ただ愛されればそれでいい   作:サラダボウル

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個人ランク

 黒江と会話を交わしたその後、俺たちは別の場所へと案内され、『地形踏破訓練』『隠密行動訓練』『探知追跡訓練』と3つ訓練をやらされた。事前に情報がつかめなかったということもあり、結果は戦闘訓練と比べるとあまりよくなかった。だが、許せるぐらいの順位だ。

 俺は俺のことを認めよう。よく頑張った、俺。

 

「壽先輩。訓練どうでしたか?」

 

 ひょこっと、俺の視界の端から女の子が現れる。

 俺のことをライバルだとでも認識しているのではないかと思うぐらい、後をつけてきている黒江が俺の順位を聞きに来た。

 たぶん、彼女の方が高いので教えたくない。

 

 しかし、そんなことを言える雰囲気でもなく、きりっとした彼女の目が俺をしっかりと捉えている。

 うやむやにはできそうにない。

 

「地形が16位、隠密が29位、探知が11位だった。戦闘に比べるとあんまりよくないね」

 

「……そうなんですね」

 

「でそっちはどうなんだ?」

 

「地形が2位、隠密が5位、探知が3位でした。今回はあたしの勝ちですね」

 

 全部一桁じゃないかよ。

 俺が勝てるわけない。

 だけど、いつから俺は黒江と競うことになってたんだ?今回はって、前回も競った記憶はないんだけど。

 が、競ったと思っている本人は満足げな表情をしているのでよしとしよう。わざわざ彼女の気分を害すようなことを言う必要もあるまい。

 

 しっかしまあ、俺は戦闘訓練だけ良かったが、黒江はすごいな。

 全部上位に入っている。あっという間に正隊員になるんだろうな。そんな予感がする。

 1400ポイントと、最低ラインよりも400ポイント有利があったわけだが、今回の4つの試験の結果から俺は64ポイント増え、1464ポイントだ。正隊員になるにはまだまだポイントは足りそうにない。

 

「この感じだと、黒江の方が先に正隊員になりそうだね」

 

「そうですか?確かに訓練だけ見ればそうかもしれませんが、ランク戦があるから分かりませんよ」

 

「そういえば、あったな。ランク戦とか言うの」

 

 訓練のことで頭いっぱいで忘れていた。

 

「ランク戦ってどんなのなんだ?」

 

「壽先輩……さっき訓練の合間に説明あったのに聞いてなかったんですか?」

 

「あー、いや、聞いてたけど。一応確認ってやつ」

 

「…………」

 

「聞いてませんでした」

 

 おかしいな。

 一応嵐山隊の話には耳を傾けていたつもりだったんだが。訓練の順位に絶望していた間に話されていたか。

 よかった。黒江がいなかったら、洸太郎さんに聞かなきゃいけなくなるところだった。

 

 その後、個人ランク戦のブースに行く道中で、黒江がいろいろと説明してくれた。

 やり方だとか、ポイントの稼ぎ方だとか、トリガーだとか。

 

 黒江情報では、トリガーの1番人気は弧月、2番目はハウンドらしい。

 

「ハウンドって?」

 

「敵を自動で追尾する弾です。本当に聞いてなかったんですね」

 

「いろいろと忙しかったんだよ」

 

 いつされたか全く覚えてない。

 実は俺にもう1つの人格があって、その説明の間だけ別人格に意識を乗っ取られてたとかない?

 ないか。

 

「自動で敵を狙ってくれるから人気ってことか。俺もその方がよかったかも」

 

「でもそれが本当に強いならみんな使ってるはずです。所詮二番人気ってことはその程度には弱点があるってことじゃないですか?」

 

「確かに。どのぐらいの速さで飛んでくるのか知らないけど、案外どうにかなるぐらいには追尾性能は弱いのかもな」

 

 実物を見てみないと確かなことは言えないが、事前に可能性を絞っておくのは大事だ。

 想定の内に物事が収まったときの行動に余裕が生まれる。外れた時は知らん。

 

「おお、こっちもなかなかの広さ」

 

 黒江と話していたら、いつの間にか個人ランク戦ロビーに着いた。ここも広い。

 戦闘訓練の時に使った部屋ほどではないが、たくさんの人がここに集まっている。それにでかいパネルもあり、戦っている様子を見ることもできるようだ。

 

