もう5月も終わろうとしているぐらい。
俺はランク戦でやっとB級に上がれると意気込んでいたのだが、3999と妖怪イチタリナイに襲われ、ふて寝していた。
諏訪隊の作戦室で。
「元気出せって、とももりー。もう一戦やって来いよー」
「もう無理です。すべてを破壊しないと気が済みません」
「なら、そこの棚に入ってるジェンガにしといてくれよー」
と、俺の悲痛な叫びにジェンガをあてがうことで解決を図ろうとしているおサノ先輩。
なかなかドライな人だ。
最高に興奮していたのに、冷水を頭からぶっかけられたみたいな感情に襲われてもう今日はランク戦のやる気が出ない。
明日やろう。明日にはまだマシな感情でいられているはずだ。
「しょうがないなー。ほら、飴やるよ」
「やったー」
投げられた飴を受け取り口に突っ込む。
悪くない。初めてこれをもらった時は、胸がでっかくなるから、なんて言われた。飴にそんな効果はないですよと俺は言っていたのだが、おサノ先輩が言うにはでっかくなったので本物らしい。
そんなに胸のサイズを気にしていたのだろうか。さすがにそこまでは聞けなかった。
てか、俺もこれ食ってたら胸がでっかくなるのか?
うれしくない。
どうしたもんかと、考えていると扉が開いた。
「あれ、まだ諏訪はいないのか」
「すわさんはまだ来てねぇですねー。何か用でしたか?東さん」
部屋に入ってきたのは
俺が諏訪隊の作戦室に入り浸っているときに会ったことがあり、たまにログのランク戦の解説もしてもらってる。
「いや、いないならいいんだ。出直そう。ん?」
帰るのか東さん、と思っていたら視線が俺にとまった。
「もうそろそろBに上がってると思ったが、まだ作戦室にこもってるのか?壽」
「違うんですよ、東さーん。妖怪イチタリナイに襲われて」
「なんだ、それは」
「3999ポイントで止まったんだってー。それでやる気が死んだああって」
おサノ先輩の補足情報が入る。
さすがオペレーター。アホを自称していても、仕事はできる方だ。
「はっはっは、そういうことか。それならさっさと上げて、諏訪を喜ばしてやれ。あれでも、お前のこと思ってるんだからな」
「分かってますよ。諏訪隊には入らないですけどね」
「それはまたどうして?」
「作戦室汚いんで」
「とももりはそれしか言わないなあ。きれいにしたら入るのか?」
「いやあ、入る部隊はもうちょっと真面目に考えますよ」
「壽にもいろいろ考えがあるんだろう。そう言ってやるな」
と、東さんからのフォローが入る。
優しさが俺の冷え切った心を温めてくれるよ。
東隊に入ろうかな。って、俺が決める立場にいるわけでもないんけど。
諏訪隊は今のメンバーである程度完成していると思ってる。
銃手なんて3人もいらないし、俺の攻撃手としての仕事は笹森先輩が担っている。
俺がわざわざ入って、何かできるとは思えないのが、諏訪隊に入ろうと思わない本当の理由。だが、そんなことを馬鹿正直に言うつもりはないので、テキトーにはぐらかしているのが現状だ。
B級になったら誘いが来るかもなんて堤さんは言ってたけど、そんな単純かなー。
俺がB級に上がるころには誰も覚えてないんじゃないか。
壽?そんなやついたなー、みたいな。
ま、正直急に誘われても困るんだけどね。
知らない隊に軽いノリで入るわけにはいかないし。
自分の隊を作るのも1つかな。誰も知り合いいないけど。
今思えば、黒江以外知らないな。入隊したときもっとランク戦に顔を出すべきだったか。
「そういえば、加古が探してたぞ」
「え、またですか」
加古さんは、あれから定期的に俺のもとを訪れては俺を誘ってくる。
まだC級のひよっこだというのに、何をそんなに買っているのだろうか。俺なんてまだまだなのに。
「今度こそは無理やりにでも入れてやるわ、って意気込んでた」
「諦めるように東さんから言ってくださいよ」
「それは自分で言うんだな」
俺が言って諦めてくれるのなら百万回だって言うんだけどな。
諦めないから頼んでるのに。
「それだけお前を買ってくれてるってことだ」
「それはうれしいんですけど。いきなりA級に飛ばされるのはちょっと」
B級でランク戦したいし。
映像でしか見られない存在とやりあいたいし。
だから、加古隊に入る予定はない。
「そういえば、黒江って子が加古隊に入るらしい」
「え」
え。
「はい。加入することになりました」
「マジか」
