ただ愛されればそれでいい   作:サラダボウル

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心血注いで

「B級ランク戦ROUND12!本日実況を務めます。嵐山隊綾辻です!」

 

 加古隊の二戦目ということもあり、本日も解説付きのB級中位のランク戦。

 実況がつかない場合もある中、今回は実況あり。さらにさらに、毎日激務で忙しいボーダーの人気者綾辻遥(あやつじはるか)が実況をするともなれば、色々な思惑が集まったボーダー隊員にはあるわけだが、それをわざわざ説明するのは野暮だろう。

 

「解説には、草壁隊の緑川隊員と二宮隊の犬飼隊員に来てもらいました!」

 

「やっほ~」

 

「よろしくね」

 

 解説席では自由気ままな自由人担当の二人が揃っているのはいささか不安な光景だが、仕事ができる人間ではあるので本日の解説として抜擢された。

 どちらもA級隊員(片方は元だが)としての戦闘経験や、盤面を理解する能力は申し分ない。少しチャラついているだけで。

 

「本日は、注目株である加古隊の二戦目です。前回の戦闘を踏まえて、今回はどのような戦闘が繰り広げられそうでしょうか」

 

「加古隊が全体の流れを握る展開になるだろうけど、そんな状況でも寝首をかける存在が今回はいるからね」

 

「漆間先輩?」

 

「そう。漆間くんは隠密特化。彼の一撃で出来上がっていたはずの盤面を崩すことすら可能なはずだよ」

 

 バッグワームにカメレオン、サイレンサーという相手に見つからないことに特化したトリガーを多く構成している漆間。

 その奇抜なトリガー構成でランク戦を荒らし、いつも中位を確保するほどには実力者だ。

 

 他にも、チームを組まず漆間とオペレーターの六田梨香(ろくたりか)の二人だけでチームを構成しているなど特徴的な部分が多い部隊。

 たった一人でありながら、彼と戦う他部隊は常に彼を意識した戦闘を強いられるため、一人だけで十分と言えるほどの影響力がある。

 

 そんな彼が、今回は今期最強格の加古隊とぶつかるということで、加古隊が踏みつぶすか、漆間の奇抜さが突き刺さるかが注目の的だ。

 

「今回はそんな漆間隊にMAP選択権があります!そろそろ選択される時間ですが──」

 

 綾辻の視線が画面に向かうのにつられて、観客の視線もそちらへと自然に向かう。

 それと同時に、画面いっぱいに漆間隊の選択したMAPが表示された。

 

「漆間隊は今回『市街地B』を選択したようです」

 

「B?ずいぶんと強気な選択じゃん」

 

 ぽろりと感想をつぶやく緑川。

 

「漆間隊にとって市街地Bはあまり良い選択しではないということでしょうか?」

 

 それを綾辻は見逃さない。

 しっかりと拾い上げ、感想を引き出す。

 

「市街地Bは射線が通りにくいところが多々あるMAPだから、銃がメインの漆間先輩にとってはちょっと戦いづらいと思うんだけどね」

 

「もしかしたら、何か他の部分で策を講じているのかもね。漆間くんはそう言うのが得意なタイプだし」

 

 性格が悪い、と表現しないのは犬飼の優しさか。

 ボーダー内部では漆間個人の評価は低いので、観客の何人かが犬飼の発言に大きくうなづいていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「加古隊が相手だろうがやることは変わらない。いつも通りいくぞ」

 

 そんな市街地Bを選んだ漆間隊の作戦室では、漆間がぶっきらぼうな口調で六田に発破?をかけていた。

 彼としての戦闘スタイルは相手によって変わることがないため、加古隊がいるからといってやることは変わらない。

 

 六田への負担を最小限に抑えつつ、確実に奪い取れる点を奪う。

 針の穴に糸を通すような戦闘スタイルで今の地位を確保した彼にとって、相手がだれであれやることは同じなのだ。

 

「そうだけど……加古隊は強敵。わたしも頑張るから……!」

 

 漆間のやることは変わらないが、オペレーターは話が違う。

 戦い方の違う敵に合わせて、適切な支援が求められる。

 レーダーを通して、戦闘員が戦いやすいような場を整えるのが仕事。臨機応変な対応が求められる役職だ。

 

「いらないことするな。加古隊だって他の部隊とやることはほとんど変わらないだろ」

 

「……確かに、変なことしてくる部隊じゃないけど」

 

「なら、いつも通りでいい。変に気張るなよ」

 

