壽と三輪がブースに入ってからしばらく経った。
が、二人はいまだ出てこない。壽が三輪と二宮と戦う時はいつも試合は非公開なので試合を見るには中に入るしかない。
なので、外で待っている二宮と黒江は微妙な空気を互いに感じながら待っていた。
二宮と黒江のつながりは加古を挟んでのつながりと、壽を挟んでのつながりしかない。
言ってしまえば友達の友達であり、超気まずい関係性なのだ。
そのせいでお互いに会話をするつもりはなかった。さっさと壽が出てきて、そこから話せばいいかと考え、そして裏目に出てしまったのが現在である。
そして、そんな状況でも気にせず黒江は二宮のことをなぜ帰らないのだろうかと思いながら見ていた。壽との戦闘は終わっているので用はもうないはずなのに居座る二宮に不思議そうな視線を向ける。
それに気づいた二宮が、視線を嫌がったのか口を開いた。
「あいつは、どこかの部隊に入るのか?」
「壽先輩ですか?まだ決めてないし、話も来てないそうですよ」
「あいつに話が?あれほどの実力なら、上位からもきていいだろう」
「随分と評価してるんですね」
二宮から出る言葉に、黒江は驚きながら返答する。
彼がここまで壽のことを評価していると思っていなかったからだ。
二宮相手の勝率は悪かったので、もっと低く評価していると思っていた。だから、思いのほか壽のことを考えていることに驚いた。
「誰があいつの師匠をやっていると思っている?」
「二宮さんですか?」
「そういう意味じゃない。東さんがあいつに戦術を、俺が弾トリガーを、秀次が弧月を教えているんだ。このことを知ってるやつがいたら、絶対に逃がさないだろう」
「確かにそうですね」
ボーダー内の有力な戦術家は軒並み東さんの弟子だ。
そのことを考えると、壽の将来は保証されているようなもの。
また、他の二人も元A級や現A級。
質の良い教育を受けているに違いないことを考えると、壽は部隊に一人いるだけで飛躍的に戦力を向上させるであろうことは容易に想像できた。
なのに、どうしてどこのB級も声をかけないのか。それが、二宮には不思議だったのだ。
「誰かが情報を統制しているとか……だろうか」
そういいながら、ちらりと黒江の方を見る。
なんで見られているんだろうと、疑問に思う黒江だがすぐにその理由を理解した。
ああ、多分あの人のことだなと。
「私からは何とも」
「はあ、先に帰る」
黒江の返答を聞き、大きなため息をする二宮。
行くべき場所ができたのか、すぐに出て行ってしまった。
「おい、加古いるんだろ」
加古隊作戦室。
加古に会うために、二宮は作戦室まで足を運んだ。
「なに、急に押し入ってくるなんて」
「壽の話だ」
「壽くん?それなら東さんに言われた通り、ちゃんと気にかけてるわよ」
「つい先日、忠告が入ったはずだろ。無理をさせるなと」
「何のことかしら」
一切歩み寄らない両者。
物理的にも精神的にも、ぶつかり合っている。
その様子に、オペレーターである
「今すぐ、あいつの情報統制をやめろ」
「別に私が何かしてるわけじゃないのよ。ただ彼がランク戦をやらないしやりたがらないから、みんなが知らないだけ」
その返答に、二宮の眉がわずかに動いた。
加古の言うことに心当たりがあったからだ。
いつも訓練の時は各々の作戦室で行われている。
また、ランク戦で戦う時も非公開。壽の実力は見えなくなっている。
他にも彼があまりランク戦をやりたがらないことや戦う対手が悪いことも相まって、ポイントは大きく減っており、5000点台後半にいったことはない。
だから、彼の実力は誰からも注目されないのだ。
それに東さんが戦術を教えているとしても、それはB級ランク戦をしなければ明らかにならない才能だ。
個人でどれだけ戦ったところで、その強さは完璧に発揮されるわけじゃない。
だから、だれも知らなかったのだ。
彼の師匠である東達しか、彼の強さを理解できる人間がいなかった。
「そういうことか……」
「だから、私が引き取ろうとしてるんだけどね~。彼嫌がってるのよ」
「嫌がってる?」
なぜ、A級の部隊に入ることを嫌がるのだろうかと疑問に思う。
それは、元A級でその特権を知っている二宮からすると不思議だった。
「彼が言うにはね。B級のランク戦でいろんな人と戦いたいんだって」
だからいつも断られてるわ、と特に悲しそうなそぶりを見せることなく言う加古。
壽はB級で戦いたい。だが、彼の強さを知っているのはA級の人間だけで、B級の人間である二宮と東も彼を育てる側であると思っており、共に戦う者だとは考えていなかった。
そのせいで、壽は居場所がなかった。
「かわいそうだと思わない?私たちのエゴで、居場所をなくす子供は」
「……」
何も言わない。
何も言えない。
いまだ不器用である自分という存在を、知ったから。
「……悪かったな」
それだけ残し、踵を返す。
が、そんな二宮を加古は肩に手を置いて止めた。
何がしたいと言いたげな視線を、振り返って加古に向ける。
「炒飯食べ──」
「いらん」
加古の誘いを断り、さっさと帰ってしまった二宮。
それはそこまでされる義理はないという意味なのか、お前の炒飯は食べたくないという意味なのか。
小早川は多分後者だろうなと思いながら聞いていた。
「全く、まだまだ子供なんだから。杏、あなたはどうするの?」
「ええと、じゃあ。いただきます」
「分かったわ」
楽しそうに鼻歌を歌いながら準備を始める、加古。
いつもの加古に戻ったことに安堵しながら、小早川は炒飯が来るのを待つのだった。
アンケートの回答ありがとうございます。
自分としては二宮隊がすごい人気でびっくりしてます。なぜなのか皆目見当もつきません。加古隊の人気は頻度が多いので納得ですね。那須隊もよくわかりません。もともとの人気ってことなんでしょうか。
大変楽しい気分でアンケート見させてもらってます。ここが人気なんだとか、ここはあんまりだなとか、見てて面白いです。
あとちゃんと読者がいるんだなと感じました。
かなり楽しかったので、また何かしらアンケートで聞くかもしれません。その際は、気楽にご参加いただけると嬉しいです。