「笹森隊員が撃破され、ここで決着です!スコアは、5対1対1で加古隊の勝利です」
黒江双葉が作った始まりから五分足らずの激闘の末、加古隊が他を大きく引き離した勝利となった。
まさしく瞬き厳禁な戦闘。そのおかげで加古隊の戦闘を見に来た隊員たちのテンションも高かった。
「最初は何もなかったけど、始まってから一瞬だったね」
「まあ、今回のメンバー的に漆間くんが来たら一気に終わりに向かう人たちが揃っているからね。それが分かってるから黒江ちゃんもああいった動きをしたんだろうし」
黒江の突撃は、最初観客からは無謀な行為だと思われていた。
ただの蛮勇で、彼女が状況をはき違えたのだと。しかし、その行動に漆間が誘われたことにより、壽が突入できる条件がそろった。諏訪隊を壽が、漆間を加古が追う展開が形成された。これは間違いなく黒江の作った状況であり、彼女の功績だった。
自らを犠牲にすることで、最高の盤面を他の隊員に提供してみせた。
「黒江隊員の韋駄天で一気に盤面が動きましたからね」
「あそこで漆間くんが釣られなかったら、結果は少し違ってたかも。ま、たらればだけどね!」
あの状況で漆間が静観を選択した場合、あの戦場は今回とは全く違う形になっていただろう。
それが、だれにとって最も良い結果につながるかは不明だが。
「そういえば、最後の加古さんってどうなってたの?」
「最後のといいますと、漆間隊員を撃破したところでしょうか?」
「そー、テレポートはタイマー使ったとしても、ハウンド使ってたから使えないはずじゃない?」
漆間が両攻撃だと勘違いした最後の一幕。
その時加古は、ハウンドを自らの両側に待機させて、漆間に見せつけていた。
「あれは簡単な見せ方の問題だよ」
緑川の疑問に犬飼が答える。
「普通にハウンドを出して、それを二つに分けただけ」
「それが両攻撃に見えただけ?」
「そう、よーく見たら球数が少ないはずなんだけど。その辺は射手の技量だよね。勘違いさせやすい状況を作ったり、分割をいつもより増やしてぱっと見の違和感をなくしたり。戦闘って言うのは一瞬一瞬の判断が勝敗を決めるから、1秒でもだませれば大きなアドバンテージになる。出水君もたまにやってるね」
「ああ、確かに。あの意地の悪いやり方か」
意地の悪いやり方なんて表現をするんじゃねえ!
と、言われそうな表現はさておき、種は非常に簡単なものだった。
両攻撃だと見間違えさせれば、漆間はその隙を狙う。
その一瞬をだませると判断した加古は、テレポートを仕込みながら、壽の援護もして見せた。
A級として戦場に長くいる人間の視野の広さが垣間見えた戦闘。
隊長として、部下の戦いに気を配るのも忘れない。
「漆間くんもいつもはしない戦い方を強要されて辛い部分があっただろうけど、やるだけやった感じだね。そこをうまいこと加古さんにすくわれちゃったけど」
彼が何か間違いを犯したわけじゃないよと、犬飼は漆間を評価した。
その高評を当の本人は、当たり前だろとぶつくさ言いながら見ているのだがそれが届くことはない。
「漆間先輩はいつも通りのやり方って感じだったしね。こそこそっと動いて、バシュッと仕留める」
擬音が多くて、いまいち要領を得ない表現だが言いたいことは伝わった。
「それでは、ランキングの方を見ていきましょう!」
スクリーンの映像が、がらっと変わり各部隊の得点と順位が表示される。
「本日の試合がすべて終了したため、各部隊の順位が変動します。これによって加古隊は大きく順位を上げ五位へと浮上。B級ランク戦に参加してからわずか二試合で上位入りを果たしました」
「ま、加古さんの部隊だし妥当ではあるよね」
「これじゃほぼA級ランク戦じゃん!オレの部隊も入っていいよね!?」
加古隊の上位入りにより、二宮、影浦、加古とA級部隊が揃った。
また、ここに東もいるためB級上位は混沌を極めている。
もうB級ランク戦でA級が暴れているだけである。が、それも良い刺激と考えればボーダーにメリットがあるのかもしれない。
B級部隊の戦力をあげるきっかけにはなるだろう。たぶん。
「また、これで順位が確定したため、加古隊の次の対戦相手は二宮隊、東隊、弓場隊となります!」
「お、次はうちとぶつかるのか」
「いいなー。俺もそこに混ざりたーい」
二宮隊と東隊は言わずもがな。
弓場隊は純粋なB級部隊だが、タイマン勝負を得意とする弓場と神田が率いる別働隊の戦闘スタイルでこの魔境を生き残っている彼らも指折りの実力者だ。
これまでに見たことがないレベルの激闘が見られるのは間違いない。
そんな興奮が観客の中に広がる。
「次も忙しくなりそうですね」
二宮隊に東隊、弓場隊と戦うのはなかなか大変なことが多そうだなと、そんな言葉が口からこぼれた。
「否定はしないけれど、やることは今度も一緒よ。なんなら、漆間くんみたいな癖のあるタイプがいないからやりやすいんじゃないかしら」
