ただ愛されればそれでいい   作:サラダボウル

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師匠

「何本がいい?」

 

「今日も五本で」

 

「了解」

 

 最近日課になりつつある黒江との勝負。

 ボーダーに来た日はだいたいどこかで黒江に会うので、その時はいつも戦っている。

 お互いがB級に上がってからも何度も戦っており、トリガーの構成を変えていないので初見殺しのようなことはない。純粋な技量勝負。

 前まで勝率は俺の方が高かったが、最近は黒江が勝つことも多くなってきた。じわじわと上がる黒江の実力に焦りを感じていないと言えばウソだが、彼女の実力は俺が一番知っているのでうれしい気持ちもある。勝手に師匠面しているだけだが。

 

『対戦ステージ「市街地A」 個人ランク戦5本勝負 開始』

 

 ステージは市街地A。

 基本的にいつもここ。変な小細工をすることなく、正面からぶつかり合うためによく選ぶ。

 

「アステロイド」

 

 開幕。

 弧月をふるうにしても距離があるので、サブトリガーに入れているアステロイドを黒江に向かって放つ。

 威力を下げて、速度重視。距離も黒江に当たるギリギリまで削っておく。

 

 速度重視しつつ球数優先のアステロイドの猛攻を彼女は顔色一つ変えずに両防御(フルガード)しながら間合いを詰めてくる。

 もう少し威力に振るべきだったなと思いながら、黒江の攻撃を弧月で受け流す。

 

 黒江はトリガー構成の中に弾トリガーを入れていない。

 二宮隊の辻先輩のようなシンプルな構成になっているが、それで十分戦えるのだから地力の高さがうかがえる。

 俺のような弾トリガーの攪乱なしで正面から一気に間合いを詰めるのを得意としたスピード型でありながら、グラスホッパーやテレポーターは使わない。

 小さな身長と、その身軽さを生かすだけで事足りてしまうのだ。

 

 止まることのない弧月を避けながら、大きく後ろへと跳ぶ。

 が、ばれていたようで食らいついてくる。

 

「アステロイド」

 

「くっ」

 

 弧月で無理矢理黒江の行動を止めながら、正面に散らすように放つ。

 近づきすぎたことを理解してか、シールドを出さずに回避を選択。体をねじり、無理矢理その体を地面に近づけた。

 空を切るアステロイド。そして、今にも首を落とさんと俺のことを捉える目。

 

 恐ろしいが。

 それだけだ。

 

「アステロイド」

 

 距離をぎりぎりまで削り落とし、威力に振り切ったアステロイド。

 よけきれない。

 

 そう判断した黒江の行動は素早く、守らなければいけないところにだけシールドを張り、足や腕への攻撃を甘んじて受け入れた。

 落ちなければよいという判断は良いが、まだまだだな。

 

 両手両足を傷つけられた黒江は、さほど強くない。

 いや、まったくもって強くはない。

 

「あっ」

 

 あったはずの右足がなくなり、本来のなら地面を蹴っていたであろう右足が空を切る。

 トリオン体ならではの問題。体の一部が欠損していても問題なく体が動くが、だからと言って今までのように使いこなせるわけじゃない。

 

「旋空弧月」

 

 何もできず。

 バランスを崩した黒江の頭部が宙を舞うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり、壽先輩は強いですね」

 

 五本勝負を終えた俺たちは、ランク戦のブースで反省会のようなものをしていた。

 いつも黒江がどこが悪かったのか聞きに来るから俺の分かる範囲で思ったことを言っている。逆に、俺が負けた時は俺が何を考えていてどこが良かったのかの説明。

 ちなみに黒江が勝った時の解説の方が食いつきは良い。負けず嫌いな奴め。

 

「黒江も強いけどね。まだまだ経験が足りないだけだよ。右足がないとき、左足がないとき、右手がないとき、左手がないとき。トリオン体の戦闘はいろんな状況が発生するから慣れちゃえば楽勝だよ」

 

 例えば、右目の視界がない状況や、トリオンが半分以下の状況での戦闘などなど。

 最近いろいろやった俺は、戦場で冷静にいられるようになってきた。トリオン供給機関のぎりぎりを探す実験だとか、頭部にどれだけ刃が到達するとベイルアウトになるのかという実験をやっているうちに、その辺に鈍くなっただけかもしれないけど、どこまで体を捨てられるのか分かったのはデカかったと思う。

 

 現実なら死んでいる状況でも戦えるのがトリオン体だからね。

 慣らしておく必要があると思ったのだ。

 

「そういうのも意識しなきゃいけないんですね……分かりました。加古隊の訓練室ではそのあたりを練習してみます」

 

「頑張って~」

 

 A級に上がるからなのか、彼女の学習意欲はとても高いものだと思う。

 がむしゃらながらも、すぐに問題点を見つけることができる。そして、すぐさまそれを解決してみせる。

 A級になれる人材ってのはこういうところが評価されるのだろうか?

