ただ愛されればそれでいい   作:サラダボウル

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マンティス

 最近。

 洸太郎さんも二宮さんも東さんも、ランク戦で忙しいらしく居場所がない。

 諏訪隊の作戦室にはあまりいられないし、訓練もないのでどこかに行く用事もできない。

 時折那須先輩と柿崎さんの呼び出しに応じるぐらい。

 

 だから、俺は今日も一人個人ランク戦を荒らして回っている。

 基本的に集めたポイントたちは二宮さんと三輪先輩との訓練で消えていくので、一番高い弧月のポイントは5432と全体と比べると高くない。

 そういえば、これを8000まで貯めるとマスタークラスとかいう扱いになるらしい。

 

 あと、俺の持ってる弧月とアステロイドのポイントをそれぞれ6000まで上げれば万能手(オールラウンダー)ってやつになるそうだ。

 それがどうすごいのかはあいにくと俺には分からなかったが、ボーダーでの評価の1つになるらしい。

 個人的には近接戦の合間に弾トリガー使ってくるような奴は万能手だろうがなんだろうが、うっとおしいので危険な存在だ。

 

「次はこの人にするか」

 

 スコーピオン。ポイントは6930。

 結構高いけど、多分何とかなるぐらいのポイント。

 今までの経験的には6000台の人は勝率が高いのでいつもポイントをもらうのはこの辺りの人たちだ。

 そして、そのポイントを二宮さんや三輪先輩が持っていく。食物連鎖ってやつだね。たぶん。

 

「ちゃっちゃと終わらせたいから一本勝負」

 

 本来は10本が多いらしいけど、いろんな人とやって様々な戦術を見たり試したりするにはこっちの方がいいと思ってるのでポイント稼ぎはいつもこれだ。

 知らない人と長々とやってもつまらないしね。

 

 

『対戦ステージ「市街地B」 個人ランク戦1本勝負 開始』

 

「よろしくお願いし──」

 

「うぜえ」

 

「っ!」

 

 俺が丁寧に頭を下げるよりも先に、スコーピオンが俺の首元をかすめる。

 本能が回避を選択したおかげで、ぎりぎりグラスホッパーの展開が間に合った。

 首以外に痛む部分はない。なんとか避けられたらしい。

 

「いきなり攻撃とは好戦的な人──って、影浦(かげうら)先輩!?」

 

「誰だてめえ!気安く名前呼んでんじゃねぇ!」 

 

 返答はスコーピオン。

 正確に言えば、メインとサブの両方で起動したスコーピオンを無理矢理つなげてみたことない挙動をするマンティス。

 そんな暴れ馬が、俺に襲い掛かってくる。

 

 倒すには弧月の間合いに入れたいが、さすがにマンティスの方が長くのびるのでうかつには近づけない。

 旋空弧月を差し込んでみてもいいが、その間にぶった切られる未来しか見えない。

 

 B級二位。

 元攻撃手四位の影浦雅人(かげうらまさと)先輩の猛攻は目にもとまらぬ速さで、俺の体を切り刻んでいく。

 幸いに体の表面に小さな切れ込みが入る程度で済んでいるが、気は抜けない。

 弧月とシールドを使って守るのが精いっぱいで、近づく隙が無い。

 

 が、だからってこんなところで遊んでいる暇もない。

 

「アステロイド」

 

 攻撃の隙間を狙って、一瞬で分割を終わらせたアステオロイドを射出。

 それと共に一気に近づく。正直に言ってしまうと、近ければ近いほどマンティスの攻撃が激しくなるので近づきたくないのが本音だが、遠距離でアステロイドをちまちま撃っていてもらちが明かない。無理にでも近づいて、弧月の間合いに押し込めばわずかにだが勝算はある。

 

「これは……ちっ!」

 

 初見殺しに最適な超火力アステロイドは、影浦先輩の持つサイドエフェクトに強く反応を示したのかシールドではなく回避を選択されてしまった。

 実はあれで風穴開けるの狙ってたんだけどな。もうばれてたとか?

 もしそうなら、あまりよろしくないな。

 

 アステロイドでシールドをがりがり削って、相手の自由にさせないのが俺の基本戦術なんだけど。

 回避ばかり優先されてしまうと。

 

「──っ!あっぶね」

 

 マンティスが飛んでくる羽目になる。

 メインかサブどちらかにシールドを強要できれば、マンティスは使えなくなる。

 だから、そこも狙ってたんだけどうまくいきそうにない。

 

 影浦先輩の持つサイドエフェクト『感情受信体質』で奇襲じみた攻撃は意味をなさないし。

 アステロイドを使った地形破壊による砂埃で視界を封じても意味がない。

 

「どうした!もう諦めムードかぁ!?」

 

「こっわ」

 

 まだ。

 もう少し欲しいな。

 

 15mは遠すぎる。

 マンティスの猛攻が俺の全身を削り落としていく。

 鰹節の気分。

 

 12

 11

 

 まだ。

 まだ欲しい。

 マンティスは痛いが、体はまだ十分動く。

 

 10

 9

 

 影浦先輩に近づきすぎたかも。

 マンティスの攻撃が激しいなんて表現じゃ物足りない。さながらゲリラ豪雨。

 

 8

 7

 

 左腕が飛んだ。

 想定内。モーマンタイってやつ。

 

 6

 

 ここまで来た。

 体はボロボロ。全身からトリオンが漏れ出てる。

 超大型巨人って感じだね。

 

「そんな近づいて何がしてぇんだよ」

 

「アンタの首を飛ばす」

 

「ハッ!よく言う────っ!」

 

 首を狙った一撃。

 勝利を確信した顔が塗り替えられる。驚愕に。

 

「グラスホッパーっ!!」

 

