思わず耳をふさぎたくなる爆音。
それが那須隊にとっての戦闘開始の合図だった。
「バイパー!」
「ハウンド」
視界の端に広がる大きすぎる煙を気に止めず、那須と熊谷は加古へと攻撃を仕掛ける。
が、バイパーは何食わぬ顔で避けられてしまう。
「まだまだ!」
加古から放たれたハウンドの間に体をねじ込み、肉薄する熊谷。
振るわれた弧月は手品のように取り出したスコーピオンによって止められる。
攻撃が届かない。
なのに自分たちはハウンドで常に危機にさらされ続けている。
その事実が那須隊の二人を焦らせる。
どうせなら柿崎隊の方に行く案も那須には浮かんだが、つい先ほどの爆撃を見てそれが良い手だとは思えなくなった。
それに、向こうへ逃げている間にずっとハウンドが追ってくることになる。
那須隊にはどうにかして近づいて加古を倒すしか選択肢がなかった。
なので、距離を詰めるわけだが。
「じゃ」
加古が一歩後ろに下がる。
一瞬。
追いきれない速度でその姿が消え、今まで前にいたはずの加古が那須たちの左側に立っていた。
「ハウンド」
「くっ!」
瞬く間に分割されたハウンドが熊谷を襲う。
シールドで何とか耐えきるが、結局防戦一方なのに変わりはなく、攻撃ができない状況である。
那須隊と加古が戦うここにはもう既に喜多川がトラップを置いた後であり、レーダーには大量のトリオン反応が観測されている。
そんな状況でも近づかなければいけない理由は明白であり、加古というロングレンジで戦える存在だった。
近づきすぎればトラップで、離れるとハウンドで襲われる那須隊にとって何をすればいいのか分からないのが現状だった。
いつでも撃てるように日浦は待機している。
が、加古がずっと屋根の上を陣取っているのは狙撃を撃たせるためだと思っている那須は日浦にGOサインを出せないでいた。
『柿崎隊は全員向こうにそろってます。黒江ちゃんと壽くんも向こうに反応があるのでこっちに集中してもらって大丈夫です』
東側の戦況を見るように頼んでいた志岐から報告が入る。
が、それを聞いたところで現状が打開できそうな策は生まれてこなかった。
『その情報はうれしいんだけどね。いかんせん私たちだけで加古さんを押せないのが問題──っ!』
襲い掛かってくるハウンドをなんとか避ける熊谷。
シールドで防げるという点で壽のアステロイドよりもマシだが、だからと言って攻めに回れないのでマシなだけ。
那須もバイパーで反撃するが、相手は出水と戦ってきた人間。未来でも見ているのではと思いたくなるほど的確なシールドで攻撃を防がれる。
「狙撃手の子は一体どこにいるのかしら。あなたたち二人だけで勝つつもり?」
「まさか、加古さん相手にそんなことしませんよ」
加古の微笑みに、那須も微笑み返す。
両者の思惑が一致した瞬間である。
「ハウンド」
「バイパー」
両者のトリガーがそれぞれに襲い掛かる。
一点を食い破ろうとするハウンドと、囲い込むようなバイパー。
那須の得意とする鳥かごかと思った加古だったが、それにしては囲いが厳重。
何が狙いだろうかと、加古を思考を巡らせようとした瞬間に、理由が視界に飛び込んできた。
「旋空弧月」
「なるほど」
鳥かごで囲まれ、逃げ場のない状況での旋空弧月。
ある程度離れていても旋空を用いながらであれば問題なく当てられる算段。
足元に喜多川の用意したトラップはなく、テレポートは使えない。
ことはない。
「テレポート」
何食わぬ顔で自らが持っていたテレポートを使い、包囲を突破して攻撃を再開する。
はずだった。
──────ダンッ
どこかから聞こえた銃声。
遥か彼方南方から響いた銃声の原因が、加古の左腕を吹き飛ばした。