「そうですか?どこも一癖も二癖もあるタイプにしか見えませんが」
どの部隊もその部隊なりの戦闘スタイルがあり、癖がないなんて表現をできるようなところじゃないと思うけど。
何かしらの対策というよりかは、単純な戦闘力の底上げが来週のランク戦までの方針になりそうかな。
戦術的な部分よりも、個々がどれだけ戦えるかが重要になりそうな対戦相手だ。
「あの」
「ん?」
そのためにはどうしたもんかと、考えていると黒江がうつむきながら話しかけてきた。
「今日は、うまく展開を作れなくて申し訳ありませんでした」
「気にしなくていいって。あれのおかげで五点も取れたんだし」
さっき解説で犬飼先輩も言っていたが、今日の流れは間違いなく黒江の作り出したものだ。
黒江が作り出した五点と言っても過言ではないぐらい、その後の展開に大きな影響を与えてくれた。
「本来の予定では万全の状態で諏訪隊と漆間隊と戦うはずだったのに……」
「独断専行も時に大事だよ。俺は遠くから見てるだけだったし、あそこで黒江がそれがいいと思える理由があったのなら特に言うことはないから」
「そうよ。やれることをやって、それがうまくいくならどんどんやっちゃいなさい。何事も挑戦よ」
その挑戦とは一体全体加古さんの何からきているのだろうか。
その答えが一瞬頭をよぎったが、考えるのはやめた。たぶん、ろくな回答が導けない。
「はい、ありがとうございます」
「悪くなかった。次もやってこう」
「は、はい……」
喜多川先輩の大胆なアドバイスを聞いて黒江がちょっとびっくりしている。
相変わらず喜多川先輩は何考えてるかよくわからないな。
トラッパーの仕事を今も、この人の判断に任せっきりの部分があるからもう少し先輩のことも分かりたいと思っているけど、あの目を見ているとどこかへと吸い込まれそうになるぐらいしか収穫はない。
「それに、最後の笹森先輩のカメレオンを教えたくれたのは助かった。多分あれがなかったら、気づけなかったよ」
最後、俺が旋空で一気に二人ともやろうとしたときの笹森先輩の接近に俺は気づけていなかった。
小早川先輩は加古さんの方をお願いしていたから、黒江が俺のことを見てくれていなかったらそのままたたき切られていたかも。
「先輩に任せた以上、バックアップぐらいはしないと申し訳ないですから」
「黒江が作ってくれたきっかけであの流れを作れたし、その後も助けられてる。間違いなく黒江は仕事をしたよ」
敵を倒していないだけで、それ以外の仕事は120点の働きをしてくれている。
今回の勝利は間違いなく彼女の働きによって得たものだ。
「とりあえず、黒江に悪いところはなかったから大丈夫。あと、次のランク戦は個々の戦闘力に頼る部分が多くなると思うので各々で頑張る時間にしましょう」
「はい、わかりました」
「了解よ」
「まかせなさい」
「それと小早川先輩は弓場隊のデータをいくつか見繕ってもらえますか?対策の参考にしたいので」
「わかりました」
中位と上位に差をつける気はないが、上位にいる人間を下に見ることはできない。
今まで通りなんて都合のいい考えはきっと足元をすくわれるきっかけになる。
二宮隊と東隊は俺個人のかかわりである程度やり方が分かるけど、弓場隊はもっとデータが欲しい。
今の自分たちがどこまでやれるのか。
それが明らかになるのが次の一戦だ。
気張っていこう。
「二宮さん。次の相手、壽くんになりましたよ」
「そうか」
「辻くん楽しみにしてたよね」
「当たり前じゃないですか。ずっと見てた子ですから。うれしいですよ」
壽が二宮に弾トリガーを教わっている傍ら、辻ともトリオン体に関する実験を行っていたためこの二人の仲は良好だ。
それにランク戦でもよく戦うため、壽は辻や奥寺などの攻撃手グループとは仲が良い。
勝ったり負けたりと、互いに切磋琢磨してメキメキと実力をあげている壽のことをみんなで応援もしていた。
「やっぱ、加古さんが選んだだけあって実力はトップクラスだね。あ、もちろん辻くんもトップクラスだからね」
「俺は褒めなくていいですよ。やっぱ個人と部隊は色々と戦闘も違うからすごい楽しみです」
「やることは変わらない。いつも通り戦うだけだ」
辻の発言に二宮がぶっきらぼうに答える。
が、その発言の真意を見逃すほど辻も氷見も鈍感ではない。
「二宮さんも楽しみにしてるみたいですね」
「そうみたいだね」
ひそひそと、ばれないように会話をする。
これが本人に聞こえているかは分からないが、もし聞こえていたとしても本人はきっと聞き流すだろう。
壽の師匠として、その実力を再確認する機会であることは二宮も理解している。
なので、本人が楽しみにしているかは置いておいて、待ち望んでいた展開であることは間違いない。
師匠として、弟子の成長は確認しておきたいものなのだ。
自分を超えうる人間に期待をゆだねるのも、一つの信頼の証だから。