ただ愛されればそれでいい   作:サラダボウル

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おひさー

 5月下旬、入隊式から2週間ほどが経ち、新しく入ったC級隊員たちの一部はもう正隊員になろうとしていた。

 未だなれた者はいないが、そんな上位陣の中で最も正隊員に近しい存在、それが黒江双葉だった。

 入隊してから破竹の勢いでポイントを伸ばしてく彼女をだれも止めることができず、ガンガンとポイントが彼女へと集まっている。そんな彼女はいつものようにソロランク戦を荒らしまわり、3931ポイントともう正隊員を目と鼻の先まで捉えている。

 

 どうしてそこまで張り切っているのかと、友達に聞かれた彼女は少し考えたあとこう言った。

 

「人探しついでの暇つぶしです」

 

 そんな一言が、噂としてC級隊員の間を駆け回り、ワン〇ースのように皆がその人物を探し回るのだが、彼女の探し人は見つかることはなかった。

 少なくとも、黒江が2週間毎日ソロランク戦に顔を出していながら、一度も会えないぐらいには珍しい存在。A級の誰かなのではないかと考えられていたが、それは本人によって否定された。それに、迷惑になるからやめてくれと黒江から言われてしまい人探しの勢いは一気になくなってしまう。

 

 しかし、なんとか黒江に頼み込み特徴を聞き出した者が現れた。

 なんでも黒江より少しだけ背が大きく、黒い髪で、弧月を使うと。

 

 候補者が多すぎるためすぐに無視された情報だったが、ボーダーのC級隊員には黒江からの好感度を稼ごうと未だにその人物を探している者もいるらしい。

 だが、そのような人物がいた情報は全く集まっていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 諏訪隊でB級のランク戦が見られるという情報を知って以来、俺はソロランク戦よりもそっちのログを見るのにはまっていた。

 様々な実力者が組んだチームが繰り広げる激戦は、眺めているだけでも学べることがある。

 影浦先輩のマンティスとかすごかった。ぐにゃって、スコーピオンが曲がってた。

 

 残念ながら1個しかトリガーを使えない俺はできないし、弧月から変えたらポイント変わるからやらないけどね。

 弧月も別に悪くない。B級で使ってる人も多かったし、攻撃手1位は弧月使いらしい。太刀川って名前のバカだって洸太郎さんが言っていた。

 

 そんな俺は今日もボーダーでログを見ようと、茜と一緒に本部へと向かっていた。

 今日は二宮隊の戦闘ログを中心に見ようかな。

 

「ボーダーの子と一緒に本部に向かうなんてすごく新鮮です!」

 

「そうなの?那須隊の人たちと一緒には行かないんだ」

 

 茜は特集が組まれていた那須玲が率いている那須隊に所属しているらしく、諏訪隊と同じB級中位で頑張っているらしい。

 部隊唯一の狙撃手だから、強くなりたいと以前語っていた。

 

「那須隊のみんなは学校が別々で一緒に行くよりボーダーで会った方が早いんです。それにいつも集まるのは那須先輩のお家なのでボーダーに行く回数も他の隊と比べると少なくて」

 

「那須先輩は体が弱いんだっけ?」

 

「はい。だから、できるだけそっちに集まろうってことになってて」

 

 なんか大変そうだな。

 体が弱いって問題はトリオン体になることで解決してるらしいけど、だからこそ満足に動かせない自分の体が何かしらの重りにでもなってなきゃいいけど。こういう時大体心に秘めて問題を隠すからなー。茜の様子を見るにそういう雰囲気はなさそうだが……。

 

「でも楽しそうだね。部隊で作戦会議って」

 

「みんないい人なので楽しいですよ!知盛くんもB級になったらぜひ部隊を組んでみてください!」

 

「考えとくよ。あー、でも……」

 

 俺、ランク戦やってないや。

 B級なるための過程をなにもやってない。最後にやったは入隊初日のやつ。あれが最初で最後だ。

 

「でも?」

 

「あ、いや。個人ランク戦やってないからまだ遠い話だなって」

 

「そうなんですか?私生活の方が忙しいとか?」

 

「違う違う。最近、諏訪隊の作戦室でログをずっと見ててさ。そっちが面白くて」

 

 ここ2週間ぐらいずーっと作戦室に入り浸ってログを見ている。

 土日をどっちも使ってログを見てる。だから、諏訪隊の人たちと一緒にご飯を食べに行った時もあった。

 

 俺の歓迎会も兼ねてとのことで、焼き肉を食べに行った。

 なかなかにおいしかった。また行きたいね。B級になったら出来高でお金が支払われるらしいので、その金で行こう。

 一人焼肉ってのもなかなか通っぽくていいじゃないか。

 

「今日もそのつもりなの?」

 

「そうだったけど、どうせならランク戦やろうかな。さっさとB級に上がって自由にやりたいしね」

 

 C級隊員は色々と規則が多い。

 外でのトリガーの使用が禁止されていたり、トリガーが1つしか使えなかったり。Bになれば8個まで使えるので多彩の戦闘が可能になる。

 それに俺がログで眺めている人たちとも関われるはずだ。

 

「そうなんだ!頑張って!」

 

「やるだけやってみる」

 

