「チッ!ここまで攻めっ気強いとは想定外だぜ!」
雨風激しい中を走りながら、だれもいない街に悪態をつく諏訪。
夜までは想定内だったが、まさか暴風雨で来るとは思っていなかった。
『どこで集まりますか!?』
『南東のマンション集合だ!それまでやられるんじゃねーぞ!』
『『了解!』』
諏訪は南西、堤が北東、笹森が南東に転移したということで、諏訪は集合地点を笹森周辺のマンションに設定する。
各人が個人でも戦えるトリガー構成ではあるが、諏訪隊はショットガンを持った諏訪と堤の火力で押し切る部隊。できるだけ合流を優先したかった。
『漆間見つけたらそのまま追いかけろ!あいつが最優先だ!』
諏訪が最後の指示を終え、バッグワームを起動しながら走り出す。
漆間をあぶりだすためにバッグワームを使わない作戦を考えていたが、加古隊にいる喜多川がバッグワームタグを切るとは思えないこと。また、自分たちの位置がバレ続けるのは漆間、加古、壽の奇襲を食らう可能性があり、一方的に負けてしまうのを避けるために、その作戦は却下された。
あくまで、自分たちの生存を優先させ、加古隊との戦闘途中に介入してくるであろう漆間を打ち取る形を理想形として動き始める。
漆間が撃破されるまで誰一人欠けることは許されない。
それは隙となり、部隊が瓦解するきっかけになるからだ。
『こちら笹森!集合地点に到着しました!』
諏訪が今後の動きを考えながら、走っていると笹森からの通信が届いた。
笹森が一番近いだけあり、堤と諏訪はまだ距離がある中一番最初に到着した。
『上から周囲を見てくれ。視界は悪いだろうが、レーダーに反応がある二人が誰か知りたい』
『了解しました』
試合が開始してからしばらく経った今。
漆間と喜多川の反応が消えていると考えられる状況の中で、二人バッグワームを使っていない人間がいる。
黒江と加古と壽。誰か一人が姿を隠しているわけだが、どの人物も姿を隠している可能性がある。
黒江が隠れているのなら新しいトリガーである韋駄天の奇襲狙い。加古なら、テレポートからのハウンド。壽なら超長距離爆撃での撃破を狙っているかもしれない。
加古隊の全員が一撃で敵を葬れる技を持っている。
なので、だれか知りたい。それに、合流が完了したらそこにぶつかりに行くことになる。
わずかだが作戦を立てる時間ができるので、情報が欲しかった。
「これは厳しい展開になるかもな……」
暴風雨に苦しめられている現状に対して、諏訪はぽつりと言葉をこぼす。
が、それはあっという間に風に飛ばされてしまうのだった。
MAPに苦しめられている諏訪隊に対して、そのMAPを指定した漆間隊は早々に隠密を開始していた。
雨風にさらされるのを避けるために屋内に避難して、戦闘が始まるのを待っている。
『まだトラップの設置はしてないみたい。でも、レーダーに2つ反応があるから注意してね』
『こっちに来てないなら問題ない』
時間帯は夜。天候は暴風雨な状況では奇襲が決まりやすい。
だが、相手もそれをわかっていて警戒しているし、もし失敗してしまえば、自分が追い込まれる側へと回る。
環境で敵を追い込めている現状、漆間はまだ動く時間ではない。
マンションの高層階から、もしかしたら見えるかもしれない敵を探し続け、見えた隙に弾を叩き込む。
ただそれだけ。
それだけできればいい。
『諏訪隊と加古隊の戦闘が始まったらすぐ仕掛けるぞ。準備しとけ』
『……うん!』
漆間隊を狙いながらも、その漆間隊そして諏訪隊に狙われている加古隊は事前に建てた作戦取りに事を進めていた。
『喜多川先輩、そっちは大丈夫ですか?』
『問題ない』
喜多川が浮き、漆間に攻撃を仕掛けられるのを避けるため喜多川は隠密。
諏訪隊に当てるように動かしている加古と黒江が接敵するまでは完全に姿を隠していた。
どうせなら漆間が出るまで潜ませておきたいと壽は考えているが、そこまでできるほど自分たちに余裕があるかは、まだわかりかねていた。
いくら自分たちが強いとはいえ、相性がある。
環境も最悪な現状、不安要素が多くある。
「暴風雨はさすがに想定外だったな……。ここまでこちらを押さえつけに来るとは思ってなかった」
雨ぐらいまでなら予想できていた。
が、暴風雨は漆間隊にとってもメリットだけではない。雨でさえデメリットがあるなかで、さらにデメリットを作り出す暴風雨が選択されるとは思っていなかった。
もちろん、デメリットだけではないので全くの想定外だったわけではない。だが、本当に選ばれるとは思っていなかったのだ。
