ただ愛されればそれでいい   作:サラダボウル

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神の子

「ふむ」

 

 会議室。

 そこには以前のようにボーダーの上層部が集まっているわけではなく、一番奥の席に二人の人影があるだけだ。 

 

 そして、そのうちの一人。椅子に座っている男の手元に置かれた書類。

 そこには加古隊に件の壽が入隊したこと。また、加古隊がB級への降格を要求していることが書いてあった。

 

 想定内。

 これらの結果は、壽の周囲に探りを入れていた以上容易に予想できたことであり、実際にそうなると踏んでいた。なんなら、予想通りに動いてくれたことに感謝すら覚えるぐらいには、壽の動きは分かりやすいものだった。

 

 だが、だからと言ってその行動を許可するかどうかについては別であり、切り離して考えるべき事案である。

 

「この前の会議、随分と荒れたらしいじゃないですか。うちのボスが言ってましたよ」

 

「お前が厄介な話を持ち込んだ翌日だ。時期が悪い」

 

 そう言いながら、鋭い視線を(じん)へと向ける城戸。

 しかし、それにひるむことなく迅のあっけらかんとした表情は崩れない。

 

「あれも、お前が思い描いていた通りに進んだというわけか」

 

 城戸の追求するような言動に一切動じない迅を見て、城戸はすぐに理解した。

 厳密にいえば、会議中ずっと思ってはいたが今、確信へと変わった。

 

「ま、そうですね。間違いなくあれで未来は動きました」

 

 すべては語らない。

 彼に見えているありとあらゆる未来を語ってしまえば、それで存在する問題が解決するほど世界は甘くない。

 だから、迅は人知れず人を操り、未来を微調整していく。少しでも良い未来であるために。

 

 それを城戸も理解している。

 だから、それ以上は踏み込まない。未来は常に揺れており、確定するのは今その瞬間のみであるから。

 

「それで、どうだった」

 

「そうですね。問題はないと思いますよ、彼。それに加古隊もすぐに戻ってきそうですし、戦力面の問題はすぐに解決する。なんならより良い結果がやってくるかなと」

 

「加古隊がB級に降格することは他のB級の隊員たちに良い影響を与えると?」

 

 迅の発言の真意を、城戸は問いただす。

 相変わらずすべてを語りたがらない迅だが、それは城戸の求めているモノではない。

 迅に見えている可能性を、わずかにでも語られないと困るのはボーダーなのだから。

 

「そういうことですね。まず、壽隊員が入ったことでボーダー隊員がおれの想像以上の成長を見せてくれてる。この決断も、間違いなくボーダーにとって良いものになるかな」

 

「そうか」

 

 言っていることはたいして変わっていないが、より細かい説明。

 迅悠一のサイドエフェクト──未来視──によって見えている未来には、この決断は良いものとして映っている様だ。

 

 ゆっくりと瞼を閉じ、どう選択するかを考える城戸。

 迅のサイドエフェクトは万能ではない。無数の未来が見えているだけであり、良い未来の中に紛れ込んでいる最悪の進んでいく可能性もある。

 だから、サイドエフェクトにすべてを託し、運に未来を授けるわけにはいかないのだ。

 

 利用するが、利用しすぎた時に足元をすくわれるのはボーダーであり、責任を迅に背負わせたところで何も解決できない。

 第一、彼がすべての未来を語るとは限らない。今まで様々なところで暗躍を続けている迅を城戸は信用しきってはいないのだ。

 彼の助言に対して一考する余地はあると考えてはいるものの、従う必要はないと思っている。

 

 だから、城戸はあくまで選択の参考資料として迅を呼んだ。

 

「そんなにおれの言うことが信用できませんか?傷つくなー、おれは別にボーダーに害するつもりなんてありませんよ」

 

「だからと言って、すべてを未来視に頼るつもりはない。今までどれだけお前の遊びに付き合わされたと思ってる」

 

「悪いとは思ってますけど、面白かったでしょ?特に忍田さんが城戸さんの車切ったときとか良かったと思ったんですけどね~」

 

