EDENS@DREAMS 夢現に駆ける少女たち   作:よるめく

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第20話 諦観煙幕/絶望の、その裡へ

 “竜導姫(りゅうどうき)ドラグリエ”。

 

 ドラグリエの姿が天使のように降臨し、ゆっくりと流鯉(りゅうり)の隣に着地する。

 

 長く伸びた金髪に王冠を乗せた姿は、黒いエデンの中では一等眩く目に映る。

 

 わっと湧くエデンの住人達に向けて旗を掲げたドラグリエを見、流鯉は告げた。

 

「このレギオンは召喚時、他のドラグリエと融合し、スキルを引き継ぐことができます。さらにレリック、“竜姫の御旗”を1枚場に出す!」

 

 鍵玻璃(きはり)は下唇を噛み、首を引っかく。

 

 新しいレギオンが出たことで、流鯉(りゅうり)は追加で攻撃できる。しかも、巡礼竜姫がこのターン使ったスキルをすべて、もう1度使用可能。

 

 だが鍵玻璃とて、防御の手段を持っている。ダイレクトアタックはさせない。

 

 心拍が主張を強めていくのを感じていると、流鯉の鋭い声が降って来た。

 

「あなたの魂胆はわかっていますわ。ずばり、“流星並走”を用いたループコンボで凌ぎきろうというのでしょう?」

 

「……ッ!」

 

 ギクリと鍵玻璃(きはり)の背骨が軋む。

 

 このデッキの防御手段、デネボラループ。“ミーティアライダー・デネボラ”を“流星並走”で強化し、新たなデネボラを出しながら“流星並走”を手札に加える。

 

 デネボラが倒されるたびダメージがかさんでいくので、ずっと守り続けることはできないが、被害は最小限に抑制できる。

 

 まさか、一発で見抜かれるとは。感情を喉奥で押しとどめる鍵玻璃を見つめ、流鯉(りゅうり)は得意げに微笑み、下唇を指でなぞった。

 

「ふふ、その反応。必死に隠しているようですが、図星だと目が言っていますわ。これであなたの手札も見え透いたというものです。“流星並走”が2枚、残る1枚はレギオンを出すカード。そうでしょう?」

 

「……さあ、どうかしらね」

 

 ドンピシャだ。それでも鍵玻璃(きはり)は無表情を装った。

 

 “流星並走”を使うには、強化対象となるレギオンが要る。それを“スカイハイ・タッチ”で工面する。

 

 その作戦を見抜いた流鯉(りゅうり)のあの態度。恐らく、かなり分の悪い賭けを強いられる。

 

 流鯉は王杖(おうじょう)を振り上げた。

 

「レリックカード、“戴冠の触れ書き”のスキルを発動! 自分の奮戦レベルが3なら、これを破棄してレリックカード、“竜冠祭”1枚を場に出す!」

 

 ストリートの両サイドから、噴水のような花火が湧いた。

 

 歓声が一層大きなものとなり、色とりどりの紙吹雪が舞い始める。

 

 お祭り騒ぎが密度を増す中にあっても、流鯉(りゅうり)の声はよく通る。

 

「“竜冠祭”の第1スキル、ドラグリエに新たなスキルが与えます。さらに第2スキル、ドラグリエがいる限り、わたくしのハザードカウンターは増えません!」

 

「ハザードカウンターが増えなくなる? ドラグリエがいる限り……冗談でしょ?」

 

「悪い夢と言って差し上げたいところですが、現実ですわ。こうしないと自滅してしまいますので、大目に見てくださいまし」

 

 流鯉(りゅうり)は余裕ぶって肩をすくめる。

 

 非常にまずい。ドラグリエを倒さない限り、雑魚を何匹倒してもトドメを刺せないが、ドラグリエは大量のスキルを持っている。共に出て来た“竜姫の御旗”も何か隠しているはずだ。突破には相当な労力が要る。

 

 鍵玻璃(きはり)の目の前がぐらついて、悪夢の砂漠を幻視する。メリー・シャインを失いかけたあの夜に立ち戻ったような錯覚を、流鯉の高らかな宣言が打ち消した。

 

「“竜冠祭”で得たスキルを発動! デッキからレギオン3体を場に出します!」

 

 ドラグリエが旗を開いて大きく振るうと、黄金色の間欠泉が噴き出した。

 

 カーテンのように開かれた光がさらけ出したのは、花売りの少女、大柄な執事、車椅子にかけた老婆だ。

 

 あっという間に4体並んだレギオンを見上げる鍵玻璃の足を、後ろ向きな思考が引っ張ろうとする。

 

 ―――もしかして、負けた……? いや、まだよ!

