ただ愛されればそれでいい   作:サラダボウル

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はじまり

 気づいたら七月の頭。

 外はすっかり暑く、ボーダーに来るだけで汗がだらだらと出る時期になった。どうせなら移動中もトリオン体にさせてくれないかな。その方が過ごしやすい。

 

 それにしても、ボーダーは涼しくていいね。

 こんなでっかい施設なのに、ずっとエアコンがついてるから超快適。電気代すごいことになってるだろう。あ、でもその辺はトリオンで何とかできたりするのかな。

 トリオン関する知識はないので、戦闘以外の活用法はよく知らない。実はすごい万能素材だとかないかな。次世代エネルギーってやつ。

 

 なんてことを考えながら、俺はラウンジでだらだらとしていた。

 諏訪隊の作戦室を追い出され、俺が流れ着いた場所がここだったのだ。涼しいし、椅子と机がある。

 あとは行き交う人を見て、なんとなく暇をつぶす。人間観察って案外楽しい。

 

 あの人強そうだなとか。

 あのC級はいつか化けるだろうなとか。

 あれは生駒先輩だっけなとか。

 あのスーツは二宮隊の犬飼先輩だとか。

 

 今俺の目の前でごみを見るような眼をしてるのはマキリサ先輩だなとか。

 

「どーも」

 

「日曜日の昼から暇そうね」

 

「暇なんで」

 

 キラーンと星を輝かせながら、俺はキメ顔でそう言った。

 実際に暇であるから、ここで生産性のない娯楽をいそしんでいたわけだしね。

 

「てか……なんでまだ、どこの部隊には入ってないわけ?」

 

「誘われないんでねー。あ、加古隊を除いてですよ」

 

「さそ……われない?」

 

 意味が分からない、とでも言いたげな表情をしながらそう言うマキリサ先輩。

 部隊に入らない理由なんてそれぐらいしかなくない?どれだけ部隊に入る気があろうとも、誘われない以上は入れないだろう。

 俺って案外人気ないのかも。悲しいなあ。

 

「本気で言ってるの?」

 

「本気って?」

 

「嘘でしょ。鈍感とか言う話じゃないでしょこれ。頭にカニ味噌でも詰まってるの?」

 

「そんな暴言言ってると嫌われますよ」

 

 相変わらず口の悪い先輩だ。

 人の頭にカニ味噌なんて詰まるわけないでしょ。ちなみにちょっとした豆知識だが、カニ味噌はカニの脳みそではない。ただの内臓である。正確には中腸線ね。

 そんだけ。

 

「マキリサ先輩こそ、A級部隊として任務にいそしまなくていいんですか?暇じゃないでしょ、俺と違って」

 

「今は何も仕事がないの。基本的にやってくる仕事は冬島さんへの個人的な依頼だけだし」

 

「なるほどね。あの人は引っ張りだこなわけだ」

 

 元エンジニアということも相まって使いやすいんだろな。

 エンジニアの仕事をする必要がないが、エンジニアとして有能ってことなんだろう。

 そんな人をどうやってマキリサ先輩は部隊に入れたんだろうか。冬島さんの弱点の女子高生パワーでも使われたのかな。

 

「私の話は良いの。壽がどっかに入れてくださいって言えばどこでも入れてくれるでしょ。諏訪隊とか那須隊とか」

 

「そうですか?諏訪隊はもう部隊として完成してると思うし、那須隊は女子だけじゃないですか、男なんて入れたくないでしょ」

 

「……致命的って感じね。ここまで人のことが分からなくて、よく戦闘で相手を手玉にとれるわ」

 

 褒められてるのか馬鹿にされてるのかよくわからない。

 どっちだろうかこれは。

 

「それかいっそのこと弓場(ゆば)隊でも入れば?」

 

「弓場隊?あそこはもうフルメンバーじゃないですか」

 

 あそこは弓場先輩と、帯島(おびしま)と、外岡(とのおか)先輩と、神田(かんだ)先輩でいっぱいだ。

 オペレーターも藤丸(ふじまる)先輩がいるし。

 俺が入るような場所はない。

 

「なんでも、神田先輩が大学行くからボーダーやめるんだってさ」

 

「大学に行くからって……そこにあるボーダーと連携してる大学じゃないってことですか?」

 

「そういうことでしょ。県外の大学でも行くんじゃない?」

 

 へー、やっぱボーダーにいるからってボーダーの制度を使って進学する人だけじゃないんだ。

 案外みんな自分の目標に向かって頑張ってるようだ。

 

「でもさすがに弓場隊はないですね」

 

「言い切るんだ。意外」

 

「だって、上位じゃ中位の人と戦えないじゃないですか」

 

「アンタって案外戦闘狂ね」

 

「失礼だなー。俺は心優しいジェントルマンですよ」

 

「は?きも」

 

 なんだこの人。

 言葉にとげがない代わりに剛速球投げてくる感じ。

 一切の容赦なく、わずかな嫌味もなく、純粋な暴言が飛んでくる。

 

 通りで笹森先輩が若干嫌ってるわけだ。

 これじゃあ、人が寄り付かないよ。いや、本人も寄り付かせようなんて微塵も考えてないだろうけど。

 

 これじゃ花の女子高生じゃなくて、いばらの女子高生だね。

 はっはっは。

 

「お、そこにいるのは」

 

 なんて、マキリサ先輩で笑ってると、新たな人影が。

 それもでっかい。

 

当真(とうま)先輩だ。こんにちはー」

 

「おう、こんにちは」

 

 冬島隊の狙撃手。

 No.1スナイパーの当真勇(とうまいさみ)先輩。

 撃った弾は全部当たる人。すごーい。

 

「また真木ちゃんにいじめられてんのか、壽」

 

