ただ愛されればそれでいい   作:サラダボウル

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※漆間は銃手でした。こちらの勘違いです。大変申し訳御座いませんでした。


柿崎隊

「おじゃましまーす」

 

 柿崎さんに連れられて、ランク戦の感想を言ってほしいとのことで俺は柿崎隊作戦室に来ている。

 以前にも一度頼まれたことがあり、柿崎さんが言うにはとてもよかったらしい。

 

 ランク戦の解説はためになるが、あくまで全体を見ての解説。

 こうやって自分の部隊の問題点を洗い出すには、個別に自分の部隊を見てもらった方がいいのは間違いないけど、なんで俺なんだろう。

 東さんとかに頼む方がいいと思うけどな。

 

 なんて思いながら、俺は今日も柿崎さんの誘いに乗ってここに来た。

 人に頼られて悪い気はしないからね。母さんも、恩はうっとけって言ってたし。

 

「あ、壽くん。また柿崎(ザキ)さんに捕まった感じ?」

 

「あはは、そんな感じです」

 

 俺を出迎えてくれたのは柿崎隊のオペレーター宇井真登華(ういまどか)先輩。

 前回解説したときは途中から合流して、熱心に話を聞いていた。黒江みたいなタイプ。

 

 他には柿崎隊には虎太郎(こたろう)照屋(てるや)先輩がいるのだが、今日は不在らしい。

 あの二人も結構熱心に聞いてくれるから、どうせなら居てくれた方がうれしかったんだけどな。

 

「昨日やった試合なんだが」

 

 そう言って、柿崎さんは昨日の試合をモニターに映す。

 柿崎隊VS漆間隊VS鈴鳴第一の試合。ステージ選択権は柿崎隊。

 

「ステージは工業地区。天候を雨に設定してやったんだ」

 

「完璧に狙撃手を使えなくさせるためにってことですか?」

 

「そうだ。ただでさえ狙撃手向きではない工業地区。さらに、雨にすることで視界を悪くしたんだ」

 

 狙撃手がいない柿崎隊が選ぶステージは悪くないと思った。

 天候を雨にすることでより一層、狙撃手が使いづらくなるわけだし。一部隊は狙撃手だけの漆間隊。一部隊つぶせるのはかなり良い。

 

「それで、どんな感じになったんですか?」

 

「それは、映像を見ながら……」

 

 ランク戦のログが再生され、所々で柿崎さんがこの動きがどうだったかと聞いてくる。

 こう考えてこうした。結果こうなったがどう思うか。

 その結果が柿崎隊にとって良いものでも悪いものでも、常に聞いてきた。さらに良いものがないか知りたいってところだろう。

 そのたびに、俺は東さんの知恵を思い出しながら、俺の分かる範囲で答える。

 ここが良かった。ここが悪かった。そこの判断は悪くないが、次に繋がらないから意味がないなどなど。

 聞かれたことはもちろん。聞かれていない部分にも時折口を出し、解説する。

 

 そのすべてにメモを取るもんだから、大変そうだと思う。

 俺もメモを取ることはあるが、全部取ってたらきりがない。

 ま、柿崎さんには柿崎さんのやり方があるだろうし、そこには口は出さなかった。

 

「とまあ、全体を見て思ったことはそんな感じですね」

 

「なるほど……ありがとう」

 

 約20分ほどの試合。

 そのすべての解説を聞いた柿崎さんは、満足そうな顔をしていた。

 こんな東さんの劣化版みたいなので、良いのだろうかと前回も思ったのだが、本人は満足してるらしい。

 逆に東さんには頼みにくいんだとか。ま、一応敵ではあるしわかるけど。

 

「1つ聞きたいんだが、もし君だったらどうやって攻略した?」

 

「俺だったらですか?」

 

「ああ、君なら」

 

 そうだな……。

 一応柿崎隊全員のトリガー構成は教えてもらったし、それを踏まえて考えるのなら……。

 

「虎太郎を単独で潜伏させて、狙撃手を倒してもらいますかね」

 