「東の柿崎隊と黒江隊員との戦いに目が離せない状況ではありますが、西での那須隊と加古隊長の戦闘は瞬きをする余裕すらない状況です!」
東では壽の爆撃によって跡形もなくなり、再度合流した柿崎隊とそこへと突入した黒江が戦闘を始めたぐらい。
西ではちょうど加古の左腕が吹き飛んでいた。
「那須隊の作戦が決まり、苦戦を強いられていた那須隊がついに加古隊に一矢報いたという状況でしょうか?」
流れるような状況解説と共に、話を解説の二人へとふる武富。
実況を提案した人間ということもあり、プロ顔負けの誘導だ。
「いいや」
そんな誘導を受けてボールを受け取った三輪の反応は否定だった。
「おや?那須隊の攻撃は一矢報いたわけじゃないと?」
「そういうわけじゃない。あの攻撃は間違いなく彼女らができる行動の中で最善手に近いものだった。だが、できる範疇で良いというだけで、それが加古さんに効果があるわけじゃない」
「ほうほう。戦闘の流れで見るのなら悪手だということですか?」
「そうだな。実際どうなのかはここからの加古さんの動きを見ればすぐにわかるだろう」
三輪の発言を受け、全員の視線が再び解説の三輪から画面に映し出されている加古へと移った。
「やっと見つけた」
たった一発。
されど、その一発は自らの場所を示すにたる行動だ。
『弾道解析終わりました!日浦隊員の所にピンを立てます!』
加古の視界に日浦の位置が表示される。
離れてはいるが狙撃の距離としては一般的な距離間。
日浦の優等生ぶりと、狙撃の技術を表す距離であり。
彼女が一般的な人間であることを表す証であった。
『真衣』
『任された』
那須のバイパーがたどり着くよりも早く。
熊谷の二撃目の旋空が切り裂くよりも先に。
加古の姿が消えた。
「はやい!」
視界から加古が消えたことは何度もあった。
だから、慣れていたことではあるがその行動が那須と熊谷への攻撃ではないのは今回が初めてだった。
しかし、それは知っている動きだった。
加古隊は狙撃手のいない部隊。
ましてや、黒江と壽が入るまでは二人で戦闘していた。
そんな状況でA級にいれていた理由はこういった小さな戦略にある。
「茜ちゃん!」
それはとっさに出た警告。
加古と喜多川が日浦を捉えたことをとっさにつたえるために唯一出た言葉だった。
「はあはあ」
背中からは明確な敵意が迫っている。
最初こそ私一人でも倒すなんて強気だった茜だったが、あれほど距離が離れていながらも加古と目が合ったという事実を経験し、逃げることを選択に入れた。
バッグワームは切っていないので場所は流れてはいない。
いないはずなのに、レーダーには高速でこちらへと突き進んでくる加古が確認できる。
時折、トリオン反応の位置が変わっているところを見るにトラップのテレポートを使っていることは分かるが、だとしても速い。
自分はトラップ地帯の外にいたはずなのに、自分の方へとのびるトラップと思われるトリオン反応。
そして、すぐさまそれを使ってテレポートする加古。
加古のすぐそばにいたはずの那須と熊谷が一瞬で引き離されてしまったところを見るに、どれだけ二人の動きが迅速なのかが分かる。
『完璧にまける状況なのにどうしてここまで迷いがないの!?』
悲鳴のような志岐の言葉を聞き流しながら、日浦は必死に走る。
どこかで足を止めて隠れたら見逃してくれるかもという期待と、もしかしたらそれすらも読まれているかもという恐怖が心を支配する。
何が良い手で、何が悪い手なのか分からない。
ここで振り返って、一矢報いるべきなのか。
逃げることを選択して、加古が見失うことにかけるべきなのか。
東さんのようになりたい!