「そういったことがあるから、おまえの未来視を頼り切っていないわけだ」

 

 ひどいな~、なんて言いながら迅は城戸の発言に相変わらずすっとぼけた返事をする。

 悪いとは思っているが、直す気はないようだ。

 

「壽の件は、許可しよう。だが、警戒は依然として続けてもらうぞ。迅」

 

「お任せを。この実力派エリート頑張らせていただきますよ!」

 

 真面目に取り合っていないわけではないが、本当にわかっているのか不安になる回答。

 それに慣れている城戸は眉一つ動かさず、その発言を受け流した。

 仕事はこなす人間であることを城戸は理解している。

 

 迅悠一のすべてを理解することは不可能だが、最低限覚えておけばいいことがある。

 それは──

 

 

 

 

 

 ─────彼は実力派エリートである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「壽くんね」

 

 もらった資料を思い出しながら、ぼんち揚げを片手にボーダーの廊下を歩く迅。

 城戸からもらった資料に目を通し、ここに来る前に一度壽を視界に収めておいたので以前よりかはよりはっきりとした未来が見えた。

 が、依然として完璧ではない。いまだ、不安定な先の未来だった。

 

「彼がそのうち来る『大規模侵攻』に関わる未来が見えないのは……どういうことなのかな~」

 

 つい先日、迅の未来視にひっかかりその存在が明らかになった第二次大規模侵攻。

 その情報はすぐさまボーダー上層部に伝えられたが、現状明らかになっているのがそれが来ることだけであり、時期は未定だし、規模も未知数。強いて言うのならば大規模なことしか判明しなかった。どのようなトリオン兵、トリガー使い、もしくはブラックトリガー使いがいるかなど詳細はいまだ不明。

 だが、場合によっては多数の死傷者が出る可能性が見えたので、それが今までの比ではないことが容易に想像できた。

 

 あまりにも情報としては不足が多すぎるが、ないよりかはマシ。来るという情報があるだけで身構えることができるし、それとなくA級部隊をボーダー本部に待機させ、B級の防衛任務を調整することができる。さらに、防衛力の増強にトリオンを使おうとする意識が生まれるので悪いことばかりではないが、今回ばかりはそれが悪く作用した。

 大規模侵攻の報告があった翌日に、緊急の会議。そこでは、ボーダーの理解できないところまで至ったサイドエフェクトが公開された。

 ただでさえ、大規模侵攻の対応にてんやわんやだというのに、会議の議題はボーダー上層部の誰もが理解しえないこと。上層部の誰もが大規模侵攻を恐れていたが、それを特に恐れていた城戸派の緊張は限界を迎えた。

 

 そんな不穏分子を残してはおけない。

 ましてや、つい数か月前にボーダーから向こうの世界へと密航した人間が出たばかりで、実はボーダー内部に近界民がいるのではないか。もしくはそれに準ずる人間が潜んでいるのではなんて話が出たばかり、すべて時期が悪い。

 

 密航者。

 大規模侵攻。

 ボーダーでは理解できないサイドエフェクト保有者。

 

 近界民に対して悪感情を抱いている城戸派の警戒度はもう既に限界を突破しており、ほんの少しの不安要素も手元に残したくない。

 疑わしくは罰せずが法律の基本ではあるが、そんな甘えたことを言えるほどボーダーに余裕はなかった。疑わしきは罰せよ。それが今の城戸派だ。

 

「ま、会ってみればわかるか」

 

 未来視を頼りに、ふらふらと歩く迅。

 ボーダーで連絡先を知らない人間を探すのなんて愚かとしか言えないが、迅にとってはおちゃのこさいさいだ。

 未来視の進路を任せ、ぼんち揚げはほおばりながら歩いていればあら簡単。

 

「やあ、君が壽くん?」

 

「そう……ですけど」

 

 誰だこいつ。

 そんな感情のこもっていそうな視線が迅に向けられる。未来視で一方的に知った相手と話すときによく見る光景。

 なので、迅にとってはこういった初対面は慣れっこであり、これに対する返答はいつも──

 

