『10本目 開始』
熊谷先輩との試合も、これで最後だ。
今のところの結果は6対3。
最初、アステロイドでシールドを容赦なく割ったことで得た初見殺しのような卑怯な点を除くのならば、5対3だ。最初を抜いても俺の勝ちである。
それもそのはず。俺は熊谷先輩のトリガー構成から戦い方の癖まで基本的にもう見たことがあるものだ。もちろん、映像と現実では違うところがあり3点取られているが、基本的には情報戦の部分で有利が取れているので、試合自体は俺が優勢だ。
「アステロイド」
初戦と同じように適当に散らす。
しかし、今回は後ろに大きく引き、熊谷先輩に俺の有利を押し付ける。
彼女は弾トリガーを入れていないので、距離をとられるとどうしても戦いづらくなる。
ましてや、シールドをやすやすと割ってくるようなアステロイド。
真正面から食らうのはいただけないはずだ。
「またそれ!」
向こうも何をするべきなのかわかっているので、シールドではなく路地へと入る。
こういう時にバイパーがあると便利なんだけど、あれいまいち感覚がつかめない。
なんか、やりづらかった。練習あるのみだね。
しかし、どうしようか。
遮蔽に隠れられると何もできないんだよね。
アステロイドで吹き飛ばしてもいいけど、穴が開くだけだし。
だったら
「旋空──」
弧月で切るか。
そう思い構えるが、それを待っていたようで熊谷先輩が突然飛び出してくる。
アステロイドで打ち抜くか?いや、近すぎる。今から調整して、分割、射出までやってたら弧月が先に来る。
なら。
無理矢理合わせるしかあるまい。
後ろに飛びながら、熊谷先輩の弧月にぶつけるように。
「──弧月」
伸びた刀身を当てる。
威力は不十分。だが、攻撃を受ける分には事足りる。トリオンの無駄遣いが気になるがしょうがない。
どうせ使うのなら、派手にね。
「っ!」
とりあえず足で蹴り飛ばして、距離をとろうと思ったのだがなんとそこにはシールド。
読まれていたらしい。
不格好な形で決まった蹴りによって、俺の体に衝撃が走る。
肉だとか骨だとかはないはずだが、体の動きが阻害される。
目の前に敵がいる状況で、体が一時制御を失った。
それは。
あまりにも迂闊。
「ちっ」
無理矢理体をねじり、熊谷先輩の弧月を避けようとする。
が、完璧にはよけきれず横腹を弧月が切り裂いた。
一気にトリオンが漏れ出す。
あまり喜ばしくない状況だが、この程度なら継戦に問題はない。
腕が持ってかれるとかじゃなかっただけ感謝しないとな。
そして、問題はここからだ。
完璧に弧月の間合いとなった以上、アステロイドにまで気を配る余裕はなくなり始めている。
ましてやトリオン漏れ中。常時トリオンが減っていく状況で、バンバン撃てるほど俺の頭はやられていない。
後ろに引きながら戦うが、完璧に攻守が切り替わった状況では俺が不利な立場に追いやられている。
防御を得意とする熊谷先輩に押し込まれ始めた。
「アステロイド」
攻撃を受け流し、一度引きはがすために俺の前方を横から挟むように撃ち込む。
さすがに両方から挟まれては熊谷先輩も余裕がないようで、引いてくれた。
「ふっ」
しかし、あくまで最低限。
当たらないぎりぎりを狙って下がった熊谷先輩は、すぐさま攻撃を再開してくる。
どうしたもんか。
致し方ない。
別に虎の子ってわけでもないし、使っちゃうか。
「グラスホッパー」
「え」
一歩。
踏み出した熊谷先輩の右足が突如現れたグラスホッパーを踏み、体が一気に上空へと打ち上げられる。
こうなってしまえば、熊谷先輩のトリガー構成では何もできない。
「アステロイド」
威力重視、射程はぎりぎりまで削ったお得意のバカ火力アステロイドは熊谷先輩の集中シールドを二枚とも食い破り、容赦なく彼女の体を貫いた。
『10本勝負終了 勝者 壽知盛』
「いやー、なかなかの激戦でしたね。熊谷先輩」
「そうね……。いろいろと気になることがありすぎてあれなんだけど、まずはあのアステロイドよ。何あの火力」
「自分にもよくわかりませんってのが答えです」
「それ、答えになってないわよ」
「そうですよねー。でも、本当に分からないんですよね。トリオン量は6だから多いってわけじゃないんですけど、なんかすごい火力してます」
