ただ愛されればそれでいい   作:サラダボウル

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 轟雷が飛翔する。

 つい数か月前まではA級ランク戦で、また、ここ最近はB級上位で見ることのできる天を穿つと言わんばかりの上昇を見せる弾トリガーの軌跡。

 それが、B級中位に現れた。

 

「ななな、なんだあれはあああああああ!!!!!」

 

 その光景に観覧室にいる人間は誰もが驚愕する。

 予想していなかった一手、この中で壽が弾トリガーをああいった使い方をすると思っていた人間は一人もいなかった。

 

「なんだありゃあ。あの見た目的に相当割ってるだろ」

 

 画面いっぱいに広がる弾丸は、大量なんて表現じゃ収まりきらない量だった。

 無数の誘導炸裂弾が、宙を舞い、どこかへと飛来していく光景は彗星を想起させた。

 

「あいつだからできることだろう。元の火力を考えればあの位割っても並の火力程度にしかならない」

 

「だとしてもよ」

 

 三輪の言葉を、当真は否定する。

 お互いの顔を見ることなく、目の前の光景に魅せられながらも解説は続く。

 

「ああ、あれだけの数落ちると、話は変わってくる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「走れ!!!!!」

 

 柿崎から飛ばされた命令は単純かつ迅速だった。

 あれほどの者を打ち出せるのは壽しかいない。そして、あれを撃ちこむ必要があるとしたらここでしかない。

 そういった過程を経て、柿崎はあれがどこに向かっているのか正確に判明する前から指示を飛ばす。

 

 そして、今がどれだけ危険な状況なのかを柿崎の声色から理解した二人は返事すらせずに全速力で走りだす。

 少しでも互いに当たる確率を減らすためにばらばらの方向へと、連携を捨てる判断を下した。

 

 その判断の正誤は、目の前から黒江がいなくなっていることを踏まえると、考える必要もないだろう。

 一人でも生き残れば御の字。そう考えながらも、自らが生き残ることを念頭に置いて柿崎も走り出す。

 

 軌道から考えるとあれはただのメテオラではない。

 何か混ざっているはず。

 バイパーか?

 いや、ならもっと直線的な軌道になるはず。

 

 思考は止めない。

 何があるかわからない以上、常に考え続け生き残るための最適解を見つける必要がある。

 だからこそ、たどり着く結論は非情だった。

 

「あれが、サラマンダーだって言うのかよっ!!!」

 

 速度はそれほど早くない。

 だが、近くに落ちるだけで致命傷になりえる。

 ハウンドの性質を持つ以上、避けるのも簡単じゃない。

 しかし、だからと言ってすべてをあきらめるわけにはいかない。

 

 サラマンダーはどんどんと柿崎たちへと近づき、もう落ちてくることが分かる。

 あと5秒後には誰が生き残っているのか分からない。

 ただ、仲間たちが生き残っていることを信じて。

 

「シールド!!」

 

 柿崎は悲劇に抗った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いい感じだと思うんだけど………」

 

 大砲が地をえぐり、土煙が立ち込めている。

 その様子を、俺は離れたところで見ているわけなのだが……。

 

「なんにも見えない」

 

 土煙がひどすぎて何も見えない。

 でも一つだけ言えることがある。

 

「思ったよりも微妙だったな、これ」

 

 ベイルアウトを表す光の線がどこからも伸びていないところ見るに、おそらく撃破に至ったものはひとつもないようだ。

 まあ、致命傷でぎりぎり耐えてるだけかもしれないけどね。

 だとしても、一撃で仕留められなかったということであり、その死にかけに足元をすくわれる可能性がある。

 やるなら確実に持っていきたかったが、思いのほか決まらなかった。

 

「見た目だけだな。この使い方はあまり有効じゃないらしい」

 

 効果は言った通りだし、他にも黒江に当たりかねないという問題もある。地形を壊す目的なら最適かもしれない。

 メテオラは攻撃ってよりか地形破壊がメインだな。やっぱ、普通にアステロイド使ってる方がいいね。

 

『そっちは大丈夫?』

 

『はい、問題ないです。すぐに攻撃を仕掛けてもいいですか?』

 

『うん、お願い。俺もそっちいくよ』

 

『わかりました、先に始めておきます』

 

 超長距離射撃の効果は見れたし、次は黒江との連携の確認だな。

 ぜいたくを言うのなら無傷の柿崎隊に会いたいが、それはそれで俺の攻撃が大失敗していることを意味するのである程度の損害は負っていてほしい。

 

 とりあえず、黒江との合流を目指すとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『全員無事か!?』

 

