ただ愛されればそれでいい   作:サラダボウル

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唐沢克己

 寺島から報告を受けた鬼怒田は、その件を城戸に報告。

 緊急で会議が開かれていた。

 

「それで、サイドエフェクトについてって話でしたが、わざわざ集まるほどのものなんですかねぇ?」

 

 緊急での会議、すでに予定の入っていた根付(ねつき)は嫌味っぽく語る。

 会議室には城戸、鬼怒田、根付、忍田、林藤(りんどう)とボーダーの上層部が集まっていた。

 たった一人の人間のために。

 

「影浦の時もわざわざ集まったではないか、それと同じだと思っておればよい」

 

「では、そのレベルの議題ということか?」

 

 鬼怒田の発言に、忍田が反応を示す。

 影浦のサイドエフェクト『感情受信体質』は、彼の攻撃的な性格も相まって今後の対応について会議が開かれたことがあった。

 ボーダーでは時折、危険性をはらむものや、有用なサイドエフェクトが発見された際、情報の共有や今後の活用法の模索も兼ねて集合がかかることがある。

 しかし、緊急での会議は今回が初めてだった。

 

「そこまで話すと本題になる。それ以上は唐沢(からさわ)くんの到着を待ってからだ」

 

 鬼怒田の発言に興味を持った忍田からの問いは、城戸によって止められる。

 それからすぐに、唐沢が合流し、会議が始まった。

 

「今回集まってもらった理由だが、今期の新入隊員。壽知盛隊員についてだ」

 

「壽隊員と言えば、諏訪くんのいとこだって話だった子ですよね?城戸指令」

 

「ああ、そうだ」

 

「今回はそやつのサイドエフェクトについてということだ。資料を見てくれ」

 

 鬼怒田の案内に従い、全員が手物に置かれていた資料に目を落とす。

 一枚目には壽隊員の情報がキレイにまとめられて載っている。年齢や、通っている学校などだ。

 また、彼の戦闘員としての評価も記載されており、そこにはしっかりとトリオンが6であると書いてあった。

 

「トリオン量は6のようだが、サイドエフェクトが彼にはあるのか?」

 

「ああ、うちの機械が故障しているというわけではないかぎり、間違いなく確認できた。それに検査したのは開発部の雷蔵だ。ミスはないだろう」

 

「なるほど。では、トリオン量が6あれば、サイドエフェクトがある可能性ができたというわけか」

 

「そうだが、その話をするために呼んだのではない。問題は次のページに書いてあるサイドエフェクトと思われるものだ」

 

「思われるもの?」

 

 林藤が鬼怒田のはっきりとしない発言に反応を示す。が、その返答が得られる様子はなかったので、みなページをめくる。

 そこには今回観測された、トリオンに対する高度な認知機能の発達と、もう一つ。サイドエフェクトとして扱われている『モノ』の記載があった。

 

「これは……」

 

 そこに書いてある事実に、驚愕する忍田、根付、林藤、唐沢。

 現実に観測されたものだとは言え、誰一人としてそれを本当だと思えなかった。

 これはちょっとしたドッキリなのでは、なんて馬鹿げた考えすら浮かぶぐらいには、非現実的だった。トリオンという存在以上に。

 

「これ、本当なの?鬼怒田さん」

 

「間違いないと言っておるだろう。まぎれもなく本物だ」

 

「こ、これはサイドエフェクトと言えるんですか?」

 

「知らん。第一、トリオンというものについても我々はどこまで理解しているのか分かっていないのだ。それによって引き起こされる現象などもっとわからんに決まっておるであろう」

 

 林藤、根付の問いに一切の迷いなく、ズバズバと答える鬼怒田。

 問いに対しての回答であるはずだが、それが正答であるとは鬼怒田は思っていない。

 

「トリオン供給機関なんて名前を付けたが、本来は人に備わっている臓器だ。あり得ない……ことはないが非現実的であることは間違いないだろうな」

 

「鬼怒田さんにそういわれると、こちらとしては分からないからなあ。鬼怒田さん以上にトリオンに詳しい人はいないし」

 

「林藤支部長のところのエンジニアがいるだろう。そやつに聞けば少しは分からんか」

 

「彼は開発で、サイドエフェクトの専門ではないですから、一応聞いては見ますけど、あまりあてにはしないでくださいよ」

 

 林藤が支部長を務める玉狛支部には、カナダ人(と偽っている)ミカエル・クローニンというエンジニアがいる。

 彼なら少しは分かるのではないかと考えた鬼怒田だったが、林藤の返答を聞くにあまり期待できそうになかった。

 

 明かされた事実により、一気に熱を帯びる議論。

 それぞれからの質問に、鬼怒田は迷うことなくすぐさま答えていく。

 分からないことは分からないと言い、現状明らかになっている事実についてははっきりと言い切った。

 

 しかし、ある一つの質問に鬼怒田は答えなかった。

 その代わりに別の人物が口を開く。

 

「その、壽知盛は近界民ではないのか、もしくは関係があるのでは。という問いに関しては私の方で調べさせてもらった」

 

 根付がした問いは、鬼怒田ではなく城戸によって拾われる。

 今まで一言も発さなかった城戸が議論に入ってきたことで、雰囲気は一瞬で引き締まる。

 

「彼の身元を調べたが、これといって近界民に関係しそうなものは発見されなかった。それに彼は三門市外の出身だ。以前の大規模侵攻の時に居合わせておらず、関係を持っている可能性は限りなく低い」

 

「そう……ですか。なら本当にサイドエフェ──」

 

「だが、怪しい部分もある」

 

 忍田の言葉を遮るように、これまでの発言を覆すようなことを言い始める城戸。

 注目を集めさせるようなふるまいに、全員の視線が彼に向く。

 

