ただ愛されればそれでいい   作:サラダボウル

13 / 42
化け物

 三輪先輩との戦闘を終え、燃え尽きた俺はロビーのソファで死んでいた。

 戦闘が終わるころには二宮さんや黒江はいなくなっており、三輪先輩も早々に帰ってしまった。

 

 俺も諏訪隊の作戦室にでも行こうかと思ったが、あまりに疲れたので休憩を優先した。

 さすがに、二宮さんの後に三輪先輩と戦うのは脳が耐えきれない。二宮さんと戦う時よりものびのびと戦えるのでやってて楽しくはあるが、疲労は別である。

 A級の実力を持つ隊員と連戦するのは楽じゃない。

 

「もういっそこのまま眠りたい」

 

 別に俺のことをわざわざ気に掛ける奴なんていないだろうし、寝ようかな。

 多分、30分もしないうちに起きるだろう。トリオン体は色々と便利な性能してるらしいし、きっと睡眠の効率もいいはずだ。たぶん。

 

 思った時にはもうすでに意識の半分は眠気によって奪われており、目の前が暗く────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君、大丈夫か?」

 

 声が聞こえる。

 誰かが俺の体をゆすりながら、呼びかけている様だ。

 

 あと、三時間ほど寝かせてくれ……。

 それだけ寝かせてくれれば満足するから……。

 

 そのままもう一度深い眠りに着こうとするも、激しく揺られてそれどころではなかった。

 さすがに耐えきれない。起きよう。

 

「ん……どちらさまでしょうか」

 

 眼球に注がれる光に目をやられながら、目の前に立っている人に声かける。

 俺を必死にたたき起こしてきたオレンジ色の服を着た人。

 見覚えあるような……。

 

「俺は柿崎隊の柿崎国治(かきざきくにはる)だ。こんなところで寝てたら危ないぞ」

 

「んんん……かきざき……柿崎隊?」

 

「ああ。そうだ」

 

 思い出した。

 今日のランク戦で戦ってたところだ。

 かなり派手に負けていた。

 

「大丈夫かい?かなり深い眠りについてたようだけど」

 

「強敵と戦ってたもんで、疲れただけです」

 

「そうか。とりあえず、ここでは寝ない方がいいぞ」

 

「どうも、肝に銘じておきます」

 

「いや、そこまでする必要はないが……」

 

 柿崎さんってこういう感じの人なんだ。

 なんか、良い人って感じ。洸太郎さんよりも信頼できるタイプ。

 あの人ギャンブラーだし。

 

「ところで、柿崎さんはこんなところで一体何を?まだランク戦終わったばっかですよね?」

 

「見てたのかい?なら、結果も知ってるだろう?」

 

「荒船隊が勝ってました」

 

「そうだけど。そうじゃない、うちのチームは一点も取れなかった」

 

 確かに、そうだった。

 最初に巴隊員が落ちたことにより思うように連携ができず、那須隊員にすりつぶされていた。

 それを気にして、個人的な練習というわけか。

 

「なるほど。でも、柿崎隊の強みは連携ですよね?ここにきても、練習にならないのでは?」

 

「個人での実力も大事だろ?あの戦いは俺が那須さん相手にもっと圧をかけれていれば変わったはずだ」

 

 だから、一対一で戦おうと。

 まあ、あの戦いは一対三の状況をうまく使えなかったのが残念だったしね。穂刈隊員の狙撃に崩されたってのもあるけど。

 巴隊員は柿崎隊全体を整える役割を持った人だ。時間差ハウンドなどちょっとした技術のあるタイプの人だ。

 彼が一番最初に落とされるのは連携的にもでかかったんだろう。

 

「確かにそうかもしれませんね」

 

「う……なかなか容赦ないね」

 

「個人的には柿崎隊は何か一芸あった方がいいと思いますよ」

 

「一芸?」

 

「オールラウンダーしかいないからこそ器用貧乏になってる気がします。誰かが近くにいると他二人は銃が撃てないし、みんなで距離をとって撃ち合うと決め手に欠ける。だから、一気に敵を崩せる何があると変わると思います」

 

 ただの部外者の意見ですけど、と加えておく。

 あくまで俺がログを見ていて、今日のランク戦を見て思ったことだ。

 オールラウンダーはなんでもできて、何もできない。全部できるから、これってのがないイメージ。

 

 それに、柿崎隊って全員中距離メインのオールラウンダーって感じで、近距離をメインとしている人がいない。

 巴隊員がそれに該当するんだろうけど、点取り屋って感じじゃないし。

 

「なるほど……一芸か」

 

「新人の一意見に過ぎませんけどね?あまり真面目に考える必要も──」

 

「いや、いいかもしれない」

 

 一芸ってそんなぽんぽん手に入るものじゃないから、真面目に考えられると困るんだけどな。

 ましてやここまで隊員としてやってきたならおのずと自分らしいスタイルがあるだろうし、変えるのは簡単じゃないはずだ。

 自分から言っておいてあれだが、かなり非現実的だと思う。特に柿崎隊では。

 

 真面目に考え始めてしまった柿崎先輩。

 もし失敗しても俺にせいにするような人じゃないと思うが、なんか部隊の人間でもないのに他の部隊に口出しするのは良くないな。

 もしもを考えると、恐ろしい。意見できるほど実績があるわけでもないし。

 

 と、心配していると新たな人影がこちらに近づいてきた。

 

「一人なんて珍しいじゃん。柿崎さん、何してるの?」

 

「ん?熊谷か。ちょっと、チームについてアドバイスをもらってね」

 

 短髪の女性。

 一方的に見覚えがある。

 この人もさっきのランク戦で戦ってた那須隊の攻撃手、熊谷友子(くまがいゆうこ)先輩だ。

 

