IS -Scharlachrot-   作:小糠雨

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第三五話:名状しがたい虫のようなもの

 

「スティナ、付き合ってくれ」

 

〔は?

 嫌ですよ

 面倒くさい〕

 

 お盆が終わり、八月も後半に入ってしばらく経った午前中。寮の裏手に置かせてもらっている盆栽の手入れをしていたスティナは、突如現れた一夏の頼みをバッサリ切り捨てた。

 

「でっすよねー」

 

 がっくりと肩を落とした一夏は寮の外壁にもたれかかり、そのままズルズルと崩れ落ちた。

 

〔ちょっと

 一夏さんどいて

 邪魔〕

 

「なあなんか今日すげえ辛辣じゃねえ!?」

 

〔ええから

 はよどかんかい〕

 

 ゲシッと軽く蹴って一夏を追い立て、彼女は作業を再開した。今日はいくつか植え替えをする予定なので、彼に構っている場合ではないのだ。

 

(さて、まずはこの子から……)

 

 盆栽を置いてある棚からひとつの鉢を手に取った、その時だ。スティナは生まれて初めて“それ”と出会った。その瞬間を彼女は後にこう語る。

 

 ――私は慄然たる思いで、鉢の裏に潜んでいたその異形を凝視した。それは全てを飲み込むかのような漆黒の楕円盤にたくさんの脚を生やしたとしか言い様の無い姿をしており、頭部と(おぼ)しき部分から糸のような針金のような器官が二つ伸びていた。何とも名状し難き冒涜的な足音をたてながら這いずり、地面へ降り立つと、速度を緩めること無く壁へと向かい、そしてのぼっていく。

 

 ――斯様におぞましき生き物がこの地球に存在していたことに気が狂いそうになったが、幸いにもそれは自ら遠ざかっていく。壁をのぼってしまえばもうどうすることもできまい。

 

 ――いや、そんな! ()の異形が背に拡げたあれは何だ!? ああ、壁に! 壁に!

 

『いいいいい一夏さん!?』

 

「うおっ、ビックリしたぁ! 通信で急に大声出すなよ……。で、何?」

 

『あ、ああああ、あああああれ! あれ何ですか! 何なんですかあれぇ!』

 

「あれ?」

 

 スティナが指さす先を見上げる。

 

 翅を拡げて今にも飛び立たんとする、黒光りするGが、そこには居た。

 

「げっ」

 

 Gサン、インザスカイ!

 

『いやああああ!? とっ、とん、飛んでっ!?』

 

「しかもこっち来てるし!?」

 

『やだやだやだやだ来ないでくださいー!!』

 

 その時不思議なことが起こった。

 

 スティナはあまりの恐怖に目を瞑った。故に彼女には、迫る敵の姿は見えていなかったはずなのだ。にも、関わらず。

 

 ――彼女は、まるで刀に手をかけるかのように右手を腰にやった。敵は空中にあって、闇が眼前にあり、絶望がその心で蠢いていた。

 

 ――彼女は言った。梢音(つるぎ)あれ。

 

 ――こうして剣があった。彼女は目を閉じたままで敵の胴と頭を分け、次に刻み、無数の塵とした。

 

「ワザマエ!」

 

 一夏が思わずそう叫んでしまう程の剣捌きで一瞬のうちにGを塵芥とせしめたスティナは、確かに目を瞑っている。

 

 火事場のくそ力とでも言うのか、巨大な剣を軽々と振るって見せたその姿は圧巻の一言。しかしIS用近接ブレードはさすがに重かったのか取り落としてしまい、カランと音を立てて地面に落下した梢音は量子化して消えた。当のスティナはぜえぜえと肩で息をしている。

 

「…………」

 

「…………」

 

 涙を(たた)えた目を開けて、一夏を見る。彼はスティナの取り乱しように呆れている――ように彼女には見えた。実際はあまりにも鮮やかな剣捌きに驚いて呆けているだけなのだが。

 

 コホン、と咳払いをひとつ。

 

〔お見苦しいところを

 お見せしました〕

 

「え? あ、いや、」

 

 それにしても、やる気が()がれた。というか、まだ()()が潜んでいたらどうしようかとビビった。少し気持ちを落ち着けるための“間”が欲しい。

 

〔お詫びといいますか

 さっきのお願い

 きいてあげます〕

 

 という口実。とりあえずここから離れたい。我が子のようにかわいがっている盆栽を見捨てるようで心苦しいが、恐いものは恐い。

 

「マジで!?」

 

 コクリと頷く。途端、一夏はあからさまに安堵した顔になった。

 

 