 

 側頭部を叩き、諦念の声を追い出そうとする。相手の動き次第でまだ戦える。そう自分に言い聞かせるが、後ろ向きな独白は止まらない。

 

 背後でうずくまった自分の幻影が、ぶつぶつと暗い言葉を吐き出した。

 

 ―――もういいじゃない。なんであの死神に近づかないといけないの?

 

 ―――なんで、あの化け物に、なんで関わろうとするの。

 

 ―――とっくに諦めていたじゃない。怯えて生きていくんだって。

 

 投げやりな笑い声。泣き疲れて掠れた吐息。

 

 恐怖に擦り切れきった言葉が、甘く囁きかけてくる。

 

 ―――それにメリー・シャインを捨てればきっと、悪夢からも解放される。

 

 ―――全部忘れて、これ以上苦しめられることもなくなる。楽になれる……。

 

 鍵玻璃が自身に反論するより早く、流鯉の鬨の声が幻覚を切り裂く。

 

「バトル! ドラグリエでダイレクトアタック!」

 

「っ、……“スカイハイ・タッチ”、そして“流星並走”!」

 

 片手で頬を掻き毟りながら、コンボを始動。“マイニングドリーマー・ルクバー”を呼び出してパワーアップ、デネボラを場に出す。

 

 そこへ、ドラグリエが斜めに落下してきた。

 

 戦旗についた鎗に光の螺旋をまとわせ、さながら金色のドリルとなって突撃してくる王姫(おうき)に対し、ルクバーは車輪のように回転しながら突進し、迎え撃った。

 

 女王の刺突と(バク)が激突。だが拮抗は保たず、女王によって打ち砕かれた。

 

 光の螺旋がルクバーを貫通し、鍵玻璃(きはり)の傍に縫い留める。ルクバーは力無く鳴いて爆発した。

 

 鍵玻璃:ハザードカウンター15→16

 

 爆風の中に、複数のフラッシュバックが見え隠れする。

 

 目にも止まらぬ速度で再生される、認識できないほど多くの記憶。なんとなくわかるのは、ここ五年の記憶であるということだけだ。全身から汗が噴き出す。

 

「うう……っ!」

 

「ドラグリエのレギオンスキル! 自身のパワーと引き換えに、デネボラを破壊!」

 

「“流星並走”……!」

 

 爆風に煽られ、よろめきながらも鍵玻璃(きはり)は抗った。

 

 限界まで引き絞られた戦旗が投げ放たれ、デネボラを穿つ。その隣には新たなデネボラが既に控えていた。

 

 鍵玻璃:ハザードカウンター16→17

 

 じりじりと進む、敗北へのカウントダウン。

 

 鍵玻璃は頭上に浮かんだドクロを見上げ、ふとした疑問を心に抱いた。

 

 ―――なんで……私、抵抗してるんだろう。

 

 それはもちろん、メリー・シャインを守るため。

 

 ―――だったらなんで、守ろうとしてるんだろう。たかがカードよ?

 

 たかがじゃない。この世に1枚しかないものだ。憧れの人からもらったものだ。

 

 自問自答を繰り返している間に、花売りの少女が花籠を投げた。

 

 散った無数の花びらが刃となって伸び、デネボラへと降り注ぐ。

 

 “流星並走”。デネボラをパワーアップし、新しいデネボラを出す。先に出ていたデネボラは花びらが変じた刃を受けて爆散。灰色の煙が鍵玻璃を包んだ。

 

 鍵玻璃(きはり):ハザードカウンター17→18

 

 ―――その人は、もういないじゃない。いや、最初からいなかったのかも。

 

「違う、違う……!」

 

 鍵玻璃は自分の声を黙殺しきれず、嫌々をするように首を振る。

 

 頭を抱え、必死に否定の声を上げる。

 

「あの人は確かに居た、あの死神に殺されたのよ! だから……!」

 

 ―――だから? だから何? それがどうして、立ち向かう理由になるの?