「ありがたーいお言葉をもらって面倒見てもらってます」

 

「おうおう、真木ちゃんと話してそんなこと言う奴おまえだけだぜ。図太い神経してんな」

 

 ズバズバと思ったことを言うマキリサ先輩は嫌われてこそないだろうけど、いろんな人から恐れられてる。

 怖かったり、見下されてる感じがしたりするんだってさ。言いたいことは分かるけど、俺はそこまでそういうの気にしないから。

 

「ありがたいと思うなら言うこと聞けばいいのに」

 

「ま、いつかは入りますよ。気楽にねー」

 

「そうそう、どうせなんとかなるんだから気楽にやればいいんだよ」

 

「そういうことを後輩に言わないで、アンタみたいなだらけ癖野郎が増えたらボーダーがつぶれる」

 

 ひどい言われようだな、当真先輩。

 一応マキリサ先輩は後輩のはずなのに、どう見ても彼女の方が立場が上だ。

 

「ま、俺もちゃんと考えてますよ。時間は有限ですからね」

 

「ふーん。ある程度決まってるって感じの顔ね」

 

「お、もしかしてうちに来ちゃう?一緒に狙撃手道楽しもうぜ」

 

「狙撃手はないっすねー」

 

 てか、やったことないので今からA級の部隊に入りつつ、ポジション転向はさすがに厳しい。

 あと、後ろの方からちまちま撃つのは性分に合わない。ド派手にやりたいお年頃ってやつ。

 

「なんだよ。つまんないこと言うなって、俺が教えてやるからよ」

 

「大変光栄ですけど、師匠を増やすと二宮さんがふてくされるんで」

 

 あの人面倒くさいからね。

 それはもう面倒くさい。嫌いじゃないけど。

 

「何かあったら頼りにさせてもらいますよ。狙撃手の子が悩んでたりとか」

 

「んん?何か心当たりがある感じ?」

 

「いや、別にないですよ。ただいつかって話です」

 

 もしかしたら同じクラスに新しくボーダーに入る子が出てくるかもしれない。

 かもしれないだけだが、その時は紹介させてもらうとしよう。

 

「そうか。なら、かわいいかわいい後輩に頼りにされるのを待ってるとするよ」

 

「何を意味の分からないことを言ってるんだか、作戦室戻るよ。冬島さんの仕事が終わったって」

 

「へいへーい。じゃあな、壽」

 

「さようならー」

 

 マキリサ先輩と当真先輩がいなくなり、また俺は人間観察へと戻る。

 そんなつもりだったが、部隊ね。

 

 いい加減考える必要があるかもしれない。

 そんな急ぐものではないと理解しているけど、社会経験ってやつ?何事も挑戦は大事だと俺は思うわけだ。

 停滞は成長じゃないからね。進まなきゃいけない。

 

 相変わらずやりたかったことの進展はないけど、もしかしたらA級になれば何かわかるかもしれない。

 ボーダーのいろんなところに行って、様々な人からなんとなく話を聞いたがいまいちこれと言って有益な情報はない。

 もしかしたら忍田本部長のような上層部とかかわるべきなのかもしれない。でも、草むらからポ〇モンが出てくるみたいにその辺歩いているようなもんじゃないしなあ。

 

 それに上層部ほど上の人間とあまりかかわりたくない、なんてネガティブな感情も心のどこかにあるのだ。

 大変面倒なことになりそうな予感がするので、積極的にかかわりたいとは思えない。

 

 そんな甘ったれた願望のような、わがままのようなものをいつまでも持ってるから俺はここまで何もしてないんだろうなと、思っている。

 洸太郎さんにも自分で決めることは悪いことじゃねぇぞ、って言われたし。

 

 だから俺は、そろそろ周りに甘えるのはやめようと思ったわけだ。

 

「……あれは」

 

 見覚えのある姿。

 ボーダーに入ってから1番か、2番目ぐらいに会ってる気がする。

 だからパッと視界に入ったころには、視線が合っていることには慣れっこだ。もう知ってる世界。

 そして彼女はにこっと笑ってから、俺の方へと歩いてくる。自信に満ちた表情で、一切の迷いなく。

 

「今日はどんな感じかしら」

 

「過去一良い日だと思いますよ」

 

「あら、それは良いことを聞いたわ。なら、返事を聞かせてちょうだい」

 

 慣れたやり取り。

 何度もこれを繰り返し、そして何度も彼女は現れた。

 

 今思い返してみると、かなりぞんざいに扱っていた。なので、どこかで彼女の気分を害してしまい、絶交していたっておかしくないのだ。

 俺は、そんな彼女に甘えて、ゆだねていた気がする。選択を放棄することを許し続けた、目の前の女性は、今も俺に選択を突きつける。

 容赦なく、飄々と。

 

 東さんが言っていた。

 みんないい奴だって。

 

 そして、こうも言っていた。

 きっと君にとって、良いことが起こると。

 

 はずでも、かもしれないでもなく。

 起こると、東さんは言い切っていた。

 

 なんとなく。

 今はその意味が分かる気がする。

 

「俺を、加古隊に入れてください」

 

「ええ、歓迎するわ」

 

 驚く様子も、喜ぶ様子もない。

 加古さんは、分かっていたとでも言いたげな表情で俺を迎え入れた。




というわけで加古隊に入隊します。あっさりしているようですが、ここに至るまでのながーーい物語が割愛されているだけなので、それはもう濃厚な時間を彼らは過ごしています。
ただちょっと、最後の後押しを真木理佐がしてくれた感じです

一応下にアンケート結果の方記載しておきます。


『壽くん入隊ガチアンケート』結果
1, 加古隊 374票
2, 那須隊 267票
3, 柿崎隊 175票
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