ただ愛されればそれでいい   作:サラダボウル

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面接

「えっと……」

 

 茜というか、厳密には那須先輩に呼び出された俺はラウンジで先輩が来るのを待っていたところ、マキリサ先輩につかまりありがたーーーーい言葉を聞いていた。

 そんなところに那須先輩と熊谷先輩が合流し、事態は混沌を極めた。

 

 主にマキリサ先輩のせいで。

 

「真木先輩も一緒にいるんですか?」

 

「面白そうだし、別に玲とは仲いいから。構わないよね?」

 

「はい、大丈夫ですよ」

 

 本当に大丈夫なのだろうか。

 現に熊谷先輩はなんかすごい顔してるし。

 あの顔には一体どれだけの感情が込められているんだろう。分からない。

 

「じゃ、じゃあ、本題というか。今日はどのような要件でしょうか?」

 

「要件って言うほどじゃないの。ただちょっと、茜ちゃんがいろいろお世話になってるらしいから、お近づきにってだけよ」

 

「どちらかというと俺が世話されてる側な気がしますが……」

 

 ボーダーの入隊試験の時とか、学校生活とか。

 なんやかんや茜にはお世話になっている。

 

「細かい男は嫌われるよ」

 

「マキリサ先輩は黙ってて」

 

 茶々を入れてくるんじゃあないよ。

 ただでさえ、那須先輩に呼ばれた理由がいまいちわからないのに。

 うちの茜に手出してんじゃないよ!って感じなのを想像してたけど茜に否定されたしな。

 

 お近づきになりたいってのも正直よくわからん。

 茜がなんか言ったのかな。

 

「そういえば、壽くんって今フリーなのよね?何か理由が?」

 

「いや、ただ誘いもないですし、自分から売り込みに行くようなタイプでもないので」

 

 結局部隊への誘いはどこからもきてないな。

 加古さんからは挨拶のように来るけど。

 それ以外からはない。二宮さんとか東さんの部隊の人数的には余裕があるけど、あくまで俺の弟子ってことなんだろう。誘われないし。

 

「あんなに強かったのに誘われてないって本当なの?今までいろんな人と戦ってきたでしょ?」

 

「いろんな人って言っても、基本知り合いだらけですよ。それに部隊に所属してないB級隊員だって多いですし、部隊にまで俺のことが届かないなんてよくあるでしょう、熊谷先輩」

 

「んー、そんなもんかなー」

 

「あと、訓練はいつも作戦室でやるんで、単純に個人ランク戦に顔を出さないってのもありますけどね」

 

 以前のように個人ランク戦の会場で二宮さんや三輪先輩とやるのは実は珍しいのだ。

 いつもは作戦室での訓練のついでにぼこぼこにされてるからね。ここ最近は三輪先輩には勝率が三割いきそうなぐらい、二宮さんには一割いけそうかもぐらいだから最初よりはマシになってきた。

 

「じゃあ、壽くんは部隊に所属したくないってわけじゃないんだ?」

 

「そうですね。B級ランク戦にも興味はありますし、どこか誘ってくれるのなら前向きに検討しますよ」

 

 東さんからは自分で作ってもいいんだぞって言われたけど、あいにくと俺にはそんな知り合いがいない。

 なので、誰かに誘ってもらうのが一番近いと思ってる。

 

「那須先輩からすると俺は部隊に所属したくないように見えましたか?」

 

「いえ、そういうわけじゃなくて、気になっただけ」

 

「そういう感じの話なら私は席をはずそうかな」

 

 と言って、マキリサ先輩が立ち上がった。

 どういう風の話でもあなたの居場所は最初からなかったと思いますけどね。

 

「ここまで聞いておいて帰るんですか?」

 

「ちょっと気になって聞いてただけだし、玲。そういうのは慎重にね」

 

 那須先輩にそんな言葉をかけ、真木先輩は帰って行ってしまった。

 そういうのとは?真木先輩は何か気づいたことがあるのだろうか。それなら教えてから帰ってほしかった。

 

「もう、真木ちゃん言っちゃダメじゃない」

 

「まあまあ、ここまで話していまいちピンと来てない。壽くんが鈍感すぎる気もするし」

 

「鈍感?」

 

 俺バカにされてる?

 

「この際だから言っちゃうとね、実は私たちあなたのことを──」

 

「お!いた!」

 

 熊谷先輩が何か言いかけたその時、ある一人の男性の声が聞こえてきた。

 この声は。

 

「壽くん!いまからちょっといいかな!」

 

 突如現れたのは柿崎さん。

 最近よく会う。あと、作戦室に呼ばれる。

 

「え、あ、今は」

 

「大丈夫ですよ」

 

「「え」」

 

 俺と熊谷先輩の声が重なる。

 なんかめっちゃ言いかけてなかった?

 

「すまない!壽くん!この前にランク戦のことで聞きたいことがあって」

 

「ああ、分かりました。えっと、それじゃあ、お先に」

 

 なんだか釈然としないが、那須先輩が良いと言ったらなら俺が介入する理由はない。

 あくまで会話の主導権を握っていたのは向こうだし、向こうが結構と言ったらならそうですかと俺は従うしかないわけだ。

 熊谷先輩は何を言おうとしてたんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「玲、行かせて良かったの?」

 

 結構大事な話をしている最中に遮られ、止めてくれると思ってた那須からは突き放されたことで熊谷は不安そうな顔を那須に向けていた。

 しかし、当の那須自身はさほど気にしていないようだった。

 

「今日はあくまで会いに来ただけって言ったでしょ、別に勧誘までするつもりはないのよ」

 

「そ、そうだけど。向こうはわかってなかったし、ある程度は意識しといてもらわないとどっか行っちゃうかもよ?」

 

