットのものといえど衣服は衣服。着衣泳のキツさは身を以て知っている。

 

 加えて。もっと根本的な問題があった。

 

「ああ、そっか。まあ気になるよな」

 

「いや、私は見られたとて気にせんのだが、皆の気分を害する可能性があるからな。それに……」

 

「それに?」

 

「沈む」

 

「は?」

 

 沈む、とはつまり、泳げないということだろうか。彼は普通に泳げるものだと思っていただけに驚きも大きい。

 

「義手が重くて浮けんのだ。十六キロの金属の塊だからな」

 

「あー……」

 

 一応完全防水なのだが、重さがそれを台無しにしている。

 

 義手を外せば浮けるし、片手で泳ぐ方法は会得しているが、今この場でそれをしては接続器がどうのというレベルの話ではない。(いたずら)に皆を驚かす気は無いので、彼は海にはよほどやむを得ない状況でもない限り入らないつもりでいる。やむを得ない状況とはつまり、誰かが溺れたとかそういうときだ。

 

「い、ち、かー!」

 

「うおっ!?」

 

 突如、背後から駆けてきた鈴音が一夏の背に飛びついた。彼がなんとかそのまま踏ん張ると、彼女はするすると背中を登って肩車状態になる。ちなみに彼女はもちろん一夏が選んだあの水着を着ている。

 

「猫か何かのようだな」

 

「何言ってんのジグ、ここは海よ? あたしは人魚に決まってるじゃない」

 

「人魚がそんなにスルスルと登れるものか」

 

「うっさいわよ。それにしても――やー、高い高い。遠くまでよく見えていいわ。普段からこれくらい身長欲しいわね」

 

 手を額に当て海を見る鈴音。小柄な彼女ではISを使うかこうして何かに上るかしなければ実現できない視点だ。

 

「いや、さすがに高すぎるだろ。ロバート・ワドローかっつーの」

 

「誰それ?」

 

「……知らないならいいや」

 

「……?」

 

 首を傾げる鈴音だったが、どうやら気にしないことにしたようだ。一夏の上で脚をプラプラさせて、陽の光が弾ける海を指さし、

 

「さあ一夏、泳ぎに行くわよ! ゴーゴー!」

 

「いいけど、いい加減降りろよ」

 

「いーじゃん別に。たまには背が高くなった気分になりたいのよ」

 

「肩車したままじゃ海に入れないだろ。いいから降りろって」

 

「えー……」

 

 口を尖らせながらも素直に降りた。いつもと同じ、一夏より頭一つ分低い視点に戻った鈴音は彼の前に回りこみ、顔を見上げる。

 

「またしてくれる? 肩車」

 

「……たまにならな」

 

 そんな彼女の仕草が何故か気恥ずかしくて、一夏は目を逸らして答えた。

 

「やりぃ。じゃあ今度こそ泳ぎにゴー!」

 

「おいだから昨日も言ったけど引っ張るなって、ちょ、鈴! あーもー……また後でな、ジグ!」

 

 鈴音に手を引かれ半ば引きずられながら海へ連行される一夏に手を振るジギスヴァルト。さて、泳ぐつもりは無いとはいえここでじっと立っていても仕方ない。海での遊びはなにも泳ぐことだけではないのだ。

 

 ひとまず本音かスティナ、あるいはラウラでも探そうか――と砂浜を歩いていく。何人もの女子の視線を集めていることが嫌でもわかってしまい居心地は悪い。同じクラスの者や合同授業の多い二組の者は声を掛けてくれるが、そうでない者はいまだに彼の雰囲気に若干気圧(けお)されているのである。入学からもう三ヶ月も経つのにこの有様かと内心傷ついている。ビーチバレーに誘ってきた幾人かの方が稀有な例なのである。

 

「あ、ジグさん。一夏さんがどこにいらっしゃるかご存知ありませんこと?」

 

 しばらく歩いているとセシリアと遭遇した。スタイルの良い身体を水着で隠すその姿は、綺麗な金髪や美貌も相俟(あいま)ってモデルのようだ。ようだというか、代表候補生はモデルの仕事をすることもあるのである意味では本職なのだが。もしも今この砂浜に一夏とジギスヴァルト以外の男が居れば放っておかないだろう。