 

 煙が白砂の風に変じる。煙が晴れると、そこはあの日の夜の光景だった。

 

 無残に泣き叫び、嘔吐しながらのたうち回る自分自身。それを余所に淡々とプレイを続ける死神。ひび割れていく巨大な卵。

 

 鍵玻璃(きはり)の足がぞわっと震えた。

 

 恐怖が理性を端から砕き、狂気が体を乗っ取ろうとするあの感覚が蘇る。

 

 眼球にスタンガンを当てられたような痛みが走り、ありすの姿が視界を遮る。

 

 忘れても忘れきれない記憶に苦しみ、狂いそうになっていたあの顔。ここ数日不安定だった彼女は、今朝になって落ち着いた。憑き物が落ちたみたいに。

 

 ―――羨ましいって思ってたでしょ。自分も同じように忘れられたらって。

 

 ―――そうなれば、楽になれる。この苦痛も全部失くして、昔みたいに……。

 

「違う……違う! 違う、違う、違う! 黙れぇぇぇっ!」

 

 鍵玻璃(きはり)が腕を振って叫ぶと、煙が晴れた。

 

 黄金の竜姫が、優美な都市の空を舞う。

 

 戦旗を大上段に構えるドラグリエに手をかざし、流鯉(りゅうり)が叫んだ。

 

「ドラグリエ、2回目の攻撃! その防御を撃ち破りなさい!」

 

 落下の勢いを乗せて振り下ろされた旗がデネボラを打ち砕き、爆発せしめる。

 

 押し寄せる風を鍵玻璃(きはり)はふらつく。視点がひっくり返って、仰向けに倒れ込んだ。

 

 鍵玻璃:ハザードカウンター18→19

 

 チェックメイトだ。直接攻撃するまでもなく、あと1体レギオンを破壊されれば敗北となる。デネボラループはもう使えない。

 

 虚ろにハザードカウンターを見つめる鍵玻璃を、流鯉(りゅうり)が強く叱咤する。

 

「どうしたのです、肌理咲(きめざき)鍵玻璃(きはり)! まさか終わりではないでしょう!? 立ちなさい、まだ戦いは終わっていませんわ! さあ!」

 

 勝負の熱に駆り立てられて、流鯉の声が上擦っている。

 

 楽しそうだ。お気楽でいい。何も知らない温室育ちのお嬢様は、恐れたことなどないのだろう。失ったことなどないのだろう。きっと、苦しんだことも。

 

 視線をずらすと、期待の眼差しが微かに見えた。それがだんだん、失望に変わっていく。

 

「ここまで……ですか」

 

 流鯉(りゅうり)は仰向けに倒れたまま動かない鍵玻璃(きはり)を見下ろし、息を吐く。

 

 何かあると期待していた。微かな勝機を見出すために耐えているのでは、と。

 

 だが、もう何もないようだ。終幕となると呆気ない。それとも、序盤のハンデが無ければまた違う結末が待っていたのか。

 

「まあ、構いませんわ。それも含めて、わたくしが丁寧に(しつ)け直して差し上げます。あなたはこの程度ではないはずでしょう、肌理咲(きめざき)鍵玻璃(きはり)?」

 

 誰にともなく呟いて、流鯉(りゅうり)は王杖を煙に向ける。

 

 大柄な執事が跳んだ。空中で一回転し、跳び膝蹴りのポーズで急降下する。

 

 これにてフィニッシュ。正直不完全燃焼ではあるが、まあいい。

 

 そう自分を妥協させようとしていた次の瞬間、執事の落下がピタリと止まった。

 

「―――?」

 

 目を見開いた流鯉《りゅうり》は、頬にビリビリとした痺れを感じて頭上を見上げる。

 

 暗黒のはずの空に、おかしな色彩が広がっていた。宇宙科学の表紙や挿絵に描かれているような、奇妙な色が。

 

 それがゴム膜のように下方向へ引っ張られる。いや、何かが空を突き破って落ちてこようとしているのか。

 

 色彩が下っていくのと反比例するように、執事が空へ浮上していく。

 

 執事だけではない。車椅子に乗った老婆や、エデンの住人たちまで重力を失ったように浮き始めたのだ。

 

「こ、これは……一体、何が起こって……!」

 