東さんから驚きべき情報を聞き、ボーダー中を駆け回った俺はやっとのこと見つけた黒江からいろいろと聞き出していた。
確かに押し付けたのは俺だが本当に加入するとは思ってなかった。
実はちょっと黒江とでも部隊を組もうかな。なんて考えてたなんて言えない。
「私は良い条件だと思ったので入ることにしました。でも、まだ加古さんは壽先輩のこと諦めてないそうなので」
「なんでだよ。一シーズンでB級隊員を入れるのは一人までだろ」
「二人以上入れるとB級に降格するかもしれないだけですけどね」
正確にはそうだけど。
わざわざB級隊員を入れるためにA級から降りてくる奴なんていない。
だから実質ワンシーズン一人だ。本来の予定では黒江が入るのならそれで満足するというものだった。そして、そんな予想は裏切られたのである。
「来シーズンでいいから、言質を取りたいそうです」
「そこまでする?」
「あたしには加古さんが何を考えているのかはわかりかねますので」
あの人の考えていることが分かる人間なんているわけないと思うけど。
同じメンバーになるのだから、ちょっとぐらい根回しをしてくれよ。
「黒江から言っといてよ。加古隊には入らないって」
「そんなに嫌ですか?」
と、言いながら首をかしげる黒江。
不思議そうな顔で俺のことを覗き込んでくる。
「嫌って言うよりも、B級でやりたいことがあるからそっちを優先したいってだけ」
あくまで俺のわがまま。
本当にA級に誘われて名誉なことだとは思っているけど、それとこれとは別だ。
ログを見て、変に気分が高ぶっているだけなのだが、その高ぶりを発散できるのはB級しかないと思ってる。
「そうですか……一応言っておきはしますけど、あてにしないでくださいね」
「分かってるよ」
黒江の言伝で解決できる問題ならもう解決しているよな。
なかなか強情な人だ。
「そういえば、黒江はもうB級に上がったのか?」
本来なら服装を見れば一発で分かるのだが、あいにくと今日の黒江は私服。
わざわざトリオン体に換装させる必要もないので口頭で聞く。
「はい。壽先輩と一戦やった後、ランク戦をやっていたら上がりました」
「だから、加古さんの隊に入ったわけか」
「まだ、正式な書類は出してませんけどね」
「俺もB級に上がったら、どっかに入るのかな」
「まだ、お声はかかっていないんですか?私はB級下位のところから何度か頂きましたが?」
「そうなの?特にないけどな」
加古さんと洸太郎さん以外。
新しく部隊を作るからって話も聞かない。
これも入隊して早々に作戦室にこもった弊害か。横のつながりが絶望的。東さんつながりで少しだけあるが、入隊とは無縁な感じだし。
最悪、洸太郎さんから話を広げてもらうのも1つかもしれない。それか、自分の部隊を作るか。
でもフリーなのは黒江以外知らないしなぁ。その黒江も加古隊に入っちゃうし。
「ま、来週からランク戦も始まるし、そこで色々見て考えてみるよ」
自分で作るのか。
はたまた自分を売り込みに行くのか。
攻撃手の順位を上げれば、どっかから声がかかるかもな。
というか、別にB級になったら部隊を組む必要があるわけじゃない。
ソロで活動したって許されるのだ。今のところ俺が本来したいことの目途が立っていない以上、情報を集めるのも兼ねてA級を目指すことを目的としているが、別に親の仇をとるわけでもないのでそこまで急いでいないのが現実だ。中には近界民に親族を殺されてって人もいるらしいけど、あくまで俺がここに来たのは個人的な好奇心を満たすのが目的。
B級ランク戦で戦うためでもないのだ。
なので、明確な道が見えるまでゆるーく過ごしてもいい。
情報を少しでも多く集めるために、ガンガンA級を目指してもいい。
そのどちらにも振り切れていないので、加古隊の誘いを受け入れる勇気もなければ、諏訪隊に入る勇気もない。ただ、迷っているだけなのだ。
言い訳並べて、逃げてるだけ。
「あの」
「ん?」
「今から一戦いいですか?」
「B級の人とできるの?」
「ポイントの移譲がなければ可能です」
東さんからも言われてるし、行くか。
黒江に誘われでもしないと、ランク戦のブースに行く気なんて出なかっただろうし。
「じゃあ、やろうか」
その後、俺は黒江を倒した流れでその辺にいたC級を倒して無事、B級へと昇格した。
ちなみに敬称の基準ですが、年下と同い年にはなし。高校生には先輩。大学生以上にはさん付けです。
今のところはそんな感じの基準なので、もしミスがあったら教えて下さると助かります。