 

「そういえば、壽先輩はどこの部隊にも入らないんですか?わざわざランク戦の観戦をするぐらいには興味はあるんですよね?」

 

「どこかに入る気はあるよ。加古隊に入る気がない理由も、B級のランク戦をしてみたいってのが1つあるし」

 

「諏訪隊とか、頼んだら入れてくれるんじゃないですか?」

 

「どうだろうね?情で入れるタイプじゃないと思うけど……」

 

 だからって、断られるかと言われるとまたそんなことない気もする。

 笹森先輩におサノ先輩、堤さんは俺が入りたいって言っても嫌な顔はしないだろう。それなりに俺のことを評価もしてくれてるっぽいし。

 それに甘えるのはいかがなものかと思わなくもないが、そんなことを言っていたら俺は知り合いのいる部隊には入れなくなる。

 もし俺が入れるかもしれないとしたら、つながりのある諏訪隊か那須隊ぐらいしかない。その那須隊も、あくまで茜と仲が良いだけで那須先輩や熊谷先輩と面識がないので候補として挙げていいか怪しい。

 

 案外、俺が入ることのできる部隊は少ないのかもしれない。

 人脈のなさか。

 

 あーでも。

 完璧に忘れてたがもう一部隊あるな。

 

 忘れていた。

 個人的に仲間というよりも、倒すべき敵って感じがして勝手に除外していた。

 

 その部隊の隊長が。

 今俺の前に立っていた。

 

「こんなところで談笑か?」

 

「はい、ちょっとした息抜きですよ。二宮さん」

 

 B級一位。

 二宮隊の隊長。

 二宮匡貴(にのみやまさたか)が俺の目の前に立っている。

 

「ならちょうどいい。今日もしごいてやる」

 

「こわいなぁ。いたいけなB級をいじめてると良くない噂が立ちますよ」

 

「自らをいたいけだなんて表現するナルシストごとき、どれだけいたぶっても構わんだろう」

 

 容赦ないなこの人。

 年下への優しさを感じない。

 この人の部隊でやっていける気がしないわ。

 

「ま、いいですよ。負けても知らないですからね」

 

「勝ってから言え」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二宮さんとの十本勝負を始めて、これが十本目。

 今のところ0勝9敗なので、これを落としたら二宮さんの完全勝利になってしまう。

 

 それは大変癪なので、どうにかしてこの一戦だけは勝つ必要がある。

 

『十本目 開始』

 

 二宮さんが射手ということで、かなり距離をとっての転送。

 別にあの人は近距離でも強いと思うけど、中距離での二宮さんを攻略してこそ勝ちだと思っているのでいつもこれだ。

 

 だからこそ、彼も容赦なく全力で襲い掛かってくる。

 

「サラマンダー……いつも通りだな」

 

 一応バックワームを起動しておいたが、すぐさま放たれるハウンドとメテオラの合成弾。

 あれの前ではバックワームなんて意味がない。すぐさま、シールドに切り替え両防御の状態で二宮さんへと近づく。

 

「相変わらず爆発で前が見えない!」

 

 が、止まれば爆風で俺の全身が消し飛ぶ。

 一度止まって様子を見た時にそうなった。だから、その選択肢はない。

 一番の最適解は、走り抜けることだと知っているから。

 

 周囲が見えないながらも頭に叩き込んでいる市街地Aの地図を頼りに進み、大通りに出る。

 そのころにはサラマンダーの雨はやんでおり、バックワームを着用済み。

 

 だから、ばれてないはずなんだけど。

 

「どうも」

 

「ギムレット」

 

 大通りに出ると同時に、すでに撃つ直前の体制に入っている二宮さんと目が合った。

 せっかく挨拶をしたのに無視らしい。ひどいなぁ。

 

「シールド!」

 

 後ろに大きく引きたい気持ちを抑えて、二宮さんの方へと走り出すと同時に両防御。

 二枚張り、かつ集中シールドならかなりの確率で防げるはず。

 