 

「一夏なら向こうで鈴と泳いでいるぞ」

 

「よりによって鈴さんと!? 抜け駆けとはいい度胸ですわね……!」

 

 ワナワナと肩を震わせる。心なしか金髪が逆立っているような気もする。バスで隣に座れなかったのも手伝って相当頭にきているようだ。

 

「あっちですわね!?」

 

「ああ」

 

 ジギスヴァルトが肯くや否や、セシリアは砂に足を取られながらも走って行った。青春だなあ、などと妙に年寄り臭い感想を持ってそれを見送っていると、今度は背後から声がかかる。

 

「ジグ君ジグ君」

 

 振り向くと、同じクラスの癒子とナギが居た。二人はバスタオルを広げて何かを隠している。

 

「本音をお探し?」

 

「ああ。それと、スティナとラウラもな」

 

「そかそかー。スティナちゃんとボーデヴィッヒさんはまだ更衣室に居るらしいよっ!」

 

「ですが本音はここに居ますっ! どうジグ君、本音の水着姿、見たくなーい?」

 

 夏の海というロケーションにテンションが上がっているのか、はたまた別の理由があるのか、少し興奮気味に二人は言う。

 

「それはもちろん見たいが」

 

「そうでしょそうでしょ!」

 

「期待していいよ! 本音はああ見えてスタイル良いんだから!」

 

「知っている」

 

 え、と二人は固まった。だがそれも一瞬のこと。すぐに納得のいく理由に思い至り、再び元気に話し始める。

 

「そーだよね、実習なんかでISスーツ姿見てるもんね!」

 

「いや、ISスーツどころか――」

 

「ストーップ! いい! 言わなくていいから! 悲しくなってくるから!」

 

「む、そうか?」

 

「とにかく、刮目して見るがいい! これが本音の水着姿だぁーっ!」

 

 バサッ、とバスタオルが取り払われた。

 

 ――黄色い狐が、そこには居た。ていうか、本音だった。

 

「どーかなージグー?」

 

「昨日も言ったが、よく似合っているよ」

 

 およそ水着であるかどうかすら疑わしい着ぐるみを身につけた本音であるが、ジギスヴァルトの言葉に偽りは無い。首から下を全て覆うそれは彼女によく似合っている。

 

 が、癒子とナギは彼の反応が不満なようだ。おそらくは、期待したところに着ぐるみが現れて落胆する様を見たかったのだろう。普段から冷静でそうした姿を見せないジギスヴァルトであるから余計に、だ。

 

「ジグ君、反応普通すぎー」

 

「つまんなーい」

 

「と、言われてもな。だいたい、この水着を選んだのは他ならぬ私だ。これ以外にどんな反応ができるというのだ」

 

 言われて二人は驚愕した。本音がこういった格好を好むことは知っているから、てっきり彼女が選んだのだと思っていた。

 

「だから意味ないって言ったのにー」

 

「さすがに予想の斜め上だったわ」

 

「うーん、残念」

 

 あからさまに落胆する二人に苦笑していると、ようやくと言うべきか、スティナとラウラがやってきた。途中で合流したのか、シャルロットも一緒だ。スティナは弾が選んだ、黄色いビキニに青いショートパンツ姿。ラウラはフリルのあしらわれた黒いビキニで、シャルロットはオレンジ色のビキニを着ている。

 

「お待たせしました、兄様」

 

「特に何か約束していたわけでもなし、構わんよ。それが昨日言っていた、シャルロットに選んでもらったという水着か」

 

「はい。その、どうですか?」

 

 尋ねるラウラは顔を赤くしてもじもじしている。こういうものを着たことが無く、自分では似合うかどうかが全く判別できない故だ。

 

「お前の銀髪がよく()える色だ。フリルも可愛らしい。似合っているぞ」

 

「本当ですか? ありがとうございます」

 

 照れながらも嬉しそうに笑う。それを見て、思う。

 

(少し前までは人を寄せ付けなさすぎて心配だったが、これならいつでも嫁に出せるな……!)

