ただ愛されればそれでいい   作:サラダボウル

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那須隊

 那須隊作戦室。

 壽と別れた熊谷は、荷物を取りに戻っていた。

 

「あれ、みんなまだいたんだ」

 

 室内には那須玲(なすれい)、日浦茜、志岐小夜子(しきさよこ)と、熊谷以外の那須隊のメンバーが全員そろっていた。

 ランク戦後で疲れているであろうに、だれも帰っていなかったのだ。

 

「くまちゃんこそ、夕飯食べてくるって言ったわりに随分と時間がかかったじゃない」

 

「個人ランク戦のロビーに寄ったら珍しい子に会ってね」

 

「珍しい子って?」

 

 熊谷の濁すような表現を不思議に思った那須が訊き返す。

 熊谷がわざわざ珍しいなんて表現をするような人間はいただろうかと考えるが、特に思いつかない。

 

「誰のことですか!」

 

「茜のところに新しく来た壽くん」

 

「噂の子?やっと会えたんだ」

 

「そうそう、茜からいろいろと話は聞いてたけどすごい強いわ、あの子」

 

「今期入ったばかりの子でしょ?まだ入隊して一か月ぐらいなのにそんなに強いの?」

 

「知盛くんの師匠は二宮さんと、東さんと、三輪先輩ですから!強くて当然です!」

 

「「え」」

 

 突如明かされる衝撃の事実。

 何も知らない代表の日浦だけが知っていた特大級の爆弾は、今那須隊の作戦室で爆発した。

 

「に、二宮さんに東さん。それに加えて、三輪くんまで!?何がどうしたら、そのメンツが師匠になるのよ!?」

 

 全員現もしくは元A級というあまりにも豪華すぎるメンバー。

 しかも、その中には弟子をとるような人間とは思えない二宮の名前まである。

 

「そ、そこまではさすがに知らないですけど。東さんから紹介されたって言ってましたよ」

 

「理解はできるけど、納得はできないわね」

 

「すごい英才教育って言えばいいのかしら?くまちゃん、そんな相手と会ってきたの?」

 

 東つながりならあり得る話ではあった。

 壽がいくらすごい記録を持っていたとしても、あの二人は簡単には弟子は取らない。とるはずがない。

 しかし、東からの頼みであれば、二人とも嫌だとは言えない。元東隊の一員として、恩師ともいえる人間からの頼みは無下にはできないはずだ。

 

「正確には戦ってきたのよ。なるほどね、ならあの強さも納得だわ」

 

「結果ってどうだったんですか?その口ぶりからすると接戦だったんですか?」

 

 今まで会話に入ってこなかった志岐が訪ねてくる。

 あまりに熊谷が壽のことを評価するものだから、気になったのだ。

 

「七三。向こうが七で、こっちが三」

 

「くまちゃん相手に七勝?でも、教えてる人たちのことを考えると納得できる……のかしら?」

 

「それと、こっちのトリガーとか癖はバレてたらしいしね。大体の隊員の戦闘は見たことあるんだって」

 

「そういえば、最初の方に諏訪隊の作戦室でログをずっと見てたって言ってました!」

 

「諏訪隊?あの子って、もう諏訪隊に入ってるの?」

 

 だとしたら、なぜ諏訪隊の隊服じゃないのか。

 壽のきていた服は諏訪隊の隊服でも、熊谷の記憶にあるどこの隊服にも一致しなかった。

 だから、フリーだと思っていたのだが諏訪隊という名前が出たことで謎が生まれる。

 

「諏訪さんのいとこだそうです!だから、諏訪隊のところでよくしてもらってるって」

 

「じゃあ、壽くんは諏訪隊に入るってこと?」

 

 那須の問いに、日浦は首を横に振る。

 

「今のところどこにも入るつもりはないって今日の朝は言ってました。声もかけられてないからって」

 

「じゃあ、東さんと二宮さんと三輪くんを師匠にしてるB級隊員が完璧にフリーってこと……」

 

 諏訪隊じゃないなら、二宮隊か東隊かと一瞬思った熊谷の予想はすぐに裏切られた。

 東から戦術を、二宮から弾トリガーを、三輪から近接戦を教えてもらっている金剛石が手つかずで目の前にある。

 それは那須隊にとって戦力を大きく向上させるチャンスでもあるし、他チームが一気に強くなる危機でもあった。

 

