第三二話:はじめてのぷーる
基本的に気温が二十度を超えることの無いスウェーデンと違って、
〔あーつーいー〕
ポコン、とわざわざ音を出して空中投影ディスプレイを表示すると、狙い通り、椅子に座って読書をしていた伊呂波さんが気付いてくれた。
「一応冷房は効いてますよ?」
〔それでも
暑い〕
だって、スウェーデンじゃ冷房なんて要らないのだ。冷房が稼動してると思うだけでもう暑い。
あと、エコだの何だので設定温度二十七度とかになってるし。二十七度も三十四度も変わんないよ。エコとか知ったこっちゃない、いーじゃん二十度とかで。
もーやだスウェーデン帰るー! 帰っても家無いけど帰るー!
「あ、じゃあスティナちゃん、出掛けたらどうですか?」
〔喧嘩売ってんですか〕
このクソ暑い中に自ら飛び出せと? 自殺願望はありませんよ私は。
「そうじゃなくて、プールとか行くと涼しいと思いますよ」
〔何が悲しくて
一人でプールなんて
行かなきゃならないのか〕
出掛けたらどうか、なんて口ぶりから察するに、伊呂波さんは一緒に来る気は無いと見える。兄さんは腕がアレだからプールなんて行かないだろうし、我が心の友ティナさんは……どうだろうなあ。部屋でゴロゴロしながらポテトチップ食べる方がいいーとか言いそうです。それであの誰もが羨むモデルのようなスタイルなんだから、神様というのは実に不公平ですね。
ちなみに
「噂の殿方と行けばいいじゃありませんか」
〔だからあの人は
そういうんじゃなくて〕
どうも臨海学校のバスの中での一件以降、周囲は私に彼氏が居ると認識しているらしい。
恐るべし十代乙女の
……コホン。
「彼氏じゃないにしても、一緒に水着を買いに行く程度には仲が良いわけでしょう?」
〔まあ確かに
仲は悪くは
ありませんけど〕
――ん? いや、待て待て私。よく考えたら、一緒に水着を買いに行ったのに着て見せないというのはスゴイ・シツレイというやつではあるまいか。いや、試着した姿は見せたけど、そういうことではなく。やはり実際に海かプールで着て見せるべきだと思う。
「…………」
「スティナちゃん? どうかしましたか?」
急に黙り込んで(まあ喋れませんけど)考え込み始めた私に怪訝な顔を向ける伊呂波さん。そんな彼女に、私は言う。
〔行きます
プール〕
「そうですか! では、頑張る親友にこれを進呈しましょう」
言って彼女が差し出したのは……チケット? しかも都合よく二枚も?
「今月オープンしたばかりのウォーターワールドのチケットです。前売り券は今月分が完売、当日券も開場二時間前から並ばないと買えないくらい人気だそうですよ」
……どうしてそんなレアものを伊呂波さんが持ってるんだろう。しかも、どうしてそんなレアものを私にくれるんだろう。
「それは禁則事項です……なんてことはもちろんありません。これは貰い物です。でも私には不要ですから、どうせなら有効活用してくれる方の手に渡るべきでしょう?」
〔ありがとう〕
「はい、どういたしまして。ちなみに二枚で五千円です」
〔金取るんかい〕
文章だから淡々と言ってる感じになってるけど、声出せてたら大声で言っているところだ。さっき進呈しましょうって言ったじゃないか。
「冗談です。貰い物を渡してお金を取ったりなんてしません」
冗談に聞こえなかったけど……まあ、いいか。
「ちなみにこのチケット、日付は明日です」
〔またずいぶんと
急ですね〕
私は暇だからいいけれど、弾さんはどうだかわからない。お店の手伝いとかするのかも知れないし、他の人と用事があるかも知れない。
……他の人、か。よく考えたら、弾さんにも彼女くらい居るかもしれないんだよね。顔はかっこいいし、わりと優しいし、背も低くないし、喋れなくてコミュニケーション取るのが面倒な私とも根気よく話してくれるし。これなら彼女の一人……くら、い……。
あれ、なんかムカついてきた。
「……スティナちゃん? 顔がすごいことになってるよ?」
