中央歴1639年4月6日
「いい景色だ。美しい」
そのうちの1隻の上で、艦隊司令官・海将シャークンが呟いた。
見渡す限り船が多すぎて海面が見えないくらいであった。
その一隻一隻に多くの水夫や、揚陸軍を乗せて、艦隊はクワ・トイネ公国の経済都市マイハークを目指す。
6年をかけた準備期間、パーパルディア皇国からの軍事援助を経て、ようやく完成した大艦隊。これだけの大艦隊を防ぐ手立ては、ロデニウス大陸にはないです。
もしかしたら、パーパルディア皇国でさえ制圧できそうな気がする。
(いや……パーパルディア皇国には砲艦という、船そのものを破壊することが可能な兵器があるらしいな……)
彼は一瞬野心を覗かせたが、シャークンは理性で野心を打ち消した。
第三文明圏の列強国に挑むのはリスクが高すぎる。
そうやって滅ぼされた国は数多くある。
野心を振り払うように、彼は艦隊の進行方向を向く。
「ん?」
その時、彼の視界に小さな影が入った。それは、鳥のようにも見えたが、どう見ても鳥ではなかった。
物体はぐんぐん近づいてきて、やがて、はっきりとその姿を見せた。
「なんだあれは!?」
思わず声が出る。
「てっ……敵騎!!」
少なくとも100騎を超える飛行生物が、艦隊を目指して飛んでいる。
「敵襲!」
シャークンは叫ぶように命令を出す。
「通信士、司令部にワイバーンの航空支援を要請しろ!」
「了解しました! 」
通信士は魔信で司令部に連絡を取る。
『こちら司令部。承知した。350騎を向かわせる。それまで持ちこたえてくれ』
「了解」
司令からの返事を聞き、彼はホッとする。これでどんな敵だろうと撃退できる。彼はそう思った。
だがその思いは、すぐに打ち砕かれることになる。
「は、羽ばたいていない?」
ワイバーンではない。確かに姿形は似ているが、羽ばたいていないし、鱗もない。
轟音を轟かせながら飛んでいる。そして速い。
「敵、来ます!!」
敵飛竜の先頭が艦隊に突っ込んでくる。
ダダダダダダダダダダ
先陣を切って突っ込んできた飛竜は、翼をチカチカ光らせ、何かを連続発射した。
「なっ!?」
それは甲板の木の板を抉り、上陸用の陸軍兵士をなぎ倒した。
ある飛竜は、翼に抱えていた大きな矢の様なものを発射する。
それが味方船に直撃すると爆発し、轟音を立てて船に大穴を開ける。
中には油壺を割られて油に引火し、大火災を起こす船も出てきた。乗っている兵士がどうなっているかは、考えるまでもない。
「敵騎急降下!」
別の報告が響く。
上を見ると、羽ばたかない飛竜が急降下してきていた。
その飛竜が、味方の船に糞をドバーっと出して来た。
味方船に直撃すると、今まで聞いたことのない轟音を立てて爆発した。
ほとんどの兵士が即死したが、運よく生き残った者もいる。もう体中、破片まみれや。
「たっ、助けてくれ!!」
生き残った水兵に助けを求めるも、彼らは何もできない。
そして、その船は味方を巻き込みつつ、沈んでいった。
爆発と悲鳴が、艦隊に広がっていく。
「馬鹿な……こんな事が……」
シャークンはその光景を呆然として見ているしかなかった。
F4U-1DとF6F-5の12.7㎜機銃のシャワーが、木や帆をズタズタに切り裂いていく。
流星と彗星一二型甲が急降下し、抱えていた250㎏爆弾を投下する。
投下された250kg爆弾は、まるで吸い込まれるかのように船に命中、木片をまき散らして大爆発を起こす。
さらに流星は、翼内の20㎜機関砲で攻撃し始める。
「ぎゃああああっ!!!」
「うわぁぁぁ!!」
甲板を貫通した機関砲の弾が、船内で待機していた陸戦隊の兵士を肉片へ変えていく。
そんな光景が艦隊のあちらこちらで見られる。
もうめちゃくちゃや。
1時間程経った頃、弾薬切れになった攻撃隊が帰還していく。
それと同時に航空支援のワイバーン350騎が、戦場に到着する。