「……うん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気持ちさえ整えればいい漆間隊と違い、選ばれたMAPを通して対策を強いられる側の諏訪隊の空気は全く違った。

 

「Bねぇ。漆間が選びそうにないところだな」

 

「六田ちゃんの選択でしょうか?」

 

「さすがにそんなことはしねーだろ」

 

 漆間らしからぬ選択に諏訪と堤は考えを巡らせるがこれといって、結論はでなかった。

 だが、市街地B程度なら対応できることもあり、二人に焦りがあるわけではない。

 市街地Cが選ばれるよりマシである。

 

「時間とか天候の部分でからめ手を使ってくる感じですかね」

 

「ま、その辺だろうよ。漆間なら夜好きだ。十中八九時間帯は夜だろうな」

 

 姿が簡単に隠せるということで、漆間は夜を選択しやすい傾向がある。

 それがばれているところで漆間になんらデメリットはないので、本人もこのスタンスを変えることはなく、今回もそうだと予想できた。

 

「漆間の対策はいつも通りだ。おサノ!レーダーから目離すなよ!」

 

「まかセロリ!」

 

 本当に任せられるのか大変不安になる返事だったが、その感情を心の奥底へとしまい込み、諏訪は最終調整に移るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「作戦は伝えた通りです。おおよそはこの流れでお願いします。緊急時はまた別途指示を出します」

 

「あくまで狙いは漆間くんってことね」

 

「はい」

 

 諏訪隊は特段気にかける部分はない。

 近距離に特化している部隊というだけで、漆間隊と比べれば奇抜さは何段階も下だ。

 

 なめていい相手ではないが、対策を立てる相手ではない。

 それに、諏訪隊もうちに対してと同じぐらい漆間隊に警戒するはずだ。彼が姿を現すまでずっと、周囲を警戒し続ける必要がある以上、加古隊だけをマークし続けることはないと予想される。

 漆間先輩は隠密状態からの奇襲が脅威だ。それ以上の脅威はないのだが、それだけで十分脅威すぎるので彼を誘い出し、奇襲をできるだけ無駄にしたい。

 

 そのために作戦は考えてある……が。

 向こうは自分をからめとろうとする相手を逆にからめとっていくプロだ。

 

 今まで無数の作戦が漆間先輩に襲い掛かってきた。

 その積み重ねがある以上、きっと今回は漆間先輩の方に少しばかり分がある。

 加古隊としての力で正面からどうにかできる相手ではないはずだ。前回以上に、作戦が重要になるはず。

 

「小早川先輩は漆間先輩の動向を最優先で追ってください。笹森先輩のカメレオンも気になりますが、そっちは起動してからで問題ないはずです」

 

「了解。まかせて」

 

 できる限りのことはした。

 あとは、実際の戦場がどこまで想定内に収まってくれるか。

 

「市街地Bはおそらく夜。もっと可能性も追い求めるのなら雨でしょう。サイレンサーが最大限生かされる環境です」

 

 だが、雨まで要求した場合銃トリガーの漆間先輩は視界の悪い中敵を狙う必要が出てくる。

 夜程度ならオペレーターの支援で暗視が付与できるが、雨を消す機能までは存在しない。

 ただでさえ、サイレンサー使用時は銃からの弾がばらける性質がある以上、そこまで求めないとは思うが……。戦う相手は加古隊。最高の条件を求めるのなら絶対にないとは言い切れない。

 

「全員、自分が常にどこから狙われていると思ってください。それと、もし見つけた場合は最優先で報告、可能なら撃破までお願いします」

 

「任された」

 

「喜多川先輩は報告だけお願いします」

 

 どうやって撃破する気だろうこの人。

 

 

 

 

 

 

 

 

「─────さて、そろそろ時間になりました!」

 

 各隊の準備が整い、綾辻の手物のモニターにOKサインが出る。

 

「ここで全部隊仮想ステージへ転送完了!13日目夜の部!」

 

 大型モニターの景色が一変し、各隊員の転送位置、そしてMAPの光景があらわになる。

 

「MAP『市街地B』時刻『夜』天候は『暴風雨』です!」




サイレンサー……銃トリガーに装着時、発射音とマズルフラッシュを消す効果がある。デメ
        リットとして、発射する弾丸が多少ばらけるため遠距離の銃撃はお勧めし
        ない。攻撃手使用時に関してはノーコメントで。

本作ではこんな感じの設定でいこうと思います。
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