 

 ジギスヴァルト・ブレヒト。見かけによらず残念な男である。

 

 さて、合流したはいいものの、ジギスヴァルトは泳げないので何か別のことをしなければならない。では何をしようかと癒子とナギも交えて考えていたところに、ビーチバレーの約束をした女子たち四人がやってきた。丁度良いところに来てくれた彼女らに感謝しつつ、皆で準備を進めていく。

 

「あんまり多くてもやりづらいし、一チーム四人にしようか」

 

「それだと一人足りなくない?」

 

「そんなこともあろうかと! 七月のサマーデビル、八重を連れてきたぜぃ!」

 

「ふっふっふ。私の実力に恐れおののくがいいわ!」

 

 いつの間にか癒子が連れてきていた櫛灘八重――彼女も一組の生徒だ――も交えてチーム分け会議が行われる。

 

「ジグ君と本音は同じチームで良いとしてー……あとはどうする?」

 

「あたしたち三組メンバーは丁度四人だから、これで一チームでいいよ」

 

「ならばスティナはこちらのチームでいいか? 声を出せぬ者との連携はなかなか難しいのでな」

 

「じゃ、ヴェスターグレンさんはブレヒト君側で。そういう理由ならボーデヴィッヒさんもそっち入る?」

 

「いや。私は兄様や姉様と戦ってみたい」

 

「そうなると、私か八重がジグ君チームだね」

 

「じゃあ、僕とラウラと鏡さん、あと櫛灘さんで一チーム、でどうかな?」

 

「それなら谷本さんがブレヒト君チームかな」

 

「オッケー、じゃあそれでいこう!」

 

 仁義なき闘いが今、始まる――!

 

 

 

 

 ★

 

 

 

 

 時間は過ぎて、夜。七時半頃。大広間三つを繋げた大宴会場で、IS学園の皆は夕食を摂っていた。ちなみにこの旅館は臨海学校の期間中IS学園の貸し切りなので、これだけの人数でも他の客に迷惑がかかることはない。

 

 なお、昼間のビーチバレーでは七月のサマーデビルこと八重の大活躍によりシャルロットチームの勝ちに終わった。彼女は終始「ツイスターサーブを喰らえー!」だとか「必殺月輪熊落とし!」だとか、「ドライブY!」だとかと叫んでいた。他にも「空間を削り取って……打球を止めたぁぁっ!」だの「あれは……櫛灘ゾーン!」だの、まあいろいろあった。そんなことが可能なのか? 出来るから櫛灘八重なんですよ。

 

「うん、美味い! 昼も夜も刺身が出るなんて豪勢だな」

 

「そうだな。なんとも羽振りが良いものだ」

 

 そう言って肯いたのは、バスに引き続き一夏の隣に()()()()()ジギスヴァルト。ご丁寧に一夏は一番端の席である。よって一夏の隣という、女子たちが血眼になって争奪しそうな席に座れているのはジギスヴァルトのみ。またしても怨念の籠もった視線を少し離れた席に居る箒から向けられて、内心で溜息が止まらない。チクショウあのブリュンヒルデめ、かの戯曲のように悲劇的な恋愛をしてしまえ――とジギスヴァルトは思ったが、彼女のおかげである程度の平穏が得られていることも理解しているが故に恨みきれない。

 

 ちなみに、セシリアは正座が――というか、床に座る座り方のほとんどができないためテーブル席のある隣の部屋で食事をしている。

 

 夕食のメニューは刺身と小鍋、それに山菜の和え物が二種類。それに赤出汁味噌汁とお新香。一般的な旅館の夕食という感じだが、侮るなかれ、なんと刺身がカワハギである。しかもキモつき。およそ高校の臨海学校で出るようなものではない。

 

「あー、美味い。しかもこの山葵、本山葵じゃねえか」

 

「本山葵?」

 

 一夏の向かいの席に座るシャルロットが首を傾げた。彼女は急速に日本文化に馴染み、刺身も正座もどんと来いである。

 

「ああ、シャルロットは知らないのか。本物の山葵をおろしたヤツを本山葵って言うんだ」

 

「え? じゃあ学園の刺身定食でついてるのって……」

 

「あれは練り山葵。植物界被子植物門双子葉植物綱フウチョウソウ目アブラナ科セイヨウワサビ属セイヨウワサビ、まあ要するにホースラディッシュを主な原料として着色とかしてるものだな。

