中央歴1639年9月21日 フェン王国首都アマノキ
この日は、5年に一度フェン王国が開催している「軍祭」の日である。
各国から武官たちが集まり、模擬戦や競技が行われる。もちろんロデニウス連合も参加しいる。
街は華やかに装飾され、通りにはフェン王国の旗がはためいていた。市民たちは熱気に包まれ、各国からの武官や外交官も多数招かれ、壮大な軍祭が始まろうとしていた。
王城からフェン王国の国王シハンが見守る中、パレードが始まる。
武士たちが伝統的な甲冑を身にまとい、堂々とした姿で行進する。
観客たちはその勇姿に歓声を上げた。
パレードが一段落すると、次に武術競技が始まった。
まずは的当て大会だ。ルールは簡単で時間内にどれだけ多くの的を倒せるかを競うものだ。
各国の兵士が、自分の持っている弓やクロスボウで的に狙いを定めて撃つ。
「よし!当たった!!」
「まだまだ!次だ次!」
各国から集まった兵士たちは、必死に的を狙って矢を放つ。
「おお!!すごい命中率だ。あの兵士は天才だな」
「ああ、全くだ。あれほどの腕なら騎士団長になれるかもな」
「次は俺の番か……」
次の選手が緊張した面持ちで矢を放つ。観客たちは息を呑んでその一瞬を見守る。
「あっ、外れた」
「惜しい、あと少しだったのに」
的当て大会は白熱し、各国から集まった兵士たちが競い合う。
(あれがロデニウスの兵士か)
列強ムー国から諜報員として派遣された技術士官のアメリアは、観客に紛れ込みながらロデニウス軍の様子を見ていた。
「では、第12戦目を始めます」
司会の声とともに、ロデニウス軍は配置についた。
「開始してください」
開始と同時に、様々な方向から矢が放たれる。
すると会場に「ダン!」という異様な音が響く。
(あれはボルトアクション式ライフルじゃないか!)
「おーっと、これは凄い!ロデニウス軍が使用しているのはなんと銃です!!ロデニウス軍にこんな技術があったのか!?」
司会も興奮気味である。
それは無理もない。
銃は、第三文明圏では「パーパルディア皇国」が使用している武器であり、その性能は非常に高い。
しかし、ロデニウス軍が使用している銃は、パーパルディア皇国のものよりも性能が高く、さらに連射が可能のようだ。
彼らが使用している武器は、第三文明圏の技術力を大きく超えている。
「凄い!百発百中だ!」
観客たちは、初めて見る銃に大興奮だった。
「いやあ凄いですね!まさかロデニウス軍が銃を使っていたとは」
司会も驚きを隠せない様子だ。
「あの国には、我々の知らない何かがあるようだな……」
アメリアはそう呟きつつ、ロデニウス軍を観察した。
的当て大会が終了し、競技の間に休憩時間が訪れた。
彼女は、兵士の武器や装備品を見ることができるコーナーに移動することにした。
ロデニウス兵は他国に比べて派手さがなかったので一目で見つけることができた。
自然な動作で兵士たちの近くに寄り、彼らの装備を観察し始めた。
その装備は非常に洗練されたものであった。
彼女はメモを取るために小型のノートを取り出し、気付かれないように情報を記録した。
(ボルトアクション式ライフル。特に変わったところは見られない)
そしてアメリアは、あるものを発見する。
アメリアの目に留まったのは、今まで見たことのない奇妙な形の武器だった。
その形状は、パイナップルのようなものや、じゃがいもを潰す調理器具のような形ものがある。
まず彼女の目に飛び込んできたのは、パイナップルに似た形をした物体だった。
次に目に入ったのは、じゃがいもを潰す調理器具に似た形の物体だった。
木の持ち手があり、先端は膨らんでいる。これは明らかに武器であり、彼女の経験からすると手榴弾ではないかと思われた。
一部の兵士はアメリアの存在に気付いたが、彼女がただの好奇心旺盛な観客に過ぎないと思い込んでいたため、特に警戒する様子はなかった。
情報を収集し終えたアメリアは、再び観客席に戻り観察を続けた。
今度は、各国のデモンストレーションが始まる。
「続いてロデニウス軍による射撃です!」
司会の声とともに、ドイツ軍の服を着た兵士たちが前に出る。
「どうやら、的当て大会とは別の銃を使うようです」
(あれは、まさか!?)