「諏訪隊がバッグワームを使っている以上、こちらから接敵は難しい。戦闘をさっさと始めたいけど、どうなるか……」
壽が確認できているトリオン反応は開幕のバッグワームを使うまでの一瞬に表示された4つ。
北、北東、南東、南西だ。
それに対して、加古隊は壽が西。加古と黒江が中央寄りの東西。喜多川は一人大きく離れて南の端だった。
加古黒江の合流を優先させ、喜多川には外部からの囲い込みを担当。
壽自身は、漆間の奇襲対策に控えることになっている。
レーダーに映っている反応が自分たちしかいない以上。
向こうが餌に引っかかってもらう必要がある。
諏訪隊も漆間隊も自力で探すことは視界の悪さからして困難。
全員を誘い出し、確実に倒す。それが現状加古隊のできることだった。
そんなどのチームも目立った動きのない戦況を、実況と解説の三人は分かりやすく伝えていた。
戦闘が始まらない以上、場をつなげるのが三人の仕事であり、漆間のトリガー構成の奇抜さや、各部隊同士の相性。
今後どのような展開が起きうるかと色々語っている。
「加古さんと黒江ちゃんがレーダーに映り続けている以上、他の部隊はそこの食らいつくしかない。でも、それは加古隊の誘いに乗るわけであり、相手の作戦に正面から突っ込むわけだ。諏訪隊は苦戦を強いられるだろうね」
「もう一部隊いるとか、漆間隊以外の部隊が相手だったらもう少し余裕があったかもねー」
「盤面を動かす側に立っている諏訪隊が、他の部隊の思惑に乗るしかない現状はやはり諏訪隊としては難しい状況ですね」
犬飼と緑川の解説を綾辻が手短にまとめる。
盤面を動かす側というのは時に有利であり、時に不利である。
特に動かざるを得ない状況では不利に決まっているわけだ。
漆間隊も加古隊も待ちの構え。
もし、レーダーに反応を出そうものなら壽のサラマンダーが飛んでくるかもしれない中で、諏訪隊は待ちが取れない。
バッグワームでぎりぎりまで姿を隠し、奇襲のような形で黒江たちに肉薄する必要がある。
それだけでサラマンダーが飛び込んでくる可能性が低くなるのだから、やるしかない。
自分たちから相手の作戦に突っ込むしかないのだ。
誰からも妨害を受けずに合流が完了した黒江加古ペア。
漆間隊も諏訪隊もレーダーにトリオン反応がないので、町中を走り回り目視での確認をしつつ相手からのアクションを待つ形となった。
「ずいぶんと時間をかけますね」
「それだけ恐れられているってことよ。漆間くんが一番に出てくることはないでしょうし。諏訪隊のアクション待ちね」
視界が悪く、奇襲に事前に気づくというのは難しい状況。
攻撃するその瞬間までバッグワームを使われてしまった場合、二人は完璧に奇襲を受けることになる。
特にショットガン相手となると、角を曲がる瞬間に十字砲火に会う可能性がある。曲がり角や、家の入口など、死角すべてが恐怖の対象だ。
だからこそ、黒江は気を張り続け接敵していないながらも精神的な疲労がたまり始めていた。
いつ、どこで、だれが自分を狙っているか分からないというのは、まだまだ戦場に慣れていない黒江には負担の大きいものだった。
「もしかしたら、向こうがバッグワームを切って待ちの体制を取ってくる可能性も──」
その時。
黒江の第六感が激しい恐怖を感じた。
「韋駄天」
逃げる。
そう判断した黒江はすぐさま韋駄天を起動。
音を置き去りにし、その場から離脱する。
─────ドガガッ
ついさっきまで黒江のいた地面が一瞬でえぐれ、自分の判断が正しかったと伝えてくれる。
「チッ!完璧に捉えたと思ったのに避けるのかよ」
「手荒い歓迎ね。諏訪さん」
「そうか?これでも優しさにあふれてる方だぜ」
そう言いながら、引き金を引く諏訪と堤。
屋根の上から放たれた散弾を大きく飛んで避ける加古と黒江。
『後ろです!』
間髪入れずに小早川からの報告が入り、とっさに判断でしゃがむ黒江。
「ハウンド」
そして、一瞥もせずにハウンドを叩き込む加古。
「うわっ!」
バッグワームでぎりぎりまでトリオン反応を隠し、カメレオンで完璧に姿を消した笹森に加古のハウンドが襲い掛かる。
自分めがけて跳んでくるハウンドをぎりぎりのところで避け、諏訪のもとへと引く。
「漆間が来るまでちょっとばかし遊んでけよ」
「強引なお誘い。嫌いじゃないわ」
加古と諏訪は互いに見つめあい。
不敵な笑みを浮かべるのだった。
そろそろ原作でも加古隊の戦闘が見られそうですね