ただ愛されればそれでいい   作:サラダボウル

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ボーダー

 洸太郎さんの家に着いた俺は、その後学校に挨拶に行ったり、洸太郎さんのまあまあ汚かった家を掃除したりと、いろんなことをやっていくうちに数日が経っていた。

 三門市についてしばらく経ったが、洸太郎さんは家を空けることが多く、まだ学校に行っていない俺は家で一人留守番をしていることが多かった。

 

 しかし、それも今日で終わりだ。

 本日から俺は、三門市立第二中学校に行くことになっている。

 中学三年生のこの時期に転校する人間なんてそういないと思うが、父親の転勤がこんな時期にあったのでどうせならとこっちに越してきた。親戚もいるって話だったから、両親も快諾してくれた。

 

「荷物持ったか、知盛」

 

「大体?」

 

「全部持てや」

 

 洸太郎さんがいるものをすべてリュックに詰めてくる。

 重い。ちょっとぐらい忘れても許されないだろうか。

 初日だから少しだけまけてくれるサービスあったりしない?

 

「じゃ、俺はこの後用があるから抜け出してきても家は空いてねぇからな」

 

「そんな洸太郎さんみたいなことしないよ」

 

「俺もしねえよ!」

 

「じゃあね」

 

「おう」

 

 別れを告げ、俺は見慣れない景色に包まれながら学校へと向かう。

 周囲にはたくさんの中学生がいて、俺だけ浮いているってことはない。制服もこっち仕様のやつを買ってもらったしね。

 

 それにしても警戒区域外だからなのか、ボーダー隊員の姿は見えない。諏訪隊の人とは数日前に挨拶も兼ねて家で会ったけど、それ以外のボーダー隊員を町中で見たことはない。まず、外で隊服を着て活動している人が少ないらしいので当たり前ではあるのだが、もっと町中のそこら中に見て分かる形でいると思っていた。実際のところ町中ではボーダーとして勝手に活動はできないらしい。洸太郎さんがそう言ってた。

 テレビとかで嵐山隊を見る時ぐらいしか活動を見ることはないが、地域ボランティア的なことはしてなさそうだ。あと、那須玲って人の特集は見たな。

 

 そんなこんなでまだ真新しい景色にわくわくしながら、俺は第二中学校へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

「入ってくれ!」

 

 教室の扉の前。

 職員室へと顔を出した俺は、さっそくクラスの人たちに紹介するということで教室の前で待機させられていた。

 そして、入室の案内がかかる。

 

「失礼します」

 

 勢いよく扉を開けて、教室に入る。

 『3-B』俺があと一年だけいるクラスだ。

 

 教室に入ると、生徒がみんな俺のことを見ている。

 こうやって人前に立つような活動をしてこなかった俺からすると恥ずかしいな。居心地の悪さも感じる。

 一週間ぐらいはこんな感じで好奇の目にさらされるんだろうなあ。

 

「えっと」

 

 手元の書類を先生が一瞥して、黒板に俺の名前を書きだす。

 しっかりとふりがなもふって。

 

「今年からうちの学校に来た壽知盛くんだ。ちょっとだけ自己紹介お願いできるかな」

 

「はい」

 

 昨日考えてきた自己紹介。

 当たり障りのないことしか考えてないけど、少しは落ち着いてできるはず。

 

「初めまして、壽知盛です。前まではサッカー部に入ってました。好きなものは漫画やゲームです。よろしくお願いします」

 

 いたって普通の自己紹介。

 面白味の欠片もないものだが、似つかわしくないほどのたくさんの拍手が返ってきた。拍手されるほど立派な自己紹介ではないのが、申し訳ない。

 

「壽の席は真ん中の一番後ろにあるあそこだ」

 

 先生の指差し先を見ると、一つだけ誰も座っていない席があった。

 欠席者がいるというわけではなく、俺のために新しく用意した席だろう。

 指示された席に座り、重いカバンをおろす。中学生にはいささか厳しい重さをずっと背負わされていたので、今にも飛べそうなぐらい体が軽くなった。

 

 重すぎる。

 マジで。

 

「よろしくね!」

 

 カバンを置くと同時に、隣の少女に話しかけられた。

 おさげ髪の小さな女の子。なんか元気があふれる感じの子だ。

 

「よろしく、えっと……」

 

「あ!わたしは日浦茜(ひうらあかね)っていうの。茜って呼んで!」

 

「そっか、改めてよろしく。茜」

 

 三門市での友達2号ってところだろうか。

 一号は、保護者も兼ねている洸太郎さん。笹森先輩と堤さんもいるけどまだあんまり話したことないからノーカンだ。

 このクラスにいる人間は最低でも二年は共に過ごした仲だ。おいそれと俺が入れるものじゃないと思っていたが、案外フレンドリーな世界かもしれない。

 

 

 

 