――おっと。いけないいけない。
とにかく、連絡してみよう。急な話だし、迷惑じゃなきゃいいんだけど。
★
さて。この光景をなんと言い表せば良いだろうか。
まずは、そう。ここに至った経緯から話すべきだろう。伊呂波さんにチケットを貰い、弾さんと約束を取り付けた翌日の、午前十時前。ウォーターワールドのゲート前にて、私は見知った顔を二つ見つけた。
「これは、どうも。鈴さん、スティナさん」
「う、うん? セシリアにスティナ、こんにちは」
〔どもどもー〕
二人は「どうしてこいつらがここに?」とでも言いたげな顔で挨拶を交わすと、少し離れた場所でそれぞれ人を待ち始めた。お互いに――多分これは私のも含まれるのだろうけど――妙に気合いの入った私服を不思議に思ったのか、チラチラと視線を向けながら。しかし両者とも、やけに浮ついた様子でニヤニヤしながら。正直不気味だ。
ちなみに私の服は今回も伊呂波さんが選んだ。白いブラウスに黄色いフレアスカートと、前回とは打って変わって女の子らしさを押し出した服装だ。前回サイドポニーだった髪は、今日はツインテールにされた。……伊呂波さんは似合ってるって言ってたけど、ホントに似合ってるのかなこれ。すごく自信ないんだけど。
っと、話が逸れた。で、しばらくそうやって待っていたのだけど――どうも二人は待ち人が来ないらしく、イライラしている。や、私も来ないんだけど、厳さんに捕まったから少し遅れるという旨のメールがさっき来たので特に憤慨する理由も無い。強いて言うなら暑くて死にそうなくらいですか。
ああ、これはいかに夏用コートと言えど堪えられそうにないなあ、今日みたいにコートを着ないことにも慣れるべきかなあ、なんて考えながら待っていると、鈴音さんの怒鳴り声が聞こえた。
「もしもし!? あんた何してんのよ! 今どこ!? ――はあ!?」
……なんとなく、察した。
そして時系列は現在に戻る。つまるところ、にやけ顔で待ち続けるセシリアさんと、どんどん機嫌が悪くなっていく鈴音さんが目の前に居るわけで。この光景の不気味さもさることながら、これ、多分だけど、今のうちに弾さんが来てくれないと私にもとばっちりが……。
「コイツを殺していいかしら……」
何を突然不穏なことを言ってやがりますかこの子は。
この鈴音さんの物騒な一言で、さすがのセシリアさんも異変に気付いたらしい。再び何事か怒鳴った後、通話が切れたのかミシミシと軋むほど携帯端末を握りしめる彼女にセシリアさんが声をかける。
「あの、鈴さん? どうなさったの?」
「ふ、ふ、ふ、セシリア……よく聞きなさい。……一夏は来ないわ」
フリーズするセシリアさん。それを見た私の心情は、こうだ。
や っ ぱ り ま た
そりゃね。そりゃあね。セシリアさんと鈴さんが妙に気合い入ってるって時点で予想はついてましたよ。ええ。でもたまには予想を裏切ってもいいんじゃよ一夏さん。
「一夏は来ない」
「はい? ええと……なぜ? というか、どうして鈴さんが……?」
「今日、あたしとあんたがデートすんのよ!」
「え……ええっ!?」
な、なんだってー!? まさかこの二人が百合カップルだったなんてー!
……いや、まあ、そんなわけないよね。「一夏は来ない」とか言ってたもんね。つまりこの二人は今日、一夏さんとデート出来ると思ってここに来たのだろう。いったいどうしたら二人が同じ理由でここに来るのかはわかりかねるけど……まあ、一夏さんだしなあ。とにかくこの二人がさっさとこの場を離れてくれることを期待するしかない。だって、私の待ち合わせ場所もここだから、私動けないし。
――――あ。
ヤバい、あっちに見える赤い頭あれ弾さんだ。なんてタイミングで来るんですかホント。いや来てくれたのはすごく嬉しいんだけど。でもほら、間の悪さってあるじゃないですか。よりによってこんなサツバツ・アトモスフィアに突っ込んでくるなんて、こんなの普通じゃ考えられない!