「でもそれだと、一人いないってバレないか?それに、部隊の連携もあまり──」

 

「それに関しては虎太郎はダミービーコンがあるんでトリオン反応自体はそれで何とかなります。それに接敵したときにビーコンを切ったら、相手は柿崎隊の一人が奇襲を狙ってくるんじゃないかって思うでしょう。余計な気を遣う必要が出てくるし、さらに時折離れたところにトリオン反応を出すだけでオペレーターへの負担も狙えます」

 

「確かに、ビーコンは柿崎さんでも私の判断でも動かせるもんね」

 

「はい、その場にいない虎太郎をいるように見せる。それだけで効果はありますし、狙撃手が一発撃ったらビーコンを起動、ぎりぎりまで虎太郎の存在を隠す役割も担ってくれます」

 

 ビーコン1つで多くの役割をこなせる。

 ただでさえ雨で視界が悪いんだ。奇襲を思いつくのは妥当だし、もしトリオン反応が1つ足りなかったらいやでも考える必要が出てくる。

 ましてや今回は村上先輩がエースの鈴鳴第一、エースが最初に落とされると勝率ががくっと下がる傾向にある部隊なのでより一層警戒するだろう。

 もしもがあると、その時点で負けが見えるのだから。

 

「なるほどな。そういう作戦も取れたのか」

 

「個人的に今回のステージ選択は良かったけど、それ以外に生かせなかったのが問題ですかね。狙撃手を使えなくするのは良いですが、それだけで終わるのはいただけませんね」

 

 せっかく入念に考えて使ったステージだ。

 最後までつかってやらないと。

 

「確かに……ありがとう。勉強になった」

 

「ただ東さんの真似しただけですよ。そんな感謝されるほどじゃないです」

 

「いやいや、東さんの真似事するってだけでもすごいんだよ?」

 

 俺の謙遜に、それとなくフォローを入れてくれる宇井先輩。

 なんだかむずがゆい。

 ま、柿崎さんは満足そうだし、いっか。俺を連れてきた本人が満足してるならこれ以上卑下するのも野暮ってもんだ。

 

「じゃ、ちょうど反省会も終わったことだしお茶にしようか。確か柿崎さんが来客用に買ってたお菓子があったはず~」

 

 宇井先輩は楽しそうな口調で席を立ち、冷蔵庫の隣の棚をがさごそと漁りだした。

 ずっと俺の背中に会ったルームランナーが視界に入ってきて、なんか急に筋肉を感じた。

 たぶん、柿崎さんのやつなんだろうな。隊員の二人はこれ使う風には見えないし。

 

「あ、あったあった。はい、いいとこのどら焼き」

 

「ありがとうございます」

 

 これは……鹿のやのやつだっけ?

 けっこうおいしいんだよな。和菓子ってそこまで興味があったわけではないが、ボーダーで流行るのも頷けるおいしさだ。

 

 感謝の気持ちを胸にどら焼きを手に取り、ほおばる。

 うん。上品な餡の甘みが口の中に広がる。

 諏訪隊の作戦室に常備してらえないか洸太郎さんにかけあってみようかな。さすがに高いから、無理か。

 

「壽くん」

 

 そんな感じで、どら焼き片手に柿崎さんたちと談笑していると、神妙そうな面持ちで柿崎さんが俺の名前を呼んだ。

 

「君は今フリーって話だけど、まだそうなのか?」

 

「そうですね。特に誘いもないんで」

 

「でも、俺が声かける時、那須隊の二人と話してたよな」

 

「あー、なんか那須先輩に呼ばれたんでちょっと話してました。お近づきになりたいそうです」

 

 結局あれは何だったんだろう。

 マキリサ先輩は気づいてるっぽかったし、今度聞いてみようかな。多分、教えてくれないだろうけど。

 

「そう……か」

 

「あ、でも加古隊からは毎日きますね。壽くん、うちに来る気になってくれた?って」

 

「加古隊から誘われてるの?」

 

「はい、一番最初にそういった部隊の話を持ち掛けてきたのは加古隊ですね。最初で最後ですけど」

 

「加古隊…………」

 

「ん?何かありましたか?」

 

 そんなに加古隊気になるのかな。

 柿崎さんは前まで嵐山隊所属だったし、やっぱり因縁的なのがあったりするのだろうか。

 あいつは絶対に俺が倒す!みたいな。

 

「……いや」

 

 俺の問いかけに、やけに長い間を開けて柿崎さんは否定する。

 何の間だ?