 答えに代わって流鯉(りゅうり)の視界に、銀の光が差し込んだ。

 

 巨大なステージが目の前にまで浮かび上がってくる。

 

 そこに立つのは、もちろん鍵玻璃(きはり)。銀の瞳が昏い炎を沸き立たせる。

 

 失望を焼き払うほど狂おしく燃え盛る熱に、流鯉はあっという間に高揚させられた。まだ戦いは、終わっていない。

 

「あんたなんかに……」

 

 呟きながら、鍵玻璃(きはり)は膝を抱えた自分に背を向ける。

 

 苦しい恐怖も、諦念の甘い誘いも、焼き尽くすような狂気も消えていない。

 

 同時に、忘れていないものがある。彩亜(あーや)の表と裏の顔、不意に目覚めた灰色の日常。そして、壊れそうなありすを抱きしめた時に感じた、あの衝動も。

 

 竦む足に鞭打って、動けと命じて来たあの獣の声を。

 

 それが今、再び鍵玻璃を蹴りつけた。喪失に抗う強い感情が爆ぜて咲く。

 

「あんたなんかに、構っている暇は無いのよ! 奮戦、レベル3!」

 

 完成した蒼銀の舞台。その上で、鍵玻璃(きはり)は手にしたカードを掲げる。

 

 それに応じて、色彩の膜がより強く、大きく伸びて周囲のものを吸い上げ始めた。ふたりが戦う空中要塞のみならず、その真下の摩天楼をも。

 

 鍵玻璃の最後の切り札が、空の色彩を破ろうとしていた。

 

「次元の彼方を突き抜けて、この世に降り立つ宇宙(ソラ)落胤(らくいん)! 現れよ!」

 

 限界まで伸びきった色彩が爆ぜ、穴が空く。伸びきった反動で逆方向に引っ込む色彩を置き去りにして人影が墜落してきた。

 

 空中で前転し、戦場を見下ろす位置で制止したのは、白い髪をふたつ結びにし、アーマーともボディスーツともつかない衣装で体を覆った少女である。

 

 背中には宇宙色をした蝶の翅が生えており、同じ色の球状物体を複数従えていた。

 

 奮戦レベル3のレギオン。解恵(かなえ)の時には使えなかったカードの1枚。

 

 この状況をひっくり返す、起死回生の一手の名を呼ぶ。

 

「“時空膜を破る者(グラビティライザー)・アステラ=メモリア”!」

 

 ヴヴウン、と異様な音がエデンを揺るがした。

 

 少女が突き破った穴が大きく凹み、周囲のものをところ構わず吸い込んでいく。

 

 空中要塞も例外ではなく、たちまち奇妙な色彩で満ちた宇宙に取り込まれ、草の帆船のように重力の潮に流され始めた。

 

 凄まじい光景に、流鯉(りゅうり)は思わず笑ってしまった。

 

 “時空膜を破る者(グラビティライザー)・アステラ=メモリア”。入学式の日、解恵(かなえ)との対戦で最後に呼び出されたカード。あっさりと撃ち破られた最後の抵抗。

 

 それが今、この局面で現れるとは。

 

「ははっ、随分と勿体つけましたわね! 不完全燃焼で終わるかと思ってしまいましたわ!」

 

「だったら焼き尽くしてあげる。あんたにメリー・シャインは渡さない! 何も知らない、あんたなんかに!」

 

 激震が戦場を襲う中、同じ高さで目線を合わせた流鯉(りゅうり)鍵玻璃(きはり)、ふたりの戦意が交叉する。

 

 異次元へと入り込んだエデンの中で、決戦が始まった。

 

「アステラ=メモリア、第1のスキル。このレギオンのパワーを倍にし、攻撃可能な相手レギオンすべてに自身を攻撃させる!」

 

「パワーアップと攻撃の強制! なるほど、だからあの時……!」

 

 執事と車椅子の老婆が、そろってアステラ=メモリアに向かって飛んで―――否、彼女に向かって“落ちて”いく。

 

 アステラ=メモリアは背中の翅を空中要塞を包み込めるほど大きく広げ、従えていた球状物質をふたつ投げ放った。老婆と執事が球体に押しつぶされて爆発四散。

 

 執事のスキルで手札を増やしながら、流鯉(りゅうり)は戦術ミスを悟った。

 