歓声が上がり、ワイバーン隊はそのまま敵の後ろを追いかける。
無防備な背中に一撃を喰らわせようと、ワイバーン隊は加速していく。
誰もが期待したその時、ワイバーン隊の上空から敵騎が急降下してきた。
「なに!?」
ワイバーン隊よりも上空に、制空戦闘用の部隊を待機させていのだ。
烈風一一型の20㎜機関砲2門が火を噴き、ワイバーンは血しぶきをあげながら海に墜落していく。
奇襲を喰らったが、数の差で潰せる。この場にいる全員がそう思っただろう。
だが現実は
「何だあの空戦は……」
シャークンはそう呟いた。
援護に駆け付けたワイバーンが何もできずに落とされていく。
数の差があるのに敵騎は1騎も落とせていない。
ワイバーンの放つ火炎弾はあっさりと避けられ、敵は避けられない高速の何かを当ててくる。
ワイバーンが一方的にやられているだけだ。中にはワイバーンと共にミンチ肉になる竜騎士もいる。
肉片と血の雨が艦隊に降り注いでくる。
あのワイバーンが、手も足も出ない。これはとんでもない強敵だ。シャークンは心の中でそう感じた。
味方のワイバーンが半分ほどまで減った頃、敵は不意に向きを変え、離脱していった。敵は気まぐれな性格なのかもしれない。シャークンはそう思った。だが、これだけ好き勝手やった後に逃げるのはおかしな話だ。
「……このままマイハークまで進撃する」
シャークンはそう命令を出すと、艦隊は再び進み始めた。
◆◆◆
「敵艦隊が、やられている!?」
ブルーアイは、戦艦「ビスマルク」の艦橋でロウリアの艦隊がやられている光景を見た。
ところどころから黒煙が上がっている。
だが増援として、敵飛竜部隊がこちらに向かって来ている。
先程、艦隊だけで飛竜に対抗すると説明された。
ワイバーンに対抗できるのはワイバーンのみ。
どうやって対抗するのだろうか?
そう考えた時、耳をつんざく轟音が聞こえてきた。
「なんだ!?」
ブルーアイは思わず耳をふさぐ。すると今度は、空が爆発した。
「なっ!?」
なんと数騎のワイバーンが海に落下しているでないか。
よく見ると、ワイバーンの近くで爆発が起きていた。
ワイバーンは翼をもがれたり、胴体や首が吹っ飛んだりしていた。
さらに、大量の光弾が空を埋め尽くすほど、ワイバーンに吸い込まれていく。ワイバーンは、為すすべもなく海に墜落していく。
「何なんだこれは……」
空の王者であるワイバーンが一方的にやられている。
「ワイバーンが……全滅した?」
シャークンも、目の前の光景に絶句した。
1騎で大軍を足止めできるとさえいわれるワイバーンが、何もできずに一方的にやられた。
「そんな馬鹿な……」
シャークンは、その現実が受け入れられなかった。
まるで悪夢を見ているようであった。
敵ワイバーンとの戦闘だけで、味方ワイバーン隊は全滅し、まともに戦える船は半数近くにまで減っていた。
撤退すれば無能の将軍との烙印を押され、歴史書に無能の将軍として名を記されることだろう。
だが、このまま突撃すればワイバーンを撃ち落した武器で攻撃してくるだろう。そうなれば全滅は免れない。
現に、空を向いていた筒状の武器がこちらを向いている。
「っ……全軍撤退!!」
シャークンは、このまま戦っても勝ち目はないと悟り、撤退命令を出した。
彼の判断は正しかった。このまま突撃していれば、全滅していただろう。
ロデニウス大陸の歴史書に、「ロウリア軍惨敗」の文字が刻まれた。
「敵艦隊、撤退を開始しました」
「なんだ、賢い奴らだな」
「た、確かにそうですね……」
観戦武官ブルーアイとカイザー提督は、撤退していくロウリア軍を見ながら口々に言う。
「あら、私の出番は無いわけ?」
戦艦娘「ビスマルク」は、少し残念そうに言った。
「追撃しますか?」
「いや、必要ない。生存者の救助活動を優先せよ」
「「「了解」」」
ブルーアイは、自身の常識が崩れ落ちる音を聞いた。