「甘いな」

 

 が、トリオンモンスター二宮相手には甘い考えであった。

 一発当たるだけでひびが入るシールド。容赦なく降り注ぐギムレットは、俺のシールドをバクバクと食い破る。

 もう少し、あともう少し。近づく必要がある。

 

 つい数秒前まで無傷だったシールドはもうぼろぼろだ。

 一枚目は穴だらけで、二枚目に五発目のギムレットが命中している。そろそろ限界だ。

 まだ合成弾が放たれることはない。が、シールドの再展開よりも先に。

 

「アステロイド」

 

 一瞬で分割の終わった、アステロイドが俺に襲い掛かる。

 もう防ぐ手段はない。シールドを一から作り直せるほど猶予は残されていない。

 絶体絶命ってやつだ。

 

 だが、すべて。

 予定通り。

 

 アステロイドの発射と共に、弧月を抜刀。

 俺の目の前にあったぼろぼろのシールドは消え去っており、左腕は完璧に死に、両足ともぼろぼろでもう一発弾丸が当たれば動かなくなるだろう。

 

 しかし、守るべき右腕は守り切った。

 一切傷のない右腕さえあれば、弧月は振れる。

 

 まだ間合いではない。

 弧月をふるうには遠すぎる。

 その距離約15メートル。

 

 それはあまりにも。

 最高だ。

 

「旋空弧月」

 

 無数の弾トリガーが俺の体を貫く中、振るわれた弧月が二宮さんの首元まで伸び、止まる。

 それ以上進むことはなく、二宮さんも顔色一つ変えない。

 

「ちっ」

 

『トリオン体活動限界 緊急脱出』

 

 どうやら、トリオン体の損傷時に出ていくトリオン量の計算を間違えたらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だあああ、あとちょっとだったのに」

 

「負けにあとちょっとなんてものはない。負けは負けだ」

 

「もうちょっと他にかける言葉ないんですか?弟子が泣きますよ」

 

「その程度で泣く奴は、弟子にしない」

 

 うーん、不愛想。

 これで部下がついてくるんだから、よくわからん。

 いや、良いところがあるのは分かってるけどね?俺に弾トリガーの使い方教えてくれたし、お世話になってるけど。

 だからこそ、分からん。

 

「また、負けたのか」

 

 ブースを出るとそこには黒江と、三輪秀次(みわしゅうじ)先輩がいた。

 ちなみに、三輪先輩は俺の近接戦の師匠だ。あの人から弧月とかの近接戦闘を教わった。

 

「あとちょっとで倒せそうだったんですけどね。計算を間違えました」

 

「計算って……それに最後の突貫。当たり所によってはそのままやられていただろう」

 

「それはちゃんと把握して被弾してるので大丈夫ですよ。どこまでトリオン体を傷つけられるのかは研究済みなので」

 

 二宮さんに弾トリガーの使い方を教わった後、辻先輩に協力してもらってトリオン体を刻みまくった。

 それが頭に刃を刺した例のあれである。辻先輩、最初はかなりビビってたけど、途中からノリノリで俺を切っていた。楽しかったらしい。

 

 そんな秘密の特訓を経て、捨てても問題ない場所を理解しての動きだった。

 その代わり、トリオン漏れへの理解度が足らなかったけど。トリオン体がなくなることを意識しすぎて、トリオン自体の把握ができていなかったのが敗因だな。

 

「なら次は、俺とやるか」

 

「えー、俺のポイントがゴリゴリ削れていくんですけど」

 

「勝てば一気に増える」

 

「理想論だー」

 

 三輪先輩に首根っこをつかまれ、ずるずると引きずられていく。

 さっき出たばかりのブースへとぶち込まれ、三輪先輩との十本勝負が始まったのだった。




壽くんに関するアンケートを追加しました。
『壽くんにはここに入隊してほしい!』なんてタイトルですが、どちらかと言えば人気投票です。
「俺は影浦隊が好きだから影浦隊に」とか「荒船隊を出せ!俺はポカリの倒置法が見たいんだよ!」とか「加古隊の方がいい、おれのサイドエフェクトがそう言ってる」とかそんな理由で投票してください。

今回の回答が直接壽くんの入隊には影響することはないので、みなさんの欲と主観で回答してくださるとうれしいです。


※投稿してから準備するので、見つからない人は少々お待ちください。
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