ただ愛されればそれでいい   作:サラダボウル

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三門市

「諏訪さんにいとこなんていたんですね」

 

「そりゃあいるだろ。俺にいちゃだめってのか?日佐人」

 

「いやそういうわけじゃないんですけど、なんか諏訪さんって天涯孤独な感じがして。ね、堤さん」

 

「ははは、まあ、分からなくはないね」

 

「どういうことだよ!!」

 

 諏訪のいとこがこちらに越してくるということで、迎えに来た諏訪隊一行。

 防衛任務は夜だったのでみな暇だったのもあるが、笹森と堤はどちらかと言えば好奇心の方が強い。

 オペレーターである小佐野瑠衣ことおサノは本部で仕事が残っているため留守番だ。

 

 多くの人が行きかう土曜日の三門市。

 週末ということもあり、駅はにぎわっている。

 近界民による侵攻が激しい三門市だが、ひとたび警戒区域を出てしまえばそこにあるのはごく一般的な町中の景色である。

 

「そろそろだな」

 

 右腕につけられた腕時計を見て、そう諏訪がつぶやく。

 その言葉を聞いて、笹森と堤はどこだどこだと駅の入口へと視線を向けた。やってくるいとこがどんな見た目か知らない彼らが見つけられるわけはないのだが、好奇心からそのような行動をとる。

 

 同時にどっと多くの人が入口にあふれかえり始めた。

 電車から降りた人たちでいっぱいになる駅前に、なんだかそれっぽいちいさな男の子が現れる。

 

「あの右端にいる子ですか、諏訪さん?」

 

 そちらの方向に指をさし、笹森が諏訪に聞く。

 少し大きな荷物をもって必死に改札を抜けた少年がそっちにはいた。

 全員の視線がそちらに向き、諏訪はうーんとうなりながら吟味する。

 

「確かにそれっぽいですね」

 

「いや、あれじゃねえ」

 

 しかし、諏訪に否定されてあっけなく少年は諏訪隊の視線から外れてしまった。

 

「じゃあ、あっちですか?」

 

 すぐさま堤が左側にいる少年を指さす。

 先ほどの子よりラフな格好で、制服を着ている少年だ。

 

「あっちでもねえな。どこだ」

 

 あっちこっちと指をさすが、どこにも諏訪のいとこは現れない。

 時間が違うんじゃないか、そんな考えが堤の脳裏によぎったその時。

 

「あ、あれだあれ。あの左にいるちっこいの」

 

 諏訪の視線の先にいるのは黒髪の小さな男の子。

 事前に中学生だと二人は聞いていたので誤解はしないが、中学三年生にしては身長が低いというのが二人の抱いた感想だった。

 

「おーい、こっちだ」

 

 諏訪が大きく手を上げ、少年を呼ぶ。

 それに気づいた少年が走り出し、諏訪の傍に立った。

 

「相変わらずちっちぇな、お前」

 

「そういう洸太郎さんも、相変わらず若く見えないね」

 

「うるせえ」

 

 生意気な少年にチョップをくらわせる。

 それほど似ていない組み合わせに違和感を覚えていた笹森だったが、口が悪いところは血筋なんだと納得した。

 

「こいつが、俺のいとこの壽知盛(ことぶきとももり)だ」

 

「よろしくお願いします、諏訪隊のお二方」

 

 ぺこりと、礼儀正しく礼をする壽。

 それから少し遅れるように笹森と堤も礼をする。諏訪家の血筋のわりに礼儀正しい子だと、感心しながら。

 

「なんか変なこと考えてねえか、日佐人」

 

「なんにも考えてないですよ!」

 

「ならいいが、それでこいつらが俺の隊員の笹森日佐人(ささもりひさと)堤大地(つつみだいち)だ」

 

「よろしくね、壽君」

 

 握手を求めてきた笹森によろしくお願いしますと言いながら、手を握る。

 その次に堤とも握手を交わす。でっかい堤の手に感動を覚えながら。

 

「こうみると諏訪さんがお父さんにしか見えませんね」

 

 一歩下がって、二人を眺めて感想を述べる堤。

 到底20代には見えない諏訪の隣に、小さな子供が立つとはたから見たらその光景は親子である。

 荒れてそうなお父さんと、真面目そうな男の子の図だ。

 

「いろいろ思うところはあるが、一応こっちでの保護者扱いだからな。俺がこいつの世話すんだよ」

 

「諏訪さんにできるとは思えない……」

 

「なんかあったらおサノにでも聞くわ」

 

「おサノさんもそこまでは対応しかねると思いますけど……」

 

 オペレーターに謎の信頼を寄せている諏訪。

 それは無理なんじゃと言っている堤も、最悪なんとかなるかもなと少し思う。

 なんやかんやできる人であるおサノの評価は高い。諏訪にできないことは大体堤かおサノに投げればなんとかなる。

 

「大体の家事はできるので大丈夫ですよ。一人暮らしも問題ないぐらいだと思います」

 

「じゃあ、俺の部屋の掃除からだな」

 

「あの部屋を中学生に掃除させるのは酷ですよ、諏訪さん!壽君がかわいそうです!」

 

「なら、お前も一緒にやるか日佐人?」

 

「くっ、ごめん壽君。俺、ふがいなくて」

 

 諏訪の言葉にやられてしまった笹森。

 諏訪宅の掃除はいたいけな少年──壽の仕事となった。

 

「そろそろ行くか、いつまでもここで立ち話はあれだろ」

 

「じゃあ、俺たちはボーダーに戻ってます」

 

「おう、悪かったな。わざわざつき合わせちまって」

 

 さようなら、と言って先にボーダーへと笹森と堤は戻っていった。

 駅前には壽と諏訪が残される。

 

「とりあえず、俺んちに行って荷物置いてくるか。学校の方にも顔出さねえとな。荷物ってそんだけか」

 

 リュックしか背負っていない壽を見て、諏訪が聞く。

 引っ越しのわりに荷物が少ないことに違和感を覚えたのだ。中学生とはいえ、荷物が少なすぎた。

 家具などがないのでトラックはいらないにしても、リュック1つで事足りるほど中学生の私物は少ないくないはずなのだ。

 

「大体は家に置いてきました。数日分の着替えは入ってるので、こっちで必要なものはそろえるつもりです」

 

 お金ももらってきました、そういって、リュックから封筒を見せる壽。

 封筒はそれなりに厚く、かなりの大金があることが見てわかる。

 

「それしまっとけ。じゃ、家に行くか」

 

 その後、タクシーを止め、二人は諏訪宅へと向かうのだった。




今回は三人称視点ですが、主に一人称視点で進みます。


あと、結婚する諏訪さんは想像できないけど、父親面する諏訪さんはなんか思い浮かぶ
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