「どうも、初めまして。実力派エリートの迅悠一です!」

 

 これである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 加古隊への入隊届を出し、ボーダーへB級への降格を要求したのまでは良かったが、その場ではい分かりましたとはいかなかったようで、一週間後に結果を報告するという形になった。さすがにすぐに降格はさせてくれないだろうとは思っていたので、想定内だったが、加古隊への入隊すら審議の対象になるのは想定外だった。 

 別にそっちは好きにさせてくれればいいじゃないか。

 

 そんなことを思っていたので、急遽一週間の暇が生まれてしまった。

 俺の予定ではこの時期は加古隊関係で忙しい予定だったんだけどなあ。

 

 なんて思いながら、俺は今日もラウンジで暇をつぶしている。

 やることないからね、しょうがいないね。

 

「だれか暇そうな人来ないかねー」

 

 話し相手が欲しい。

 B級の知り合いはみんな忙しいので誰も相手をしてくれない。

 だから、A級の冬島隊か、加古隊、三輪隊ぐらいしか知らないけどその辺の誰かが来ないかな。

 

 と思っていると。

 

「ん?」

 

 見覚えのない誰かが俺の方へと向かってきた。

 知り合い……ではないな。見たことない人だ。

 

「やあ、君が壽くん?」

 

「そう……ですけど」

 

 誰だこの人。

 俺のことは知っているらしいが、誰かの知り合いだろうか?

 俺の情報は思いのほか噂としていろんな人に広がっているようなので、こういう人が現れても特に驚かない。

 

「どうも、初めまして。実力派エリートの迅悠一です!」

 

「迅……さん?」

 

 やっぱり聞き覚えは……いや。

 ある。

 見たのがだいぶ前、しかもログの記録自体もかなり前だったので記憶から消え始めていた。

 

風刃(ふうじん)の争奪戦に勝った人だ!」

 

「お、最近の若者は物知りだね。そう!この俺が、ボーダーに二人しかいないS級隊員の迅悠一さ!」

 

「すごーい……それで、そんな人がどうしたんですか」

 

 性能がどんなものなのかは、あいにくと存じ上げないがブラックトリガーなんだからすごいんだろう。

 勝手にそう思ってる。それと、迅さんは未来視のサイドエフェクトを持っているそうだ。

 未来が見えるのがサイドエフェクトに収まるのか疑問だが、そう言われているのだからそうですかとしか言えない。

 無限の可能性ってやつ。

 

「実は聞きたいことがあるんだ」

 

「聞きたいことですか?可能な限りお答えしますけど、そんな珍しいことは何も知りませんよ」

 

 俺だけが握る秘密なんてないんだけどな。

 強いて言えば加古炒飯の失敗作の組み合わせぐらい。あとは何も知らない。

 

「簡単な質問さ。気楽に答えてくれればいい」

 

「?そうですか。それで?」

 

「君は、一体何をしにボーダーに来たんだい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、やつはなんて答えたんだ」

 

「いやー、実はそのあと教えてもらえなくてねー」

 

「何をふざけたことを言っておる!というか、おぬしにはサイドエフェクトがあるだろう!それで見えたんじゃないのか!?」

 

 場面は変わり、会議室。

 再び集められた上層部と、迅。

 

 今回は前回とは違い、いくつかの検査。そして、迅悠一が彼と接触したので開かれた会議である。

 少なくとも前回よりかは有意義なものになるだろうという考えのもと行われた会議であったが、結果はあまり良くなさそうである。

 

「それが、俺のサイドエフェクトを使ってもどの世界線でも彼は答えなかった」

 

「それほどに隠す必要があるということか?」

 

 何か本当に邪な考えがあるのでは、そう思った忍田が迅に訊く。

 しかし、迅はその問いにすぐさま首を横に振った。

 

「実はある人物が口止めしたみたいでね。しかもそれが厄介で厄介で」

 

「厄介?」

 

「どうも、真木ちゃんに言ったみたいでね。これは無理だと思って切り上げた限りです!」

 