 

 

 ★

 

 

 

 

 ――で。

 

〔どれです?〕

 

「あ、うん。これなんだけどさ」

 

 整備室に連れ込まれたスティナは、一夏が開示した白式・雪融(ゆきどけ)のデータに目を通す。

 

 まあ要するに、先の付き合ってくれ発言は「わからないことがありすぎてどうにもならないから白式の調整に付き合ってくれ」ということだったわけだ。近接武器しか持たない白式の調整に関しては同じく近接武器しか無いエイフォニック・ロビンと通じるものが多い。

 

〔では

 失礼して〕

 

 白式のコンソールを操作して空中投影キーボードを呼び出し、小気味良くそれを叩いていく。同じく空中投影のディスプレイをデータが流れていくのを目で追いつつ、彼女はちらりと別のスペースに目を向けた。そこには眼鏡をかけた少女――更識簪が居る。

 

 二人が整備室に入ってからこっち、簪が何度かチラチラとこちらを見ている。打鉄の発展型と思われる機体を弄る手も止まっているところを見ると、どうも二人のうちどちらか、あるいはどちらもが彼女の集中力を奪っているようだ。それが何故かは知らないが。

 

 スティナは白式を弄りながら、展開しないままにエイフォニック・ロビンを起動し、コアネットワーク経由で簪のISに繋がっている機材に割り込んだ。少々正道から外れた――というか、バレたら校則違反どころではない所業だが、いち学生である簪には何をされたかなどわかるまい。

 

〔何かご用ですか〕

 

「……え?」

 

 突然自身の眼鏡――視力矯正用ではなく携帯ディスプレイ――に出所不明のメッセージが表示され、簪は大層驚いた。あまり驚いているように見えないのは表情があまり動いていないからだが、これはそういう性分だから仕方ない。

 

 視線をめぐらせ、気付く。いつの間にか、白い少女が簪を見ている。さっきから自分がしきりに気にしていたあの子から、だろう。

 

「ん? 知り合いか?」

 

〔いえ〕

 

 一夏に声をかけられ、彼女は再び白式の調整に集中する。

 

 一方の簪は、どう答えていいか――というより、どうやって答えていいかわからず視線を彷徨わせる。声を張るのは恥ずかしいし無駄に体力を使うし、そもそもスティナに話しかけられたことに気付いているのは簪だけだ。急に声をあげれば周りは不審に思うかも知れない。

 

「でさ、このあたりとかどうしたら……」

 

〔ここは

 こっちを

 こう〕

 

「あー、なるほど。じゃあこっちは……」

 

 結局、うだうだ悩んでいるうちに完全にタイミングを逸してしまった。

 

〔ところで

 どうしてまた

 こんなことを?〕

 

 簪からの反応が無いことを少々残念に思いながらも、スティナはそれを意識の外に追いやって一夏に問う。

 

「どうしてって、なにが?」

 

〔調整くらい

 整備班に頼めば

 してくれるでしょう〕

 

「ああ、そういう……。そーだなー、臨海学校で紅椿を見て、ちょっと思うところがあってさ」

 

「…………?」

 

 確かにあれは少し特殊なISだが、スティナの認識は他のISとさほど変わらない。いったい彼は紅椿に何を感じたというのだろうか。

 

「紅椿が喋るの見てさ。ああ、こいつら“生きてる”んだなってさ。

 ISには意識みたいなのがあるってのは授業でもやったし、多分ISに関わる人にとっては常識なんだろうけどさ。それを俺たちは、多分本当には理解できてなかったんだ」

 

 ほら、紅椿以外は喋んないしさ――と言って苦笑する一夏を見て、ようやくスティナは得心がいった。要するに、一夏とスティナのISに対する認識には大きな隔たりがあったわけだ。

 

 世の大多数にとって、ISは兵器。兵器の要諦は“操者が代替可能か否か”と“操者の意図通りに運用可能か否か”にある。個体依存性の高い兵器はそれだけ運用が難しく、そして危険だ。

 

 だから専用機以外は自己進化を制限されるし、装備の規格も統一傾向となり、ISは物として扱われる。意識があると言われてはいそうですかとなるわけにはいかない。

 

 一方スティナにとって、ISは直接会話は出来ずともひとつの人格としてそこにある。それは束の話や彼女が示すデータが“そう”だったからというのもあり、また自分がISに乗って実感したことでもある。紅椿が喋るのを見たときはそりゃ驚きはしたが、“喋ったこと”に驚いたのであって、“生きている”ことではない。

 

「だからまあ、なんつーの? 整備や修理が出来るほどの知識は無いけど、相棒の調整くらいは自分でやりたいと思ってさ」

 

