転送が完了し、足が地面に着く。
緊張と興奮が俺の心を支配していて、高揚感が抑えられそうにない。
別に抑える必要もないけどね。
「状況は?」
「那須隊と柿崎隊の全員がバッグワームを起動しました。位置は分かりそうにないですね」
「なるほど……、初期位置にピンだけお願いします。あとから接敵したときに考えるんで」
ピンの確認と他のみんなの確認のためにレーダーを開く。
マップの西に加古さんと喜多川先輩。俺と黒江が東側。加古さんと喜多川先輩は近いけど、俺と黒江は距離があるな。
敵の誰がどこにいるのかが分からないからなんも予想が立てられない……。
「加古さんと喜多川先輩は合流を優先。黒江は中央に行って敵の確認をお願い」
「加古、了解」
「こっちもりょうか~い」
「黒江、了解」
俺の方はあまり接敵したくない。
高台をとって探るとしよう。
「転送の完了後、すぐに那須隊と柿崎隊がバッグワームを起動!これにはどういった狙いがあるのでしょうか?」
「那須隊は狙撃手の日浦を隠すため、柿崎隊は合流によって自らの場所が明らかになるのを隠すためってところでしょう」
「日浦隊員を隠すために那須隊がバッグワームを使う必要があるんですか?」
三輪の発言に、武富が質問をぶつける。
こういった足りない部分を引き出すのも実況である彼女の役割であり、この行動のおかげで最近のボーダーの戦術のレベルは格段に上がっている。
「もし、柿崎隊がバッグワームを使わなかった場合。那須隊は日浦だけがバックワームを起動することになるかもしれない。そうなったら、バッグワームで姿を隠していながらそこにいたという事実が痕跡として残る。それだけで位置を特定できる奴も存在するからそれ対策だろう」
「狙撃手は場所がばれるのが一番きついからな。隠岐みたいにひょいひょい動けるならまだしも、普通の狙撃手じゃあ、転送された場所ばれるだけでもきついってもんよ」
「なるほど、日浦隊員を隠すためとはそういうことだったんですね」
「ま、その分トリオン量が大事な那須が無駄にトリオン使うことになるけどな。唯一の狙撃手を生かすためなら必要な犠牲ではあるがよ」
戦闘によるトリオンの消費が大きく、残存トリオン量が戦闘時間に直結する射手である那須がバッグワームを起動するのはデメリットが大きい。
が、部隊として見た時。この試合で唯一狙撃手が存在する那須隊からすれば、日浦が機転となって突破できる展開があるかもしれない。
簡単に見捨てることはできないわけだ。
「柿崎隊は合流を優先したようで、各隊員が中央に集まっています!また、それぞれがかなり離れてしまった那須隊は、那須隊長と熊谷隊員が合流するようなそぶりを見せています!」
柿崎隊はそれぞれの隊員が適度に散らばったため、中央で合流するために動き始める。
那須隊も那須と熊谷の距離こそ近かったが、日浦隊員が南──喜多川と壽に挟まれるように転送されたので、外から大きく回って、加古と喜多川を他の二人と挟むように動いていた。
「加古隊は……東西で部隊を分けたようです!」
「西側を加古と喜多川、東を黒江と壽が担当って感じだな。この動き方的に──」
「当たるな」
「しくじったか」
「そんなことないですよ」
バッグワームを起動していて位置がばれるはずはない。
分かっていたとしても初期位置だけで、ここまで正確に待ち伏せされることは想定していなかった。
「黒江……だったな。そこ通してもらえると嬉しいんだが」
「悪いですけど、柿崎さん。ここで倒されてください」
「ははっ、これは手厳しい」
一対一。
連携を重視する柿崎隊の隊員が一人だと弱いことはないが、自分が倒されるほど強いとは思っていない黒江。
黒江が弱いとは微塵も思っていないが、倒されるほどとは思っていない柿崎。
黒江が目指すは、一瞬での決着。
柿崎が目指すは、味方の到着。
『加古隊の黒江に捕まった。こっちに集まってくれ』
『『了解!』』
柿崎は他の二人に指示を出し、銃を構える。
黒江は今季の注目株ということもあり、トリガー構成が明らかになっている。
良くも悪くも目立っていたため、対策は簡単に立てられたのだ。
グラスホッパーなしでも身軽に動くことができ、何食わぬ顔で銃も避けてくる。
壽が注目度合いが大きかったため隠れてしまったが、彼女と戦い、勝つのは簡単なことではない。ましてや並の銃手が一対一で戦うべき相手ではない。
「──ッ!」
「はやい!!」
銃口の先から一瞬でいなくなり、目にもとまらぬ速さで間合いを詰められる。
が、この程度のことなら想定内。柿崎はすぐさま弧月を抜刀し、防御に回る───ようにみせる。
黒江の攻撃を左手だけで止め、開いた右手で引き金を引く。
開いていた横腹に大量の弾丸が叩き込まれた。
「固すぎだろ」
「これぐらいなら、なんてことないので」
が、壽との練習のせいで分厚くシールドを張る癖のついた黒江に弾丸が届くことはなかった。
多少ひびが入る程度。割れるにはまだまだ打つ必要がありそうだった。
銃を絡めての戦闘は得策ではないと判断した柿崎は、銃を持っていた右手を弧月に添える。
