「ちょこまかちょこまかと、ぶつかって来い!知盛!」
「洸太郎さんたち相手にそんなのするわけないじゃん」
グラスホッパーを用いて、諏訪と笹森に狙いを定めさせない壽。
隙を見て飛び込みたいところだが、攻撃するにはどちらかに突撃する必要がある以上、雑に攻撃はできない。
諏訪が落とされたら自分が苦境に立たされることが分かっている笹森は、諏訪の傍に立ちいつでも攻撃を受け止められるようにスタンバっている。
「アステロイド」
ここで戦況が膠着するのはよくないと考えた壽は、アステロイドで揺さぶってみる。
壽のアステロイドが頭のおかしい火力をしているのはもう周知の事実であるため、たいていの隊員はよけることを選択する。
一部のトリオンモンスターはシールドで防ぎきって見せたりもするが、あれは例外である。
だから、二人が避けることを選択し、散り散りになることを狙ったアステロイドだったが。
「避けてほしい。そう思ってるんだろ」
「マジか」
笹森が両防御、そして諏訪のシールドを一枚使って完璧に防ぎ切った。
アステロイドを使っていればなんとかなると思っていた壽の思惑を真正面から断ち切った結果となり、諏訪隊が想定を超えてきた。
グラスホッパーで翻弄しながら、アステロイドで削り落としていく算段だった壽にとっては、戦略の練り直しを要求される事態だ。
「それと──ドンピチャだ」
使っていなかった右手。
ショットガンの銃口が壽を捉える。
空を飛ぶ壽に銃弾を当てるのは至難の業だ。
しかし、グラスホッパーで空中戦を行う者には絶対に隙ができる。
もう一度空へと飛ぼうとする瞬間。グラスホッパーを踏む瞬間だけは、使用者の体は静止する。
「さすがだねっ!」
そこが弱点であることは壽も分かっている。
展開していたグラスホッパーを消し、足場を失うことを選択する。
とっさの選択のおかげで何とか銃弾を躱す。が、それによって壽は制御できない落下を始める。
その様子はあまりにも滑稽であり、あまりにも魅惑的だ。
「旋空弧月」
その餌を見逃すほど笹森は優しい先輩ではない。
落ちてゆく壽を、笹森の弧月が出迎える。その、劇的なまでの抱擁は、
「グラスホッパー」
残念ながら受け入れられない。
展開したグラスホッパーを肘で触れることによって一気に真上へと上昇する。
「はっ、相変わらず頭のおかしい使い方しやがる」
壽は緑川のようだと言われながらも、その様子は緑川では絶対にないと思われる理由。
自由に空を飛ぶ小さな体躯は間違いなく彼そのものだが、そのあまりにも荒々しいグラスホッパーの使い方は他の誰でもない。
壽の特技の1つであり、あの村上でさえもいまだその自由な動きに対応しきれていないとすらされている。
壽は、体のあらゆる場所でグラスホッパーを踏み、いつ何時でも的確なバランスをとる。
一般的な手足では隙ができやすいと判断したこの少年は、かぎりなくその隙をつぶすために全身を用いることを選択した。
頭で、肩で、胸で、肘で、腰で、膝で。体のあらゆる場所でグラスホッパーに触れ、どんな場所で自分が加速を得ようともその後にすぐさま攻撃に移行して見せるその様は、芸術そのものだった。きっと、サーカスなんかでメインを張れるであろう才能。
彼がそうあるべきと望んだから。彼の体はただそれに答える。
なんとか笹森の旋空弧月を避けた壽に、諏訪が隙を与えまいと引き金を引く。
その追撃も軽やかに避けたのち、一度距離を離す選択をとった。
壽は強い。
様々な特技があり、経験も積んできた。
が、戦いにおいて数の差は大きかった。
笹森と諏訪の連携は固く、壽の思い通りに諏訪たちが動くことはなかった。
アステロイドで揺さぶっていく予定だったが、堅牢なシールドで対策されており、向こうも壽との戦闘に向けて戦略を練っていた。
壽が他者から学ぶように、他者も壽から学びを得る。
一筋縄ではいかない。
だからこそ。
面白い。
「『何か変わる必要があるな』」
今のままではどうしようもない。
どこか劇的な変化が欲しい。
奇をてらったような奇想天外な、一手が。誰の手でもいいからほしい。
そう部下が望むのなら。
それにこたえるのが
『前の方にトリオン反応が……!』
逃げることを選んだ漆間を逃がす気など、加古隊にはない。
漆間の居場所が分かったのなら逃がすわけがなく、確実にここで仕留める。
その確固たる意志が伝わるほどに、追跡は苛烈だった。
喜多川のトラップで逃げる方向を限定し、六田の指示で逃げようとする漆間に回り込むようにハウンドを打ち込む加古。
トリオン体の反応を追う探知誘導が使われがちなハウンドだが、視線でも誘導できる。それを使えば、バイパーよりかは不自由ながらも簡単に曲線を描き、回り込むような弾が作り出せる。
それを漆間が角を曲がるごとに打ち込む、プレッシャーをかけていく。
『あっ、加古さんの反応が──
『─────逃走ルートだけ見てろ!』
ここでオペレーターを崩されたら終わる。
そこが加古隊の狙いであると予想した漆間は、六田の仕事を制限することで崩壊を防ぐ。
それによって発生するデメリットは大きいが、六田が限界を迎えて何もできない状態になってしまうよりは何倍もマシである。