アメリアは目を見張った。
伏せた状態の兵士が持っているのは、明らかに機関銃だった。
ムーにはまだ個人で運用できる機関銃はなく、機関銃専用部隊が使用するヴィッカース重機関銃のような大型のものしかない。
そのため、ロデニウス軍の兵士が持つ銃はムーにとって未知のものだった。
「どのような武器なのか楽しみです」
アメリアは食い入るように機関銃を見つめる。
「始め!」
司会の合図と同時に、連続した射撃音が鳴り響く。
「おお!これは凄い!」
観客たちは感嘆の声を漏らした。
機関銃の威力はすさまじく、次々と的を粉砕していく。
「すごいな」
「あんな武器、見たことがない」
観客たちはロデニウス軍の銃に驚きを隠せない。
やがて全ての的が打ち倒され、機関銃によるデモンストレーションは終了した。
観客たちは盛大な拍手を送る。
しばらくして、本日の目玉であるロデニウス海軍による廃船への砲撃が始まろうとしている。
戦艦1隻・駆逐艦4隻の計5隻が参加して、砲撃を行うことになっている。
戦艦「シャルンホルスト」の28.3cm三連装砲が回転し、廃船に照準を合わせる。
「主砲発射準備完了!」
「Feuer!」
轟音と共に、砲弾が撃ち出された。
そして、着弾。廃船は一瞬にして木端微塵になった。
戦艦としては口径の小さい主砲だが、威力は十分すぎるほどである。
「おお、凄いな」
「あの船、一瞬で木端微塵になったぞ」
観客たちは驚きと興奮を隠せなかった。
その後も砲撃は続き、わずか数分で4隻の廃船は完全に消滅した。
「ロデニウス海軍による砲撃は以上となります」
司会が締め括る。
と同時に、上空を零戦の編隊が通過する。
一糸乱れぬ編隊飛行に、観客たちは歓声をあげた。
「なんだあれは!?」
「鳥のようだが……」
観客たちにとっては、初めて目にするものだった。
しかし、アメリアは違った。
(あれは、飛行機!しかも単葉機!ロデニウス軍の技術は一体……)
アメリアは驚愕に目を見開く。
彼女は、すぐさま懐からノートを取り出しメモを取る。
その後もさまざまなデモンストレーションが続いた。
◆◆◆
そして、事件は起きた。
パーパルディア皇国の国家監察軍に所属するワイバーンロード隊計20騎はフェン王国の首都アマノキ上空に到達した。
「蛮族どもめ、我々に逆らうとどうなるか思い知らせてやる」
彼らの任務はフェン王国に懲罰的攻撃を加えることと、皇国に逆らうとどうなるかを他国に見せつけることだ。
「隊長!あれを見てください」
部下の一人が指さす方向に目を向けると、そこには巨大な船が浮かんでいた。
「何だあれは!?」
「わかりません!とにかく、攻撃を仕掛けましょう」
「そうだな……全騎突撃! 敵はたかだか船のようだ。恐れることはない!」
「全騎、降下用意! 奴らに我らの力を見せつけるのだ」
隊長が命令を下す。
「了解」
20騎の竜騎士が2手に分かれて一斉に高度を下げ始めた。
第一隊はアマノキの市街地上空へと飛翔し、フェン王国の主要な建物や公共施設を狙った。
軍祭の熱気が冷めやらぬうちに、フェン王国の首都アマノキは突如として混乱の渦に巻き込まれた。
空を覆う黒煙と、燃え上がる炎が街全体を包み込み、恐怖が街中に広がった。
ワイバーンロード隊が放つ火炎弾が市街地に次々と降り注ぐ。美しい建物や家々は一瞬にして燃え上がり、広がる火の手が止まることを知らない。
「急げ!安全な場所へ!」
兵士たちは市民を避難させようと奔走するが、状況は混乱を極めていた。人々は互いに押し合い、何とか安全な場所を見つけようと必死だ。
ロデニウス連合海軍の戦艦「シャルンホルスト」は、他の参加国の艦艇と共に港に停泊していた。船上は平穏で、艦の兵士たちはフェン王国のもてなしを楽しみつつ、警戒を怠ることなく任務を遂行していた。
「レーダーに反応あり!」
対空レーダーを操作していた妖精は、突然声を上げた。
画面には、20機ほどの反応が映し出されていた。
「今日の軍祭にワイバーンが飛んでくる予定ってあったっけ?」
「(そんな予定は)ないです」
「誤報じゃないか?」
「(レーダーに映っているし……)ないと思います」
妖精は急ぎ艦橋に報告を入れる。
「対空戦闘準備!全艦、警戒態勢!」
レーダーが捉えた反応は、間違いではなかった。
ワイバーンロード隊の火炎弾がアマノキ市街地に次々と落ち、瞬く間に炎が広がり、人々の悲鳴とともに街は混乱に包まれる。
「市街地が燃え上がっている!」
「このままだとまずいぞ!!」
艦隊からも黒煙が立ち上るのが見える。
「俺に続け! あのでかい船をやるぞ!」
第1部隊長レクマイアは、部下を引き連れ、巨大艦に向かう。
「接近中のワイバーン、方位120、距離10キロ!」
「全対空砲、照準を合わせろ!迎撃開始!」
ワイバーン隊は高度を下げながら「シャルンホルスト」に接近し、火炎弾を一斉に発射する。数発の火炎弾が甲板に命中し、火の手が上がる。
だが、火炎弾は戦艦の装甲を貫通するには不十分で、わずかに表面を焼き焦がす程度だった。
「あのトカゲどもを撃ち落とせ!!」
轟音とともに、あらゆる対空火器が火を噴いた。
1騎たりとも生かして帰さないとばかりに、とワイバーンに牙を剥く。
たちまち複数のワイバーンロードがミンチ肉に姿を変え、海に落下していく。
「クソッ! 蛮族どもはどこからあんな兵器を手に入れたんだ!?」
相棒を撃ち抜かれて海に墜落したレクマイアは、海面に浮上して叫ぶ。
目の前で味方が次々と撃ち落とされていくのを見て、レクマイアは危機感を募らせる。
市街地を攻撃していた部隊も異変に気付いてこちらに向かってくる。
「ダメだ!!来るな!!」
レクマイアは叫ぶが、味方には聞こえず、自ら死ににいくかのようにと突っ込んでくる。
気付けば、空には黒煙が立ち上るのみとなった。
「なんという腕前だ! まるで神業だ!!」
観客は熱狂していた。
「何が起きたんだ?」
「わからん。だが、何かとんでもないことが起きているのは確かだ」
「あの船は何だ? あんな巨大な船は見たことがないぞ」
観客たちは、この戦闘を目の当たりにし、改めてロデニウス連合の軍事力を実感した。武官たちも、その実力に驚愕し、帰国後の報告に向けて情報を整理していた。
こうして、フェン王国の軍祭はそのクライマックスを迎え、ロデニウス連合の力が世界に示された。
その影響は、列強諸国に大きな波紋を広げることとなる。