あわよくば、自分一人で落とせないかと思っていたが、それが難しいことを改めて理解した。
時間を稼ぐ。
目的をそれ一本に決めた柿崎の判断は早い。
弧月をふるい、黒江に防御を強制させる。
黒江は速い。だが、力はない。寄ってしまえば、分があるのは柿崎だ。
力で無理やり押し込み、時折体を使って、無理矢理防御をはがす。
それだけで、黒江の防御が崩されてしまい後手に回る羽目になる。
「くっ」
耐えきれないと判断した黒江は、大きく後ろへと飛んで一度仕切りなおす。
が、その隙を見逃さない柿崎の銃撃が放たれる。
横へと走り、銃撃を躱す。
寄ってきたら弧月で、離れるなら銃で。
黒江と違い近中両方に対応できるのが、柿崎の強みだ。
離れていては、消耗するだけだと判断した黒江が壁を蹴り、一気に間合いを詰める。
それに合わせて、弧月に持ち替えすぐに防御へと回る柿崎。
力押しさせる余裕を作らないように、数で柿崎を圧倒しようとする黒江。
攻撃する隙こそないが、柿崎は崩れない。
完璧に防御しきり、自らの体に刃を近づかせなかった。
「そろそろですね」
「はっ!分かってるじゃねえか!」
黒江が跳び、柿崎が引く。
刹那──二人のいたところが銃撃される。
「柿崎さん!大丈夫ですか!」
「すみません!遅れました!」
照屋と巴が到着する。
黒江の目的は失敗し、柿崎の時間稼ぎが成功した形だ。
照屋が銃撃しながら柿崎へと近づき、あっという間に三人が固まってしまう。
壽が到着していない黒江は、一気に窮地へと立たされる。
柿崎隊の隊員一人だけならまだしも、三人そろってしまえば黒江が突破するのは難しい。
そろってしまった柿崎隊に、一人で当たるのは得策ではない。
それを理解しているから、黒江はじりじりと後ろへと下がっていた。
近づかなければ攻撃できないが、近づくまでの銃撃、近づいてから囲まれてしまえばこちらが消耗させられるだけ。
なら、遠くまで離れて銃撃も届かないぐらいまで逃げるのが一番良い選択だ。
しかし、それが許されない。
だから、逃げない。逃げずに立ち向かうのだ。
それが、彼女に与えられた役目だから。
「柿崎隊が集まってしまった!!黒江隊員、一気に窮地へと追い込まれてしまいました!」
激闘を繰り広げていたい柿崎vs黒江の激闘の実況は、照屋と巴の到着でさらにボルテージが上がる。
互角の勝負をしていた二人だが、二人も増援が来てしまえば黒江の劣勢は火を見るよりも明らかである。
「壽が来ない以上、継戦するのは得策とは言えないだろう。だが、引かないようだな」
「なんか理由があんじゃねえの?実は因縁があるとか?」
「圧倒的に劣勢な状況ですが、黒江隊員は引く姿勢を見せません。それにしびれを切らした柿崎隊が攻撃を開始する!」
画面上では、柿崎隊全員の銃撃が黒江を襲う。
それに両防御で対応する黒江。だが、シールドで防ぎきるには限界があり、体の中心から外れたところを通る銃弾が体をかすめる。
ちょっとした傷だが、間違いなく黒江一人では対応できていない。
「黒江一人で対応できるっていう算段か?」
「そこまで考えなしじゃないだろう、加古さんもいるんだ。無謀な作戦は止めに入るはず」
「だとしたら、なんで壽が───って、加古の方も当たりそうだな」
ちらっと加古の方を見ると、那須との距離が急接近していることに気づいた当真がそちらに注目を集める。
黒江の方も目が離せないが、那須と加古の勝負も同じぐらい。いや、それ以上に目が離せない。
射手同士の戦いはあまり見れることがなく、ましてや那須が射手と戦うのは個人戦以外ではなかった。
初のランク戦での射手勝負。
そうなれば自然と全員の視線がそちらに集まるのは当然だ。
だが。
それを待っていましたと言わんばかりに。
『こちらもうすぐ接敵するわ』
『了解です』
加古さんからの報告。
個人的にはここで茜を見つけておきたかったが、さすがに肉眼でどこにいるか分からない狙撃手を見つけるのは難しかった。
こっちがばれてないといいな、なんて思いながら俺は黒江と連絡を取る。
『そっちは大丈夫?』
『まだ、耐えて見せます!』
『無理はしないでよ。もう
『……分かりました。仕切り直します』
黒江は負けず嫌いだ。
だから、こういった駆け引きの面ではあまりよい立ち回りができないところがある。
加古さんは、そこをかわいいなんて表現してたけど、それは大人の余裕としか言えなかった。
俺も人のことを言える立場じゃないと思うけど、負けず嫌いは足元をすくわれやすくなるからよくないと思ってたりする。
『こちら、壽。黒江の方に
『加古、了解』
『黒江、了解』
『喜多川、了解しました~』
やり方は分かってる。
何度も実践した。
ただ、いつもと違うことがあるとすれば、それはもしかしたら誰かが狙っているかもという恐怖があること。
しかしそれも限りなく排除できる体制を作った。
黒江の前に柿崎隊がいて、加古さんの前に那須先輩と熊谷先輩。
おそらく茜もそっちを見ているはずだ。
だから、ただいつも通り。
「
─────
本作ではバッグワームタグは常時起動している設定です。
なので、転送直後から喜多川はレーダーに映っていません。