「なっ!」
もらった。
確信があった柿崎の足元をすくったのはおごりではない。
少し運が悪かっただけ。
苦し紛れの作戦ながら、できる限りのことをして。
ぎりぎりを生きている自分たちができる最大限を引き出した。
ただ、黒江の隠していたトリガーを披露する相手に選ばれてしまっただけなのだ。
「ッ!」
照屋を食い破った眼光が、自らに向けられる。
何が起きたのかさっぱりわからない。
どうやってあれほどの速度を手にしたのか、柿崎には皆目見当もつかない。
だが、自らのやることは変わらないのだ。
すぐさま銃口を向け、黒江を捉える。
「韋駄天」
が、それよりも速く。
黒江が柿崎の首を飛ばす。
手も足も出ず、一瞬にして柿崎隊が崩れた瞬間だった。
「ずいぶんと張り切ってるな」
もうすべてが終わろうとしているぐらい。
黒江のいる場所にやっと壽が合流した。
西の方では加古が那須隊を撃破し、こちらへと向かい始めている。
壽の視界には、黒江に撃破された照屋と柿崎。
一瞬のことで何が起こっているのか分かっていない巴がいる。
「おっと」
宇井から後方にトリオン反応があると連絡を受けた巴が振り返り、間髪入れずに発砲する。
左腕がないので、発砲後すぐさま握っていた拳銃を投げ捨て、弧月を抜刀する。
自分の方にメテオラを撃たれるだけで体が木っ端みじんになるであろうと考えた末に、ほんの少しの時間を作り、すぐさま近接戦闘へと持ち込む選択をとる。
射手寄りのトリガー構成を採用していると予想し、一点でも多く奪い取ろうと地面を蹴る。
そんな巴の姿を見て、壽は面白そうに笑う。
嘲笑でも、冷笑でもない。
「ははっ、そうこなくちゃ」
シールドで攻撃を受け止め、接近してくる巴の迎撃態勢をとろうとする。
が、トリオン体によって身体機能が向上していることもあり、二人の間にあった距離はすぐさま縮まってしまった。
「はやいな───っと!」
振るわれる弧月を避け、距離を離そうとする壽。
それを許さない巴が追う。
ありきたりで、つまらない構図。
そんな面白みのない光景が出来上がるほど、愚かな人間はここにはいない。
「───っ!」
追いかけようと一歩踏み出した、そこ。
待っていました言わんばかりのグラスホッパーが、巴を打ち上げる。
グラスホッパーを使う人間が使ってくる一般的なトラップ。
少し警戒しておけば対応できる単純なものだったが距離を離したくないと、壽を追うのにいっぱいいっぱいだった巴には効果てきめんだった。
壽を前にしてシールドしかはれない状況に追い込まれる。
それが何を意味するのかは、巴はよく知っている。
「アステロイド」
「たった一人になりながらも奮戦した巴隊員が撃破され、ここで試合終了です!!最終スコアは、言うまでもないでしょう!8対0対0で、加古隊の勝利です!」
B級隊員。
その中でも部隊を組み、中位にいる彼ら彼女らは決して弱くない。
彼らも隊員全体から見ると、上の方にいる実力者だ。
しかし、そんな実力者である彼らもB級上位やA級隊員と比べると圧倒的と言わざるを得ないほどの差がある。
うまく言葉にできない壁がそこには存在していた。
「終始加古隊が主導権を取り続けた一戦でしたが、どうでしたか?」
「そうだな、新しく強力な隊員を二人加えたこともあり、有利な部分が多かった。当然の結果と言える。それに、明らかにされていない情報も多い、加古隊にとって次回からが本当に実力を試されることになるだろう」
「ま、実力って言っても個の実力は問題ねぇだろう。必要とされるのは部隊としての実力になってくるだろうよ」
「なるほど、ある程度はこの試合展開も仕方のない部分があったということですか?」
「いや、ここまで圧倒的に負けたのはそれぞれの部隊の対策が不十分だったからだ。思うように戦えなかったかもしれない。だが、それを乗り越える必要があった」
「厳しいねぇ。相手はA級だぜ?」
「A級なら負けていいわけじゃないだろう」
負けてしまった那須隊と柿崎隊に対して、三輪ははっきりと実力不足だと言い切る。
加古隊はつよい。それは間違いない事実であり、那須隊と柿崎隊にとって強敵であった。
だが、ここまで圧倒的に負けていい理由ではないし、三輪からすれば期待外れもいいところだった。
差は大きい。
どれほどあるのかすら分からない差があるかもしれないが、それを乗り越えなければそれ以上には行けない。
「柿崎隊は戦術に固執しすぎだ。一度見せた技は簡単に対策される。新技を作り続けてもいいが、それは個の実力に反映されない。逆に那須隊はもっと連携を意識するべきだ。狙撃手に最後を任せるのなら、なおさらな」
「最後のは自分の部隊での経験を踏まえてか?」
「ああ」
「三輪先輩、思ったよりアドバイスするなぁ」
試合が終わり、総評を聞きながらふと思ったことを口にする。