 マンティスは、最初の方にも言ったが無理矢理スコーピオンをつなぐ技だ。

 本来エンジニアたちが想定したものではないので、常に不安定。大暴れがスタンダードな影浦先輩みたいなやつだ。

 だから、スコーピオンの伸びる手を少しはじいてやれば、制御不能の刃が宙を舞う。

 

 しかし、さすが元A級というべきか。

 ろくに制御なんてできないだろうに、最後の最後わずかに意思を持ったマンティスが俺の両足を飛ばす。

 トリオン漏れがより一層激しくなる。それに足がないと踏み込めない。

 本来は、あきらめるべき状況だが。

 

 それも想定内。

 東さんを言葉を借りるのなら。

 

 戦術で勝負するときは、敵の戦術のレベルを計算に入れる

 

 それに5mあれば弧月は舞える。

 

旋空弧月両足無用

 

「ちっ」

 

『1本勝負終了 勝者 壽知盛』

 

 

 

 

「ふー、疲れた」

 

 一戦やるだけでここまで疲れる羽目になるとは。

 楽じゃないね。ポイントで人の力を図るのはやめた方がいいかもしれない。

 こういう野生の化け物に捕捉されかねない。

 

『おい』

 

 なんて、思っていると野生の化け物が通信を入れてきた。

 ブース出たら切り刻まれるとかある?

 

『なんでしょうか』

 

『10本だ。嫌とはいわせねぇぞ」

 

 とても嫌だが、やるしかない。

 それに怒ってなさそうだし、普通の勝負ができると思っておこう。

 

『いいですよ』

 

『おもしれー。逃げねーとはな』

 

 逃げると思われていたらしい。

 これでもボーダー隊員の一人、売られた勝負は買うのが掟。

 いや、別にそんな掟はないけど。

 

 そんなわけで、偶然と出会いを果たした影浦先輩の誘いを受け、10本勝負を始めたはずだったんだが……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『10本勝負終了 勝者 影浦雅人』

 

 気づいたら40本目。

 10本勝負が四回繰り返され、俺は疲れ切っていた。

 もう無理。死ぬこともやぶさかじゃない。

 

「なかなかセンスあるじゃねーか、お前」

 

「それは……うれしい限りです」

 

 正直、影浦先輩が何言ってるかすらよくわからない。

 疲れた。

 

 てか、俺が集めたポイントが!

 俺が今日必死に集めたポイントがすべて影浦先輩に吸収された!なんて日だ!

 

 また、明日頑張るか。

 明日は誰にも会わないことを祈ろう。

 

「お前、名前は?」

 

「壽知盛です」

 

「そうか……壽か。どっかで聞いた気がするが、まあいい。また遊ぼうぜ」

 

 嫌です。

 とは言えない。

 

「ご縁があったら」

 

「ケッ、変な言葉使いやがって」

 

 と、悪態をつきながら影浦先輩は帰っていった。

 俺と戦って満足したのだろうか、はたまた俺のポイントを奪い去って満足したのだろうか。

 どちらでもい──いや、やっぱ後者なら許せん。俺の必死に集めたポイントを奪いやがって。

 

 いつか奪い返してやる。

 じっちゃんの名に懸けて!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 作戦室に戻った影浦雅人。

 そんな彼を出迎えたのは、同じ部隊のメンバーである北添尋(きたぞえひろ)仁礼光(にれひかり)だった。

 

「あれ、カゲ帰ってなかったの?」

 

「あ?ちょっとランク戦やってくるって言ってただろ」

 

 影浦が作戦室を出たのが約一時間前。

 基本的に三十分以内に個人戦を終わらせてくることが多い影浦だったので、北添は急用でも思い出して帰ったのかと今まで思っていた。

 

「いや、それにしてはおそかったから、ゾエさんてっきりもう帰ったのかと思ってたよ」

 

「骨のあるやつと遊んでただけだ」

 

「骨のあるやつ?」

 

 こたつでぬくぬくとしていた仁礼が、影浦の発言を聞いてにょきっと起き上がる。

 こたつの上に置いてあるミカンを一切揺らさずに動けるその身のこなしは、こたつ歴の長さから会得した妙技だ。

 

「村上くん?」

 

「ちげーよ。壽ってやつだ」

 

「あー、今期の新人王に一番近いって言われてるやつか」

 

「今期ってまだ一か月とちょっとだろ。もうそんな話になってんのか?てか、あいつそんなにポイント高くなかったぞ」

 

「そうらしいみたいだけど、そうじゃない。最後に一番高かったらいいんだから、途中で予想するにはどれだけ稼げるのかだろ?ちょっとまてよ……これを、こうして、ほら!」

 

 端末をぽちぽちと操作して、影浦と北添に自慢げに画面を見せる仁礼。

 そこには今期入隊した隊員たちが稼いだ個人ポイントが掲載されていた。現在の個人ポイントではなく、単純に獲得したポイント。引かれた分は分からない。

 そのランキングの上位二名は黒江と、壽。その両者のポイントを見て、またその差を見て北添は目を体のように丸くした。

 

「ええ!?これってまだ一か月ちょっとの記録なんだよね!?」

 

「あたりまえだろ!」

 

「黒江双葉──4231。壽知盛──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───13292……って、なんだこれ」

 

 どうやったら一か月そこらでそんなになるんだよ。

 と、影浦はこの結果を見て、つぶやくのだった。




新人王が稼いだポイント(プラスだけ)か、どれだけ最初と比べて上がったか(プラスマイナスを合わせて)なのか分からなかったのでこんな表し方になってしまいました。

また、グラスホッパーの展開限界距離が分からなかったのでとりあえず5メートルになりました。

色々とワートリの情報のなさに苦しめられたお話でしたまる
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