「…………」

 

 そう聞いて彼女は純粋に嬉しく思う。束が身内と認める人間が、束の夢の真髄に一歩近づいたのだから。

 

「けど生きてるってなると、束さんがISを作った理由って何だったんだろうな。兵器として作ったんじゃないわけだし……スティナ、なんか聞いてたりしないのか?」

 

〔聞いてますよ〕

 

「教えてくれたりする?」

 

「…………」

 

 どう答えようか。これは束にとって、一夏たちにはISに触れる中で気付いて欲しい事柄だ。そこら辺めんどくさいことせずに言っちゃえばいいのにとは思うが、言いたくないらしい。彼らだけは自分で気付いて欲しいとかなんとか。教えてもらえているということはその中には自分は含まれないのだ、と少し悲しくなったことはあるが、それは置いておいて。

 

 ――そういえば、以前本音が「かんちゃんに借りてきたー」と言って見せてくれた特撮のヒーローが宇宙モノだった気がする。アレで誤魔化そう。うん、そうしよう。

 

〔ISだけの力で

 宇宙まで飛んで

 宇宙キターッ! と叫ぶ〕

 

「……は?」

 

〔それが

 束さんの夢〕

 

「いやいやいやいや」

 

 無い、さすがにそれは無い。

 

〔ま、冗談です〕

 

「だよな……よかった」

 

 完全に嘘でもないですけど――とスティナが心中で呟いたのは、当然ながら誰に悟られることもなかった。

 

 

 

 

 ★

 

 

 

 

 午後。スティナは再び整備室に戻ってきた。午前中と同じ場所に簪が居る。

 

〔宇宙キターッ!〕

 

「わっ」

 

 午前中と同じ方法で話し掛けてみた。ピクリと肩を震わせ、キョロキョロと辺りを確認する様には小動物めいたかわいらしさがある。

 

 彼女がスティナに気付いたのを機に、発言方法をいつも通りに切り替えた。

 

〔こんにちは

 お昼はちゃんと

 食べましたか?〕

 

「え? あ、うん……?」

 

〔ならよかった

 食べずに続けているかと

 思いました〕

 

 ハンガーに鎮座するISの周りを歩きながら言って、機体を観察する。

 

 日本産初の――となる予定だったが白式に先を越された――第三世代型。公式発表では、確か名前は《打鉄弐式》だったか。打鉄の後継機という触れ込みだが、シャープなシルエットは防御より機動性を重視しているように感じられる。

 

 簪が整備室に籠もるおおよその経緯は楯無に聞いている。開発元の倉持技研が白式にリソースのほとんどを割いてしまったため開発が頓挫し、それを簪が引き取って――何を思ったか単独で完成させようと躍起になっているとか。

 

 見たところフレーム自体は問題なく出来ている。これは倉持の成果だろう。装甲は少々まばら、スラスターはおそらく本体と操作系統が繋がっていない。だが単独でここまで仕上げたのは評価に値する。

 

〔OSはどうなってますか?〕

 

「…………」

 

 返事は無い。読んでいないのだろうか。

 

〔OSは?〕

 

「…………」

 

 再び彼女の眼鏡に表示させてみたが、やはり反応が無い。無視されているわけだ。

 

(うーん……こんなとき紅椿が居たら楽なんですけど……)

 

 それなら打鉄弐式のコアから直接聞き出すことが出来るのだが、あいにくこの場には物言えぬエイフォニック・ロビンしか居ない。コアとの接触は頼めばやってくれるが、それをスティナに伝える術が無い。

 

 とはいえ、別にスティナにとって必須の情報というわけでもない。教えたくないならそれで構わない。……本来ならば。

 

(無視する方が悪いんです)

 

 ちょっぴりムッとした彼女は強攻策に出ることにした。簪の眼鏡にメッセージを出したのと同じ要領で機材に介入し、データを閲覧したのである。

 

(……OS自体は打鉄とほぼ同じ……いえ、ところどころ手が加えられてますね。FCSは……おや、虫食いだらけ。ということはここを頻繁にいじくり回してるわけですか。えーと……あ、ダメですね。ロビンにFCSが無いから勉強しなかったのが裏目に出ました。何を目指して弄ってるのかさっぱりわからん。

 で、内装は……)

 

「あっ……! ちょ、ちょっと……何して……!」

 

〔おっと失礼

 無視されたのが

 少々頭にきまして〕

 

 スティナが開いた空中投影ディスプレイに流れるデータを見てさすがに気付いたらしく、簪が声をあげた。素直にディスプレイを消し、頭を下げる。

 