 んでこれは本山葵。植物界被子植物門双子葉植物綱ビワモドキ亜綱フウチョウソウ目アブラナ科ワサビ属ワサビ、標準和名山葵をすりおろしたもので、生食になるから沢山葵――つまり渓流や湧水を利用して山葵田で育てられた山葵を使うんだ。

 ちなみに、醤油で溶くと醤油の成分が消臭しちまうから山葵本来の風味が消える。辛みだけを楽しみたいならそれでもいいけど、香りも楽しむなら山葵をちょっと乗せた刺身に少しだけ醤油をつけて食べる食べ方がオススメだ」

 

「そ、そう……」

 

 やたら山葵に詳しい一夏に若干引きながらも、シャルロットは一夏に言われた通りの食べ方をしてみた。

 

「……あ、ホントだ。いい香り。学園の刺身定食の山葵とは確かに違う――ような気がする」

 

 まあ、ホースラディッシュも山葵も味そのものは似ている。明確に何がどう違うとは、特段山葵を愛好しているという者でないとわからないだろう。

 

「そういえばジグって正座大丈夫なんだな」

 

「ん? ああ、まあ昔から何かと正座する機会はあったからな。大丈夫という点では刺身も同様、練り山葵も然りだ。

 だが本山葵は初めてだな。どれ」

 

 言ってジギスヴァルトは山葵の山を口に放り込んだ。

 

「ちょ、ジグ!?」

 

「……うむ、これは美味いな」

 

 表情ひとつ変えずに平然と山葵の塊を咀嚼するドイツ人。なかなか貴重な光景であろう。

 

「ジグー、辛くないのー?」

 

「普通に美味いが」

 

 彼の隣に座る本音が心配そうに声をかける。が、本当に平気なようだ。

 

「私は山葵ちょっと苦手ー」

 

「ふむ。ならばもらっていいか?」

 

「いいよー」

 

 本音の了承を得て、彼女の分の山葵も山をまるっと口に入れた。周囲の生徒たちが奇っ怪なものを見るような目で見ている。

 

「山葵をもらったかわりと言ってはなんだが、本音には刺身を一切れ進呈しよう」

 

「やったー」

 

「ほら、口を開けろ」

 

「あーん」

 

 そして突然始まる二人の世界。見せつけられる方はたまったものではない。ないが、ほぼ女子校という環境下にあって男女のカップルというのは超貴重なサンプルであることも事実。結果として彼らは周りの生徒たちの視線を二人占めであった。

 

 夕食の時間はなんだかんだで楽しくワイワイと過ぎていった。

 

 

 

 

 ★

 

 

 

 

「そういえばお前たち、明日の準備は万端か? 四」

 

「私は準備というほどのものは必要ありませんよ。アリーセはパッケージ換装が出来ぬし特に追加する装備も無いので、普段の装備の点検でもしようかと。五」

 

「俺の白式も雪片しか装備できないから、その点検が終わったら皆の手伝いかなあ。六」

 

〔私は手の内がバレない程度に

 各部仕込み装備の点検。

 七〕

 

「あたしはパッケージの輸送を完了したって報告が来てるんで、大丈夫だと思います。八」

 

「わたくしも概ねそんな感じですわ。九」

 

「私もです。十」

 

「僕も、フランス政府が問題無く送ってくれたようなのでひとまず安心です。十一」

 

「私はー、ISスーツを着るだけでおっけーでぇーす。十二ぃー」

 

「ダウトだ布仏」

 

「残念でしたぁー、ちゃんと十二ですー。織斑先生、カード総取りぃー」

 

「ぐぅっ!?」

 

 一夏とジギスヴァルトの部屋――つまり千冬の部屋に集められた専用機持ち+本音は、何故かジュース片手にお菓子を広げてトランプに興じていた。しかもよりによって友情破壊ゲーと名高いダウトである。あと、千冬だけジュースではなくビールを飲んでいる。

 

「織斑先生、さっきからカード取りまくってますね」

 

「お酒飲んでるから酔っ払ってるんじゃない?」

 

