中央暦1639年3月24日
バイヤー島がこの世界に来てから2ヵ月が経った。転移してからの2ヵ月は、慌ただしく過ぎて行った。
陸軍妖精たちには、クワ・トイネ公国やクイラ王国でインフラ整備や線路の敷設、石油の精製施設等の建設に当たっている。
クワ・トイネ公国ではロウリア王国の侵攻に備えて新たに戦力を増強している。バイヤー島から供与された武器や装備の配備も進んでいる。
「すごいものだな……」
クワ・トイネ公国首相カナタは、首相官邸の窓から公都クワ・トイネの街を見る。
街の大通りを何台もの車が走ってゆく。「自動車」と呼ばれるこの車は、馬も御者もいらない。
馬より速く、馬車より揺れが少なく、乗り心地がいい。車にも種類があり、人の輸送に特化したものや荷物の輸送に特化したものがあるらしい。
この2ヵ月で人々の生活水準は大きく向上している。
水道、火、電気などが魔法を使わずに使えるようになり、発展する速度が上がっている。
別の世界とはこういうものなのか……
カナタは、窓にうっすらと映る自分の姿を見ながら考えた。
◆◆◆
「すごい練度だな。兵が乱れることなく、きちんと整列している。うちの部隊にほしいくらいだ」
クワ・トイネ公国の軍関係者は、バイヤー島での観兵式を視察し、驚愕していた。
「彼らが味方なら、ロウリア王国も恐るるに足らずだな」
兵士の錬度は高く、戦車等の強力な兵器も保有している。
航空機と呼ばれる飛行機械の部隊も綺麗な編隊を組んでいることから、航空戦力も充実していると思われる。
「なんだあの威力は……! あんなものを喰らったら一撃で木っ端微塵になるぞ……」
「それに連射性も高いな……あれなら弾幕を張って敵の接近を防ぐこともできる」
「しかし……あれだけの数を揃えるとなるとかなりの金がかかるはずだ。それなのに我が国に提供するということは……」
その後、実弾演習を見た彼らは、バイヤー島の技術力に驚愕し続けるのであった。
◆◆◆
3日後の3月27日。
「なるほど、分かった。そのまま交代で監視を続けてくれ」
バイヤー島にある艦隊司令部の執務室で、カイザー提督は電話を切る。
ロウリア王国周辺海域を哨戒中の潜水艦娘「U-47」が、同国の港に大規模な艦隊が集結中であることを発見したのだ。
U-47の報告によれば、すでに2000以上が集結しているが、まだまだ増えているとの事だ。ロウリア王国が国力を傾けてまで動員する戦力。ロウリア王国の本気度がうかがえる。
「始まるぞ、戦争が」
彼の呟きは、誰にも聞かれることなく消えていった。
さらに4日後の3月31日。ロウリア王国 王都、ジン・ハーク。
三重の城壁で囲まれた街の中心にある、ハーク城の一角にある会議室に国王ハーク・ロウリア34世はいた。
「陛下、準備は全て整いました」
ロウリア王国軍の総司令官、パタジンが王に報告する。
「うむ。だが、2国を同時に相手にして勝てるか? これまでも二正面作戦は避けるようにしてきたが」
「一国は農民の集まり、もう一国は不毛の地に住まう者たち。どちらも亜人比率が多い国などに、負けることはございません」
ハーク・ロウリア34世は、机の上に広げられた地図を見る。
「ついにこのロデニウス大陸が統一され、忌々しい亜人どもが、根絶やしにされる日が来たのだ! 神のご加護のもと、我々は勝利する!!」
そう叫ぶと、ハーク・ロウリア34世はグラスのワインを飲み干した。
「大王様、統一の暁には、あの約束もお忘れ無く」
真っ黒のローブをかぶった男が、王に向かって気色の悪い声でささやく。
「分かっておるわ」
王は、怒気をはらんだ声で言い返す。
(文明圏外の蛮地と思ってバカにしおって。ロデニウスを統一したら、フィルアデス大陸にも攻め込んでやるわ)
心の中で、王は吐き捨てた。
「パタジン、今回の作戦概要を説明せよ」
「はっ!説明致します。今回の作戦用総兵力は50万人、クワ・トイネ公国に差し向ける兵力は40万、残りは予備兵力として本土に待機させています。まず、国境から約10㎞の位置にある都市、ギムを強襲制圧します。兵站については、現地調達を予定しています。その後、ギムに集めた兵を持って東方55㎞の要塞都市エジェイを全力攻撃します」
パタジンは地図の上の駒を動かしながら説明する。
「540㎞離れた首都クワ・トイネは、我が国のように城壁に囲まれていません。エジェイを攻略さえすれば、楽な進軍ができます」
今度は海上に置かれた駒と高さを付けた駒を動かし、説明を続ける。
「彼らの航空戦力は、我が国の飛竜隊で十分に対応可能です。これと並行して海上からは、艦船4,400隻の大艦隊を経済都市マイハークの北方に上陸、制圧します。
食糧を輸入に頼っているクイラ王国は、クワ・トイネ公国を制圧することで勝手に干上がります」
パタジンが駒をマイハークに動かす。
「クワ・トイネ公国の兵力についてですが、多くても5万人。即応兵力は1万にも満たないと考えられます。今回準備した兵力の前には、どんな小細工であろうと、圧倒的物量の前には無力です。6年間もの準備が実を結ぶことでしょう」
王は先々代からの悲願が達成されると確信し、笑みを浮かべている。
「今宵は、我が人生で最高の日だ!クワ・トイネ公国及びクイラ王国、両国に対する戦争を許可する!」
王の開戦宣言と共に会議は終了した。
翌日の4月1日、ロウリア王国の宣戦布告なしにクワ・トイネ公国への侵略が始まった。
ギムの町に展開していたクワ・トイネ公国西方騎士団3万人は、圧倒的物量差に押し潰れて全滅した。
ギムの住民は100人を残して全ての住民が殺されてしまった。
ロウリア編は駆け足です
描かせたいのはパ皇編とグ帝編