なんて思った日は、かっこよく指揮をする自分を想像して少しだけ浮かれていた日浦。
しかし、現実はそんな夢をあざ笑うかのように泥臭く、非情だった。
元A級。その実力差は明確であり、必死に立てた作戦も自らの失敗で無に帰した。
これが攻撃手なら左手を使えなくしたことに意味があったかもしれないが、射手では効果が薄い。
わずかにトリオンの流出を引き起こせる程度。意味がないことは明白だった。
必死に積み上げた先。
少し希望にあふれた自分に見せつけられる現実は、あまりにも容赦がない。
『茜!!』
志岐の悲鳴のような呼び声。
それが何を意味しているのかは、手に取るように分かった。
決死の覚悟で日浦は振り向く。
すべてを受け入れた顔をしながら。
「やっと、捕まえた」
なんてことない住宅街の道端で、相対する両者。
日浦のトリガーセットには、グラスホッパーもテレポーターもない。
逃げるすべはない。
狙うは一矢報いることしかない。
が、その程度のことを加古が想定していないはずがなかった。
「───っ!」
もう既に分割の終わったハウンドが、振り向くと当時に日浦に放たれていた。
「問題は、加古さんたちとあたったときよね」
「あそこは狙撃手を狩りとる必殺がありますから、それにどう対応するか。ですね」
那須宅。
いつも通り作戦会議のために集まった、那須隊各員は加古と喜多川によって行われる狙撃手狩りをどうするか悩んでいた。
「やってくることは明確だけど、私たちじゃさすがにどうすることもできないわよね」
「一応グラスホッパーなんかをトリガー構成に採用するって考えもありますけど……」
「さすがに今からグラスホッパーを使いこなすのは厳しいんじゃないかしら?」
「そうですよねー」
日浦が逃げるためにグラスホッパーを使う。
もしくは那須と熊谷が追い付くためにグラスホッパーを使う。
どちらも突貫工事でできるほど楽ではない。
それに、那須と熊谷は追う側。
トラップの敷き詰められた道を行くか、遠回りをするかの選択も迫られる。
狙撃手を追い始めた時、その瞬間那須隊の取れる手は一気に狭まる。
トラッパーにテレポーターを使って高速で移動する加古に追いつくのは至難の業。
よっぽど早く動ける人間でないと無理だろう。
「なら─────」
「なるほど……面白い案ね」
静かに話を聞いていた日浦が、ある提案をする。
それは、加古たちを追い詰める手段のない那須隊にとって可能性のありそうな提案だった。
「この展開にならないのが一番良いことだけど、もし、茜ちゃんが追われたらその手を使ってみましょうか」
「なら、その時は私がフォローしますので」
「はい!お願いします!」
振り返ったときにはもう目の前にハウンドが迫ってる。
今からアイビスを出す暇なんてないし、もし出せたといてもスコープを除かずに当てるのは簡単ではない。
自分ではもう加古を撃破することはできない。
そう、日浦は確信する。
だから、すべてを託す。
信頼する先輩に。
『そこ!』
ハウンドが、日浦茜の体を貫く直前。
彼女は最後の力を振り絞る。
持っているトリオンを一気に流し込み。
虎の子を起動した。
「エスクード!!!」
「─────なっ!」
『戦闘体活動限界 緊急脱出』
日浦の撃破と同時に、エスクードによって空中へ打ち出された加古。
日浦がずっと待っていた瞬間。
それは、加古に対してエスクードを叩き込みやすい位置に誘導すること。
そして、もう一つは。
「バイパー!!」
部隊の中で最も機動力の高い那須が間に合う範囲に誘導すること。
空中へと飛んだ加古を的確に追い込むように放たれるバイパー。
エスクードで空中に射出されると同時に放たれたそれは、加古のテレポート速度を上回る。
打ち上げられると同時に満足に視界が確保できなかった加古は、周囲の確認が遅れ、テレポートの起動が遅れる。
完璧に那須隊が加古を捉えた。
だからこそ、経験の差が如実に出た。
『テレポート』
追い込んだ。
そのはずなのに、そこに加古の姿はなく。
何食わぬ顔で、アステロイドの分割を終えた加古が、那須の目の前に立っていた。
「一瞬、焦ったわ」
「そう……ですか」
「まだッ!!!」
那須が諦めたと同時に、やっと追いついた熊谷が、那須を守るためいつものように飛び込んでくる。
守らなければという思いが、彼女の理性をわずかに上回ってしまった。
「───ッ!」
那須の体にアステロイドが穴をあけると同時に。
飛来したトラップが作動し、熊谷を貫く。
トリオン体に反応するよう仕掛けていたそれが、目の前のことにいっぱいになってしまった熊谷の足元をすくった。
「きっと、あなたたちはまだ強くなれるわ」
スイッチボックスについて
・テレポート、斬撃、爆破などを遠隔で起動、もしくはトリオン体に反応させて起動できる。
・トラップの能力は切り替え可能で、好きなタイミングで好きな能力を設定できる。(既に
動き始めたものは無理)
・トラップは頑張れば持ち運べるが、設置した地面や壁を削り出し、まあまあなサイズのが
れきを持ち運ぶので、やる価値は基本的にない。
という設定で本作では行きたいと思います。何か気になる点があれば、より設定を細かくするためにも聞いてもらえると嬉しいです。