二宮さんにもなんだそれはって言われたけど、分からないので答えようがなかった。
それに俺のトリオン量は6なのでサイドエフェクトの可能性はないだろと言われたし、なんでだろうね。分からん。
試合の後、俺と熊谷先輩はボーダーのラウンジで夕食をとりながら、先ほどの試合について話していた。
そして、その感想会の最初の議題が、俺のアステロイドというわけだ。
「ま、いいわ。それでグラスホッパー。持ってたの?」
「はい。使い道がなかったので使わなかったですけど、あそこならはまるかなって思ったんで」
「まさか、最後まで隠されてるとは思わなかったわ」
初見殺し的な使い方ではあるが、あの使い方自体はよくある使い方ではあるので、もしもっと序盤に使っていたら対応されていたかもしれない。
1つ入れておくだけで多彩な使い方ができるので、俺は入れている。俺が使ったり、相手に使わせたり。
浮かせてから、アステロイドで撃ち落とすのは俺がよくある攻撃の1つだ。あれに対応できる人間はそうそういないので、結構な頻度であれをつかい、無数の隊員たちを貫いてきた。
そして集めたポイントは、二宮さんと三輪先輩に吸収されていった。
食物連鎖ってやつだ。悲しい。
ま、俺がランク戦をそこまでやらないせいでもあるんだけどね。
二人に持ってかれるポイントの量は誤差程度なのだが、俺がポイントを集めないので収入よりも支出の方が多いのだ。ただ働かないくせに、いろんなものに金をかけるだけの人間である。お金に例えるのかが正解か分からないけど、まあそんな感じなのだ。
「別に隠してるつもりはなかったんですけどね。高機動戦闘って疲れるのであまり多用しないので、単純に出番がないだけです」
「じゃあ、やりようによっては緑川みたいな戦闘ができるってこと?」
「いや、緑川が言うには、俺とは似ても似つかない戦闘スタイルだね、だそうです」
「そんなに?」
俺の言葉に怪しがる熊谷先輩。
言いたいことは分かる。高機動戦闘なんてピンボールやるぐらいしかないし、あとは香取隊員みたいな銃トリガーを交えたオールラウンダーな感じの戦い方だ。
俺もアステロイドは入れているが、さすがに銃トリガーとは使い勝手が違うのであの近距離戦に差し込むように撃つのは楽じゃない。だから、似るとしたら緑川のような戦い方なのだ。
しかし、それは本人に否定されている。
そうなると見当もつかない戦い方しかなくなるわけだ。
「いつか見せてあげますよ」
「生意気なこと言うじゃない。私じゃ見せるに値しないって?」
「そういうわけじゃないですよ。普通に疲れるんで」
あの戦い方は好きでやるもんじゃない。
最高に気分が乗って、後のことを考えなくて済む状況なら使ってもいいけど、その後を予定をすべて睡眠に変える必要が出てくる。
ポンポンと使えるものではないのだ。
その後も、あれやこれやと意見を交わした。
俺の戦い方は熊谷先輩にとってかなり珍しいものだったようで、色々と聞かれた。
部隊を組んでいるB級隊員と、A級隊員の戦い方は全部頭に入れてると言ったら驚かれたが、友達作りの時期を犠牲にした成果だ。これぐらいの利益がないと釣り合わないだろう。
おかげで、同期の友人は黒江しかいないわけだし。
「今日は色々とありがとうございました。夜もおごってもらって」
「いいのよ。申し訳ないって言うのなら、今度戦う時はグラスホッパーを使った戦い方ってのを見せて頂戴」
「そうきますか。ま、いいですよ。見たいって言う人には見せてあげます」
それが今回のおごりのお礼になるのなら、何度でもやろう。
情報を金で買うスタイルは嫌いじゃない。立派な作戦だろう。
「じゃあ、自分はこれで」
「ええ、また今度」
さっさと諏訪隊の作戦室に帰るつもりだったのに随分と時間がかかった。
もう夜も遅いし、今日は帰るだけかな。
アンケートの方締め切らせてもらいました。
皆さん、ご参加いただきありがとうございました。
以下、アンケート結果
1 ──二宮隊 61票
2 ──那須隊 40票
3 ──加古隊 30票
4 ──玉狛 25票
5 ──影浦隊 24票
弓場隊
7 ──香取隊 21票
8 ──王子隊 12票
9 ──諏訪隊 11票
10──東隊 10票
鈴鳴第一
柿崎隊
11──生駒隊 6票
12──漆間隊 2票
荒船隊