「最近動きのキレがいいね」
「本当ですか?」
「うん。弧月で捉えづらくなってきた」
ほぼ毎日のように行われる黒江との訓練。
だが、今日は珍しくランク戦ではなく加古隊の作戦室で行われている。
どうしてかと言われると、俺と黒江が会ったときにランク戦の会場よりも加古隊の作戦室の方が近かったっていうだけ。
わざわざ遠く場所に行く理由もなければ、黒江との訓練は戦うのが目的。ポイントうんぬんはどうでもいいので、こちらに来たっていうのもある。
「初見の攻撃にも完璧に対応できるし、やっぱりセンスあるよ。俺の何倍も」
「いえ、壽先輩ほどでは」
結構本心で言ってる誉め言葉を否定する黒江。
俺ほどって、どんどん俺よりも強くなってると思うんだけどな。
最初からスピード型だと思ってはいたが、最近より一層早くなった気がする。トリオン体の扱いがうまいってやつ。
「そういえば、黒江はトリガー改造するの?」
「二つ新型を用意してもらって、この弧月はもう少し長い奴を用意してもらってます」
「へー、A級の特権もりもりじゃん。いいね。でも、弧月伸ばすんだ?どうせなら短くした方が動きやすいと思うけど」
スコーピオンではなくて弧月をわざわざ使っている黒江。
緑川みたいにスコーピオンにしたほうが機動力を生かした戦闘ができると思うが、さらに弧月を伸ばすつもりらしい。今の弧月でも黒江の身長からすると少し長そうだが、より伸ばした奴が腰にささるのだろうか。
「確かにそうですが、新しく作ってもらうトリガーに合うのは長い方なので」
「ふーん。よくわからないけど、新しいやつできたら見せてよ」
「もちろんです!一番最初にお見せします」
「いや、一番最初じゃなくていいけど」
気になるが、そこまでしてもらう必要はない。
加古さんとかに見せた方がいいと思う。なんというか、礼儀的に?
「そういえば、壽先輩はサイドエフェクトも持ってるって本当ですか?」
「本当だよ。珍しくトリオン量が6でもあったみたい。なんか、トリオンに対する高度な認知機能の発達らしいよ」
「それが、壽先輩の強さをより引き出してるってことですか?」
「多分そうじゃない?俺はそう思うほどの恩恵は感じないけどね」
サイドエフェクトがあると発覚した後、ランク戦をしてみたが特にすごさは感じなかった。
いつも通りの戦闘。しいて言えば、アステロイドがハウンドになったので戦闘がやりづらかったぐらい。アステロイドを使う前提で効率化された動きは、さすがにハウンドではうまくいかなかった。
「そうなんですか?じゃあ、壽先輩は純粋に強かっただけと」
「いや、別に俺が分かってないだけで実はこの力はサイドエフェクトのおかげだったってことがあるかもしれないよ。アステロイドとかさ」
「確かにそうですね。あのアステロイドの強さはサイドエフェクトかもしれません」
そうじゃないかもしれないけど。
サイドエフェクトが明らかになったが、それの有用な使い方を今のところは俺は思いつけていない。
というか、サイドエフェクトの存在は俺が認識できていないので、使うとか使わないとかじゃない。分からない。存在を言われたところで、それが一体どうなっているのか、俺にはさっぱり。
それをどうにかしないとね。なんて言いながら俺たちは訓練室から出る。
「ん?」
すると、キッチンの方からごそごそと物音がする。
最初作戦室に来た時は誰もいなかったが、どうやら誰か帰ってきているようだ。
「あら、二人ともいたのね」
「どうも、お邪魔してます」
キッチンにいたのは加古さんだった。
食べ物でも探しに来た喜多川先輩かと思ったが、勘が外れた。
「もうお昼だし、二人ともお昼食べてかない?」
「いいんですか?」
「双葉がお世話になってるお礼とでも思ってちょうだい」
「じゃあ、いただき──っ!」
何かが俺に語り掛けてきた……気がする。
とても身近な存在で、糸目で、ギャンブラーな感じの人がパトランプを頭にのせて逃げろと書かれた旗を振っている……気がする。
何なのだ、これは!どうすればいいのだ!?
逃げるって何?
何から?作戦室に何か来るとか!?