「いや、千冬姉は昔からカードゲームは弱――」

 

「黙らんか馬鹿者!」

 

「いってえ!?」

 

 スパーン! と良い音がした。

 

「ていうか、僕たちなんで集められたんですか?」

 

「まさかトランプをするためだけに集められた――などというわけはありませんよね?」

 

「いや? オルコットの言う通り、コレのためだが?」

 

 ヒラヒラとトランプを持った手を振って言う千冬。その言葉に場の全員が目を円くした。

 

「え、ホントに?」

 

「半分はな。もう半分は、お前たちに伝えておくことがあるからだ」

 

「伝えておくこと?」

 

 ラウラが尋ねると、千冬は心底面倒そうに、

 

「明日はアホなウサギが来る。まあ目的はこっちで把握してるんだが、あいつは突発的に何をするかわからん。もしもの時は専用機持ちであるお前たちが止めてくれ」

 

 千冬らしからぬ抽象的な物言いに首を傾げつつ、本音以外が肯いた。ジギスヴァルトとスティナは冷や汗をダラダラと流していたが。

 

 それを見届けた千冬は満足そうに笑い、そして大量のカードが残る手札を掲げる。

 

「さあ、次こそは私が勝つ! 一!」

 

「ダウト」

 

「バカな!? 何故初手でわかったのだブレヒト!」

 

「Aは全て私の手札に在るからです。つまり、場のカードを持っていった者が次の初手プレーヤーとなるこの卓のルールでは、あなたは絶対にカードが減らない」

 

「ちょっと、そんなんじゃ面白くないじゃない!」

 

「仕切り直してカードの配り直しですわね」

 

「くっ……次こそは勝つ!」

 

「こんなにムキになってる織斑先生、初めて見た……」

 

「まあ、ビールで多少は酔ってるからな」

 

 臨海学校一日目はこうして終わりを迎えた。

 

 

 

 

 ★

 

 

 

 

 北アメリカ大陸北西部、第十六国防戦略拠点。通称《地図にない基地(イレイズド)》。

 

 軍関係者にすら存在を秘匿されるそこには、完成したばかりの第三世代型ISが保管されていた。アメリカとイスラエルが共同開発したそれは表向きはここではない別の基地にあることになっている。これをイスラエルが知れば黙っていないだろうが、今のところ知られていないはずなのだから問題無い。

 

 そのIS――銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)の前に、人影があった。明らかに軍人ではない。というか、()()()()()()()()()()()()()()()()アメリカ軍人など居てたまるものか。

 

「いくら亡国機業(ファントム・タスク)に負けたくないったって、こういう汚れ役はあいつらの領分じゃないの? なんで私が……」

 

 その人物――声から察するに女性――はブツブツと文句を言いながら、銀の福音に接続した端末を操作している。上官から渡されたそれは、簡単な操作をすれば後はプログラムに従って自動で高度な処理をしてくれる優れ物だ。それが例えI()S()()()()()()()()()()()であっても。

 

「――っし、終わり。さっさと退散致しましょ」

 

 端末が完了(コンプリート)を表示したのを確認して素早くコードを回収。端末ごと懐に入れて、彼女は足音すら無くその場を離れていく。

 

「ま、せいぜい頑張って生き残ってくれたまえよ男性操縦者。個人的には死んで欲しくないからね」

 

 呟いた言葉は誰にも聞かれること無く、基地の空気に溶けていった。




 スティナとティナは出会いませんでした。無意味にまだ引っ張ります。

 そして今回、櫛灘さんに勝手に名前をつけました。櫛灘→クシナダ→奇稲田姫→八重垣という連想ゲームで八重です。今後ももしかしたら名字しか無いモブに勝手に名前をつけるかも知れません。ご了承ください。

 最後に敵さんっぽいのがチョロッと出てきましたが、実は別に重要な敵ではありません。とはいえ、ちゃんと詳しい設定はありますが。
 亡国機業の設定をだいぶ変えている関係で、束でも亡国機業でもない第三者に福音を暴走させてもらう必要があるとこの時点では考えているので登場させました。今後の展開次第では「こいつ必要無かったんじゃね?」となるやも知れませんが、そのときはご容赦ください(五体投地)
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