〔でも更識さん

 これを一人で

 仕上げるおつもりで?〕

 

「……名字で呼ばないで」

 

 以前助けてもらったときも今回も名乗っていないのに、知っている。その事実が簪の警戒度を一気に上げた。要するに姉の関与を疑った。

 

〔では簪さん〕

 

「名前でも、呼ばないで」

 

〔少女Aさん〕

 

「お願いだから、私に構わないで。……ほっといて」

 

〔ですが昼前に

 こっち見てましたし

 何か用では?〕

 

 う、と簪が言葉に詰まる。別に何か用があったわけではない。ただ単純に、なんというか、そう――羨ましかった。

 

 倉持の件は自分の中で既に折り合いがついているつもりでいる。一夏が悪いわけではないし、企業利益を優先した倉持技研が悪いわけでもない。ただ間が悪かっただけだ、と。

 

 それでもやっぱり、白式を見ると嫉妬する。一夏を見るとモヤモヤする。そして――スティナを見ると羨ましさを感じる。

 

 代表候補生にも引けを取らない実力があって、自分でISの調整や整備ができる知識と技術があって(彼女がエイフォニック・ロビンを整備しているのを何度か見かけたことがある)、喋れないことを苦にもしない強さがあって――そんな彼女が少し気になった、ただそれだけだ。

 

「……別に用なんて、無い。ちょっと気になっただけ」

 

〔そうですか?

 ならいいですけど〕

 

 それならもう用は無いとばかりに出口へ向かう。……その前に、簪の眼鏡に、一言表示させる。

 

〔完成したら

 一緒に宇宙に

 行きましょうね〕

 

 軽やかに整備室を出たスティナを、簪は呆然として見送った。

 

 そして、彼女がここへ来たときの台詞と合わせて考えて、気づく。おそらく、先日本音に貸した宇宙なヒーローのBDを彼女も一緒に見たのだろう。彼女が兄と慕っている、と噂に聞くジギスヴァルトが本音の恋人なのだから、その程度の繋がりはあるはずだ。

 

 ISだけで宇宙に行けるはずがないし、きっと彼女にからかわれたのだ。そう自分に言い聞かせて、彼女は打鉄弐式に向き直った。

 

(完成したら、と言ったものの――)

 

 一方、寮に向かって歩を進めるスティナは思う。あれはおそらく完成しない。簪が独りで完成を目指す限り、という前置きがつくが。

 

(そういう技術に精通した技師十数人がかりでやっと一台開発できるものを、いくら雛形があるからといっても独りで組み上げるのは……それこそ束さんに迫るレベルでないと)

 

 そこらの重機やコンピュータとは訳が違う。それに、あの機体の製法は国家機密扱いのはずだ。いくら受領予定の代表候補生であっても、設計思想や方向性の資料くらいならどうにかなるかも知れないが設計図は貰えまい。そのうえ、専用機となる予定だったということは、量産機として予定されていた方の打鉄弐式とはところどころ差異があるはず。そういう部分は手探りにならざるを得ない。

 

(なんでそんな面倒な方に自ら進んでいるかは知りませんが……まあそのあたりはまた楯無さんにでも聞いてみますか)

 

 まあ、単純に気になるというだけの話で、知ったところで手を貸す気はさらさら無いのだが。頼まれれば吝かではないが、本人が望まない手助けはこの場合侮辱だと思う。

 

 ――ていうか、そんなことより、だ。

 

(何か用があるんだと思って行ってみたのに私の勘違いだったなんて……どうしましょうこれ、めちゃくちゃ恥ずかしいです……!)

 

 どんどん羞恥心が込み上げてくる。顔が熱い。どんどん早足になっていって、ついには駆け出した。

 

 それによくよく考えれば造りかけのISの情報なんて開発スタッフでもない部外者に明かすわけがないし、ムキになって無理矢理見た自分がとてもみっともなく思えた。

 

「うわっ!?」

 

「…………!」

 

 頭の中がぐるぐるしてよくわからないままに走っていたせいか、前が見えていなかったのだろう。誰かにぶつかった。

 

「あ、スティナじゃん。よかった、探してたんだ」

 

 声、そして視界に映るズボンタイプの制服からして、ぶつかった相手は一夏のようだ。

 

「さっきのお礼にお菓子でもどうかと――」

 

 全部聞く前に、彼の身体をかわして再び走りだした。きっととんでもなく赤くなっているであろう顔を他人に見られたくない故だが――主に一夏にとって不幸なことに、そこは既に寮の中で、しかもロビーで、夏休みで少ないとはいえ何人かはそこのソファーで雑談などしていて。