 2週間ぐらい経っちゃったし、他の隊員のトリガーへの理解度も上がってるだろう。

 もしかしたら、今流行りの戦い方とかできてるかも。

 ちょっと怖いが、それもまた一興か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「相変わらず人が多いこと」

 

 茜と別れ、俺は個人ランク戦のロビーへと来ていた。

 しばらくやってポイントがいい感じになったら、作戦室のところ行こうかな。二宮隊の戦い方見たいし。

 

「パパっとやっちゃいますか」

 

 時間ではなくポイントで切り上げるタイミングは判断するつもりなので、早くたまれば早く終わる。

 今が大体2200ぐらい。俺の今日の調子によるがよさげなら2800ぐらい目指そうかな。上の人間から搾り取ればそれぐらい稼げるはずだ。

 

「ガンガン行こうか」

 

 最初は、弧月使いの人。ポイントは3211。

 結構上の人だったけどそこまで強くはなかった。B級の人と比べると振りが遅いというか、いやなところに弧月を入れてこない。それに体を使った攻撃がないので余裕を持った防御ができた。

 

 次はスコーピオンの人。ポイントは3431。

 こっちの方が間合いで有利とれるので、そこを意識して戦った。もちろん、相手もそれがいやなので一気に懐に入ってこようとするが、そこはフェイントを織り交ぜながら誘導してたたき切った。

 

 3人目はアステロイドの人。ポイントは3892。

 今のところ過去最高ポイントの人だった。射手スタイルの人で、ある程度弾トリガーへの理解もある人だった。分割も何パターンかあったけど、弾速だとかはいじってないらしく途中でトリオン切れを起こしかけたのか攻撃が緩んだところを切った。

 個人で射手はやめた方がいいともう。特にC級のソロでは。

 

 4人目はハウンドの人。ポイントは3672。

 前の人よりも弾トリガーへの理解度が低かった気がする。たぶん、ハウンドの誘導で一気に勝ち上がってきた感じの人。ハウンドの動きが見え見えなので避けるか、弧月で落としながら間合いを詰めて、胸にぶすり。

 

 と、まあ、これぐらいやればポイントもいい具合にたまっていた。

 あっという間に2900。やっぱり、倒すなら格上だね。やりようによっては今日中にいけるか?

 なんて思ったが、ここから伸びが鈍化するタイミングか。時間かかりそうだし、今日はこれぐらいにしようかな。

 今月中にBに上がることを目標に緩くやっていこう。

 

「ん?なんだか視線を感じるような……」

 

 ランク戦をやるわけでもないのに長居はよくないとブースを出ると、他の隊員(特にC級の人たち)がこっちを見ているような気がする。

 なんかやらかした?俺のいない間に個人ランク戦にルールが追加されてたとか?違反者になっちゃった?

 

「おい、あれって」

 

「本物?別人じゃなくて?」

 

「あれって探してた……」

 

 なんか言ってるのが聞こえるが、いまいち意図がつかめない。

 重要な部分が抜けている。なんだなんだ。

 居心地も悪いしさっさと行くか。

 なんか悪いことしたのかも、作戦室にいる人に聞こう。笹森先輩とかいるはずだ。

 

 あまりにも視線を感じるので、少し駆け足気味にロビーを後にする。

 何もしてないはずなのに恥ずかしくなってきた。俺本当に何もしてないよな。大丈夫か?

 何かしただろうかと、悶々としていると後ろから足音が聞こえてきた。パタパタパタと感覚が短いところから考えるに、走っているようだ。急ぎの様かな。

 なんて。他人事のように思っていた。

 

「あ、あの!」

 

 すると、その足音の主は俺を呼び止めて道をふさいだ。

 大きく腕を広げて、俺は足を止められるとともに驚いた。

 

「黒江じゃん。久しぶり」

 

「お久しぶりです。って、そうじゃなくて、今までどこに行ってたんですか」

 

「ん?あー、B級の作戦室にしばらくこもっててな」

 

「B級?なんで……まだC級隊員なのに?」

 

 不思議そうに首をかしげる黒江。

 そんな彼女の服装もまた白色なので、俺と同じようにまだC級隊員をやってるらしい。黒江ならもう上がっててもおかしくないと思ってたが、彼女もさぼっていたのだろうか。

 

「親戚がいてな。その人の所で色々と世話になってるんだ」

 

「そうなんですね……もうやめちゃったのかと」

 

「まだやめないよ。まだまだね」

 

 やりたいことも終わってない。

 やめる予定は当分ないな。

 

「そうですか……ならよかったです」

 

「話はそんだけか?作戦室に行きたいんだが……」

 

「待ってください」

 

 黒江の横を通り抜け、諏訪隊の作戦室に向かおうとすると黒江に止められる。

 ご丁寧に俺の右手をがっつりと掴んで。なんかまだあるのか。

 鋭い彼女の目が俺をにらむ。こわ。

 

「なに?」

 

「1つ、お願いがあります」

 

「お願い?」

 

 わざわざ前置きがいるようなお願いってこと?

 面倒ごとは勘弁だぞ。早くログが見たい。もうけっこううずうずしている。

 自分が抑えられなくなりそう。右手の封印がー。

 

「あたしとランク戦で勝負してください」

 

 俺の目をしっかりと見つめて。

 黒江双葉は勝負を申し込んできた。

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