 真木理佐の名前が出たことで、上層部の全員が頭を抱えた。

 無理だなと。

 

 真木理佐。

 A級2位の冬島隊を表立って仕切っている人間であり、上層部に対して敵対的とまではいかなくとも従順ではない。

 どの派閥にも属さず、どのような状況でも自分に絶対的な自信がある人間。そんな人間が、他人のことをべらべらと話すことはないだろう。

 良い点を挙げるのならば部隊の人間の行動には放任主義的姿勢を見せるので、当真を城戸指令によって好きに扱っても文句を言わない点。なお、本人に雑な指令を下そうものならぼろくそに言ってくる模様。

 

「真木隊員か……。口止めした本人では、言うことはないだろう」

 

「そういうわけで、壽くんは教えてくれなかったし、未来視でも見られませんでした」

 

「それでは、やつが何を目的にここに来たのか分からんではないか」

 

「やはり、ボーダー内部の情報を抜き取って大規模侵攻に使われるんじゃないですかねぇ。最近はボーダー内部すらきな臭いですし」

 

「いや、そこは否定させてもらうよ」

 

 根付の予想は、迅によって否定される。

 前回の会議でははっきりと言い切れなかった部分が、迅がいることによって円滑に進んでいく。

 

「おれの未来視のどこにも彼がそういった規定に違反しそうなことをする様子も見られなかったし、彼が誰かを害する様子もなかった」

 

「そ、そうですか」

 

 前回の会議では不審な点が多く、一方的に敵対視されていた壽であったが迅のサイドエフェクトを用いることによって少しずつ不信感がそがれていく。

 それほどまでに未来視は特別視されている。絶対的ではないにしても、ある程度の影響力を持つ程度には。

 

「しかし、それは未来ではという話ではないのか、迅。彼が過去に何かやっていてもそれを我々が確認する術はない」

 

「見えない可能性を論じても結論は出ないでしょ。それに、そっちだって調べられる範囲で調べてるんでしょ?合法か違法かは置いておいてさ」

 

「そうだな」

 

「なら、分かってるんじゃない?彼にできるかどうか」

 

 間。

 わずかな間が生まれた。

 

「………ああ……そうだな」

 

 ずいぶんと長いな、唐沢は黙っていながらも思った。

 ただの相槌にしてはやけに長い。まるで、何か思うところがあるかのようだった。

 

「それよりも大事な話題。てか、もともとの話題があるはずでしょ。壽くんはそんな子じゃありませんでしたってことで、鬼怒田さーん」

 

 迅に呼びかけられた鬼怒田が書類を手にもって立ち上がる。

 いやそうな顔をしているが、最低限の仕事はしなければいけない。

 この会議は壽隊員の件を話し合うと随分と漠然とした議題だが、話し合う内容な決まっているようなものであり、彼が安全な存在なのか、そして彼のサイドエフェクトについて。

 

 壽知盛の安全性については、すでに迅のサイドエフェクトを用いて未来の安全を、そして城戸の捜査を経て過去の安全を確保した。これ以上話し合うことはない。いまだ、怪しいところこそあるが、それは真木理佐という一人に遮られた。

 だから、話は変わる。言い換えるならば、前進した。

 

「奴のサイドエフェクトの件だ。いろいろと理由をつけて、検査をしてみた」

 

「前回は分からない部分が多く、議論にならなかったが、今回は十分なデータがそろったということでよろしいですか?鬼怒田さん」

 

「そうだな。我々の分かる範囲では最高の情報が手に入ったと言えよう」

 

 忍田の責めるような問いに、鬼怒田は顔色一つ変えずに言い切った。今回は前回とは違うと。なんとなく引っかかるところはあるが、少なくとも前回よりはマシらしい。

 具体的にどんな検査をしたかは、トリオンの解析を専門にしていない人間には分からない。なので、結論から言ってしまうと、と鬼怒田は話し出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「奴は、トリオンの圧縮に成功しておる」




上層部は会話させづらい。
特に林藤支部長と、根付さん。違いを口調で出すのが難しい。
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