中央歴1639年4月6日 ロウリア王国 ワイバーン隊本陣
司令部は混乱していた。
4000隻を超える大艦隊の航空支援のため飛び立った350騎のワイバーンは、帰還することはなかった。
華々しい戦果を上げて帰還するはずだったワイバーン隊は、その運命を覆された。
「何が起こった!?」
各隊に通信を送っても返事はない。
考えられるのは、全滅。司令官は頭を抱える。
彼はロウリア王になんと報告したらいいのか分からず苦悩する。
ところ変わってクワ・トイネ公国。
「……以上が、報告となります」
ブルーアイは海戦の結果をありのままに報告した。
「つまり、敵の飛竜は全て撃ち落としたのか」
「はい、間違いありません。彼らの航空機、及び対空兵器は敵のワイバーンを一方的に撃墜できる性能を有しています。今後の敵航空兵力は脅威にならないでしょう。また、ロウリア海軍はしばらくの間、行動を控えるでしょう」
ロウリア海軍の主力が、一方的にやられたのだ。しばらくは活動しないであろう。
「そうか。次は陸での戦いだな。彼らはどのような行動をするだろうか」
「エジェイ周辺に防衛陣地を構築し、そこで迎え撃つとのことです。また航空隊による、ロウリア本土の都市、ビーズルへの爆撃を行うとのこと」
「なに?本土を爆撃だと!?そんなことができるのか?」
早速、意味不明な計画が出てきた。
「はい。彼らはそのように言っていました。ぜひ、観戦武官を派遣いただきたいとのことです」
常識外れの計画に、関係者は皆、頭を抱えた。
◆◆◆
その数時間後、ロウリア王国王都ジン・ハーク ハーク城
ハーク・ロウリア34世は、海将シャークンの戦闘報告を聞き、呆然としていた。
「ばかな……」
信じがたい報告だった。
ワイバーンが一方的に全滅した? そんなことがあり得るはずがない。
彼の報告によると、ワイバーンを一撃で粉砕する威力を持つ武器が存在したらしい。
「そんなものが存在するのか? 魔法のような物だろうか?」
シャークンは、ワイバーンを撃ち落とした武器について詳しく説明した。
「そんな物が……。地上にも配備されていたら、大損害を喰らうな……」
報告を聞き、ハーク・ロウリア34世はワイバーンを撃墜しうる武器が地上に配備されていないことを祈った。
「その心配は必要ないかと思われます。そのような巨大兵器は設置するだけで時間を要します。仮に配備されていても、設置中や移動の隙に攻撃を行えば無力化できます」
「そうか……」
「報告は以上となります」
「ご苦労であった。下がってよいぞ」
「はっ!」
シャークンは、部屋を退出する。
(ワイバーンが全滅……しかも一方的に……)
王はその日、眠れぬ夜を過ごすこととなった。
その翌日、上層部を激震させる事件が起きた。
◆◆◆
4月10日、ロウリア軍占領下のギム。
クワ・トイネ公国侵攻の拠点となったギムは、蜂の巣をつついたような騒ぎになっていた。
上空には、不気味な唸り声を響かせながら、巨大な飛竜が30騎ほど上空を通過しようとしていた。
「駄目だ。上昇限度を遥かに越えている」
「あれだけ大きいのに、我が方より速い」
迎撃に上がったワイバーンは、上昇限度の4,000mまで上昇しても、敵飛竜に追いつくことはできなかった。
「畜生、なにをするつもりだ?」
将軍パンドールはそう呟いた。
が、敵は特に何もすることなく、ギム上空を通過していった。
「敵、ギム上空を通過!!」
「一体何がしたかったんだ?」
ここにいる全員の頭に?が浮かんでいた。
「本土を攻撃するつもりなのか?」
結局何もしないまま、敵は西へ飛び続けている。このまま何も起こらなければ良いのだが。
それは叶わない願いであった。
