「うーん。ここは那須先輩の判断で攻めに転じたわけだよね」
「はい!防戦一方だと荒船隊に狙われるかもしれなかったので村上先輩と来馬さんにプレッシャーをかけることで荒船隊からの狙いを分散させるのが狙い……だったらしいです」
那須隊と鈴鳴第一と荒船隊と柿崎隊の四部隊の戦いの映像の感想会。
その中で俺が投げかけて質問に対してメモをちらちらと見ながらそう答える茜。
あのメモには、昨日のランク戦で那須先輩がどう考えてこの選択をとったかが書かれているそうだ。
俺は直接見ていないので、どこまで書かれているのかは分からない。
「熊谷先輩はまだこっちに向かってる途中で、那須先輩と茜だけが鈴鳴の相手をしている状況……」
熊谷先輩がいない状況で、鈴鳴に主導権を取られていることの恐怖は分かる。
茜もいるがあくまでバックアップ。鈴鳴にも狙撃手はいるから、一発撃つだけで茜が狙われる以上茜はいるだけの存在だ。
なので、実質この戦場には那須先輩と村上先輩と来馬さんの三人しかいないように見えている。戦力的にはどう考えても攻めに転じるべきではないが、戦況的には那須隊にある程度有利があるように見せたい場面。
たとえ嘘でもいいから、押し込まれていないように見せたい。
それだけで荒船隊への牽制につながる。
「熊谷先輩はこのときどうしてたんだっけ」
「先輩は那須さんの援護のために急いでこっちに向かってる途中です!後ろから挟んで奇襲の形にしたいって言ってました!」
「なるほどね。鈴鳴を追い込みたいわけだ」
そうなれば那須先輩の負担も減るし、荒船隊の方を見る余裕も出る。
もしかしたら、そのまま一点狙えるかもしれない。
チャンスな展開だ。
「それで、この展開を茜はどう思う?」
そこから何を感じるか。
それを鍛えるのがこの話し合いの目的であり、わざわざ俺が那須隊の作戦室まで来た理由だ。
茜を第二の東さんにするために、少しばかり助力ということだ。
「えっと……、荒船隊への対応もできていて、鈴鳴第一も熊谷先輩が来れば抑え込めるから問題ない。柿崎隊は最初に合流を優先する部隊だから開幕すぐに仕掛けに来る可能性は低い……から悪くなかった、と思う……この後も、荒船隊から狙撃はなかったし」
実際、この後荒船隊は攻撃してこなかった。それは、荒船先輩と穂刈先輩がまだ良い射撃位置に着けていなかったからだったけど。
結果的に見ればこの作戦はうまく決まった。
この後熊谷先輩が、来馬先輩に奇襲をかけて村上先輩にとっさの対応をとらせたことで、那須先輩のバイパーが村上先輩の右腕と右足に決まる。そこを逃さなかった穂刈先輩が来馬先輩を撃破。すぐさま別役先輩が反撃するも失敗、そこを茜が狙撃とうまいこと点を取れている。
そこに柿崎隊がさらに強襲を仕掛けた結果、戦場が大きく荒れたわけだけど。
それは、まあ結果論だし、那須先輩的にはこの場をどうにか抑え込みたい狙いでの作戦だったんだろう。
柿崎隊が来たところで、一人しかいない自分が狙われるのは火を見るより明らかだし、だったら鈴鳴をさっさと崩したいはずだ。
あの状況で、那須先輩に最後勝つまでの作戦を作らせるのはなかなか酷な話だ。
自分の身を守りながら、全体を俯瞰して、各部隊の動きを予測することは簡単ではない。てか、こんな表現に収まらないほどの高等テクニックだ。
「そうだね。結果的にこの場はうまいこと切り抜けられてるし、良い作戦だったんじゃないかな」
「そうだよね!」
俺が同意するとすごくわかりやすくうれしそうな顔をする。
しっぽがぶんぶんと振られている様だ。
「でもそれは後に続かない」
「うっ」
あくまでこれは現状を乗り越える作戦。
柿崎隊がまだ来ないことを念頭に練られた作戦だし、荒船隊が那須先輩の予定という名の願望よりももっと早く狙撃位置についていた場合、早々に狙撃が開始されていた可能性もある。
そして、なによりこの後が問題だ。
「この後柿崎隊が乱入して、那須先輩が攻撃を受ける。それに熊谷先輩が対応するけど荒船隊が柿崎隊を援護する動きを見せて那須先輩が柿崎隊によって撃破、茜も狙撃で攻撃をするけど荒船隊がすぐに対応して見せた。で、熊谷先輩が劣勢になったところで荒船隊が柿崎隊も攻撃し始めて、って感じの流れになったよね」
柿崎隊は最初からそうなることを理解していただろうし、最後は何とか半崎先輩の所に食らいついて撃破している。
結局のところ、荒船隊の対処にどの部隊も出られなかった。だから、圧倒的なアドバンテージを余裕をもって確保できた荒船隊が最後に勝つ。
全員荒船隊が強敵になることは分かっていたはずだ。でも、それ以上に目の前の敵に対処する必要があった。
その理由は簡単。那須隊が攻撃に転じる姿勢を見せたからだ。