「壽くん?」
突然黙った俺の名前を、加古さんは不安そうな声色で呼ぶ。
それによって、俺の意識はよくわからなかった場所から現実へと引き戻される。
「あっ、すみません。じゃあ、いただきます」
「分かったわ!ちょっと待っててね」
お昼をいただく話になったが、何を作るんだろう。
スパゲッティとかかな。三人分用意するならそれぐらい一気に作れる奴が妥当だと思うけど。
ご飯が出てくるまでの間、俺は黒江と談笑しながら時間をつぶす。
それとなく新型トリガーについて聞こうとするが、完成までのお楽しみだと内容は教えてくれなかった。とても気になる。どんなの作るんだろう。
もし、俺がトリガーを作るとしたらどんなのが作りたいか、なんて話をしながら待っていると。
「はい。どうぞ」
加古さんの作ったお昼御飯が到着した。
いやあ、わざわざ作ってもらって悪いなあ。なんて思いながらお皿を見ると。
「…………な──」
なんだこれは、と言いかけたところで俺の口が強制的に閉じた。
これは申し訳ないことを言ってはいけないなんて甘ったれた感情ではなく、俺の本能が目の前の食事の粒子が口から侵入しようとしたのを感知して遮断したのだ。
本能が、粒子レベルでこれを拒絶した。
「あ、あの。これは……」
恐る恐る何かわからない目の前のモノについて問う。
一体これはなんですかと。
「サーモンブルーベリー炒飯よ。ブルーベリーと言っても、入ってるのはブルーベリージャムだけどね」
なーるほど。
サーモンブルーベリー炒飯かー。なんだなんだ。
サーモンブルーベリー炒飯ね。なるほど。
…。
……。
………。
いや、なんだよそれ!
聞いたことねぇよ!いくら変な料理の多い町中華屋さんを経営している老夫婦が三門市にいたとしても、そんなもんで出てこねぇよ!
もう名前だけ聞いてわかる。絶対に合わない。
あと、色もあまり良いとは言えな──いや、もう言い切ってしまおう。人の食べるものとは思えない。サーモンのピンク色に、ブルーベリーの紫、それと炒飯の黄色が全く持って合っておらず、食欲も湧かない。
どうしたらこれが……。
現実とは思えない食品に驚くが、俺の中にわずかにも実はうまいのではないかなんて期待──というよりかは、願望が心の中に現れる。
口にしたら案外いける味をしており、ゲテモノ料理風だが案外悪くないのではないかと。
そうであってほしい。
そうでないと俺が困るのだ。結構いけるゲテモノ料理みたいなそんな枠なんだよね。そうだよね。
「やっぱりそろそろ暑くもなってくるから炒飯にも栄養がいると思ったのよね。だからフルーツ、それに海の物もないでしょ?だから、サーモンを入れてみたの。なかなか天才的な発想じゃない?」
「天災的ですね」
「そうでしょ!」
料理に栄養を求めるところまでは100点だね。
それ以外は知らない。
「えっと……それじゃあ、いただきます」
意を決して。
すべての恵みに感謝。
ここでひるんだら多分、俺は2度とこれを口に運ばないと思ったのでそのままぐっと押し込む。
丁寧に舌の上にのせて、スプーンを口から抜き取ると、同時に。
「……んっ───っ!」
口の中に広がるブルーベリーの酸味とジャムとしての甘味。焼けたサーモンのしっかりとした触感。
申し訳程度に顔をのぞかせる炒飯。
これは!
「……んん、あれ。俺……」
目を覚ますと、目の前に机や炒飯はなく。
不安そうにこちらを見てる黒江の顔があった。
「壽先輩大丈夫ですか?」
「えっと……いまいち状況がつかめないんだけど」
「炒飯を食べてぶっ倒れました」
「ぶっ倒れたのか」
そうか。
やっぱりか。
「まじかー。あれ、加古さんは?」
「全員分の料理を作って満足したのか出ていきましたよ。あと、ぶっ倒れた件についてはブルーベリーが好みじゃなかったけど、申し訳なくて言えなかったと伝えておきました」
「黒江はできる子だな」
もう足を向けて寝られない。
黒江さんだ。
「あたしとしては、なかなかだと思ったんですけどね。あの炒飯」
「食べたの?」
「はい。全員分作ってあったので」
「食べきったの?」
「はい。残すのも悪いと思ったので」
「黒江は強いね」
「はい?なんのことですか?」
そうか。
これが堤さんの言っていた気を付ける事か。なるほどね。
これは気を付ける必要がある。生半可な気持ちで来るべきじゃないな。
それ相応の覚悟を決めて食さなければ。
いや、普通に回避すればいいのか。そんな運試しみたいにやるものでもないはずだ。何かあったら黒江が食べてくれるけど、だからといって俺に向けて作ってくれたんだ。ぽいぽいと人にあげるのはいかがなものか。だったら最初から食べないという選択肢をとればいい。
けどチャレンジ精神も大事だよね。
今度は二宮さんと三輪先輩を誘ってこようかな。
そういえば、俺どういう体勢なんだこれ?
黒江に顔をのぞかれているにしては、視界の半分が黒江の体で隠れてる。
不思議に思った俺は、おもむろに体を起こして黒江の方を確認する。
なるほどね。
俺の頭があったあたりに黒江の足があった。膝枕ってやつか。
なんか……恥ずかしいね。
本来はアンケートの回答待ちのために作った日常回だったのですが、しばらく投稿をしなかったせいでただの日常回になりました。
ちょっとだけこんな感じの入隊とは関係のない話が続きます。気楽に読んでもらえると嬉しいです。