◆◆◆
ロウリア王国、工業都市ビーズル
ここは、ロウリア王国の日用品から軍需品を大量生産している工場群がある街だ。
今日も労働者たちが、工場で汗水たらして働いていた。
ギムから緊急通報を受けたビーズル守備隊司令部は、監視塔の兵に注意深く監視させていた。
だが、報告が来た時は全てが遅かった。
「ワイバーン接近中!!」
監視塔からの報告で、ワイバーン隊が緊急発進する。
「全騎、攻撃準備!!」
ワイバーン隊を率いる隊長は部下達に命令する。
「了解」
部下達はそれぞれ、ワイバーンの手綱を引き、上昇していく。
(ずいぶんデカい飛竜だな。まるでワイバーンじゃないみたいだ)
隊長はそう思った。自分たちが知る飛竜よりも遥かに大きい。
しかも羽ばたいていない。代わりに、高速で何かが回転している。
(まあいい、すべて撃ち落としてやる)
そう考えた時。
「隊長!もうすぐ上昇限度です!!」
「なに!?」
隊長は慌てて手綱を引き、上昇をやめようとする。
「まさか、敵のワイバーンはこちらのよりも高く飛べるというのか!?」
上昇限度に達した彼らは、ただ敵を眺めることしか出来なかった。
重爆撃機「B-17G型」は何の抵抗も受けずに、高度6,000mからビーズル上空に侵入する。
「何だあれは!?」
突然現れた30騎の巨大な飛竜に、住民たちはパニックに陥る。
「進路よし。爆弾倉開け」
爆撃手は、爆弾倉を開放する。
「投下まで、あと30秒」
攻撃目標は、工場群。
「……3、2、1、投下!」
「B-17G型」から投下されたのは、12発の250㎏爆弾。
それが30機、計360発の爆弾が、風切り音を唸らせながら落下していく。
「何だ!?」
住民が空を見上げると、大量の何かが凄まじい速さで落ちてきていた。
「…………!!」
それらは工場の方に落下すると、轟音を轟かせて爆発する。
出荷待ちの武器や労働者たちを巻き込んで破壊していく。
工場群は瞬く間に地獄と化した。
ほとんどの工場が倒壊し、大火災が発生。さらに大量の負傷者が発生した。
ワイバーン隊も、上空からその様子を見ていた。
「なんてこった……これでは……」
ビーズルの工場が壊滅した。これでは安定した武器の生産は不可能だ。
「B-17G型」の機内で観戦武官として搭乗していたマイハーク防衛騎士団長のイーネも、工場の壊滅を目の当たりにしていた。
「これは……戦いが変わるな」
これまでの戦いは数で優位が決まり、正面戦闘が主流であった。
武器の生産工場を破壊するというのは、考えたことも無かった。
しかも、それを容易に行えるとなれば……。
(恐ろしいな……)
彼女は、新時代の戦闘を肌に感じた。
◆◆◆
夜、ロウリア王国王都ジンハーク。
ビーズルの件はその日のうちに伝わった。
「それは真か!?」
報告に、ハーク・ロウリア34世は驚きを隠せない。
「ビーズルが、ワイバーンの一撃で壊滅とは……」
敵飛竜は高度6,000mほどの高空からビーズル上空に侵入すると、大量の爆発する黒い塊を投下したとの事。
その結果、ビーズルは大火災に見舞われ、工場群は壊滅してしまったとのことだ。死傷者も多くでており、補給体制に深刻な影響を与えかねないとのことだ。
「ワイバーンでここまでできるのか……?」
報告を聞き、ハーク・ロウリア34世は恐怖する。
ワイバーンは火球を吐くことは出来るが、重量物を抱えて飛行するという芸当は出来ないはずだ。
いや、そもそも高度4,000mまでしか上がれないはずだ。
だが、現実には高度6,000mを高速で飛行し、多数の爆発物を落としてビーズルを壊滅させている。
(この戦い、本当に勝てるのか?)
ロウリア34世は悩むのであった。