それによって主戦場が那須隊と鈴鳴のいるところになり、柿崎隊もそこへ合流した。
ここで、熊谷先輩が荒船隊に仕掛ける動きを見せれば、荒船隊を無理矢理動かすこともできたかもしれない。
終わった試合にガタガタ言うのも無粋だとは思うが、まあ、そんな可能性もあるというわけである。
「結局のところ、荒船隊が常においしい立場に居続けた。これをどうにかして崩す方法を茜が提案できるのが一番いいね」
「荒船隊の方をどうにかしなきゃいけないんだね……」
「那須先輩をどうにかして救ってあげたい気持ちもわかるけど、目的は勝つことだから。那須先輩なら村上先輩と来馬さんに簡単に落とされることもないと思う」
村上先輩は重量級な立ち回りをする。ましてや、来馬さんが後ろにいる状況で攻めに転じるタイプではない。
来馬さんを執拗に狙う姿勢を見せるだけで、間違いなく動きは止められる。
那須先輩だったら、その位の技術はあるから押し込めたはずだ。
その割にどこか焦っているようにも感じる立ち回りだった。
柿崎隊の合流を恐れていたのか。それとも、荒船隊の動きが見えないことを心配していたのか。
こればっかりは、本人に聞かないと分からない。
「やっぱり、熊谷先輩に荒船隊を対処してもらった方がよかったのかな」
「結果的にみるとそうかもね。その場合、柿崎隊の動きによって厳しい部分が出ては来るけど」
「那須先輩の方に柿崎隊がきちゃったときだよね」
「そうだね。茜が撃破されずに、常に支援し続ける必要が出てくる」
荒船隊に別役先輩がいる状況で、常に那須先輩を援護しろっていうのは無理難題だ。
一発撃てば終わりな狙撃手に援護をしろって注文はいくらなんでも配役ミスだろう。
ある人に言わせてしまえば、その一撃を当ててしまえばよいのだろうけども。
「ま、実戦で色々やってみるのが一番いい経験になるよ。次のランク戦でちょっとだけ指揮とってみたら?」
「ええ!?いきなりすぎるよ!」
「やってみないことには分からないよ。狙撃手っていう立場な分、視野は広く持てるだろうし」
習うより慣れろ。
二宮さんが言っていた。
ひどい教育方針だと最初は思ったが、戦闘においてはやはり経験がものをいうと自分でも思った。
『わかってる』やつが勝つのが世の常だ。
「うーん……。分かった!先輩たちに言ってみる」
「いいね。その調子」
本人のやる気も十分。
色々と分からないこともあるだろうけど、茜なら天性の無垢さでなんとかなりそう。
別に馬鹿にしているわけじゃない。
「そういえば、加古隊ってもう上位に入ったんですよね!!!」
「ああ、そうだね」
話が大きく変わり、目をキラキラと輝かせながら話し始めた茜。
心なしかさっきよりも楽しそうである。
「やっぱり、上位に入ると緊張しますか?こう、頑張るぞーみたいな!」
「うーん。どうだろうな」
正直、上位に入ったとしても何か目に見えて変わるわけではないし、実感がわかないのが正直なところである。
加古隊の目標としても上位入りというよりかは、ただやりたいように暴れるって感じだし。お祝いってムードは特になかった。
個人的にはA級復帰が目標だしね。ここは通過点でなくてはならない。
「今のところは緊張とかはないかな。でも、ランク戦が始まったら違うかもね」
「それは……上位に入った人間の余裕ってやつ?」
「そんな図太い神経はしてないよ?」
「だって!こう、やっぱりなんかあるんじゃないの!?ついに来たみたいなさ!」
「ついにって言うほど、時間かけてないから……」
入隊してから考えるとそれなりだが、ランク戦に参入してからと考えると1か月足らずの出来事だ。
とんとん拍子に物事が進んでいっているせいで、自分の中で整理しきれていないのかもしれない。
「そ、そういえばそうだった。とんでもない破竹の勢いで順位あげてたもんね……」
「そっちも茜が指揮取ったらひょいっと上位までいけるようになるかもよ」
「そんなに簡単じゃないよ!他のみんなもとっても強いし」
「そうかもしれないけど、他のみんなよりも那須先輩の方が強いよ」
間違いなく。
彼女は他の人よりも強い。
「……確かに、そうだね!うちの先輩の方が他の人の何倍も強い!!」
「そうだ!那須先輩や熊谷先輩の方が他の誰よりも強い!」
「強い!」
「太刀川隊よりも強い!」
「太刀川よりもつよ───ええ!?」
「はは!」
やっぱり茜がいじりがいがあるね。
話していて楽しい。
太刀川は冗談にしても彼女たちの部隊なら上位になれる実力はあると思う。
ただ足りない。彼女たちが覚悟を決められるようなものが。
長時間戦闘試験が始まったり、アニメがリブートしたりと最近のワートリは忙しい