 茜からちょくちょく話も聞いてる。

 信頼できる先輩だって。

 

「こんばんは、熊谷先輩」

 

「あれ、ごめんなさい。あたし、あなたと会ったことあったっけ?」

 

「初めましてです。けど、お話は茜からいろいろと」

 

「茜から?あ、もしかして壽くん!?」

 

「はい、壽です」

 

 茜の方から俺のことは既に話されていたようだ。

 ま、学校で数少ないボーダー隊員だし話すか。あの子、色々と話しそうな感じあるし。

 

「え、君が壽くん!?」

 

 その言葉に、柿崎さんが反応する。

 なぜ。

 

「あの正体不明の期待のルーキーがこんなところにいたとは」

 

「誰ですか、それ」

 

「あなたのことよ、壽くん」

 

 知らない二つ名だ。

 俺の知らないところで知らない名前が付けられていたらしい。

 しかもかなり大層な。期待されるほど実績を残していないのが悲しい。

 

「その恰好を見るに、もうC級じゃないのよね?」

 

「そうですね」

 

「なら一戦いいかしら?実力、教えてちょうだい」

 

「いいですよ。ちょっと寝て元気も戻りましたし」

 

 完全に燃え尽きていた調子も、戻ってきた。

 体を起こすためにも一戦しようじゃないか。

 

「じゃあ、柿崎さん。俺はここで」

 

「ああ、悪かったね。意見、参考にさせてもらうよ」

 

「いや、そこまで真面目に受け取る必要はないと思いますけど」

 

 思ったより俺の意見を真面目に考えている柿崎さんと別れ、俺は記憶的にはついさっき離れたブースへと戻る。

 いやな思い出がよみがえりそうになるが、ぐっと記憶の奥底へと押し込んでおく。

 

「10本でいいわよね?」

 

「はい、大丈夫です」

 

 熊谷先輩から申請が来るので許可。

 すると数秒で、俺の体は仮想空間へと飛ばされる。

 

『対戦ステージ「市街地A」 個人ランク戦10本勝負 開始』

 

 いつものマップ。

 だが、戦う相手は知らない人。

 厳密にいえば、ログで見たことあるから知ってるけど、実際の戦うのは初めてだ。

 

 だが、やることは変わらない。

 

「アステロイド」

 

 開幕早々、アステロイドを散らしながら、間合いを詰める。

 熊谷先輩は弾トリガーを入れてないから攻撃される心配がない。中距離で戦ってもいいが、基本的には決め手に欠けるのでやめる。万が一に備える必要があるからな。

 それにちんたら戦うのは好きじゃない。一般的に弾トリガーで倒しきれることはまれなので弧月で戦った方が戦闘のスピードも上がって戦いやすい。

 

 そんな目的で放たれた俺のアステロイドは、すぐさまシールドを展開して対応される。B級で戦ってきた人間なだけあって対応が早い。もともと防御寄りなこともあり、攻撃を受けることには慣れているのもありそうだ。

 シールドは一枚。面を意識した攻撃なので、妥当な判断だろう。

 

 しかし、三輪先輩すら初見で防ぎきれなかった一撃は。

 

「え」

 

 シールドをやすやすと貫通して、熊谷先輩の体を貫いた。

 

『トリオン供給機関破損 緊急脱出』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 加古隊作戦室トレーニングルーム。

 加古と黒江がお互いの戦い方を把握するのも兼ねて戦っていた。

 結果は、加古の圧勝。中距離ではハウンドとアステロイドで、近距離ではスコーピオンを交えつつ黒江から一撃も受けることなく倒し続けていた。

 黒江の得意とする速度を活かした攻撃に全く驚く様子も、ひるむ様子も見せずに、完璧にいなして見せた。

 

「センスは良いわね。壽くん相手にやりあえるだけあるわ」

 

「でも、加古さんには全く……」

 

「当たり前でしょ。A級は強いってことよ。でも双葉、あなたシールドを厚く張る癖があるわね」

 

 戦闘中、黒江はどんな弾にも過剰と言えるほどの厚さでシールドを張っていた。

 それが仇となり、攻撃を防ぎきれない場面が何度かあったのを加古は見逃さなかった。

 

 そのせいで得意の速度が使えなかったり、ハウンドなどに余計に気を使ってたりしていた。

 悪い癖によって黒江の良さが活かしきれていないと、加古は思っていた。

 

「もっと薄く広く張りなさい。そんな厚いシールド、アステロイドでもよっぽど威力に振らないと割れないわよ」

 

「そう……なんですか?」

 

「そうよ」

 

 黒江に発言に同意しながらも、加古はそれに違和感を覚える。

 歯切れの悪いその返答は、まるで割ってくる人間がいるかのようだった。

 一瞬二宮が思い浮かぶが、黒江が彼と戦ったという話は聞いたことがない。それに、いくら彼でも簡単にシールドを割るほどじゃない。

 いくらトリオン量が多い彼でも、今のシールドは昔ほどもろくない。

 

「誰か、心当たりがあるの?」

 

 好奇心に負け、聞く。

 一体、だれがそれほどのことを成しているのか。

 

「壽先輩は二、三発のアステロイドでシールドを割ってくるので、いつもこれぐらいにしてるんですけど、皆さんこんな感じじゃないんですか?」

 

 壽と戦った人間しか知りえない。

 また、壽と戦った人間がいやでも意識する事実。

 それを加古は知らなかった。

 そして、壽と何度も戦う黒江はそれに最適化し、彼女のスタイルができていた。

 

 二宮に射手を教える気にさせ。

 

 三輪を容赦なく喰い破り。

 

 加古に衝撃を与えたそれは。

 

 今確かに、頭角を現していた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。