 今回の面接(ようなもの)がただのちょっとしたお茶会程度に捉えられていたら、壽は他の部隊の誘いにひょいひょいとついていってしまうんじゃないかという予想が、熊谷をほんのわずかに焦らせる。

 実際に、彼は柿崎に連れていかれてしまい、すでに他の部隊とも親身にしている様子だった。

 こんなところで手をこまねていている暇はないのではないかと、熊谷は思っていたのだが那須はそういうわけではなさそうだった。

 

「それに、私たちの一存で決めれることでもない。特に小夜子ちゃんには話しておかなきゃ」

 

「そう……だけど、もしかしたらこの後柿崎隊に誘われちゃうかもよ?」

 

「確かにね。でも、あの感じを見るにその場で即決はしないでしょう」

 

「本当に?」

 

 一体どこに根拠があるのか分からない発言に、熊谷は怪訝そうな顔を那須に向ける。

 なぜそう言い切れるのか、熊谷には分からなかった。

 

「だって、壽くんはさっきどこか誘ってくれるところがあったら前向きに検討するって言ったのよ。ぜひ加入したいじゃなくて」

 

「それはただ言葉の綾じゃなくて?適当に濁したみたいな」

 

「かもしれないけど、わざわざ濁す必要がある?誰かに見張られてるわけでもないし、心から部隊に入りたいと思っているのなら、もっと直接的な表現でいいはず」

 

 それなのにあんな表現を使うなんて、まだどこか迷ってる証拠じゃない?と那須は言い切った。

 まだ焦る必要はない、と。

 

「まあ、玲がそういうのなら私もこれ以上は言わないわ。小夜子の件とかが全く片付けられてないのも事実だし。ちょっと焦りすぎてたかも」

 

「くまちゃんが焦る気持ちもわかるわ、彼の師匠のことを考えると他には渡したくない人材であることは確かだもの」

 

 東の戦術と二宮の弾トリガーと三輪の近接戦、それを引き継いだ存在など脅威でしかない。

 この事実が大きく知れ渡る前に、できるだけ那須隊がリードを作る必要がある。

 彼に那須隊に入るという選択肢を見せる必要があった。それができたのかは定かではないが、彼が入隊を考える際に那須隊が候補ぐらいには上がるようになっただろうと、那須は考える。

 

 これだけでも、他の隊よりかは進んでいる。

 

「とりあえず、私たちは部隊内での問題を片付けましょ。みんなから賛同を得られたら、本格的にって感じで」

 

「分かったわ。まずは、小夜子の説得ね」

 

 席を立ち、那須と熊谷の二人はその場を後にする。

 目的を果たしたかは定かではないが、どの部隊よりも一歩先を歩いているのは確かだ。

 壽争奪戦は今、那須隊のフライングという形で開幕した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふーん、那須隊が動いたか」

 

 その様子を、後ろの席で静かに聞いている人物がいた。

 壽の姿を見つけ、さらに真木、那須熊谷と続くのを見て話しかけるのをやめたことを正解だと思いながら、彼は状況を整理していた。

 いつまでも動かない壽を一体だれが一番最初に狙い始めるのかと思っていたが、それが那須隊なのは少々意外だった。

 

「諏訪隊が最初だと思ってたんだけど、壽くんだからこそ諏訪隊は手を出さない感じかな。これは」

 

 あまり壽の情報が出回っていないことを考慮すると、壽とつながりのある黒江と日浦と諏訪隊を通してでしか彼のことは広がらない。

 諏訪隊が広げないとなると、後は黒江と日浦だけとなり、黒江もそこまで人に彼のことをを話すタイプではない。

 なら、那須隊が一番最初に動き出すのは妥当ではあった。だが、那須隊には部隊内に男を入れられない理由があるので、まさか真っ先に動くとは考えていなかった。

 

「うーん。どうせならうちにほしかったけど、二宮さんあんまり乗り気じゃないからなぁ」

 

「そうなんですか?犬飼(いぬかい)先輩」

 

 犬飼の言葉に、正面に座ってパフェを食べていた辻が反応する。

 壽たちが話し始めたぐらいに到着したパフェは、もうなくなりそうだ。

 

「弟子っていうのを自分の部隊に入れたくないんじゃない?どうせなら超えてほしいみたいな」

 

「二宮さんってそういう熱血な感じでしたっけ?」

 

「周囲への態度こそあれだけど、中身はもっと単純だよ。熱い人」

 

 仲間のために頭を下げ、上層部と渡り合い、我を通そうとする人間。

 それを熱い人と表現するのは、犬飼らしさというべきだろうか。

 

 そうなんだ、と返事をしてパフェの底の方にスプーンを突っ込む辻はそこまで犬飼の発言を気にしてはいないようだった。

 あくまでメインはパフェらしい。

 

「ま、その方がおれとしても面白いからいいけどね~」

 

 飄々と話題を流すようにそう口にする犬飼。

 壽がどこに入っても、それは良いものとなると考えている彼にとって選択はたいして重要ではない。

 その選択の先にある結果が気になるだけで、彼がどこの部隊に入ろうとも面白いのだ。

 

「じゃ、そろそろいこっか」

 

 辻が食べ終わると同時に、犬飼は席を立つ。

 聞きたいことは聞いたし、辻のパフェもちょうどなくなった。

 

「はい」

 

 ほんのわずかな時間。

 様々な人物の思惑がぶつかった場所には、もう何も残っていない。




ランク戦前に聞きたかったことをアンケートにしておきます。
『切れ味がOFFにされた弧月は固いのか』
お好きな方にご回答ください。投票数が多かった方が本作では採用されます。

※固い ……OFF状態でもON状態と強度は変わらない。
※もろい……スコーピオン以上のもろさで、相手の弧月を受け止めたらそのまま折れて
      しまう。
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