 土煙が支配する市街地A北東部。

 壽の落としたサラマンダーによって周囲の住宅は軒並み消え去り、ほぼ更地と化している。

 若干の残骸が見える程度で、一気に視界が晴れてしまった。

 

『こっちは問題ないです!』

 

 巴の元気な返事がくる。

 柿崎、巴は両名とも命中と至近弾がなく、五体満足だった。

 

『す、すみません。柿崎さん』

 

 だが、一人だけ至近弾を食らった人間がいた。

 

『文香!?どうした!』

 

『右足を持ってかれちゃいました。すみません』

 

『いや、ベイルアウトしていないなら問題ない。虎太郎!文香の方に集合だ!』

 

『了解!』

 

 すぐさま照屋の所へと集まる柿崎と巴。

 照屋は壽の爆撃を食らってしまい、右足がなくなっていた。

 膝から下がなく、歩くにはかなり無理があった。

 

「立てるか?」

 

 照屋のもとに到着した柿崎と巴は心配そうな目で彼女を見る。

 それに耐えきれない彼女は気丈にふるまおうと立ち上がるが、自分一人では立てず、柿崎の肩を借りる。

 

 塀などがあったならまだもう少しマシだったかもしれないが、ここら一体の家々は壽によって吹き飛ばされてしまったので彼女が支えにできるものがない。

 一人で動けないのは今後の戦闘を考えると大打撃だ。どうにかして照屋を動かしたい柿崎隊だったが、そのような暇を加古隊は与えない。

 

「みなさん、そろってますね」

 

「来るのが早いじゃないか」

 

 黒江双葉はもう既に、戦闘態勢に入っている。

 一方、柿崎隊は柿崎が照屋に肩を貸している状況で狙われると二人一気に持っていかれかねない。

 唯一、フリーの巴がいるが一人では抑えきれないのは目に見えている。柿崎よりも小さく、黒江相手に力押しができない以上一瞬で懐に入られかねない。

 

 場の主導権は、黒江が握っている。

 柿崎隊の人間はだれも動けない。

 

 そう、思っていた。

 

「まだッ!」

 

「──っ!」

 

 戦力外。

 そう思われていた照屋の攻撃。黒江の体に弾丸が当たることはなくとも、シールドを張りながら回避をする黒江の視線を、自分たちから一瞬ずらせた。

 

 その一瞬のスキは、柿崎が照屋から離れ、三人全員が射撃体勢に入ることを可能にした。

 状況は拮抗へと戻る。

 照屋が動けずとも、柿崎隊は三人での射撃がある。それで押し込んでしまえば、いくら黒江とはいえシールドだけでは防ぎきれない。

 

 それに、先ほどは照屋が立てない状況を作ったその更地も今は、黒江に隠れる場所をなくさせることができた。

 お互いにこの更地によって不利益を得ている。

 

 だから、柿崎隊は引き金を引くだけでいい。

 その自信と決断が、彼らを動かす前に──

 

 

 

 ───黒江が仕掛ける。

 

「な!」

 

 柿崎隊から視線を切り、逃げていく。

 その()()()()()()()()を見て、三人はとっさに空を見た。

 逃げる黒江を目にして、再び()()が来たのではと勘違いしてしまった。

 

 晴天の空に星はなく。

 眼前には殺意が飛んでくる。

 

「旋空──

 

「よけろ!!!!」

 

 ──弧月」

 

 

 伸びた弧月が柿崎の鼻先と照屋の喉元をかすめ、巴の左腕を切り飛ばす。

 また一人、また一人と柿崎隊に傷が増える。

 その瞬間を彼女は見逃さない。

 

 一気に間合いを詰め、柿崎隊へと迫る。

 だが、柿崎隊も崩れない。

 

「やるぞ!」

 

 柿崎の怒号ともいえるような合図に合わせて巴が走り出す。

 照屋は銃を構え、その銃撃で黒江を抑えようとし、柿崎の銃撃は黒江の目の前に落ちていく。

 

 それは、ひとつ前の試合で諏訪隊に見せた技。

 

 ───黒江は知っている。

 

 柿崎のメテオラが地面に穴をあけ、土煙を作る。

 

 ───それがどういった種で何をするのか。

 

 作り出した煙幕が、巴の姿を隠す。

 

 ───だから、待っていた。

 

 それと同時にバッグワームとビーコンの起動。

 

 ───何もみえない瞬間を

 

 黒江の周りを駆け、完璧な奇襲。

 

 ───それでいて、自らがいともたやすく線を引けるその隙を

 

 巴が引き金を引く。

 その時、否。それよりも速く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「韋駄天」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───え」

 

『伝達系破損 緊急脱出』

 

彼女の秘めていた神が、照屋文香を食い破った。

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