逃走ルートの指示に集中させた以上、トリオン反応を隠した加古の相手は自分でする必要がある。
わざわざバックワームを使った。それがどこまで意味するのかは分からない。
ただ六田への嫌がらせなのか。なんなのか。
わざわざ片方のトリガーをつぶしてまで何がしたいのか。
その狙いはすぐにわかった。
『あっ』
声がした。
小さな声が。だが、確かにした。
一瞬、だけ。
六田のマップで逃走ルートを作っていた六田の意識がそっちにもっていかれる。
それだけで、理解した。
「チッ!」
逃走をあきらめる。
加古の反応があまりにも邪魔なのだ。
トリオン反応を出したり消したり、ただそれだけでも六田からすれば気が気ではないし、とっさに危ないという意識が湧く。
それは六田だからではなく、たった一人の人間をオペレートしているから。
どうしてもその周囲は気になるし、ましてやチカチカされては無視するなんてできない。
それが加古の狙いであり、喜多川がトラップを見せびらかすように置くだけの理由。
見るべきものがありすぎて、どれも危険に見えてくる。
加古のトリオン反応が消える瞬間、現れる瞬間、喜多川のトラップの反応が増える瞬間、増えなくなった瞬間。
緊張が走る。
それだけで、価値が生まれる。
「やっと戦う気になってくれたかしら」
「加古さんを倒して次へ行く」
逃げる選択肢をとったことは後悔していない。
そして、ここで対面した選択肢を後悔もしていない。
『トラップの反応だけ追っておいてくれ』
『うん!』
加古は自分で倒しきる。
その代わり、邪魔者は見逃さない。
「ハウンド」
「シールド!」
向かってくるハウンドをシールドで防ぎ、銃口を向ける。
シールドによって弾はいまだ撃てずとも、ハウンドの弾丸が止まった瞬間に引いてしまえばタイムロスがなくなる。
それを加古も分かっている。
『テレポート』
その銃口の先からすぐさま退避して、漆間の視界から消える。
ハウンドをトリオン体に反応するようにしておけば、撃ったら終わり。加古の仕事はそこまでである。
あとは、視線を明後日の方向に向けていようと攻撃してくれる。
「ハウンド」
「──ッ」
攻撃するタイミングがない。一か八かにかけて、ハウンドから走って逃げる選択肢でもありだが、その場合背を向けるか、後ろ歩きで大した速度も出せずに走ることになる。
漆間の攻撃手段が銃撃、もしくはメテオラによる爆破しかない以上、近接戦闘はスコーピオンを持っている加古の方が圧倒的に有利であり、やみくもに近づいては倒される。
ハウンドで押さえつけて、テレポートで射線を移す。
攻撃の切れ目と同時に第二射を叩き込み、防戦一方の状況を作り出す。
いつものやり方。
それは、捉えようによっては見慣れた攻撃であるが、見方を変えればその攻撃が誰にでも通用していることを意味する。
どうにかしてここから逃れる必要がある。
ハウンドの攻撃を防ぎながら漆間は頭をフル回転させる。どうすればいい、どこに隙がある。
加古の姿はあちらこちらに行ってしまい視界に入れ続けられない。
そして、彼女がどこに行くのかは分からない。加古のテレポートは基本的にタイマーによって行われる。今までの行動のどこかにタイマーに依存させたテレポーターを仕込み、場所を絞らせないのだ。
いつどこで、いなくなるのか分からない。
だから、ハウンドを凌ぎつつ彼女に肉薄するのが基本的な攻略法だった。もちろん、複数人で。
漆間は一人。
かつ、銃手。
相性が最悪なのだ。
逃げ切れるのが最も良い結末だった。
それで、狙えるのなら再び貪欲に仕掛け、ダメそうなら早々撤退する。
しかし、現実はそこまで甘くなかった。
だから、考える。現状を打破するために。
そのせいで、わずかに反応が遅れた。
「!!!」
加古のハウンドが途切れた瞬間を、目視できなかったから。
何が起こったか分からない。
だが、とっさに目線をぐるりと回して加古を探す。
そして、見つけ、驚く。
「
自分の意識がハウンドに移り切ったその瞬間を狙われた。
加古はメインとサブの両方にハウンドを入れている訳ではない。しかし、タイマーを用いれば擬似両攻撃を可能とする。
遅れた。
けれど、間に合わせる。
両攻撃は強力だ。
この分、大きなデメリットがある。
「ここで倒す!!」
死なば諸共。
差し違える覚悟で引き金を引く。
自分にハウンドは当たるだろうが、防ぐことのできない加古にも銃弾は当たる。
そう、考えた。
『テレポート』
そして、裏切られる。
「なっ!」
二つトリガーを使っていながらのテレポート。
ありえない。そんな考えが脳内に浮かぶが、そんな感情に思考を割いている暇がない。
どこに行ったのか。
いや、それ以上に飛んでくるハウンドを対処しなければ。
迷った。
一瞬。
だが、その一瞬さえあれば。
A級はその命に鎌をかけられる。
「あなたの戦い方嫌いじゃないわよ」
「はっ、よく言うぜ」
『トリオン供給機関破損 緊急脱出』
漆間の後ろにテレポートした加古のスコーピオンが、静かに胸に刺さる。
優しく、非情にも。
漆間の体はすぐさま一筋の光へと変化し、加古の視界から消えてしまった。
手数での勝利だ。
では、残ったハウンドはどこへ行ったのか。
狙うべき対象を見失い、あらぬ方向へと飛んでいく?