 

「なんでもない、悪いな。今日は色々と付き合ってもらって」

 

「いいですよ。別に暇ですし」

 

 ランク戦がない日は、こうしてぶらぶらとするぐらいしかやることがない。

 基本的に諏訪隊の作戦室に居座っていることが多いが、試合に向けての作戦会議が始まると追い出されるしね。

 うちの部隊じゃない奴の意見を聞くのはフェアじゃねぇ、って洸太郎さんは言ってた。別に気にする必要ないと俺は思うんだけど、それが隊長の意向ならしょうがない。

 

「良かったらまた誘ってください」

 

「ああ、また頼むよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 談笑も終わり、壽が帰った後。

 柿崎隊の作戦室には柿崎と宇井だけが残った。

 

「柿崎さん、言わなくてよかったの?」

 

「加古隊から誘われてるなんて言われたら誘えねぇよ。俺なんかの隊に入れて、あいつの良さをつぶしちまうかもしれない」

 

 柿崎隊に壽が入ってくれれば、壽の言ってたように一芸を手に入れられる。

 作戦も立てられて、個人でも強い。

 

 今の柿崎隊に足りない突破力を補える。

 そう、最初は考えていた。だから、壽を部隊に誘って柿崎隊をさらに上へと連れていく。

 そんな考えを、柿崎は持っていた。

 

 だが、壽と話してみて。

 彼がいろいろな部隊から誘いを受けていると聞いて、本当にうちに入れるべきなのかと迷った。

 今いる三人すら満足に導いてやれない自分が、新しい仲間を入れてもいいのかと。

 

「虎太郎も文香もいいって言ってくれたんだし、気にしすぎなくても」

 

「分かってる。分かってるけど、これは俺が俺自身を許せないだけだ。本当にこの判断が合ってるのか、俺には分からない」

 

 柿崎隊なんて名前が付けられて、隊長なんて呼ばれて、でも隊長らしくできなくて、みんなに迷惑かけて。

 こんなに恵まれてるのに、自分のせいで中位と下位を行き来するような事態になっている。

 

 俺が壽みたいに的確な指揮ができれば。

 きっとこの部隊はもっと上にいる。

 もしかしたら、上位とも渡り合ってるかもしれない。

 

 そう。

 

 考えると。

 

 そんな人間が、彼を誘う立場にいるのかと迷う。

 

 嵐山隊から抜けて、嵐山にライバルだと言われて。

 いい気になっていた瞬間など、柿崎には一度もなかった。

 どちらかと言えば、さらに自信を失った。彼からかけられた言葉が、慰めのように聞こえてしまったから。

 

「柿崎さんは気にしすぎだよ。そこもいいとこだけど、もっとこう大胆に」

 

「大胆か……」

 

 どんなふうにすればいいんだろうと。

 大胆な自分が想像できなかった。

 

「悪いな。こんなとこ見せて」

 

「いいよ。そういうのを支えるのもオペレーターの仕事だからね!」

 

「はは、そうか」

 

 ほんと。

 頭が上がらないな。

 

 と、柿崎国治は一人思うのだった。




アンケートの回答ありがとうございました。
思ってたよりも差がついたので締め切らせていただきたいと思います。

結果ですが、本作ではトリガーOFF状態。切れ味がない状態の弧月は『固い』とさせていただきます。

自分としては固い方が色々話が作りやすいからそっちになってくれないかなあ、なんて思ってました。





それはそれとして、なんで壽くんを入隊させるだけでこんなに話が重いんだろう……
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