 このまま順当にいけば二宮隊、東隊、諏訪隊のどこかに入ることになる。

 そのどこに入っても脅威だ。二宮と三輪の戦闘スキル、そして東の戦術を引き継いだ存在が敵として現れるなんて考えただけでも恐ろしい。

 そして、それを自分の部隊だけで独占出来たらどれだけの利益が生まれるか。

 

 うちにほしい。

 そんな感情が、熊谷に生まれると同時に様々な問題がその感情を追い出すように現れる。

 那須隊がガールズチームであることや隊服と言った些細な問題。そして何より、志岐の男性恐怖症。

 那須隊がより上に目指すには喉から手が出るほど欲しい存在だが、入れるには問題がありすぎる存在でもあった。

 

「そうなんだ。今期のランク戦も面白いことになるかもしれないわね」

 

 と、那須が会話をまとめて立ち上がる。

 それと同時に熊谷の思考も作戦室へと戻ってきた。

 

「くまちゃん、一緒に帰りましょ」

 

「そうね。じゃあ、先に失礼するわね。二人とも」

 

「はい!また!」

 

「さようなら。那須先輩、熊谷先輩」

 

 荷物を取り、那須と熊谷は部屋を出た。

 もう見慣れた何もない通路を歩く。慣れない間を感じながら。

 

「その壽くん。どこかで会えるかしら?」

 

 そして、その間を恐れずに会話を始めたのは那須だった。

 部屋を出る直前の心ここにあらずな熊谷を見て、何を考えているのか理解した彼女は隊長として行動を始めようとする。

 

「え、壽くんに会うの?」

 

「もしかしたら仲間になるかもしれない子なんだから、隊長として面接しなきゃ」

 

 向こうは入りたいって言ってるわけではないので、面接は気が早いのではとは思うものの、隊長がそういうのならしかたない。

 そう判断した熊谷は、那須のお願いを承諾する。

 

「てか、仲間になるかもって?」

 

「さっきくまちゃんがそんな顔してた」

 

「ははは、ばれてたか」

 

「もちろん、簡単に入れるわけにはいかない理由もわかるけど、駄目な理由なんて探しても意味ないでしょ?」

 

 自分よりも何倍も前向きで、そして何倍も自分よりも自分のことを理解しているのかもしれない少女、那須玲。

 そんな彼女と共に歩めることを熊谷はうれしく思う。私は恵まれてるなと。

 

「話を聞いてる限りだとすごい子だって話だしね」

 

「今は良いけど、どこの隊に入っても脅威だよ」

 

「なら、うちに入ってくれたら他の部隊にとって脅威ね」

 

 本当に彼女は強いなと、熊谷は思う。

 那須隊のエースとして、指揮官として部隊を引っ張り、前へと向ける。

 本来なら彼女にすべてを任せるべきではないことは分かっている。自分たちがそんな那須に甘え、彼女の力になり切れていないとも思っている。

 だが、そんな中でも那須玲は常に隊長であり続けた。

 那須隊を率いる人間として、彼女は何事にも負けない姿勢を見せ続けた。

 だからみんながついてくる。自然と、熊谷も日浦も志岐も彼女を慕っていた。

 

 それが那須隊の良いところで、悪いところだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 壽と熊谷の一戦からしばらくして、日浦を通して壽を呼んでもらい那須と熊谷は壽の面接(?)をすることになった。

 放課後、予定の時刻の少し前にラウンジへと向かう。ほんの少し緊張しながらも、期待のような感情を胸に抱きながら。

 

 熊谷と日浦からいろいろと話は聞いているが、完璧に初対面の人と会うということで気を引き締めている那須。

 そんな雰囲気を感じて、なぜか自分も緊張している熊谷。

 

 そんな二人が、ラウンジで目にしたのは。

 

「いいかげん、どっか入ったらどうなの?」

 

「あんまり気が進まないんですよね~」

 

「仮にもB級になったんだから働け」

 

真木理佐(まきりさ)先輩厳しい~」

 

 勧誘(のようなもの)を受けている壽の姿であった。




誤字報告ありがとうございます。
こちらでも確認していますが、所詮は人間が一人何度も読み返しているだけですので、発見した際には「なめてんのかこいつ」と思いながら報告してくださると助かります。
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