「ずいぶんと派手に負けたね」
「……駿」
おごるって言っちゃったし、自販機のとこまで行くかと歩みを進めていると、知らない二人組が俺たちの前に立った。
少年が黒江に話しかけてくる。駿というのは彼の名前だろうか。
彼らが着ている服は白色じゃない。ってことはC級隊員ではない。
そして、俺が一切見覚えがないということを鑑みるにA級か。しかも、両方とも。
「初めまして、C級隊員の壽知盛です」
「おーこりゃあ、礼儀正しい。どうもどうも、A級の米屋陽介だ。こっちは同じくA級の緑川駿」
でっかい方が米屋先輩。ちっちゃい方は緑川……先輩と言っておこう。
年下だと思うけど、ボーダー歴では向こうが上だ。尊敬の意味を込めて。
黒江も自己紹介するだろうかと、ちらっとそちらを見るも口は開かなかった。
一応俺がしたほうがいいのだろうかと、ちらちら向こうを見ていると。
「あー、黒江の紹介は大丈夫。緑川から聞いてるから」
先ほど黒江が緑川先輩の名前を言ってたからうすうす思っていたが、二人は知り合いなのか。
ボーダーに入隊してまだ二週間と少し。もうA級に知り合いを作っているとは、なかなかのコミュ力だ。
「黒江と緑川先輩はお知り合いで?」
「幼馴染ってやつ。あと、緑川でいいよ」
「俺は陽介でいいぜ」
緑川先輩が緑川に進化した。
さすがに年上に先輩と言われるのは嫌だったか。分からなくもないその気持ちには同意する。
むずがゆいもんな。
それと米屋先輩は陽介先輩に進化した。多分年上ということで、先輩はつけっぱ。
「しかしすごいことするな、壽。顔面ぶん殴る奴なんかそうそういないぜ」
「C級は使えるトリガーが少ないですから、使えるものは全部使わないと」
「いいね。その精神嫌いじゃないぜ」
サムズアップしながら俺を誉める陽介。
俺も陽介先輩の雰囲気嫌いじゃないぜと、サムズアップしておく。心の中で。
「ま、そのせいで黒江におごらなきゃいけなくなったんですけどね」
「なに双葉、顔面殴られたの気にしてるの?」
「別にしてない」
「俺がせめてもの謝罪としてお願いしただけですよ」
「案外女慣れしてるタイプか、壽」
それを黒江の前で言うんじゃない。
変な雰囲気になるだろ。
陽介先輩のおかげで黒江の方を見られなくなってしまった。
にらまれてないと良いな。
「それじゃあ、俺たちはお先に」
「おう、B級に上がったら俺とやろうぜ」
「僕ともやろ。壽先輩」
「お手柔らかに」
B級に上がった瞬間、A級にかもられるとかやりたくない、なんて言葉はさすがに言えないので適当に流しておく。
4000超えた瞬間に一瞬で4000帯から3000帯に戻されそうだな、こりゃ。 せめて1、2勝はできるぐらいには対策しないと。
二人と別れた後、予定通り自販機の所へと向かう。
ロビー端にある自販機にお金を入れる。
俺の分もついでに買うつもりなので、ちょっと多めに。
「どれがいい?」
「えっと……オレンジで」
「了解」
オレンジジュースのボタンを押し、ガコンという音が鳴る。
ついでに俺のも何か……。カフェオレでいいか。
もう一度、ガコンと自販機の下から鳴る。
「はい」
「ありがとうございます」
「これで許してくれると嬉しいな」
「別に最初から気にしてません」
そう言ってはいるが、多分そんなことないので最低限の誠意は見せておく必要がある。
女心は難しいんだよって、洸太郎さんが言ってた。知ってるとは思えない人なのに。
「ん」
視線を黒江からランク戦のモニターへと向けると、そこでは陽介先輩と緑川が戦っていた。
大量のグラスホッパーを展開し、目でとらえきれないほどの速度まで加速している緑川。あんな使い方があるのか。
分割するとその分加速力が下がるが、数踏めば関係ないという考えだろうか。
それに対して陽介先輩は、槍を持って対応していた。
緑川の攻撃を的確に受け止め、すぐに反撃する。両者一歩も譲らぬ攻防というやつだ。
「あれ、槍のトリガーなんてあったっけ」
見覚えないなそういえば。
弧月とスコーピオン、レイガスト以外に攻撃手用のトリガーがあったのだろうか。
「あれは米屋先輩が改造した弧月です。A級だけができるトリガーの改造で、少ないトリオン量を有効活用できるように槍にしたそうです」
そういえば、端末にあったな。
あまりに見ないから忘れていた。
「へー、A級ってトリガーの改造ができるんだ」
「それぐらいすごい人たちってことです」
「なるほどね」
なかなか魅惑の報酬じゃないか。
A級になったら好きなトリガーを作る権利がある。悪くないね。
楽しそう。誰か一人ぐらい全身改造トリガーで固めてる人とかいないのかな。
これは、A級隊員の戦闘ログもいろいろと見てみる必要がありそうだ。
「A級ってどうやってなるんだ?」
気になる情報が入ったが、問題はそのA級にどうやってなるか。
B級は4000ポイント貯めればいいと嵐山さんに教えてもらったけど、A級になる方法は聞いていない。
「B級のランク戦で上位2チームになることだそうです。ですが、今シーズンなるのは大変難しくなったらしいですよ」
「そうなの?」