否。
加古の命令を受けて、部下を助けるために空を駆ける。
膠着。
そう、諏訪、笹森、壽が思った瞬間。
それはやってきた。
「──!」
視界の端にわずかに光が言えた。
雨で反射したなんてちゃっちいものではない。
確かに見えた光の筋。
「上だ!」
諏訪の声と同時に、笹森はシールドを展開する。
直後、大量のハウンドが自分たちへ降り注ぐ。
雨よりも激しいそれらが、わずかにシールドからはみ出ていた諏訪たちの体を削る。
「くっ」
隙ができた。
そう判断した、壽は踏み込む。
が、思いのほか激しいハウンドで激しい雨の中舞い上がった大量のアスファルトで諏訪たちが隠れてしまう。
間違いなく優勢。ならば、ここで引く選択肢はない。
「旋空──
このままたたき切る。
そう思い、腰を落とし力を入れる。
『ダメです!』
鞘から弧月を抜こうとした刹那。
脳内に直接声が聞こえてきた。
それと同時、何か跳ねた。
落ちた雨?
それとも飛び散ったアスファルト?
はまたまハウンドが外れた?
違う。
それは──
『右!』
判断に迷いはない。
ただその指示に従い、旋空を取りやめた弧月を力強く抜き、振り下ろされるであろう攻撃に合わせる。
ガキンッと鈍い音が鳴る。
そこに誰がいるかなんてどうでもいい。
今、時間ができた。
それの事実さえあれば、問題ない。
「アステロイド」
前方の視界が晴れる。
その先には諏訪──ではなく、諏訪のショットガンから放たれたアステロイド。
両者の弾丸が交差し、互いを貫く。
には至らない。
「チッ、この程度じゃ抜けないか」
そう悪態をつき、上半身に大量の風穴の開いた諏訪の姿が視界から消え、光となって空へと飛んでいく。
ならば、後は一人だ。
「ふんっ!」
アステロイドを放つと同時にシールドを張り、最低限の防御を手に入れた壽はすぐさま攻撃対象を変更していた。
体をひねり、カメレオンで透明になって近づいてきた笹森を蹴り飛ばす。
横腹にもろに入った一撃。
されど、トリオン体にとってさほど影響はない。
すぐさま体制を直し、攻撃に移行する。
「旋空──
距離が離された以上、遠距離攻撃手段を旋空以外に持たない笹森にはこれしかない。
本人もこれが悪手であることは理解している。だが、最後にあがく一手はこれしかない。
「アステロイド」
─────弧月」
壽の体を真っ二つにせんと、全力で振るわれた旋空。
相手が一般的な弾トリガー使いなら間に合っていた。
それほどにその一刀には笹森の全身全霊が込められていただろう。
相手が、壽でなければ。
「ははっ、強いね」
速度に大きくトリオンを割かれたアステロイドは、一瞬で笹森のもとへと到達しその体を貫いた。
黒江の強襲から、笹森の撃破までわずか5分たらず。
限界まで張り詰めまれた緊張の糸が切れてから決着に至るまでは思いの他短いものだった。
アンケートを置いておきます。
内容は端的に言うのなら、今後のランク戦で再度登場するかしないかのアンケートです。
予定では各部隊一度は出番を与えたいと思っているので、このアンケートの結果次第でもう一度登場してもらいます。
なんとなく絶対に二回出るだろって部隊も投票先にありますが、未来は分岐しますから、皆さんで未来を動かしましょう。
また、このアンケートは削除する予定がないため、あとから本作をご覧になっている方も遠慮なく投票しちゃってください。
ランク戦で二回(以上)登場してほしい部隊
-
二宮隊
-
影浦隊
-
生駒隊
-
弓場隊(神田あり)
-
王子隊
-
東隊
-
香取隊
-
鈴鳴第一
-
漆間隊
-
諏訪隊
-
荒船隊
-
那須隊
-
柿崎隊