 

「あー! 織斑君が誰か泣かしてる!」

 

「あれヴェスターグレンさんじゃない?」

 

「修羅場? 修羅場?」

 

「あんたやけにいい笑顔ね」

 

「ブレヒト君に報告だー!」

 

 それはもう、バッチリ見られていた。

 

「えっ? ちょ、待っ……!」

 

 しかも、止める間も無く走り去っていった。ジギスヴァルトの名前が聞こえたあたり自分の命はここまでかも知れない。

 

 ――その夜。

 

「小便は済ませたか? 神様にお祈りは? 部屋の隅でガタガタ震えて命乞いをする心の準備はオーケー?」

 

「待って! 誤解だから! 本人に確認取ってくれよ!」

 

「犯人は皆そう言うのだ」

 

「不幸だァー!」

 

 おやすみ、一夏。

 

 

 

 

 ★

 

 

 

 

 さて、一夏とジギスヴァルトがキャッキャウフフしている、その時間。

 

 寮の屋上に寝転んで、スティナは星を見ている。

 

(宇宙、か……)

 

 スティナは行ったことが無いし、特に詳しいわけでもない。無人探査機はともかく、人類は未だ地球の衛星軌道より外へ踏み出していない。人類の知る宇宙は地球からの観測と予測の産物でしかない。

 

 だからもっと高く。もっと遠くへ。

 

(束さんは天才ですから。自分だけでやれる限界は弁えているんですよね)

 

 いかに世が天才と(おだ)てようと。いかに万能を自称しようと。否、天才であるが故に。一人の人間である自分には必ずどこかに“限界”があることを理解している。

 

 現に、今でこそ紅椿のようなトンデモスペックの機体を造れるが、白騎士事件当時は()()()()()()()()。結果としてさらに上に至れたが、もしかしたら篠ノ之束はあそこで打ち止めだったかも知れない。そして紅椿で満足するようでは話にならない。

 

 だから()()()()()()()()()()。だからISを()()()()()世に出した。

 

 全ては、自身の名声やプライドなどとは比べるべくもない、夜空に輝く“夢”のために。

 

(兄さんは知って……いるでしょうね)

 

 自分やジギスヴァルトは、束にとって一夏たちとはまた違った意味での“身内”だから。もちろん、束の中でそのふたつのカテゴリーに優劣など無いが。

 

(糸が切れなければ、見てみたいですね……宇宙)

 

 ――と、そこに。足音が一人分聞こえた。

 

「やっと見つけた。ジグが怒り狂ってんの、なんとかしなさいよ」

 

 ずいっ、と顔を覗き込んできたのは鈴音だ。

 

 聞けば、彼女が一夏の部屋で漫画を読んでいるところにジギスヴァルトが来て、一夏を襲っているらしい。スティナが泣いたのどうのと言っていたが、鈴音は正直彼の剣幕にビビって即座に逃げ出したのではっきりしたことは聞けていないという。

 

〔兄さんは

 ホモだった……!?〕

 

「そういう“襲う”じゃなくて!」

 

〔冗談です

 心当たりがあるので

 今から行きます〕

 

 昼間にぶつかったときのアレだろう。一夏には何の落ち度も無いので、さすがにそのせいで彼に被害があるのは忍びない。

 

「だったらほら、早く早く。モタモタしてたら一夏が死ぬわ」

 

〔はいはい〕

 

 鈴音に急かされ、手を引かれながら、スティナはもう一度だけ夜空に目を向けた。

 

(……待っててくださいね)

 

 ――いつか、星の海で、自由に。

 

 

 




 御無沙汰しております。リアルがちょっと退()っ引きならない事態になってしまい、しばらくはこんなペースになるかと思います。ご了承頂けると幸いです。

 さて、今回は「そういえば一夏とスティナってまともに絡ませたこと無くね?」という思いつきの産物でした。最近ジグの出番が減ってますね、主人公なのに。
 IS学園の整備室がどうなってるのかよくわからなかったので、ガン○ムなんかでよく見るハンガーがいっぱい並んでる感じのアレにしています。もしかしたら原作では個室なのかも知れませんが、細けぇこたぁいいんだよ! の精神でお願いします。個室だと整備科の授業が大変そうですし。

 あと、宇宙なヒーローは本来「宇宙(に)キターッ!」ではなく「宇宙(のパワーが)キターッ!」ですが、ここでは宇宙にキターッ! です。細けぇこたぁ以下略。


※注意※
夏休み編は全て中途半端にギャグ回です。
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