「……鈴さん」
「何よ!?」
「とりあえず、中に入って何か飲みましょう。わたくしも、よく状況が掴めませ――」
ああ、今回もまたダメだったよ。
「悪いスティナ、待たせた」
弾さん、ご到着です。デデーン。私、アウトー。
「……弾? なんであんたがここに来んのよ」
「は? いや、鈴こそ」
弾さんが不思議そうにこちらを見るので、私は首を横に振って、
〔一夏さん〕
とだけ言った。その名前と、このサツバツ・アトモスフィアで察してくれたらしい。
「ああ、なるほど。じゃあスティナ、俺たちは行――」
察したが故に急いで離脱しようとしてくれた。ここら辺の心配りが人気の秘訣ですね。弾さんが人気かどうかはしらないけど。
「待ちなさい」
鈴音さんに呼び止められた。なんとなくそんな気はしてたんですよ、ええ。自分たちは想い人にすっぽかされたのに、私だけ男性と居るわけですから。鈴音さんが亡者のような顔で腕を掴んでくるのだって予想の範疇ですよ、ええ、想定の範囲内です。
「とりあえず、あんたらも来なさい」
でーすーよーねー。
★
「つまり、一夏さんは自分の代わりに『ここに行かないか』と言ったのですね」
「そーねー」
ウォーターワールド内の喫茶店に引きずり込まれた私と弾さんは、セシリアさんと一緒に鈴音さんの説明を聞いた。
要するに、ここのチケットを用意したのは鈴音さん。一夏さんに片方を売りつけて(きっちりかっちりお金は取ったらしい)、今日の午前十時に待ち合わせ。しかし一夏さんは、昨日鈴音さんの誘いを受けた直後に突然、今日は白式のデータを取りに倉持技研の人が来ると山田先生に言い渡された。で、たまたまその後セシリアさんに会って、自分は行けないから丁度いいかと、
……うん、これは、あれだ。山田先生、ギルティ。研究員が来るってことは、何日か前には書類なり何なりで通知があったはずだし、ド忘れしてたかドジって見落としたかだろう。あと一夏さんも、せめてセシリアさんに事情を説明するくらいしていれば
「……おかしいと思いましたわ。この状況はさすがに予想外でしたが、一夏さんから誘いが来る時点で、私以外も誘ってるんだろうくらいの予想はしていました。ええ、してましたとも」
「ウソつけ。私服、めっちゃ気合い入ってるくせに」
「なっ!? こ、これは、その、れ、礼儀として! そう、礼儀としてですわ!」
「あーはいはい礼儀礼儀。……それはそれとして、よ」
鈴音さんが私を……いや、正確には弾さんかな。
「なんであんたがここに居んの?」
「え、スティナに呼ばれたからだけど」
「……先月一緒に水着買いに行ってたし、なに、あんたらそういう関係だったの? あの噂本当だったんだ?」
あの噂……って、私に彼氏が居るっていうアレか。
チラ、と弾さんを見る。だいぶテンパってる。こうなると否定は……してくれそうにないですね。
〔違います〕
代わりに私がハッキリキッパリ否定したら、弾さんがものすごく落ち込んだ。ズーン、なんて文字が見えそうなくらい。
落ち込む……ということは、否定されたくなかったのかな。でも事実としてそんな関係ではないし。それに、私みたいな“人間もどき”とそうなったって楽しくないと思う。
――あれ。なんだろ、今、なんかチクッとしたような?
「うわぁ……あんた、スパッといくわねぇ。表情も変えずに。ちょっと弾に同情するわ」
鈴音さんが苦笑したときだ。
『では! 本日のメインイベント! 水上ペア障害物レースは午後一時より開始致します! 参加希望の方は十二時までにフロントへお届けください!』
という館内放送が響き渡った。私たち四人は特に興味も無いから聞き流していたけど、後に続いた言葉にセシリアさんと鈴音さんが反応した。
『優勝賞品はなんと! 沖縄五泊六日の旅をペアでご招待!』
んばっ! と顔を天井のスピーカーに向ける二人。それから顔を見合わせたかと思うと、
「セシリア!」
「鈴さん!」
『目指せ優勝!』
ガシィッ! と腕を交わした二人は、立ち上がってフロントへ駆けていった。まったく、仲がいいのか悪いのか。
泳ぐためにはどのみちフロントに行かなきゃいけないから、残された私たちもとりあえず立ち上がった。
「俺たちはどうする?」
〔弾さんが
沖縄旅行に
興味あるなら〕
「んー……ならいいか。普通に泳ごう」
〔はい〕
さてさて、人生初のプール……ウォーターワールド? ですし、目一杯楽しむとしましょう。
★
「ハラショー……!」
水着に着替えて弾さんの前に立った瞬間の彼の第一声が、それだった。……なんでロシア語?