「彼は一部の人間に対して、ある目的があってボーダーに来たと言っている。その目的が、もしかしたらこの一件に大きく関与している可能性がある」

 

「目的ですか。わざわざボーダーでなければいけない目的と考えると、確かに怪しいな。しかし、そこはプライベートな内容だろう。その目的を誰にも言っていないことを考えると、聞いても言わないのでは?」

 

「無理矢理問いただせばよかろう。ボーダーで目的を果たすためにきたのだろう?ならそれぐらいやるはずだ」

 

「いやいや、いくらなんでも強硬策が過ぎるでしょ。ボーダーに何か悪影響があるのならまだしも、これじゃただおっさんたちが中学生のプライベートを無理矢理暴こうとしてるだけですよ」

 

「しかしですね、林藤支部長。何かあったら大変でしょう。もしかしたら、内側からボーダーの情報が抜かれている可能性だってありますし──」

 

「それは可能性だろう。憶測だけで隊員を除隊することは組織としては横暴が過ぎる。それに記憶封印措置をして除隊させてもまたボーダーに入ってくる可能性もあるし、彼と交流のある隊員にはどう説明するつもりだ。また戻ってくる隊員を自らの都合で除隊したとでも報告するのか?」

 

 それでは明らかにボーダー側の都合で追い出したと分かってしまうではないか、と根付の案は忍田に真っ向から反対されてしまう。

 危険因子である可能性がある壽を追い出したい鬼怒田と根付。いまだ憶測の段階で、そこまでの強制力を用いるのはいかがなものかと止めに入る忍田と林藤。

 城戸派と、忍田派、玉狛派の衝突ともいえる状況に会議はなっていた。それぞれの思想の違いが壽知盛の扱いに対しての差となって表れている。

 

 その様子を静かに見守る唐沢は、これは大変なことになってきたなと思いながら煙草に火をつける。

 鬼怒田と根付を止めるはずの城戸は口を挟まない。だからこそ、近界民に対して良くない感情を抱いている城戸派の二人は止まることなく危険因子は追い出すべきだと強く主張している。逆に有用な隊員である壽をおいそれと追い出すこと、また一方的な憶測で除隊に追い込もうとするやり方をよく思わない忍田派と玉狛派はそれに対抗している。

 

 壽の話は唐沢の耳にもわずかだが届いている。今期の最短記録をたたき出し、東らからいろいろと教えられている珍しい存在がいると。

 その噂を聞いて興味こそ持ったが、壽に接触を図ることまではしていない唐沢にとって彼はあくまで噂の人物に過ぎず、ここまでの大事を持ってくるとは思っていなかった。

 

 実際、彼のサイドエフェクトに関しては今までのもとは比べ物にならないものだ。

 これが事実であるならば、それはボーダーにとって大きなチャンスであるように思えた。

 

 が、いつの間にか議論は壽の処分になってしまっており、サイドエフェクトなどみなの頭にないようだった。

 話が流れすぎている、そう思いながらも口を開かない唐沢。城戸が動かない様子を見て、自分も黙る選択肢をとった。それに、唐沢は基本的にどの派閥にも属さない姿勢をとっている。

 一番大きい勢力である城戸派でいるような姿勢こそ見せているが、あくまで無所属であると思っていた。

 それに、唐沢の仕事はボーダーのお金を集めること、スポンサーの相手であり、会議で発言することじゃない。ましてや、一隊員の処遇など唐沢が関与することじゃなかった。

 

「唐沢さんはどう思いますか?」

 

 突然回ってくる順番。

 沈黙を選択した気分でいた唐沢に突如脚光があたり、全員の視線が向けられる。

 これは嫌な感じだと思いながらも、唐沢は最初から思っていたことを語りだす。

 

「私としては、別に彼がどうなろうと何か言う立場にないのであれですが、議題はこれじゃないでしょう?」

 

 その一言に鬼怒田、根付、忍田はあっ、とでも言い出しそうな表情をする。

 熱を帯びて暴走しかけていた三人は唐沢に水かかけられたことで、落ち着きを取り戻す。

 そして、その発言を林藤はニカっと笑って反応を返す。

 

「議論がすごい面白い方向に向かってたのに、それ言っちゃだめじゃん。唐沢さん」

 

「いやいや、議論はきちんと議題に沿って行われなきゃいけないでしょう。ねえ、城戸指令」

 

 自らへと飛んできたキラーパスを、顔色一つ変えずに受け止め、そそくさと城戸の方へと投げる。

 自分は参加する人間ではないと理解しているので、本来主導権があるべき人物へと全員の視線を返還した。

 

「そうだな。話すべき内容はこのサイドエフェクトについてだ。これがサイドエフェクトなのかという検査は、今後鬼怒田開発室長に任せるしかないだろう」

 

「そ、そうですが……」

 

「それに、彼がボーダーに来た目的が何か悪影響を及ぼすと決まったわけでもない。彼の処分を決めるのは時期尚早だ。彼に対しての探りは継続、サイドエフェクトに関しては、検査に進展があってから議論を続けるとしよう。次回の会議は、明日の夜22時からだ。以上」

 

 城戸へと渡った議論の主導権。

 それを用いて、一瞬にして会議を終わらせる。

 今回はあくまで情報共有、この隊員に注意せよと知らせるのが目的。

 

 行き過ぎた議論を止めるべきだった。

 そのはずなのに、何もしなかった。

 

 その部分に、唐沢はとっかかりを覚えた。

 あのままでは、間違いなく平行線だった議論にどうして介入しなかったのか。

 なぜ自分が会話を振るまで何も言わなかったのか。

 

「何か……迷っていたのか?」

 

 唐沢の疑問は、たばこの煙と共に消えていくのだった。




今回の資料で用いられた壽くんの情報は次回掲載予定です。
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