感覚派ってタイプでもないし、おかしくはないけどはっきりとしたアドバイスだなと勝手に思った。
「風間さんじゃしないタイプの助言ね」
「そうなんですか?」
風間さんの解説はあいにくと見たことがない。
解説のログとかどっかにないかな。
「あの人は、遠回しになりながらも行く先を暗示するようなアドバイスをするタイプ。それに対して三輪君は直接的でありながらもゴールまでは伝えないアドバイスね」
「へー。俺に教えてくれる時ははっきりと言い切ってきますけどね。あれがだめだ、これがだめだーって」
「それは師匠だもの」
だものって言われてもよくわからない。
シールドに頼りすぎだとか、全体を俯瞰しろだとかはっきりとダメだしされてた記憶はまだ鮮明に残っている。
その時と違いすぎて、別人感がすごい。
「というか、今回の試合俺全然活躍できなくてすみません。あれだけ派手な技使っといて全然効いてませんでした」
「そんなことないですよ!あれのおかげであたしが自由に動けましたし!」
「そうだけど、それ以上を求めてたんだよね」
俺がサラマンダー使えば最強なのではとか、こっそり思いながら使ったあの一撃。
破壊力的な面で見れば満点をあげたいぐらいだったが、びっくりするほど柿崎隊には効果はなかった。
唯一当たったのは照屋先輩だけ。それも、足を吹き飛ばしただけで撃破までもっていくには足りなそうだった。
やっぱり、分割しない方がよかったのかもしれないと、思い始めている。
そっちの方がもっと効果があったかも。
「メテオラは爆発するからしょうがないわ。生身の肉体とトリオン体では爆発の効果が違うもの」
「効果が違う?」
「現実だと爆発で飛んだ欠片も相手を傷つけることができるけど、トリオン体では爆発に巻き込まないといけない。爆発によって飛び交う欠片は全部無効化されるから、爆発してくれると言ってもある程度当てにいく必要があるわ」
「なるほど。大雑把に打ちすぎたってことですか」
「ま、結果的に言えばそうね」
「見た目はよかった」
「喜多川先輩のそれは、褒めてるってことでいいですかね?」
見た目『は』って。
効果は残念だったって遠回しに言ってるようにしか聞こえない。
爆発に巻き込む必要がある、ね。
一体を吹き飛ばせば行けるだろうという憶測が外れたわけか。
メテオラを使うのは思ったより厳しいかもな。アステロイドに慣れてしまったから、弾速がいかんせん気になる。
スッ、パッ、シュッっていきたいけど、メテオラだとスッ、パッ、シューって感じでほしいところに弾がない。
弧月の相方は、これからもアステロイドかな。
シューターも楽じゃないねー。
なんとなく自分と合わない。魂の形と合致しないってやつ?
「あ、次の対戦相手が発表されるみたいですよ」
「ほんと?えっと誰かなー」
黒江に言われて、明後日の方向を向いていた視線を画面の方へと戻す。
そこには各部隊の点数が載っていて、二宮隊は変わらず一位らしい。
『今期のランク戦にさらなる波乱を巻き起こすであろう加古隊の次の対戦相手は、漆間隊と諏訪隊となります!次の一戦ではどんなことが起きるのか目が離せませんね!』
漆間隊と諏訪隊か。
漆間先輩はあまりにも特異なので、頭に入ってる。
諏訪隊については内部の情報は知り尽くしていると言っても過言ではないぐらいだ。
万全の対策がたてられるだろう。
問題があるとすれば、今回の一戦で俺と黒江ペアのデータを満足に取れなかったところだろうか。
サラマンダーに期待しすぎた。
次も射手の構成で行くべきか、はたまた攻撃手に戻すべきか。悩ましい。
「ん?」
どうしようかなー、と悩んでいると突然扉が開いた。
ランク戦が終わって早々にやってくるとは、柿崎隊か那須隊のどちらかだろうかと、そっちを見てみると。
「ゲッ」
「ずいぶんといやそうな顔じゃないな」
「ど、どうしてここに二宮さんが」
相変わらず仏頂面の二宮さんがなぜか立っていた。
何をしに来たんだ!
「壽が射手になった、という話を聞いてな。俺が鍛え直してやろうというわけだ」
「い、いや、あれはたまたま使っただけで別に転向したわけでは───っ!!」
問答無用と言わんばかりに首根っこをつかまれる。
し、死ぬ!まだ死にたくない!
「たすけて!!!!!」
俺の懇願は二宮さんに聞き入られることはなく、加古さんは嬉しそうに笑みを浮かべ、黒江はわたわたとしてるし、喜多川先輩は……なんかよく分からない顔をしている。
その後、俺は洸太郎さんに回収されるまで二宮さんにみっちりと弾トリガーの使い方(主になめくさったサラマンダーの使い方の矯正)を改めて教えてもらった。
壽のトリガー構成
サブトリガー メイントリガー
・アステロイド ・アステロイド
・メテオラ ・ハウンド
・シールド ・シールド
・バッグワーム ・グラスホッパー