〔どうでしょう
似合いますか?〕
くるりと一度ターンしてみると、ツインテールにした髪がふわっと舞って、弾さんが「おおっ」と声を上げた。私の身体でも喜んでくれているのかな。だったら嬉しいのだけど。
「似合ってる、すげえ似合ってる! すっげえかわいい!」
え、あ、その、あぅ……。
〔ありがとうございます〕
あんまりストレートに誉めてくれるものだから、恥ずかしくて俯いてしまった。なんか、なんだろ。兄さんに誉めて貰ったときと全然違う。ムズムズするというか、なんというか。
と、とにかく! せっかく来たんだから、さっそく泳ぎに行きましょう!
――あ、でもその前に。
〔弾さん
お願いが
あります〕
「ん?」
〔私は声
出せませんから〕
だから、溺れたりしたら助けが呼べない。
〔今日は
私の側
離れないで〕
なにしろ死活問題ですからね。
★
私と弾さんは、一時まで遊びに遊んだ。と言っても、入ったのが十一時過ぎだったからあまりたくさん回れてはいないのだけど。
〔プールなのに
流れる!?〕
流れるプールに驚いたり。
〔弾さんアレ!
アレ行きたい!
行きたいです!〕
「わ、わかったからちょっと落ち着きな」
ウォータースライダーにテンションが上がりすぎたり。我ながらあれははしゃぎすぎた。恥ずかしい……。
で、現在時刻は一時。
「さあ! 第一回ウォーターワールド水上ペア障害物レース、開催です!」
司会のお姉さんがそう叫んで大きくジャンプする。お姉さんの動きで大胆なビキニから豊満な胸がこぼれそうになり、観客の皆さんから歓声と拍手が上がる。そんな光景を、私たちはレースで使われる五十×五十メートルの巨大プールの隣のプールから見ていた。浮き輪でプカプカするのが存外に楽しくて気に入っちゃったのだ。
「ずいぶん気合い入ってんなあ、鈴と金髪さん」
〔よほど賞品が
欲しいんでしょう〕
柔軟体操をする二人の動きはやる気に充ち満ちている。
あそこまでやる気となると……まあ、一夏さんだろうなあ。今日のことをダシにして沖縄に連れて行こうとしているに違いない。
「さあ、いよいよレース開始です! 位置について、よーい……」
パァンッ! と乾いた競技用ピストルの音が響き、参加十二組が一斉にスタートした。何らかの意図が働いているのか、参加者は全員女性だ。
このレースは、プールの中に円を描くように配置されているいくつもの島を渡り、中央の一際大きな島にあるフラッグを取ったら勝ちらしい。中央の島はワイヤーで吊されていて、泳いでは渡れない。というか、水に入ったら最初からやり直しだそうだ。
そして、どうやら妨害アリらしい。参加者の中でも最年少の鈴音さん・セシリアさんペアは軽やかに走り抜けているせいで会場中の注目を集め、妨害が集中してしまっている。……あ、業を煮やした二人が妨害してきたペアの水着を剥ぎ取った。
「うおおっ!?」
……まあ仕方ありませんね。弾さんも男性ですから。むしろ健全で安心します。
おっと、レースもいよいよ終盤のようです。トップを走っていた……何あのマッチョな女性たち。筋肉すごい。あ、司会のお姉さんの解説が入りましたね。へぇ、オリンピックのレスリング金メダリストと柔道銀メダリストですか。強そう。
マッチョなペアに追いついた鈴音さんたちは、ここまでのレースでの疲労が濃いように見える。いくら代表候補生が正規の軍人と同じ訓練を受けていると言っても、正面からではさすがに押し負けそうだ。
おおっとセシリアさんが突っ込んだー。と思ったら振り向いたー。そして鈴音さんがセシリアさんの顔を踏んで跳んだー。フラッグゲットー。
……ふむ。
〔さて弾さん
帰りましょう〕
「え?」
〔いいから
今すぐここを
離れますよ〕
弾さんを急かしてプールから上がらせ、出口に急ぐ。浮き輪をレンタルカウンターに返しに行くのも忘れない。
「今日という今日は許しませんわ! わ、わたくしの顔を! 足で! ――鈴さん!」
「はっ、やろうっての? ――甲龍!」
「な、なっ、なぁっ!? ふ、ふたりはまさか――IS学園の生徒なのでしょうか! この大会でまさか二機のISを見られるとは思いませんでした! え、でも、あれ? ルール的にどうなんでしょう……?」
背後で聞こえた声、それを聞いて弾さんも状況を察したらしい。
「……急ぐか」
はい、弾さん。全力です。
――弾さんと別れて更衣室に入った直後、爆発でウォーターワールドが揺れた。
★
ウォーターワールドを出て、まだ二時前だしもうちょっと遊んでいこうかという話になって、私は弾さんと一緒にレゾナンスに来た。
まだお昼を食べていなかったから喫茶店で軽く食べようかと思ったんだけど、何故か警察がいっぱい居て入れなかった。近くの野次馬さんに聞いてみたら、近くの銀行に強盗に入った人たちがここに立て籠もって、さっき制圧されたらしい。諦めた方がよさそうだ。
「あら、ヴェスターグレンさん?」
(え?)