「なんでもA級6位だった部隊が問題を起こして、B級の二位に。また、A級の部隊がもう一つB級に降格処分になって一位にいるらしいです」
なんだそりゃ。
B級ランク戦の意味ないじゃん。A級ランク戦じゃんもうそれ。
じゃあ、そいつらがA級の方に行くまでB級からA級に上がるのは絶望的ってことか。
「じゃあ、しばらくA級にいくやつは現れないのか」
「ま、そうなるって言われてるだけですけどね。もちろん、その二チームに食らいつけるぐらい強いチームもいます」
生駒隊とかかな。
かなり癖のあるチームだし、決まれば強い生駒旋空もある。
あと、弓場隊もその枠に入るかも。
「大変だねー」
なんて、のんきなことを言いながらカフェオレを飲む。
甘い。俺の好きな味だ。
ブラックコーヒーは好きではないが、それをいい感じに飲みやすくしたカフェオレは好きだ。飲んでいておいしい。
心が落ち着くというか、リフレッシュできる。気がする。
陽介先輩たちの勝負を見ながら、黒江と二人でだらだらとしていると突然、ロビーが騒がしくなる。
隊員たちの視線が入口へと向いており、なんだろうとそっちを向くと妖艶なお姉さんという表現が合いそうな女性が立っていた。黒と紫を基調とした隊服。それをモデルのように着こなしていた。
あの人も知らないな。でも雰囲気がA級って感じ。
その女性は周囲を見回して誰かを探しているようで、あっちへこっちへと向かっていた視線がなぜか俺の方を見て止まる。
そして、ずんずんとこちらへと向かってきた。なんか、いやな予感がする。
「黒江、知り合いだったりする?」
「一応、顔見知りではあります」
あの人が誰なのか知ってはいるらしい。
しかし、その言葉から察するにそこまで仲がいいわけではなさそうだ。
最終的に女性は、案の定俺たちの前まで来て止まった。
そんな気はしていた。今日は知らない人によく会う日だ。
「こんにちは、双葉」
「こんにちは、加古さん」
加古。
それがこの女性な名前か。
やっぱ知らん。
「双葉が仲良くしているところを察するに、こっちの男の子が噂の壽くんかしら」
そう言って、双葉に向いていた視線がこちらにうつる。
いつ俺が噂されていたのか全く知らないが、壽くんではある。
「はい。俺が壽知盛です」
「ならよかった。私は、
「え」
なんだいきなりこの人。
初対面の人間を部隊に誘うって、普通やらないだろ。
普通ある程度知り合いになってからそういうのが行われるんじゃんないのか。
「えっと、それはまたなんで?」
「うちのチームはイニシャルがKの人を入れるようにしてるの」
「なるほど。で、俺のイニシャルがKだからと」
「その通り。付け加えるのならイニシャルがKで強い子になるけどね」
「俺は加古さんのお眼鏡にかなうぐらい強かったと?」
「……ま、そういうことね」
あんまりそんな実感ないけどな。
てか、まだC級だし。これから伸びるやつとかいるかもしれないじゃん。
なぜいきなり俺を?
「いまいち納得していなさそうね」
「いや、そういうわけじゃ……」
「いいわ、今日は挨拶ってことで。また今度、返事を聞かせて頂戴」
そう言って、加古さんは帰っていった。
台風みたいな人だった。突然現れて、俺を部隊に誘って、帰る。
常識があるような、ないような。いや、ないか。
「あの人ってすごい人なの?」
「A級6位のところですよ。今はあの人とトラッパーの人、あとオペレーターの三人のチームらしいです」
「やっぱり、A級か……。黒江はA級の知り合い多いね」
「知ってるのは今日会った人たちだけですよ。後は知らないです」
なるほどね。
さすがにA級全員と知り合いってわけじゃなかったか。
「それで、入るんですか?」
「ん?」
「加古さんの部隊」
「あーいや」
正直部隊に入るつもりってそこまでないんだよな。
加古さんの部隊に入ればトリガーの改造ができるってのは魅力的だけど、それを理由に知らない人とチーム組むのはな。
なんか居心地が悪そう。
「そこまで真面目に考えてはないかな」
「すごく魅力的な提案だと思いますけど」
「それは俺も思うよ。でも、加古さんがどんな人なのか知らないし、部隊のことも知らないし」
俺の戦い方が確立されていない以上、あのチームと俺の戦闘スタイルが合うかも分からない。
それに、もしかしたら俺にとって苦手なタイプの人がいるかもしれない。
A級って名前につられて決められるもんじゃない。
「俺よりも黒江の方があってるんじゃない?」
「私ですか?」
「たぶん、黒江は強くなるよ。俺以上に、加古さんの所に合う存在だ」
「そんな私より強い、壽先輩の方がいいと思いますけど」
「いや、俺は加古さんの所に入るつもりがないから。今度会ったら、黒江の方が良いって言っておくよ」
「それ、加古さんの狙いを私にそらしてるだけじゃ───」
あー、カフェオレがなくなってしまった。
これじゃあ、長話はちょっとできないな。
それに、俺はログも見なきゃいけない。
忙しいのを思い出した。
「じゃ、俺作戦室行くわ」
「え、ちょ」
俺を止めようとする黒江をしり目に、ささっと作戦室に向かうことにした。
後ろから黒江の俺を呼ぶ声が聞こえるが涙の別れだ。強くなれよ、黒江。
A級の二宮隊のログを見ないとね。