 

「じゃあな、知盛!」

 

「おう!じゃあな!」

 

 放課後。

 普通に友達がたくさんできて、いい初日だったと思う。第二中学校のみんなはすごいフレンドリーだ。突然現れた俺にいやな顔ひとつしないし、めちゃくちゃ話をしてくれる。

 今日一日で学校について8割は分かったと思う。音楽室だとか、技術室だとかの配置もわかった。あと、なんとなくのヒエラルキーも教えてもらった。女子の上下関係だけだけど。男子はそんなのないらしい。怖い世界だ。

 

 そんなわけで帰路についたわけだが、俺の目の前には見覚えのある赤い髪の少女が歩いている。

 

「茜?」

 

「あ、知盛くん!家こっちなの?」

 

 やはり、茜だった。

 良かったよ。初日に友達間違えるようなへましなくて。

 

「ああ、親戚の家がこっちの方にあってな。そこに住んでるんだ」

 

「親戚の家?」

 

「うん。今、親と一緒に住んでなくてさ。やりたいことをするのにこっちの親戚の家にいる方が都合よかったんだ」

 

 もし、たいして仲良くない人間だったらさすがに諦めるが、洸太郎さんとは悪くない仲だから引っ越すことにした。

 親についていっても俺の目的は叶いそうになかったから。

 

「そうなんだ。なんかすごい進んでるね、知盛くん」

 

「進んでる?」

 

「だって、私親から離れるなんて考えられないもん。それに許してもくれないだろうし」

 

「それが普通だよ。こっちが普通じゃないだけ」

 

 放任主義って言えばいいのか、親から俺の引っ越しを否定されることはなかった。

 元から父親がそこまで家に帰らない家庭だったし、子供一人いなくなったところで気にならないってことなのだろう。知らないけど。

 引っ越し費用もポンと出してくれたしね。

 

「ん、もう帰りか。早いな」

 

 と、茜と話していると目の前に見覚えのある人間が現れる。

 

「洸太郎さん。大学抜けてきたの?」

 

「終わらせてきたんだよ。人聞きの悪いこというんじゃねぇ───ん、そっちの子は」

 

「あ!諏訪さん!」

 

 おや。

 知り合いか。それとも未成年に手を出す系の犯罪者?

 

「那須隊の……狙撃手の……」

 

「日浦茜です!」

 

「ああそうだそうだ。うちのやつと帰ってるのか」

 

「うちのやつ?」

 

 洸太郎さんの発言が引っかかり、茜が首をかしげる。

 そして、俺と洸太郎さんを交互に眺める。何度もちらちらと。

 

「え!知盛くんの親戚って諏訪さんなんですか!!」

 

「そうだよ。二人は知り合いだったんだ?」

 

「ボーダーのな。ちっとばかし関わりがあるだけだが」

 

 ボーダーってのも案外狭い世界なのかもしれない。

 中学生と大学生に面識があるような世界らしい。

 

 帰り道の仲間として新たに洸太郎さんを迎え、俺に関することを話しているうちにあっという間に時間は過ぎ、方向が違うとのことで茜とは別れた。

 ボーダーでの洸太郎さんについてもいろいろと教えてもらい、俺の知らない一面を知れた。

 

「そういえば、知盛。お前なんでこっち越してきたんだ」

 

 突然、洸太郎さんが話をぶっこんできた。

 が、その話は親から伝わっているはずでは?

 

「あれ、俺の両親から聞いてない?」

 

「なんもきいてねえけど。ま、なんとなくわかるがな」

 

「俺はボーダーに入るために来たんだよ」

 

「ま、だと思ったよ」

 

 つまらない返事だ。

 だが、三門市にわざわざ越してくる奴の理由なんかそれしかないのもその通り。

 逆に、それ以外にこんな危険な場所わざわざ来る理由はない。

 

「それで、なんでボーダーなんかに入ろうとしてるんだ。たいして良いところでもないぞ」

 

 それをボーダーの人間が言っていいのだろうか。

 営業妨害でしょ。今だって新入隊員を募集中だってのに。嵐山隊の活動を無に帰す発言だ。

 

「やりたいことがあるからね」

 

「ふーん。そうか」

 

 それ以上は聞かない。

 ぶっきらぼうな雰囲気をまとっていながら、その辺はわきまえているから変な感じがする。

 諏訪隊、なんて隊を率いるぐらいには認められてる人だし、そういう人の感情を動きを見るのには長けてるんだろうな多分。

 

「じゃあ、今週の入隊試験受けねえとな」

 

「え、今週?」

 

 おっと。

 想定外の事態が。

 

「お前もしかして入隊試験の日付見てねえのか」

 

「ははは。まあ……なんとかなる!」

 

「はあ」

 

 多分、行ける!

 なんせ、ボーダーの隊員が5人も知り合いにいるのだから!

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