突然かけられた声に振り向くと、そこには茶髪をポニーテールにした眼鏡の女性が居た。
〔
こんにちは〕
「はいこんにちは。奇遇ですね、こんなところで」
彼女は布仏虚さん。IS学園生徒会の会計にして、名前から察せられるように本音さんのお姉さんだ。いつも穏やかのほほんマイペースな本音さんと違って、虚さんはいかにもデキる女性といった感じであまり似ていない。
あれ、でもたしか今は本音さんと一緒に実家に帰っていると聞いていたんだけど……。
「生徒会の用事があって学園に戻ってたんですよ。すぐ終わったから少し買い物でもしてから帰ろうと思って」
〔それはそれは
お勤めご苦労様です〕
「ありがとう。ところで、そちらの男性は? 噂の彼氏さんかしら?」
虚さんの視線の先には弾さん。この人は噂が真実でないことを知ってて言っているから
〔違います
五反田弾さん
友人です〕
――まただ。また、何かチクリとしたような気がした。
「そうですか。はじめまして五反田君。布仏虚といいます」
「あ、は、はい! あの、五反田弾です! 布仏ってことは、あの、ジグの彼女の……」
「ええ、本音は私の妹です。本音とも会ったことが?」
「はい、その、二回くらい、ジグと歩いてるとこに
うわあ。わかりやすくデレデレしてテンパってる。やっぱりあれか、胸か。おっぱいか。本音さんもそうだけど、虚さんも大きい。あんなものはただの脂肪の塊です、大きくても動くのに邪魔なだけです。くっ!
――でも、それで弾さんが喜ぶなら、今からでも大きくなりませんかね……。
「ヴェスターグレンさん? どうかしました?」
「…………!」
あれ、今、私は何を……?
〔なんでもないです〕
「そう? それならいいのだけど……。それじゃあ、電車の時間があるので私は行きますね」
「はい! あの、機会があったらまた!」
「そうですね。本音やブレヒト君ともお知り合いみたいですし、案外すぐかも知れませんよ。では」
小さく手を振って、虚さんは去って行った。それを見送る弾さんは鼻の下伸びまくりで、なんか……何これ? なんかよくわからないけど、すごく腹が立ってきました。
〔弾さん
行きますよ〕
「あ、おう。……あれ、スティナ、なんか怒ってる?」
〔怒ってません〕
「いや、でも――」
〔怒ってないです〕
「そ、そうか……?」
ええ怒ってません。怒ってませんとも。
★
〔というようなことが
ありまして〕
「ああ、それは恋ですね」
夜、帰宅して伊呂波さんに相談してみると、そんな答えが返ってきた。
〔
「違います。
五所川原伊呂波。スウェーデン語もデキる女。
それにしても恋、恋ねえ……。
〔恋なんでしょうか〕
「恋ですよ。なんなら
翌日鈴音さんに尋ねてみたら、やっぱり恋だと言われた。
恋。私が、恋。そんなことになるとは、正直予想すらしていなかったけど。
――なんだか、悪くない気分です。
せめて週一では投稿したいところでした。ご覧の有様です。
実はなにげに虚さん初登場です。