「それじゃあ、さくっと稼いできますか」

 

「あまり舐めてかかると足元すくわれますよ?」

 

「舐めてはかからないさ。真面目にやるよ」

 

 相手のトリガーがどんな性能なのかもわからない。

 それに調子に乗れるほど実力もない。

 

 個人ランク戦のブースは小さく質素な部屋になっていて、ベッドとタッチパネルなどが置いてあるだけだった。

 戦闘するのは別空間らしいので、必要最低限の設備さえあればいいってことか。

 

「ふーむ、黒江が言ってたのはこれか」

 

 タッチパネルには四角に囲われた三桁の数字とその隣の四桁の数字、さらにその隣にはトリガーの名前が書いてある。

 部屋番号、ポイント、使っているトリガーってところか。

 

「知らないトリガーだらけだな」

 

 スコーピオンやアステロイド、メテオラってやつもある。

 何が何だか分からない。黒江に聞いておけばよかった。それか、今から洸太郎さんでも探して聞き出すか?

 いや、この広い本部で一人の人間を探すのは至難の業か。茜か諏訪隊の人でもいいけど……結局あの大人数の中からたった数人を探すことには変わらない。

 

 知らないトリガーだらけだし、知ってるやつだけ選ぶか。

 弧月とハウンドしかないけど。

 

「手始めにハウンドから……」

 

 ポイントは2500なかなかの上級者だ。彼が俺の同期であるのならボーダーからかなりの高評価を得ている隊員である。

 それじゃあ、よろしくお願いします。

 

 ほんの少しの間。

 そして────

 

「おお!」

 

 俺の目の前の景色はがらりと変わり、住宅街が現れる。

 また、白い隊服を着た少年も。

 

『対戦ステージ「市街地A」 C級ランク戦 開始』

 

 マップ、この試合の種類、そして間髪入れずの開始の合図。

 一気に俺の押し寄せる情報を処理しきれず、俺は最初の一歩が遅れてしまう。

 

「もらった!ハウンド!」

 

 それを見逃してくれるほど、相手も馬鹿ではなくすぐさまハウンドが飛んでくる。

 相手のハウンドがどれほどの追尾性能を持つのかは分からない。だが、俺の弧月の間合いに相手を入れておかないのはまずい。一方的にハウンドを撃たれるだけだ。

 一歩遅れながらも、俺はすぐさま相手に向かって走り出す。

 

 彼が撃ったハウンドもそんな俺に食らいつき、ぐっと方向を変えるが案外追尾性能は良くないらしく、ハウンドが俺の体に集まる前にくぐりぬけてしまった。

 敵の攻撃の第一波はしのいだ。だが、相手も戦い方を理解しているようで俺の方を見ずに全力逃走。あくまで距離をとっての戦闘をお望みらしい。

 だからって、馬鹿正直に距離を開けさせるわけない。

 

「ハウンド!ハウンド!」

 

「めんどくさい!」

 

 俺のことをちらりとも見ずに乱射されるハウンド。

 相手を追尾することができるため、逃げながら打つだけで勝てるってわけか。なんて小癪な。

 しかし、雑に放たれたせいかハウンドは彼を追いかける俺のことを追いきれず、俺の通り過ぎた地面にぶつかっていく。二番人気なのは理解したが、そこまで選ばれるほど強いとは思えないな。いくらなんでもこの程度追いきれないのはいかがなものか。

 

 てか、追いつかねぇ。

 このままだとハウンドの弾幕にやられるかも。

 それに、俺とあいつのスタミナ勝負に────あ、トリオン体は疲れないんだっけ。

 

「ハウンド!ハウン──」

 

 いつまでたってもらちが明かない。

 こうなったら一か八か。

 

「おらよっ!」

 

 右手に握っていた弧月をぶん投げる。

 近界民との戦闘試験の時のように。

 俺の投げた弧月は、それはとてもとてもきれいに一直線に飛び、目の前の少年の後頭部に突き刺さった。

 

緊急脱出(ベイルアウト)

 

「なかなか良いね」

 

 ハウンドがどんな感じかも分かったし、ランク戦の始まり方もほとんど理解できたはずだ。

 正隊員になるためにも、頑張ろうか。

 

 ランク戦の感覚をつかんだ俺は、ハウンドと弧月使いを狩りまくることにし、小一時間ほどランク戦を荒らして回るのだった。

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