 同じ指摘を、鍵玻璃(きはり)が長く息を吐いて呟く。

 

「ドラグリエを温存してたら、負けていたわね。“レガシーバトラー”は、デネボラと相打ちさせるべきだった」

 

「ええ。ドラグリエを残していれば、アステラ=メモリアを討ち取れていましたわ」

 

 流鯉(りゅうり)は苦笑して目頭を押さえた。

 

 “竜冠祭”とドラグリエがそろっていれば、流鯉はダメージを受けない。

 

 加えてあの執事―――“レガシーバトラー”は破壊されればドラグリエの関連カードを持ってこられる。

 

 そしてドラグリエでアステラ=メモリアを攻撃。“竜姫の御旗”の第1スキルで弱体化、“真心一輪”で得たスキルで強化し力関係を逆転させれば勝負は決まっていた。

 

 流鯉は顔を上げ、鍵玻璃を見つめた。

 

「セオリーに則ったのが仇となってしまいましたわ。笑いますか? 肌理咲(きめざき)鍵玻璃(きはり)

 

「別に。それが無かったら、私は……」

 

 鍵玻璃(きはり)は口元を震わせ、肩を抱く。

 

 怯懦をどうにか押し殺す彼女を見つめ、流鯉(りゅうり)は首を振って気を取り直した。

 

「“見守る老婆カスピテル”が与えたレギオンスキル! あなたのレリック2枚を破棄します!」

 

 ドラグリエが頭上で旗を回転させて、2度薙ぎ払う。

 

 黄金の衝撃波が、ステージ上に現れたカードのヴィジョンをそれぞれ破壊。

 

 序盤から残っていた“真夜中の展望台”と“憧憬の望遠鏡”のカードが消えさった。

 

 できることはここまでだ。流鯉(りゅうり)は満足げな呼気とともに告げる。

 

「ターンを終了しますわ」

 

 鍵玻璃(きはり):ハザードカウンター19

 手札2枚:“流星並走”、“星屑の発掘”

 レギオン1体:“時空膜を破る者(グラビティライザー)・アステラ=メモリア”

 レリック0枚

 

 流鯉(りゅうり):ハザードカウンター16

 手札4枚:“健やかなる成長”、“真心一輪”、“不滅の王権”、“グランドドラゴン・フォース・ナイト”

 レギオン2体:“竜導妃ドラグリエ”、“花編みのカスピフローラ”

 レリック2枚:“竜冠祭”、“竜姫の御旗”

 

 長い長い1ターンが過ぎ去った。鍵玻璃(きはり)は滴る汗をぬぐう。

 

 依然、ピンチに変わりはない。ドラグリエがいる限り流鯉(りゅうり)が敗北することはない。恐らく、防御も山ほど構えているはず。

 

 対して、こちらは正真正銘ラストターン。アステラ=メモリアは1枚しかない。しかもその第2の能力、相手レギオンを無視した直接攻撃は“竜冠祭”の前に無意味だ。

 

 勝つためには、なんとしてもドラグリエを倒す他ない。高いパワーと多数のスキル、強力な臣下を抱えた無敵の女王を、相打ち無しで。絶望的な状況だった。

 

 だが、負けられない。名も知らない衝動が吼え、狂気を震わせ、恐怖を小さく縮こまらせる。

 

 キッと睨みつけてくる鍵玻璃を見返し、流鯉は王杖を打ち鳴らした。

 

「いい目つき、それにいい緊張感ですわ。これこそ、わたくしが望んでいたもの」

 

「ご満足いただけたようで何よりよ。あんたとやるのは、これで最後にさせてもらうけど」

 

「勿体ない」

 

 流鯉(りゅうり)は王杖を持っていない方の手を、鍵玻璃(きはり)に向けて差し出した。

 

 その頬は、戦いの熱で紅潮している。まるで恋する乙女のように。甘える幼い子供のように。

 

「共に切磋琢磨していきましょう? 特等席でわたくしの雄姿を見せて差し上げます。どうですか? 頂点の景色を、共に!」

 

「お生憎様。その手の誘いは間に合ってるのよ!」

 

 言い返しながらドローする。

 

 真実か、隷属か。運命を決めるラストターンに。

 

 手札に来たのは、すべて奮戦レベル1のカードであった。

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